第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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多分今までで一番長いです。


決着

私の勝機、それは艤装の性能差。艦娘には改ニと言うものがあるタイプとないタイプがある。技術的な問題や性能面から改ニを実装しても意味がないと判断され開発が停止したりと理由は様々だけど改ニとただの改とでは性能面での違いは大きい。そして漣にこの改ニはなく私にはある。当然、私はその改ニになっている。

本来カタログスペックでは私の方が有利で艤装の操作能力などの単純な実力は拮抗している。これなら私が有利になりそうなものだけど漣はその差を経験によって埋めている。

 

「改ニでない艦娘に負けるわけがないでしょ!!」

 

いくら性能差があってもダメージを負えばそれも意味が無くなってくる。

 

「私がなぜ改ニになっていないと思いますか?」

 

攻撃の手を緩める事なく漣が問いかけてきた。

 

「そんなの知らないわよ!」

 

ダメージを負ったせいであまり余裕がない。そんな事を考える暇があるなら漣にダメージを与えるために作戦を立てたい。

 

「開発する話もありましたが断ったんです」

 

普通改ニを作るとなれば断る理由はない。なぜならそれだけで艦娘はさらに強大な力を身につける事ができ深海棲艦に対して優位に立てるからだ。

 

「そんなもの必要ないくらい強いからですよ」

 

「他の漣はアンタとは違う」

 

漣という艦娘は本来特別強い艦娘ではない。カタログスペック上も特筆したものがあるとは言い難い。

 

「かもしれませんね。ですが私にとって漣とは私自身の事でありそれ以外は偽物でしかありません」

 

「随分と極端な意見ね」

 

「本物の私が必要ないと言っている以上は必要ないんですよ。そしてその証拠に改ニである陽炎がただの改の私に押されている。これで必要などとは口が裂けても言えません」

 

本当にふざけた話だ。漣の言う通り私は現在押されている。だけどそれは艦娘対艦娘の戦いに慣れていない事が大きい。小手先の技術もそうだけど、なにより艦娘同士の戦いにおいては深海棲艦と違う点が多い。一つに艤装へのダメージがある。さっき漣はマストを犠牲に私に攻撃を当てたけどあのマストは艦娘にとってなくても構わない飾りのような装備だ。基本的にはマストの破損でも被害判定になるけどその実、艦娘の行動になんら影響を与えない。流体力学的に速度が少し変わるとかあるのかもしれないけど、そんなの微々たる差でしかない。

 

「舐められたものね。アンタと違って対人戦に慣れてないからこうなっているだけよ。すぐに巻き返すから見てなさい」

 

「残念ながらそれを指を咥えて見るほど私はお人よしではないんですよ」

 

その言葉と同時に主砲が火を吹き私の周りに水柱を作る。だけど今度は逃げなかった。漣はさっきみたいに魚雷を置いているかもしれないけどここで逃げてはさっきと同じだし、なにより本来正面からの魚雷なんて避けるのは簡単だ。なのにさっき回避行動をとったのは明確なミスだった。

 

「貴女ならそうしてくるでしょうね」

 

漣もそれを予想していたのだろう。魚雷だけでなく主砲も撃ってくるけど今度は当たらない。全てを最小限の動きで避けた上でこちらも主砲を撃ち返すと漣もこちらに向かって突撃してきた。

 

「超近距離での砲雷激戦がお望みならいくらでも相手してあげますよ」

 

「その慢心に後悔して沈みなさい!」

 

超近距離での砲雷激戦。

訓練学校では駆逐艦娘が砲撃、雷撃を使う砲雷激戦の適正距離は20メートル前後と教えられている。魚雷の発射が目視で確認しにくくもっとも魚雷の性能を引き出せるとされていて、かつ水平射撃が可能な距離だからだ。

だけど艦娘同士の演習や深海棲艦との戦いでそれが実行される事は少ない。魚雷の発射は視認されるけど、5メートルから10メートルほどの距離での砲雷激戦の方が砲撃、雷撃ともに当てやすく実践経験豊富な艦娘からは好まれている。この実践で使われる5メートルから適正距離の20メートルまでの距離での交戦を近距離戦と呼ぶ。中距離は曲射を用いながらも雷撃ができる距離。長距離は雷撃ができない砲戦距離のことを指す。

