一発の銃弾が着ぐるみを襲う。
胸に当たった一撃。それは確実に相手を殺すための一撃だった。
「っ!!!」
「たきな!出ないで!」
井ノ上さんの驚きと、千束の叫び。
それとほぼ同時に、次は着ぐるみの頭を銃弾が撃ち抜いた。
「ウォールナット!」
「って待て!!」
ここで予想外の出来事。
井ノ上さんがウォールナットを室内へ引き込もうと手を伸ばしていた。
俺は咄嗟に井ノ上さんの手を握りを止める。
「なにを!ウォールナットが!」
「もう死んでる!君まで撃たれるぞ!」
続けてアサルトライフルに撃ち抜かれ倒れているウォールナットの着ぐるみ。布を通過してダクダクと血が流れている。
ミズキさん、本当に無事だよな?
無事だとは思うが、死んでたら洒落にならん。
なんでこの人は、大金が絡むと身体を張ってしまうんだか……。
「……また、私は」
「井ノ上さん?」
どうしたのだろうか?
いや、護衛が失敗したのだから落ち込んでいて当たり前なのだが、それ以外に何かありそうだ。
「こ、近衛さん、すみません。また、護衛対象を守れませんでした。今回は、死なせて、しまいました……」
あぁ、そうか。
この子なりに今回は護衛対象を絶対に守るつもりだったのか。前回の篠原さんの時は、俺が護衛を任せたのに囮にしてしまい、俺がそれを注意したからか。
「ごめんな」
「どうして、貴方が謝るんですか」
「二人とも無事?」
思わず謝ってしまった。
千束が俺たちの元へとたどり着いた。
俺、こいつにも嘘ついてるんだよなぁ。
「あぁ。千束、先生へ連絡してくれ。俺はミズキさんに戻るように伝える」
「……わかった」
千束は先生へと連絡してくれる。
倒れ伏したウォールナット着ぐるみを呆然と見ている井ノ上さんから手を離し、離れたところでミズキさんに連絡するフリをする。
その際、万が一井ノ上さんが外に出ることの無いように千束に井ノ上さんの隣へと来てもらう。
……ふぅ。罪悪感がすごい仕事だな。
俺はポツンと置かれたキャリーバッグの中身と、これからこっちに向かう先生へ少しだけ恨みを飛ばす事にした。
タンスの角に指をぶつけるぐらいはしてくださいね!
しばらくすると、緊急車両が到着した。
運転席には先生が乗っている。
ウォールナットの回収を手伝い車両に乗せると、千束が近づいてきた。
「じゃあ、私たちはこっちに乗るね」
「あぁ、井ノ上さんのそばにいてやってくれ」
落ち込んでいる千束。
同じように落ち込んでいる井ノ上さんの世話を頼む。少しは気を紛らわす事ができればいいと思ったのだ。もう少しでネタバラシの時間だしな。
「俺は河川敷に置いたままのバイクを回収したらリコリコへと向かう」
「うん」
「まぁ、あれだ。今日は何か美味いもんでも食おうか。結構疲れたしな」
「うん」
「それじゃあ、俺は行くぞ?」
「あ」
俺の袖を掴んでいた千束の手を外す。
……やっぱ心いてぇよ!!!
先生!!どうにかしてくれない!?
チラリとこっちを見て、逃げるように運転席に戻った人を睨む。足が悪いのによくやったよね!?まぁ誤魔化すために、俺がほぼ主導でしたけどねー!!
千束と井ノ上さんを振り切るように俺はその場を離れた。
「はぁ……。今日は疲れたな」
千束にはうまい料理を食べようと言ったが作る気力はない。外食にしよう。どっかいい所はないかな?
