第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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エピローグ

「旗風からはいい話を聞けたか?」

 

軍刑務所から出た私を出迎えたのは第二艦隊司令にして現在は第一艦隊司令と連合艦隊司令の代理を務めている私の司令だった。

 

「なんでこんなところにいるのよ」

 

「神通に喧嘩を売ったと聞いたからな。心配になったんだ」

 

「あの人に喧嘩を売ったくらいでどこうなるほど私は弱くないわ」

 

「そんな事はわかっている。俺が言いたいのは敵ばかり作っていて苦しくないかと言うことだ」

 

敵を作るのは簡単だ。相手の主張に対してすべて反対してしまえばいい。私は漣を倒してから1ヶ月の間に彼女と関わりの深かった軍や政府の高官を多数引退に追い込んでいた。だけどそれらの大半は放っておいても引退せざるを得なかったくらい、漣との関係が深かった連中だ。このままそいつらの近くで甘い汁を吸っていた連中を排除するつもりだし、上の世代には私の味方は現れないだろう。

 

「味方なら不知火や二水戦のみんながいるわ。敵ばかり作ると言うけど、これから私がするのは漣が作り上げてきた艦娘の歴史をぶち壊すようなことよ。私より上の世代が全て敵に回ったとしても、それは仕方のない事じゃないかしら」

 

「政治家一家の娘らしからぬ言葉だな。何事も自分の意見を通すには敵よりも多くの味方の方が必要になる。言っちゃ悪いが不知火達じゃ力不足だ。お前は不本意かもしれないが漣の影響の大きい世代から有力者を味方につける必要がある」

 

「私は使えるもの使うつもりよ。それがたとえどんなに不本意な事であったとしても」

 

実家の力を借りるのは不本意だけどこの際仕方がない。どんな手を使ってでも私は漣が成し遂げられなかった、成し遂げようとしなかった事をやり遂げて見せる。

 

「それはお前がやらなければならない事なのか?」

 

「他でもない漣を倒したのが私よ。私がやらずして一体誰がやるって言うのよ」

 

「俺がやる」

 

その言葉に思わず司令の顔をまじまじと見返した。司令との付き合いは長いけどそんな事を言われるほどの付き合いじゃない。あくまでも艦隊司令とその旗艦でそれ以上でもそれ以下でもない。

 

「誰に任せても私が思う改革と全く同じものになる保証はないし、むしろならない可能性の方が高いわ。その申し出はただのありがた迷惑よ」

 

私の言葉に司令は煙草を取り出し火をつけ一息吸うと煙を吐き出した。

 

「お前の指示に逆らわず、お前が見る未来と全く同じものを目指すとしてもか?」

 

「……仮にそうだとしても何かの拍子に妥協する可能性もある。それが自分の行動からくるものならともかく、他者に任せたから妥協するようだと感情的に折り合いがつけられる自信がないわ」

 

端的に言うのであれば私は私の手によって改革を成し遂げたいのであって、私がしたい改革をしてくれるのならば他の誰かがやってもいいと言うわけではない。

 

「それに改革を実行する事は漣を倒した私に課せられた義務であり、漣を死後も完膚なきまでに叩きのめすために必要な儀式みたいなものよ。他の誰にも譲るつもりはないわ」

 

「人の死にそこまで意味を持たせる必要があるのか? どんな人格者も、生前どんなに高尚な考えを持っていようとも人は死んだらそこで終わりだ。死者に影響を受ける事を否定しないが、死者に執着する必要はないだろう。死者とはつまり過去の人間、今を生きる俺達が必要以上に執着する事はないだろう」

 

死者に執着する。父が深海棲艦に殺され私は深海棲艦を絶滅させるべく艦娘になった。そして今、私は殺した漣に対して執着してその死を理由に改革を断行しようとしている。

 

「それにお前は気付いていないのか、それとも意図的に目を逸らしているのかは知らないがお前が改革をしようとする理由は漣じゃないだろう」

 