では超近距離とは何か。一部の艦娘は艤装に剣や槍を持つものがいる。その艦娘達が斬り合いを行えるような距離での交戦を超近距離戦という。その距離では砲撃はかろうじて可能だけど、魚雷に関しては発射に際し1メートルから2メートル先に魚雷が射出される事から雷撃は困難になる。魚雷を手に持って叩きつけたりすればどうとでもなるから全く使えないわけではないけどこの距離では普通の艦娘は原則として砲撃、武器を用いた斬り合い、それと手足を使った肉弾戦が主な攻撃手段となる。

 

「慢心? 違いますよ。これは勝利を確信している。ただそれだけの話です」

 

「それを慢心って言うんじゃない!」

 

その言葉と同時に私達は主砲どうしがぶつかりそうな距離で発砲した。

その距離では流石の私達も避ける事ができない。私は腹部に、漣は胸部に直撃弾を受けた。

 

「とうとう捕らえたわよ!」

 

「捕らえたとは言いません! 貴女の方がダメージを負っているのですからこちらが有利です!!」

 

お互いに怒鳴り合いながらも砲弾を叩き込んでいく。魚雷を使いたいけど下手に発射菅を動かすと誘爆の危険に晒すことになる。だからマジックアームの先にある発射管を私の体の影になる位置に置いて私は漣と交戦している。だけど漣は太腿に直接発射管がある関係でそれができない。狙えれば1発で逆転できる。だけどこの距離では俯角が足らずに発射管に当てるのは難しい。できればもう少し離れたい。

 

「逃しません!」

 

当然漣がそれを許すはずがなく私が離れる動きを見せるとピッタリとひっついて並走してきた。

 

「逃げたんじゃないわよ!」

 

言い返しながら私は左足で漣の顔に向かって蹴りを放った。

海上で二本の足で立つ艦娘が片足立ちになると言うのは、陸で片足立ちになる以上に困難だ。艦娘によっては二本足で立つのでさえできず陸に配置される事もある事から、その難易度の高さが伺える。

だからこの蹴りというのは奇襲の効果が高くやられた側は大抵相手の予想外の動きに硬直し蹴りをもろに受ける。だけど漣も私もそれくらいの事は当たり前のようにできる艦娘だ。漣は驚いた様子もなく右手で受けると左足で同じように蹴りを放ってきた。

 

「その程度の事で驚くと思いましたか?」

 

「そんなわけないでしょ。今のは全部囮よ!」

 

言うや否や私は今まで後ろに隠していた魚雷を至近距離から撃ち込んだ。海中で爆発し相手に大ダメージを与える魚雷には砲弾とは比べ物にならない量の炸薬が詰まっている。それを直接叩き込めば駆逐艦など一撃で沈める事ができる。

 

「失望しましたよ陽炎。その程度の小細工で私に魚雷を当てられると思っていたなんて」

 

撃ち出された魚雷の側面を漣はそっと撫でるように触る事で軌道を逸らし全ての魚雷は明後日の方向へ飛び去った。

 

「そんなの知っているわよ」

 

だけどそれは小さいけど間違いなく漣に初めてできた隙らしい隙だった。魚雷発射とほぼ同時に後進をかけて漣の左足の魚雷を狙って主砲を撃った。

 

「……!? やってくれましたね陽炎」

 

残念な事に漣が最初に魚雷を撃っていたせいで誘爆させられた魚雷は1、2本だったから思ったほどのダメージを漣に与える事ができなかった。だけどその左足からは大量の血が流れていて脚部の艤装全体に少なからず被害があるように見えた。判定としては中破寄りの小破か、中破判定か。

 

「油断するからそうなるのよ」

 

「油断していたつもりはないんですけどね」

 

「その傷だともう私には勝てないわ。大人しく降伏しなさい」

 

脚部の傷は戦闘能力に直結する。さっきまでの機動力は間違いなく出せなくなっているからこの後の戦いは私に優位に推移する。

 

「降伏? 今更そんな事するはずが無いと貴女ならわかるでしょう」

 

「そうね。だけど私は反乱軍討伐部隊の指揮艦として、できる事ならば首謀者を生きて捕らえなければならないのよ」

 

「甘いですね。貴女の大事な友人の黒潮を殺した相手に対してそんな事を言うなんて」

 