疲れを感じつつ河川敷に向かいバイクを回収。
銃を収納して走り出し、しばらくした頃。俺のインカムに通信が来た。
「はいもしも『知ってたってなぁ!!??』うるっっさ!!」
千束だった。
『シュウもグルだったって何!?私聞いてないんですけどぉ!!!』
「泣きながら話すな!聞き取りにくいわ!あとごめんなさい!!」
『ゆるさぁん!!おま、もう!!みんな無事でよがっだよぉぉ!!』
ネタバラシがあったみたいだな。
思わず大泣きをしてしまう千束。
隠してたのは悪かったが、そんなに泣かんでもと思ってしまう。まぁたしかに護衛対象が目の前で死んで生きてました!しかも中身はミズキさんでーす!なんて予想できないし、本人達は必死だったからな。
今回のお怒りは全て受け止めるさ。
いつまでも電話を切る様子がない千束の声を聞きながらリコリコへと戻る俺でした。
〜千束サイド〜
私は、河川敷の方に歩いていくシュウを見送り救急車の中に入る。中にはシュウが運び込んだウォールナットと、ウォールナットを死なせてしまい、落ち込んだたきな。
車の中は嫌な沈黙で支配されていた。
「失敗、しちゃったね」
「すみません。私が止めれていれば……」
「たきなのせいじゃないよ」
たきなのせいじゃない。
護衛対象より優先してしまった事があった、私の責任だ。シュウがいるから安心してしまったのだろうか?まだこの現場に慣れていないたきなを、私から離れさせるべきじゃなかったかもしれない。
でも少し引っかかる。
シュウが護衛対象から目を離す筈がない。
何かが起きている気がするが、もう手遅れ。ウォールナットさんは死んでしまった。
『もういい頃合いじゃないかな?』
聞き覚えのある声。
ウォールナットさんの声だ。
「「ん?」」
いや、おかしくない?
死んでるよね?え?えぇ!?
信じられない事が起こった。ウォールナットさんがのそりと起き上がったのだ。
私もたきなも動きが止まって呆然とする。
「ぷっはぁ!!」
「「えぇ!?」」
そしてウォールナットさんの頭がスポンと抜けた。中からはミズキが出て……ミズキィ!?え?えぇ!?だってミズキは私たちのバックアップで、乗り換え用の車を用意していて、というかシュウがリコリコへ戻らせてたよね!?え?
どう言う事!?何が起こってるの!!??
「ミ、ミズキ?な、なんで!?」
「落ち着け千束」
「先生も!?え、何が起こってるのぉ!?」
思わずたきなを見るが固まってしまっていた。
うん、コレは頼れないな。
ていうか!なんで先生もいるの!?
私達が困惑している間、ミズキは実に美味しそうにビールを呷っている。着ぐるみが防弾とか、血が出るようにしてるとか言っているが状況が飲み込めない。
「あ、あの!ウォールナットさん本人は」
「そうだよたきな!どこいったの!?」
『ここだ』
「「ううっ!?」」
ウォールナットさんの声に私とたきなは驚く。
すると、隣に置いていたキャリーバッグが開き、小柄な女の子が出てきた。
「追っ手から逃げ切る一番の手段は、死んだと思わせる事だ。そうすればそれ以上捜索されない。何せ死んでいるんだからな」
「では、わざと撃たれたんですか?」
「彼のアイデアだ」
たきながウォールナットさんに疑問を聞いて、それに答えをくれる。先生も先生で、してやったり顔で手をあげていた。
ミズキがもっと色々と仕掛けを用意していたとか言っているがそれどころではない。
「想定外の事態にもきちんと対応していて、見事だった。まぁここにいない彼には一度文句を言いたいが……」
ああ、結構キャリーバッグを蹴られたり倒されたりしてましたもんねぇ。……って違うそうじゃなぁああい!!!
「ちょっと待って!色々聞きたいんだけど!結局誰も死んでなくて無事だったって事?」
「そうよ?」
ミズキが軽く頷いた。
そしてここからが私が一番聞きたいこと。
「シュウも、知ってたの?」
「あ、あぁ〜それはね〜」
「う、うぅむ」
「知っているぞ」
私の問いに言いにくそうにしていた二人とは違い、ウォールナットさんは即答してくれた。
へぇ?知ってたのか。ふふふ、知ってたのかぁ。
「たきな」
「はい。やりましょう」
「だね。でもその前に……電話で文句言っちゃる!!」
その後、私はシュウに電話をかけた。
感情が昂り思わず泣いてしまったが、私の言いたいことを全てシュウは聞いてくれていた。
感極まってしまいウォールナットさんを思いっきり抱きしめたりもしてしまい、苦しそうだったが私達をはめた罰として受け入れてもらおう。
そしてシュウ!今日の晩ご飯は贅沢なものを作ってもらうからね!!