「どう言う事? 私が改革をするのは他でもない漣を倒した事が理由よ。事の是非はともかく私は彼女の思想を武力を持って否定した。否定した以上はそれに見合った行動をしなければならい。司令の言う通り私は死者に執着して今を生きようとしている。けどそれでもいいじゃない。人は何かに縋らなければ生きていけない私の場合、それが偶々死者だったと言うだけの事よ」

 

死者に執着する事が悪い事なのかどうか。今の私はそれに縋らなければ多分生きていく気力というものが湧かないと思う。思うに私の中の時間(とき)は何度か止まっている。一度目は父の死で、二度目は二水戦の壊滅で。三度目は漣の死だ。だけどそれらに縋る事で私は未来(さき)へと進む事ができた。私が先に進むためにも私は死者に執着し、縋るしかないんだ。

 

「その執着する対象が漣ではないと言っているんだ。なぜお前が目を逸らし続けるのか分からんがあえて言おう。お前が執着しているのは黒潮だろう」

 

旗風の時同様、手を出しかけたけどすんでのところで踏みとどまった自分を褒め称えたい。それほどまでに私の中で黒潮というワードは地雷になっている。

 

「アンタが私の司令じゃなかったら胸ぐら掴んで引き倒してるわよ」

 

私の言葉に司令はなんの反応も見せずに、呑気にポケットから煙草を取り出して火をつけると私に箱を差し出した。

 

「吸うか?」

 

珍しく紙巻を吸っている事に少し驚いた。

 

「遠慮しとくわ。しばらく煙草は断つ事にしたの」

 

実の所私はこの1ヶ月間煙草は一切吸っていない。漣に取り上げられた後にJanus、Jervisに煙草をもらったけどあれは最後の戦いの前に吸い切ってしまった。生きて帰れない可能性も考えて後悔のないように全て吸っておこう、そんな気持ちだった。それから煙草を買い足す事もなく私にしては珍しく1ヶ月も煙草を吸っていない。

 

「それも黒潮の影響だろう?」

 

辛うじて司令を睨みつけるだけにとどめたけど、艦娘なら間違いなく殴り倒している。

 

「漣に重きを置いているのならお前は煙草を吸うはずだ。なんせ奴は喫煙者ではないからな。漣を否定した事が問題と言うお前の理屈なら、漣を否定するために煙草を吸って然るべきだろう」

 

「何でもかんでも漣結びつけないでよ」

 

「三度の飯より煙草が好きなお前が漣くらいの死で煙草を辞めようとするのはおかしな話だ。そもそも艦娘の改革だって連合艦隊旗艦とその部下程度の関係性で、自分の人生を賭けてまでやろうとするような事じゃない」

 

「アンタが私の何を知っているって言うのよ」

 

司令との関係も漣よりはマシだけどそれほど深いものじゃない。なのに私の全てを知っているかのように話されるのはなんだか癪だ。

 

「知っているさ。一体どれだけの付き合いだと思っているんだ? お前と言う人間がどんな人間か、俺はよく知っている」

 

司令が私に向けた目は全てを見透かすような、そんな目だった。

 

「親しい人間の死に涙を流して悲しむ普通の少女。だがそのまま悲しむわけではなく自らを犠牲にしてでも死んだ人間の為に行動できる強い少女だ」

 

力強い視線で真っ直ぐにそう言われるとなんだか恥ずかしい。

 

「そしてお前の親しい人間の括りには漣は入らない。漣くらいの人間の為に自らの人生を犠牲にするほど心優しくはない」

 

なんだかこの言い方はムカつくわね。まるで私が人よりも心優しくないと言われているみたいだけどこれを心優しくないと言うのは余程の聖人か、そうでなければ他者を否定したいだけのただのクレーマーだ。

 

「だから俺は漣のためでなく戦死した黒潮の為に、その死が意味のあるものであったとする為にお前は改革などと言う壮大な事をやってのけようとしていると思っていたんだが?」

 

煙草の定位置だったポケットに手を伸ばしそうになりそこが空っぽな事を思い出して私はため息を吐いた。

 

