第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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最終決戦

はっきり言おう。私は由良を、第四艦隊を舐めていた。さっきまでの戦いから精々が第一艦隊と互角だと考えていた。だからこの突破も最終的には私達の助力が必要になり漣と対峙する際には多少数を減らした状態になると思っていた。

 

「指揮艦の許可は降りたわよ! みんな思う存分暴れちゃいなさい!!」

 

由良の号令一下第四艦隊は巡洋艦による砲撃を行うと由良を先頭に整然と突撃を開始した。軽巡洋艦が先頭に立って突撃するという軽巡洋艦のいない今の二水戦にできない水雷戦隊のお手本のような突撃だった。まるで熱したナイフでバターを切るかのように簡単に敵の戦線を断ち切ると由良は部隊を二つに分け敵の背後に回り込む動きを見せた。

あまりの手際の良さに一瞬行動が遅れそうになったけど辛うじてそれは回避し私達は由良がこじ開けた穴を突破することができた。後ろでは敵の指揮艦がなんとか包囲されないように必死の抵抗を続けているけどあれは時間の問題だろう。

 

「まさかこんなに簡単に突破できるなんて……」

 

「敵の油断でしょうね」

 

「油断ですか?」

 

「少なくとも単純な実力ではこんなに圧倒できるほど第一艦隊と第四艦隊に実力差はなかったわ。だけどこれまで由良達は突破ではなく誘引にこだわっていた事、敵の右翼が攻勢に出ていた事。そして私達の右翼が攻勢に出ていた事で中央は戦線を維持するとでも思っていたんじゃないかしら」

 

つまりさっきの私と同じような思考に陥っていたと言える。

お互いが取り返しのつかないミスを一つずつしたおかげでさっきまでは漣がかなり優勢だった戦況ももはやどちらが有利とは断言できなくなった。私達が無傷で突破できたとあっては後は私達と漣の本隊との直接対決に託された。いや、もしかしたら私達が優勢になっているのかもしれない。敵が優位に戦えているのは私達の左翼部隊を相手にする右翼部隊だけ。それ以外は悉く劣勢に陥っている。上手くいけば中央と右翼どちらか、あるいは両方が戦闘中に合流できるかもしれない。

 

「教官、漣っぽい」

 

夕立の言葉に正面をよく見ると駆逐艦娘が1隻、後ろに20隻程度の艦娘を引き連れてこちらに近づいてきていた。

 

「殊勝な心掛けね。自分から倒されにきてくれるなんて」

 

大声で話せばお互いの声が聞こえるくらいにまで近づくと私は漣に声をかけた。

 

「随分といい顔をするようになりましたね。黒潮が死んだのがそんなにも」

 

その瞬間、私は漣に向かって主砲を撃っていた。距離的にも絶対に当たるはずがなあのは分かっていたけど、あんな事を言われて黙っている程私は大人しくない。

 

「随分なご挨拶ですね」

 

「黙りなさい。次余計なこと言うと沈めるわよ」

 

「そんなこと言わずともどうせこの戦いが終わればどちらかは海の底ですよ」

 

ケラケラと漣は笑った。なんとなく癪に触る笑い方だった。

 

「色々と言いたい事はあったけど、もういいわ」

 

「私はもう少しお話を楽しみたいんですけどね」

 

「アンタに付き合ってたらこっちが負けちゃうじゃない」

 

これは嘘だ。漣が私の言葉を信じて時間を稼ごうとすれば私達は勝利に近づける。

 

「そうとは限りませんよ。こちらの中央と左翼は劣勢のようですし互角と言ったところでしょう」

 

そう言って笑う漣には焦る様子は見られない。漣の言う通り戦況は互角、なんなら今はこちらが少し有利と私は思っている。少し前と違い漣と相対する事ができたおかげで目標を達成できそうな私達と、こちらの左翼側でしか優位を確立できていない漣とならこちらが有利だ。

だと言うのに漣はどこか余裕を感じさせる不気味な笑みを浮かべ続けている。

 

「私にはアンタが一体なにを考えているのか分からないわ」

 

思わずそんな言葉を発してしまうくらいに、彼女は不気味だった。

 

「所詮他人ですからね。分からなくても仕方ないですよ」

 

