リコリス・リコイル 平和を守る物語   作:クウト

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第十四話

体力測定も終えた俺は、楠木さんの執務室まで行こうとしているのだが、肝心な井ノ上さんに連絡がつかない。

これでは井ノ上さんを楠木さんに引き合わせる事ができない。なんだかんだ忙しい人だからなぁ。

 

「訓練所に行けばいるかな?」

 

俺は訓練所の方へと足を伸ばす。

相変わらずリコリス達の視線が鬱陶しいが、気にせずに目的の場所へと向かう。

そんな時だった。

 

「あ、あの!!」

 

「ん?」

 

後ろから声をかけられた。

振り向いた所に居たのは、過去に俺が助ける事になったセカンドのリコリス。

あの銃取引の時の子だ。

 

「なんだ?」

 

「え、えっと。あの!」

 

「落ち着いてくれ。別に、話を聞くぐらいの時間はあるから」

 

「は、はい!」

 

セカンドの子は落ち着く為に深呼吸をする。

一回、二回、三回、四回、五回……いや、長いなぁ!?

待っていたらいつまでも終わらないと思い、少し悪いと思いながらも声をかけた。

 

「お、落ち着いたか?」

 

「は、はいぃい!!」

 

……何故だろうか?

俺がいじめてるみたいになってきている気がするのだが?勿論いじめているつもりは一切ない。

 

「あー。名前を聞いてもいいかな?」

 

「あ、えっと、蛇ノ目エリカです!」

 

「俺は近衛修哉だ。よろしく蛇ノ目さん」

 

少し目立ちすぎたな。

周りの視線が気になってしまう為、移動する事にした。目的地は自販機がある休憩室。大人数で使えるような広い場所だから身の危険を感じることはないだろうし。

俺は自販機で飲み物を買って彼女に渡す。

お互いベンチの端と端に座り少しした頃。

彼女は慌てながらも、何を聞きたいのか、言いたいのかを説明してくれる。

まずはお礼。

俺がこの子の命を助けた事について。

そして井ノ上さんがどうしているのか。

 

「助けていただき、ありがとうございました」

 

「どういたしまして。でも、俺が入ってなくても君は助かったと思うよ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

「うん。まぁ流石に絶対では無かったけどね」

 

俺はあの日の状況の説明をした。

井ノ上さんの機銃掃射は、彼女が立ち上がったりしなければ射線にはギリギリ入らなかった事。

あの日、通信がおかしかった事。

現場判断で独断。井ノ上さんの勝手な行動ではあるが、仲間を助けようとする意思が彼女にあった事。

 

「三つ目は、君もわかってるよね?」

 

「……やっぱり、そうですよね。たきなは私のせいで……」

 

落ち込んでしまったな。

でもまぁ、詳しい事は知らないのも無理ないか。

彼女を助けた時、俺は下の階に避難した。その後はすぐに、楠木さん達の判断で現場から離れただろう。現場を見て検証するような暇なんてない。

俺がなぜ分かるのかは、並外れた空間把握ができるからってだけだしな。

 

「落ち込む暇があればさ。井ノ上さんに会ってお礼でも言ってあげてくれ。今は訓練所にいるだろうしな」

 

「……はい。そうですよね。行って、みます」

 

「あぁ、井ノ上さんはこっちで精一杯頑張っている。けど、まだ悩む事は多いだろうからね。君からのお礼で救われる事もあるかもしれないし」

 

「はい!い、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい」

 

彼女はジュースのお礼を言った後、休憩室から立ち去った。とはいってもだ。

彼女は少し内気そうだし、今からすぐにいけるだろうか?途中で考え込んでしまって、結局会えなかったとならない事を願おう。

 

「とりあえず、しばらく時間を潰しますかね」

 

今すぐ行けば二人の邪魔をしてしまうかもしれないしな。

ボーッとしながらコーヒーを飲もうとすると、もう飲み終わっている事に気がついた。

うーん。甘いものが飲みたいな。

飲み過ぎだろうなぁと思いつつも、時間を潰すためにもう一杯飲もう。

 

「コーラでも飲むか」

 

たまにはこんなジュースもいいだろうしな。

自販機に向かいコーラのボタンを押す。お金を使わずに物が出てくるのは新鮮だな。普段はお金入れてるし。

どうでもいいことを考えながら、またベンチに座って時間を潰していると、千束とフキが休憩室へと入ってきた。

 

「おろ?何してんの?楠木さんと会うっていってなかった?」

 

「いやぁ、ちょっと友情を育むお手伝いをね」

 

「何言っとるんじゃコイツは」

 

「お?やるか?」

 

いきなり千束に絡まれるがいつもの事で、気にもならない。適当にあしらってジュースでも取りに行ってもらう。

 

「久しぶりだなフキ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「うちの従業員を可愛がってくれたんだって?お礼でも言っておこうか?」

 

春川フキ。

彼女とも幼馴染みたいなものか?いや、千束のせいで苦労を買ってる同士みたいな?まぁ、仲が悪いというわけではないなって、程度の相手だ。

そんなフキに井ノ上さんを殴った事について揶揄うように言うと、フキは顔を顰めてすっっごく嫌そうな顔になった。

おぉう。すでに千束にだいぶ言われた後だな?