「甘い? そんなわけないじゃない。アンタにはここで名誉ある戦死なんてさせやしない。衆目に晒されて惨たらしく死になさい」

 

死んだ後に報道で晒し者にされるか、死ぬ前に晒されるかの違いでしか無いかもしれないけど、どうせなら後者で死んでもらわないと私の溜飲が下がらない。

 

「随分と恨まれたものですね」

 

「恨まないと思う?」

 

「それもそうですね」

 

そう言うと漣はため息を吐いた。

 

「この傷だと貴女に勝つ事は難しい。それは認めましょう」

 

強い艦娘だ。自らの不利を敵の目の前で認められるなんて。だけどその強さはこの状況を脱却できることとイコールではない。これはただの強がりだ。

 

「ですが貴女を沈める事ができないわけではないですよ!」

 

その言葉を言い終わると同時に漣は私に向かって突撃を敢行してきた。

 

「相打ち狙い!? そんな事になったらアンタ達の負けよ!!」

 

漣の勝利条件は私を沈めることではない。私と漣が沈むのなら戦術的にはともかく戦略的には私の勝利だ。

 

「連合艦隊旗艦として、最強の艦娘として貴女のような小娘に負けるわけにはいかないんですよ!」

 

お互いに主砲を乱射しながら距離を詰める。今度は避けたりしない。いや避ける必要もない。足の負傷で狙いが甘くなっている漣の攻撃なんて避けるまでもない。

逆に私の攻撃は面白いように当たる。機動力の落ちた漣が私の攻撃をうまく避けられていないからだ。

 

「今度こそ沈みなさい!」

 

「いくら駆逐艦でもそんな豆鉄砲で簡単に沈むはずないでしょう!」

 

叫ぶと同時に漣は残った右足の魚雷発射管から魚雷を射出した。

 

「当たるわけないでしょ!」

 

「そんなの知っていますよ!!」

 

再び超近距離での肉弾戦が始まった。拳がお互いの顔面に入り次の瞬間にはお互い主砲を鈍器のように使い殴る。砲身が曲がったりするから推奨はされていないけどこの距離だと有効な攻撃手段だ。

 

「いい加減沈みなさいよ!」

 

「それはこちらのセリフです!!!」

 

少しずつ、だけど着実にダメージは積み重なっていく。このままいけばダメージの総量で勝つことができる。

 

「主砲と魚雷だけが攻撃手段だと思っていると、足下を掬われますよ」

 

そう言うと漣は艤装に備え付けられた機関銃を私の顔目掛けて乱射してきた。この攻撃そのものにはたいした攻撃力はないけど反射で思わず腕で顔を庇うと、その隙をついて漣は私の腹に蹴りを放ち距離をとった。

 

「貴女にプレゼントを差し上げます」

 

そう言って漣が投げ渡してきたのはドラム缶のようなもの、つまり爆雷だった。これは潜水艦を沈めるためのものだから炸薬も多い。

顔に飛んできた爆雷を左手で払う。爆雷は起爆する深度を設定して爆発させるから払ったくらいで爆発はしない。だけどこれは私の隙になる。即座に漣は主砲、機銃といった使える兵器と肉体を持って全力で攻撃を仕掛けてきた。

 

「鬱陶しいわね! 機銃くらいで沈むはずないでしょ!!」

 

主砲は多少当たったけど致命傷じゃない。

 

「そんなの知っていますよ」

 

次の瞬間、漣は増速して私にぶつかろうとしてきた。艦娘同士の衝突は轟沈の原因になり得る。手足を使った殴り合いならともかく体全体がぶつかれば、まるで実船同士がぶつかったかのような衝撃でお互いが大破、ないしは轟沈する事になる。

だけどこの距離でそこまで速度の出ていない漣なら辛うじてだけど避けることができた。多分初めからぶつかるつもりだったらそうはいかなかったけど、漣が躊躇したのかそれをしなかったのが運の尽きだ。

 

「もらったわ!」

 

漣が私の横を通り抜け即座に追撃のため振り返ると漣も上半身を捻って右手の主砲でこちらに狙いを定めていた。

艦娘同士の訓練などにおいては背中の艤装に命中弾があると基本的には轟沈と判定される。艦娘が艦娘として行動するのに必要な物の殆どの機能がそこに詰まっているから、撃ち抜かれた時点で海上で動くことが困難になるからだ。浮く機能については脚部艤装だから相手は海の上に立っていられるけど、動けない艦娘なんてただの的だ。