「不思議だったのだけど司令はどうして私の事をそんなにも気にかけてくれるの? 漣と戦うと決めた時、司令は私を引き止め生かそうとした。二水戦が壊滅した直後も司令は私が戦死覚悟で敵討ちをしようとするのを黒潮を使って止めたわ。そして今、私が艦娘の改革という困難な道を選ぼうとするのを引き止めたわ。どうして?」

 

今にして思えば不思議な事が多い。司令というのは艦娘を困難な道に、場合によっては死地に送り込む事も仕事の一つになる。二水戦の壊滅後に関してはまだ理解ができる。だけど漣との決戦に関しては司令の立場なら積極的に戦うよう命令する事はあれどそれを躊躇するような事はないはずだ。

私が改革をしようとする事を、間違いなく私の人生の大半を賭けてやる事になるであろう困難な改革を自分が代わりにすると言ってまで引き止めている。

 

「……お前の親父さんと面倒を見ると約束したからな」

 

予想外の言葉に言葉が出なかった。私の困惑を読み取った司令はため息と同時に勢いよく煙を吐き出すと言った。

 

「どうもお前は忘れているようだがお前と会ったのは、艦娘になった時が初めてじゃない。昔イギリスで会っているしなんならよく遊んでやっただろう」

 

多分、今の私は随分と間抜けな顔をしていたと思う。イギリスで接点のあった司令と同じくらいの歳の差の人なんて1人しかいないからだ。

 

「気がつかなかったわ。私が艦娘になってから長い間一緒にいるのはウチの連中の差し金?」

 

司令の証言が正しいのならイギリスにいた頃、父が酒によって許嫁とか言い出したのがこの司令という事になる。

 

「そっちからは特に何も言われていない。強いて言うなら俺の意思だ」

 

「なによそれ。ストーカー?」

 

冗談めかしてそう言うと司令は、困ったような表情で頬をかいた。

 

「そう言うつもりはないがそう言われても無理はないだろうな。俺としては世話になったお前の親父さんとの約束を破らない為って言うのと、後は昔遊んでやった子供が死ぬのは目覚めが悪いから近くにいたと言うだけなんだがな」

 

私が同じ立場だったとして、その行動自体は理解できなくもない。お世話になった人に子供の事を頼まれてたら、多少は気にかけるだろうし職場がら同じなら尚更だ。

 

「父が許嫁がどうとか言う話をしたけど、貴方が独身なのもそれが関係してる?」

 

いつだったか不知火達と司令が結婚したい司令ランキングで1位だとか言う話を聞いたから、結婚相手には困らないはずだ。なのに司令は指輪を嵌めめていなければ結婚していると言う話も聞いた事がない。

 

「結婚して欲しいのか?」

 

「そんなわけないでしょ。もしあれを真に受けて独身貫いてるなら、誠実を通り越して気持ち悪いわよ」

 

大昔の父との約束と言うだけで、私のそばにいたと言うだけでも随分と真面目で誠実な人だと思うけど、許嫁の話まで守る気なら真面目を通り越して気持ち悪い。ロリコン疑惑が出てくる。

 

「許嫁の話は酒の席での冗談だと後から話されている。俺が結婚していないのはいつ死ぬともかわからない軍人という職業で結婚などして相手を不幸にしたくないと思った。ただそれだけの話だ」

 

やっぱりこの人は真面目だ。軍人と、それも軍の高官との結婚なら死んでも多額の年金が入ってくるから生活に不自由はしない。それに司令ほどの立場なら死ぬような場所に行く事なんてそうそうないはずだ。なのに結婚しないなんて余程相手の事を悲しませたくないんでしょうね。

 

「もし黒潮を死なせた事で、お前が人生を賭けてその死を意味あるものにしようとしているのなら辞めておけ。漣を倒し、反乱を鎮圧した時点で彼女の死は意味のあるものになった。彼女が死ななければ反乱を鎮圧できたかどうか分からないんだからな」

 

「死なせずに反乱を鎮圧する未来もあったはずよ」

 

黒潮を死なせた事は私の指揮が拙かったから。漣と旗風の指揮が上手かったからと言われればそれには素直に頷くしかないけど、それ以上に私の指揮が不味かったのは紛れもない事実だ。

 