〜千束サイドアウト〜
リコリコへ戻った俺の鳩尾を、千束の暴力が襲う。
それはただいまも言う暇もなく襲ってきた。
「私の怒りだぁ!」
「ウゲェ!」
「たきなもやりな!遠慮はいらん!」
「はい。やります」
「え、ちょっと待ってうぐっぉお!」
ついでとばかりに井ノ上さんのパンチも飛んできた。鳩尾を押さえて蹲る俺に、少し心配するような先生の声が聞こえてくる。
「あー。大丈夫か?」
「……大、丈夫に、見えますかね?」
「無理そうだな」
軽いな、この人……。
なんとか起き上がりカウンターに座った。
ふぅ……。
「千束、井ノ上さん。黙っててすまない。今回の依頼だが、俺は全部知っていた」
「もういいよ。それよりマカロンよこせマカロン。それでチャラにしてあげる」
「私にもください」
「あ、はい」
一応千束の分と気に入ってくれた井ノ上さんの分は別に取ってある。カウンターに座っている二人にマカロンを出して、ついでに煎茶も用意する。
今からコーヒーだと用意が面倒だからな。
「ん〜!今回のも美味しいよ!」
「美味しいです」
それは良かった。
その後、先生から今までの話を聞いた。
どうやらネタバラシは既に済んでおり、一悶着あった後のようだ。
「井ノ上さんもごめんね?俺達はこの方針でやってきているから慣れてるけど、君は納得できない部分はあるだろう?」
「はい。今回、相手を殺していれば余計な事もなく護衛をできていたと思います」
「そうだよねぇ。でもうちの我儘看板娘が嫌がるから、悪いけど付き合ってやってほしい。もちろん不満は全て聞くし、今度またお菓子作ってくるからさ」
「はぁ、わかりました」
「ありがとう」
渋々納得してくれたと思っていいのだろうか?
と、そういえば……。
「ウォールナットさんは?」
千束に聞いてみる。
ホールの方にいないが奥にいるのだろうか?
「あぁ、押し入れを住処にしてる」
「なんか昔そんなアニメ見たことがあるな」
「そうなの?私知らない」
「あ、そう」
「そーそー!そういえばね!今日二回もヨシさんが来てくれたんだよ」
「ほー、挨拶できなかったな。次はちゃんともてなさないとな」
「ヨシさんも会えなくて残念って言ってたよ」
そうか。
それじゃあ俺は明日の準備をするかな。
仕込みがあるし。
「今日ご飯どーするの?私シュウの手料理がいいんだけど」
「あーそうだった。俺仕込みだけあるから材料買って俺の家に行っててくれない?」
「おっけー」
手料理は面倒だが、ここは言う通りにしよう。
俺は紙にいくつかの材料をメモする。
そういえば井ノ上さんはどうするのだろうか
「井ノ上さんはどうする?」
「そうだった!たきなー!シュウの手料理食べれるけどどうする?」
「私は大丈夫です」
「今ならなんでも聞いてくれるからお菓子も作ってもらえるよ」
「おい」
「行きます」
「おい!」
「何か文句でも?」
「いえ、ないです。井ノ上さん」
こういう時、男は弱いよね。
俺は涙を呑み仕込みを始める。
その間に千束達は買い物に行って俺の家に行っててくれる。ミズキさんも帰ったし、先生は奥へ引っ込んだ。
しばらく作業をして片付けを行い、俺も用事を終わらせて帰るとしよう。
「ウォールナット。いいか?」
俺はウォールナットが居る押し入れに向かって声をかける。相手もすぐに返事をしてくれた。
出てきたのは小柄な女の子。……こいつ本当は何歳だよ。三十代以上には見えんぞ?