 

「お前まで嫌味か?二人揃ってよく似てるな。大体、そん時は私の部下だ。お前らに文句言われたかねぇよ」

 

「そりゃそーか。まぁあれだ。相変わらず苦労してるみたいだなって、おつかれ」

 

「なーにがお疲れだぁ!今もアレの相手をしてたんだがなぁ!」

 

「誰がアレじゃい!」

 

千束が戻ってきた。

フキにもジュースを渡しているが断られている。

おいバカ、俺に渡すな。コーラあるからいらないって、おい千束やめ、おい!フキも仕返しとばかりに俺を抑えるなって!コーラに混ぜるなぁ!

 

「うわぁ……」

 

千束はフキが断ったジュースを、俺のコーラに混ぜたのだ。さっき揶揄った仕返しにフキも便乗して俺を抑えるものだから抵抗できなかった。

 

「なに、これ?」

 

なんか、コーラがすごい色に。

というかさ。お前に入れられたジュース緑色だったんだけど?千束さん、何入れたの?

 

「青汁」

 

「……あ、お、汁……」

 

「そんなもん飲ませようとしたのかよテメェ!」

 

「なんだぁ!?青汁健康にいいんだぞあぁん!?フキには健康でいてほしいという私の気遣いだってのに受け取れぇ!?まぁわたしは飲みたくないけどね!」

 

「余計なお世話だコラァ!ていうか自分が飲みたくないものを人に飲ませるな!」

 

「んだとぉ!!」

 

「……青汁コーラ」

 

千束とフキが喧嘩している間に、俺は罰ゲームのような飲み物を一気に流し込んだ。幸いと言うべきなのか、コーラの方が量は少なく、炭酸はほぼ無くなっている。おかげで一気に流し込めた。

腹の中がタプタプとする気が……。

なんだろ?こう……腹がたってきたぞ?ものすごい味で口の中が変だな。これでも一応厨房担当なのだから、味覚破壊のような事をしないでほしいなぁ千束さん?

 

「え?あ、怒った?」

 

「……千束、お前がなんとかしろよ?」

 

「ちょっ!フキが断るからじゃん!」

 

はぁ。

コイツらは……。

 

「千束」

 

「はい!」

 

「帰ったら覚えておけ」

 

「はぃいい!!」

 

不思議だ。

腹がたっている。だが一周回って面白くなってきたぞぅ!

 

「フキ」

 

「……」

 

「フキ?」

 

「な、なんだ」

 

「うちにいる井ノ上さん、頑張っているんだ。尻尾切りにされたのに、懸命に頑張っているんだ。健気だろう?可哀想だろう?なぁ、どう思う?」

 

俺は立ち上がり、自販機の前に行く。

目的のボタンを押してしばらく待っていると、目的の飲み物が出てきた。

 

「タイムリミットだ。答えは?」

 

「……飲めばいいのか?」

 

「……」

 

俺は何も言わない。

フキは俺から青汁を奪い取り一気に飲み干した。

 

「こ、これでいいな!?文句言うなよ!?」

 

「お前もファーストで現場責任者なら即座に判断して動け。司令部の判断を待つばかりだったらセカンドでもできる。司令の判断も大切だが、お前が思考停止してどうする?」

 

「飲んだのに説教するな!」

 

「飲めば何も言わないとか言ってないが?」

 

「こ、このっ!クソがぁ!!」

 

「こらぁフキちゃん!!女の子がクソとか言うな!おを付けろおを!!」

 

「だっはっはっ!!おクソ!」

 

「「ウルセェ千束ぉ!!」」

 

「うぇええ!なんでぇ!?!?」

 

久しぶりに三人で騒いでいると一瞬の寒気。

あ、やべぇこれ。もう間に合わないやつ。

 

「騒々しいな」

 

「司令!?」

 

「楠木さん!」

 

「いや、これはあの、すんませんしたぁ!」

 

楠木さんがいた。

本来なら俺は楠木さんの司令室にいなければならない。探しに来てくれたのだろうか?