「だがそうはならなかった。ならなかった以上は鎮圧を持って彼女の死に意味を持たせろ。連合艦隊旗艦となってしまっては、今後親しい人や部下を死なせる事なんて幾度もある。その度に死を背負い意味を持たせようとしてはお前が持たない。それをするくらいなら今ここで手を引くか、そうでなければ折り合いをつけろ」

 

「その忠告は父との約束があるからしてくれるの? もしそうなら貴方は自分で自分の言葉を否定している事になるわ。死者に執着するなと言った貴方の方が余程執着してるじゃない」

 

司令言葉をゆっくり煙草をふかすと口を開いた。

 

「約束を守る事と執着する事は違う。一体いつ黒潮が自分の死に対して責任を持ち、意味を持たせろと言った」

 

「部下の死に意味を持たせるのは指揮艦としての義務よ。なんの意味もない死なんて認められるわけがないわ」

 

部下の死を意味のないものにするなんて指揮艦として一番やっちゃダメな事だ。遺族にも、死なせた艦娘自身にも申し訳が立たない。

 

「それは反乱を鎮圧した時点で意味を持たせているはずだと言っているだろう。お前は一体誰の意思で改革などという大された事をしようとしているんだ。黒潮か? 漣か? それとも駆逐艦娘陽炎、お前自身の意志か?」

 

「私自身の意思よ。決まってるじゃない」

 

改革をしようと決めたのは私自身だ。そしてそれを持って黒潮の死に報いようとしたのも私の意思だ。

 

「ならば黒潮の死を理由にするな。他者を理由にした改革など、どこかで破綻するに決まっている。それがお前の意思なら胸を張れ。他者の為に改革をするなどと言う情けない事を言うな」

 

一転して背中を押すような事を言う司令に私は困惑した。

 

「不思議ね。貴方は私を止めたかったんじゃないの?」

 

「それが死者への執着からの行動でないなら、俺は喜んでその背中を押し協力するさ。それが面倒を見るって事だろう」

 

口元に笑みを浮かべる司令に、私は呆れたと言わんばかりにため息を吐いた。

 

「私はもう子供じゃないわ」

 

「知っている」

 

「ならどうしてまだ父との約束に拘るのよ」

 

「可愛らしい妹分の面倒を見るのは、兄貴分の役目だろう」

 

その言葉になんだかよく分からないけど少しムカついた。司令の脇腹に軽くパンチをすると彼は煙草を口から落とし脇腹を抑えた。

 

「か、艦娘の力でパンチはたとえ軽くても、メチャクチャ痛いんだぞ」

 

「これからも支えてくれるのなら、それに慣れなさいよ。これから長い付き合いになるんだし、今みたいに私から手を出す事もないわけじゃないんだからね」

 

そう言って這いつくばる彼に手を差し出すと、痛そうに脇腹を抑えながらも私の手を取った。

多分これから予想もしていない困難な事も起こるだろう。なんなら漣との戦い以上の困難だってあるかもしれない。その時に今いる二水戦の仲間達がいるとは限らない。だけどこの人だけはずっと一緒なんだろう。そう思うと少しだけ嬉しくなった。1人孤独に歩むはずだった道が明るくなった、そんな気がした。




はい。とりあえず完結です。
普段自分が作品作る時は設定とか事前にちゃんと作るんですけど今回は所詮キャラクターが勝手に動く方式でやったので割と設定の荒があったりしました。
ただコンセプトと言うか目標として評価を0から10まで均等に分布させて平均が5〜6にしようと言うのがありました。内容の是非で評価が分かれ、文章を書く能力で人を集め引き込みたい。そんな考えからです。是非は分かれたので目標の半分は達成できたかなって感じですかね。

ちなみにこの後は番外編として漣とでち公の戦い、過去の一水戦の反乱についてあたりを出したいと思ったます。いつになるかわかりませんけど。
モチベーションが上がれば続編、あるいは2部みたいなのも続きとしてこの後書いてもいいかなと思ってます。狭霧達を最後だけでないですし彼女達主役もありかもしれないですね。

という事でではまだいずれお会いしましょう。
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