この時私は完全に振り返って漣から背面の艤装が見えない状態。それに対して漣は背面の艤装の側面が私に晒されていた。あの態勢でおまけに脚部に負傷がある艦娘に対しての攻撃を外すような事はない。

私が撃った砲弾は漣の背面艤装に命中し背面艤装はいくつかの小さな爆発を起こした後、一際大きな爆炎を上げ黒い煙を至る所から吐き出し完全に機能を停止した。

だけど流石は漣と言うべきだろうか、私も無傷ではなかった。私が主砲を撃った直後、私の視界の右半分は真っ黒に染め上げられた。顔の右側に手を当てると手にはベッタリと赤い血がついていた。

 

「どうやら私の負けのようですね」

 

黒い煙を吐き出しながら小規模な爆発を繰り返す背面艤装チラリと見て漣は言った。

 

「そうね、私の勝ちよ」

 

念のため漣の主砲がこちらに向けられても対処可能なように警戒できる位置に移動してから私は言葉を返した。

 

「ですが貴女には絶対に消えないプレゼントを残す事ができました」

 

膝の辺りまで沈んだ漣は口元に笑みを浮かべてそう言った。

 

「肉体の欠損はドックに入っても治癒しない。私の視界は今後一生半分のままね」

 

「そうですね。貴女はこれから朝起き夜になって眠るまでその半分になった視界で私の事を思い出し続ける事になる」

 

「ムカつく話だわ」

 

心底嬉しそうな表情を浮かべる漣に私はそう吐き捨てた。

 

「陽炎……」

 

何事か漣が話す事を躊躇するかのような素振りをみせ、私は無言で言葉の続きを待った。だけどそれが発せられるよりも先に背面の艤装がさっきよりも大きな爆発を起こし漣は急速に沈んでいった。

驚く私に向かって漣はとても美しい笑みを浮かべると一言言った。

 

 

「     」

 

その言葉を耳にした瞬間、私は思わず彼女に手を伸ばしていた。

どうしてそんな事を言うのか。敵である私に伝える事じゃないし、ましてや沈めた相手に言う言葉じゃない。いやそれ以上にあんな表情で言う事じゃない。

だけどその言葉の真意を問いただす前に漣は海面から姿を消した。残ったのは漣の血と燃料。それと漣の制服の一部くらいのものだった。

 

「……なんなのよ。一体なんだったって言うのよ!」

 

思わず私は手に持つ主砲を海面に叩きつけた。それくらいにあの言葉は不可思議で私の精神を逆撫でする言葉だった。

肩で息をしながら震える拳を握り締め私は残った左目を閉じた。

 

「終わったんですね陽炎」

 

「ええ、終わったわ」

 

どれくらいそうしていただろうか。いつのまにか近くに来ていた不知火に背後から声をかけられたけど、私は振り返る事なく答えた。なんとなく今の顔を見られたくなかった。漣のせいで感情がぐちゃぐちゃになった今の顔を。

 

「でしたら今一度降伏勧告を。この不毛な戦いを終わらせるためにも、一刻も早く」

 

不知火の言葉に私は無言で頷いた。

できる事ならもう少し頭を整理する時間が欲しかったけどそうもいかない。こうしている今も、私の部下達は死んでいっているかもしれないのだから。

 

私から発せられた降伏勧告は意外な事にすんなりと受け入れられた。漣についてきた第一艦隊ならむしろ漣の敵討とばかりに対抗を強めると思っていたから拍子抜けした。だけどこれ以上の被害が出ないのならそれに越した事はない。私は降伏した第一艦隊に武装解除を命じここに第一艦隊との戦いの終結を宣言した。

交戦開始から1時間28分後。第一艦隊という強大な艦隊にしては呆気なく、だけど第二艦隊としては予定通りの速攻でこの戦いは幕を閉じた。




やっぱり戦闘描写って難しい。あまり地の文を多くすると躍動感がない気がするけどかと言って少なすぎると戦闘描写が伝わらない。
今回のは地の文が多すぎる気がするんだよなぁ。いや、そもそも設定関連が入っているからそこをこの話までに出せていればもっと躍動感があったのか。自分の実力不足を痛感しました。
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