「相手が対話できる人である以上、状況と言動からある程度の考えは推察できる。だけど今のアンタはまるで深海棲艦みたいに考えが読めないわ」

 

不気味な笑みが段々と喜びを噛み締めるかのような笑みに変わり、私はますます漣のことが分からなくなった。

 

「そうですか、それはよかった。私の意図が読めない事が有利に働く事はあっても不利になる事はないですからね」

 

「そういう意味で言ってるわけじゃ……」

 

「教官、右翼部隊が突破に成功したそうです」

 

狭霧からの報告と同時に漣も同様の報告を受け取ったみたいで、近くの駆逐艦娘から何か話しかけられていた。

 

「もう少し話していたかったんですけどどうやらその時間はないみたいですね」

 

「戦艦が4隻に空母が6隻。半分は接近戦だとまともな戦力にならない大型艦だと言うのに勝てると思っているの?」

 

こっちは私を合わせて13隻の駆逐艦。対して漣は漣を合わせて駆逐艦は9隻。総数では少し負けているけど相手の殆どは大型艦。これが遠距離からの砲撃戦なら大型艦に分があるけど、この距離なら駆逐艦が大型艦に負ける事はまずない。じきに不知火も合流するしこっちが有利だ。

 

「私は貴女が生まれるよりもずっと昔から戦い続けてきたんですよ。深海棲艦だけじゃありません。非公式ながらがら艦娘を処理した事だってあります。今更貴女達くらいに手間取るわけがないでしょう」

 

漣の纏う空気が変わった。そう認識するのと同時に彼女は主砲を私に向け発砲、直後に背後の艦娘達も攻撃を開始した。

 

「全艦突撃! 敵の懐に入って確実に沈めなさい!!」

 

距離的には駆逐艦が有利とはいえ、もっと近づかないとこちらの被害が大きくなる。駆逐艦の主砲で戦艦や空母を沈めるのは不可能に近い。だけど近距離から、必殺の距離からの魚雷なら沈める事ができる。しかしそれは近づくまでの間敵の砲火にさらされると言うことでもある。並の駆逐艦なら被弾したりして達成は難しいけど、二水戦ならそれが可能だ。

漣もそれを分かっているし、それを防ぐために駆逐艦がいるけど距離が近くなれば誤射を恐れて自然と戦艦の砲火も弱まるはずだ。もしも巡洋艦がいれば話が変わったけど幸い今の漣の手元に巡洋艦の姿は見えない。両翼のどちらかに援軍として派遣したのだろう。

 

「その後は各駆逐隊毎に隊長の指揮で各個に敵を撃破! 私は漣の相手をするわ!!」

 

おそらく、いや確実に私以外では漣の相手はできない。だからと言って味方を指揮しながらでは私が漣に負ける。必然的に指揮は駆逐隊が独自の判断で行動し戦ってもらうことになる。そしてそれは漣も同じだった。

 

「事前の計画通り私が陽炎の相手をします。その他の二水戦は長門を指揮艦として迎撃してください」

 

漣を避けるように二つの駆逐隊が前に出て私の両脇からも三つの駆逐隊が突撃を開始する。私の真後ろにいた夕立の十三駆が若干出遅れ磯風、夕雲の十四、十五駆逐隊が敵の駆逐隊と戦いを開始しその奥の戦艦空母に対しては十三駆逐隊が攻撃を開始した。

その様子を視界の端に捉えながら私は漣と向き合った。漣に集中しなければならないのはわかっているけど、今戦っているのは私の部下である以前に生徒だった艦娘達だ。その艦娘が私の手から完全に離れて戦うとなっては気にしない方が難しい。

 

「部下の心配をしている場合ですか?」

 

そんな私の隙を漣が見逃すはずがなく容赦なく主砲を撃ってきた。だけどそれらは全て私の周りに水柱を作るだけだった。

この距離で漣クラスの艦娘が外すなんてあり得ない。水柱が晴れた瞬間、咄嗟に漣の太腿についている魚雷発射管に目を向けるとそれは定位置に戻ろうと回転していて、いくつかの発射管は空になっていた。

発射された数はそう多くはない。放射状ではなく私が直進してくると想定して撃っていると予想して、私は右に舵を切った。漣は右手で主砲を持っているから右側、つまり漣から見て左側は体のせいで若干可動域が狭く狙いにくいからだ。