 

「修哉。測定が終わり次第、執務室へ来るように言ったはずだが?」

 

「あ、あ〜。何と、言いますかぁすみませんでした!」

 

即行で謝った。

もちろん探しに来たとかそんな理由じゃないですよねぇ!会議の帰りに偶然通った場所から、聞き覚えがある騒がしい声がしたら来ますよね!

いやぁ、こればかりは言い訳できんわ。

蛇ノ目さんと話していたって言っても、一蹴されるだろうし。

俺が頭を抱えていると、千束は楠木さんに挑発するような口調で話しかけた。

 

「どうも、楠木さん。たきなの件について、聞きたいんですけど?なんで、DAから追い出したんですか?」

 

「命令違反をしたと聞いてると思うが?」

 

「だけど仲間を救った!失敗ばかりじゃなくて、そこも評価してくれてもいいんじゃないですかね?」

 

「その結果、千丁の銃は行方不明だ。商人は生かすべきだった。友情では平和は守れない」

 

井ノ上さんを何とかしてあげたいという、千束の気持ちはわかる。何も知らなければ俺だって楠木さんに一言言いたかったと思うし。

……俺はクルミがやった件。ラジアータのクラックに関して話をしていない。これは俺だけが知っている事だ。店のみんなに黙っていて悪いと思っているし、井ノ上さんには本当にすまないと思っている。

 

「だいたい!偽の取引時間を掴まされてる時点で後手に回りすぎでしょ!?」

 

「……修哉。ここは騒がしすぎる。移動するぞ」

 

「話を逸らそうとしないでください!絶対に行かせませんから」

 

千束は俺の手をギュッと握りしめる。

絶対に行くな。協力しろと力強く睨んでくる。

安心しろ。行きはしないから。

俺はお前の味方だからな。

 

「楠木さん。あの日、通信障害が起こってましたよね?」

 

「修哉!」

 

楠木さんには悪いが追及しておく。

後で千束にあの時何も言わなかったと責められるのも面倒だし……。ごめんなさい。

 

「は?通信障害ぃ?」

 

「……ただの技術的トラブルだ」

 

「それならそれでもいい。ですがお願いします」

 

「ちょ!シュウ!?」

 

「井ノ上さんにだけは会ってやってください。彼女は今、訓練所にいますから。お願いします」

 

俺は楠木さんに頭を下げた。

俺が答えを待っている間、休憩所が沈黙に包まれるが楠木さんの足音が響く。

無言で踵を返しここらが出ていこうとしているのだ。やっぱり無理かぁ……。

 

「ちょっと!楠木さん!無視ですか!?」

 

「おいやめろ千束!」

 

「止めんなフキ!シュウが頭まで下げてるのに無視とかありえないから!!楠木さん!」

 

そこまで言ってくれるのはありがたいが、俺ってばDAでのヒエラルキーそこまで高くないのよね。

むしろ前線に放り投げられるぐらいのただの駒なのよね。

 

「行くのならさっさとしろ。いつまでも子供の相手をできるほど、私の時間に余裕はない」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

「はやく着替えてこい」

 

どうやら井ノ上さんに会ってくれるようだ。

ものすごく驚いたせいでフリーズしてしまったが、気が変わらないうちに俺達は即行で着替えてついていかなければ。

 

「はい。ほら、千束。いつまでも騒いでないではやくしろ」

 

「え、あ、うん!」

 

「フキ。千束の事頼んだ」

 

「やなこった。自分のことぐらい自分でしろ」

 

「んだとぉ?やるかぁ?」

 

「千束、はやく、しろ」

 

「はいぃい!!」

 

ダッシュで更衣室へと急ぐ千束。

これから井ノ上さんには辛い事が起こるだろう。

DAからしたらラジアータをクラックされた事は隠し通しておかないといけない。尻尾切りにちょうど良かった命令無視のリコリス。

だがこの人達は気がついているのだろうか?

ラジアータがクラックされ、それができる人間がいるという事は、今まで通りのままだとDAは常に後手に回る。事件が起きる前に解決はできなくなるのだと。

 

「その点、自分で考えて身体が動いた井ノ上さんをもらえた事は幸運だったな」

 

あの子には悪いが、そう思ってしまう。

着替えを終えて、フード付きの上着もきた。

さっさと楠木さんに合流しないとな。

俺、千束、フキ、楠木さんにその秘書。みんなで訓練所に移動して俺たちが見たものは、セカンドリコリスにいじめられている井ノ上さんだった。なんだぁ?あいつ。

少しだけイラッとしてしまう俺でした。

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