「ボクも君に言いたい事があった」
「そうか。だが俺が先だ」
俺は手に持っていたMEUピストルをウォールナットの頭に当てる。
ウォールナットは焦っているが、実弾が入っているコンバットマスターでないだけありがたいと思ってほしい。まぁこの距離で、この小柄な人の頭に当てると死ぬかもしれないが。
「……な、なんのつもりだ」
「聞きたい事があるんだ。俺は今日一日、君の指示に従って行動していて、君がすごいハッカーだという事はわかった」
武装集団へのスムーズな移動。
信号も測ったようなタイミングで変わってほぼ止まる事がなかった。
他にもあげればキリがない。
だが一番違和感を持ったのは、自分には調べられない事がないと断言した事。
そこで俺の直感が働いた。
「これから話す事は、ただ俺の直感に従っただけの、荒唐無稽な話だ。お前、ラジアータを知っているか?」
「ラジアータ?」
「知っているよな?俺たちが所属している組織。DAの所有する最高峰のAIだよ。お前、コレにハッキングをかけた事ってあるか?」
「……何を言っているのかわからない」
「そうか。それならそれでもいい」
シラを切るならそれでもいい。
どうせ匿う事は決定事項だ。
わざわざDAに報告なんてのも面倒だし、千束はとっくにこいつを気に入ってしまっているだろう。
「俺はお前がラジアータにハッキングを仕掛けたと思っている。タイミングは銃取引の時、今まではあり得なかったが通信にノイズが走った時、最高のAIだったラジアータが、お前に負けたんだと思ってる」
「……」
「それは、まぁいい。結果ウチは優秀な井ノ上さんを手に入れられたし千束も喜んでいるからな」
ウォールナットは黙り込んでいる。
俺が言っている事が当たっているのだろうか?
こいつがリアクションをしてくれないと判断に困るのだが……汗が凄い。おそらく当たっていると思う。
「全部、憶測に過ぎない。本当は今日の相手のハッカーかもしれない。だが、それ以上のお前ならできると思っている。俺や千束の事を知ろうと好奇心が溢れるお前がやったと思っている」
「……でも、証拠はないんだろ?」
「ない。全部俺の直感だ」
「なら!「俺が言いたい事はな」!!」
俺はウォールナットを睨みつける。
殺気でも出ているのだろうか?
ウォールナットの呼吸が浅くなっていく。
俺は銃を頭に押し付けながら言う。
「これから先、リコリコを危険に晒すなら殺す」
「ひっ!」
「だが」
銃を下ろす。
「お前にそのつもりがないならそれでいい」
「……は?ころさ、ないのか?」
「殺したら悲しまれるからな。あぁ、ついでに言っておこう。俺の弱点はリコリコで、特に千束を狙われると弱いって事は、これだけ脅しているからな。お詫びとして教えておいてやるよ」
「……はは、それをしたら本気で殺しにくるくせに、よく言うな」
まぁ、その通りだ。
お前が本当に千束を狙ってしまったら、その時は消す。これから先、ここに保護されているうちにどれだけ親しくなろうと、千束を殺そうとするなら殺す。
「……これから先、ウォールナットが俺たちの味方であるなら、全力で守ってやる。俺はここが大事でな。ここを守るためなら俺の全てを差し出してもいいほどだ。……だからお前が味方なら全てにかけて護ってやる。どっちだ?敵か?味方か?」
「……味方のつもりだ」
「そうか。脅して悪かった。これからよろしくウォールナット」
「……クルミだ」
「……え?名前?お前それ、日本語にしただけじゃん。……あぁ、それと、クルミが最初に言っていた文句ってなんだ?」
「この状況で言えるわけないだろう」
「ははっ。そりゃそうだな」
俺はクルミから離れる。
さっさと家に帰らなければ腹を空かした二人が待っているだろうし。
「待て」
「なんだ?」
クルミは帰ろうとした俺を引き止める。
「お前が言う通り、ボクは好奇心が止められない。ラジアータをハッキングしたのもボクだ」
「認めるんだな」
「あぁ、ここまで言い当てられると開き直った方が楽だからな。なんだよ直感って出鱈目すぎる」
「なんかすまん」
「と、とにかくだ。ボクは君たちの事についても調べるだろう」
「好きにしたらいい。それを売って刺客を雇ったりしたら話は別だが、それをする気はないんだろう?」
「あぁ、知りたいだけだ」
「好きにしたらいいさ。でも、何かがわかった事で千束を悲しませたら、そうだな。お仕置きぐらいはするぞ?」
「き、気をつける」
こうしてクルミとの話し合いを終えた。
俺の方は明日からも普通に接する事ができるが、クルミの方は難しいだろうな。
まぁ、悪い事をやれば返ってくるって事で諦めてもらうとしよう。
クルミ推しのみんなごめんな。
でもこれからいい感じのポジションになる予定ではあるから許してほしい。
次は前のように二話で書いていない部分を短い話として出してアニメ三話に行きます。
三話の方では千束達三人の距離がグッと近くなるための回にしたいですね。