 

「おやおや、そんな安直に逃げていいんですか?」

 

だけどそれはあくまでも漣がその場から動かなければの話。私の逃げる方向を予測していた漣は回避行動に合わせて私に平行するように舵を切り主砲で追撃を仕掛けてきた。私の主砲は両手で持つタイプで引き鉄は右手に掛かっているから左側の可動域が狭くなる。私が右側に逃げ漣が並行すると言うことは左側に漣が来ると言うこと。逆に漣は右側に私を見るから私と比べて漣は主砲を扱いやすくなる。

 

「きゃっ!」

 

漣は今度は外さなかった。やっぱりさっきのは魚雷から目を逸らすためのカモフラージュだったのだろう。放たれた2発の砲弾の内の1発は足元に落ち至近弾、もう1発は左肩に命中した。

 

「きゃだなんて随分可愛らしい悲鳴ですね。撃たれるのは初めてですか?」

 

「少なくとも艦娘に実弾ぶち込まれたのは初めてよ」

 

揶揄う漣を睨みつけながら言い返すと漣はまた笑った。

 

「今時の艦娘ですねぇ。私がバリバリの現役だった時はしょっちゅうでしたよ」

 

艦娘と艦娘の戦い。それ自体は過去を振り返れば多くはないけど存在はする。だけど反乱と呼べるような規模のものは日本では一水戦の反乱と今回の漣の反乱だけだ。

 

「昔は訓練用の弾薬なんてありませんでしたから訓練にも実弾を使いましたし、跳ねっ返りの強い艦娘相手に実弾でわからせることもありましたから」

 

雑談を交えながらもお互いに攻撃の手が緩む事はない。この雑談すらも相手に隙を作るための小細工に過ぎない。最初に私が一発もらったようになんらかの形で隙を作らないと私達クラスの戦いだと砲弾が掠ることさえないからだ。

 

「もちろん政府に反抗しようとする艦娘を沈めたことも一度や二度ではありません。故にどこに砲弾を当てれば沈みやすいか、どんな戦い方をすれば勝ちやすいかも熟知しています」

 

そう言って放たれた漣の砲弾を避け、お返しに主砲を叩き込むと予想外な事に漣の艤装のマストを折る事に成功した。まさか当たると思ってなかったから一瞬動きが鈍ると、その隙を付く形で漣が再び砲弾を打ち込んできた。1発は偶然主砲の装甲に当たり弾かれ無傷。もう1発は右の太腿に当たった。

 

「マストが吹き飛んだくらいじゃダメージはないも同然。それくらいで集中が乱れるようじゃ私には勝てませんよ」

 

さらに追撃仕掛けてきた漣の砲弾が左腕、胸元と連続で命中し大きく体勢が崩れた。判定としてはまだ小破くらいだけどこのままだとまずい。

がむしゃらに魚雷を発射してとにかくこの攻撃を一時的にでも中断させないと押し切られる。

 

「そんな魚雷が当たるはずないじゃないですか」

 

そんな事は分かっている。だけど魚雷回避のために一瞬とはいえ漣の狙いが甘くなったおかげでなんとかこの砲撃から逃れる事ができた。

 

「よくもやってくれたわね!」

 

ここまで一方的に攻撃され続けてきたんだ。そろそろやり返さないと気が収まらない。

 

「そんな単調な攻撃が当たるわけないでしょう」

 

「そわなこと知ってるわよ!」

 

だけど私の攻撃は簡単に避けられる。当然だ。私だってこの程度の攻撃なら避けれる。これまでのやり取りを通して私と漣の実力に大きな違いはない事は分かった。あるのは経験、それも対人戦の経験に関する差だ。深海棲艦に対しては未来位置を予測して撃てば大抵はそのまま当たってくれる。一部の個体は避けてくるけどそれはごく少数だ。当然だが漣はその個体以上の練度を誇る。命中させるには、さっきから漣がしているような小細工を弄するしかないけど、多分大抵の小細工は漣に見抜かれる。自分がやるような事を他人にやられて引っかかるほど漣は甘くない。

 

「なら何か手を打たなければこのまま押し切ってしまいますよ!」

 

経験において漣には勝てない。だけど私にも漣に勝る点はある。それを活かせればまだまだ勝機はある。

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