五話で終わらせるつもりだったけど話の切りどころがなく、長すぎちゃうのでここらで分割してます。
次回でアニメ三話は終わり。
また日常編を挟んでアニメ四話へと突入します。
「アンタの席はもうないっすよ?」
訓練所へと到着した俺の前には特徴的な髪型のセカンドリコリスに虐められている井ノ上さん。
なんだあいつ?
「誰?」
「たきなの後任だ」
ほう。
フキに聞いたところ、井ノ上さんの後任のようだった。大方、一人歩きしてしまった井ノ上さんの噂を聞いていたのだろう。今回はたまたま本人がDAにやって来た為、揶揄ってやろうというところか?
うーむ。
遠くから聞いた噂は事実無根のクソみたいなのが多かったが、命令違反や、仲間がいるのに機銃を撃ち放ったのは事実だからな。こんな輩が出て来たのも仕方ないか?
「だぁまれ小僧」
あーあー。
止める間もなく千束が飛び出してしまった。
気持ちはわかるけどそこはグッと飲み込むと言いますか……まぁ無理か。俺もイラッとしたし。
「誰っすかアンタ」
「そいつが千束だ」
「あ!フキセンパーイ!へぇ?これが電波塔の。どうも、乙女サクラっす」
「誰がコレだぁ?あぁん?」
「ただのアホだ。相手にしなくていい」
「シュウく〜ん!フキちゃんが虐めるんですけどぉ!?」
「巻き込むな」
それにしても千束に対してもあんな感じか。
いやまぁ、電波塔事件はもう十年前だし、こんな後輩が出てくるのも仕方ない部分はあるのか?でもなぁ、これはDAの教育不足な気がするなぁ。何かと問題児多いし。
うるさい千束を見ていると、井ノ上さんが乙女サクラというリコリスの肩にぶつかりながら楠木さんに迫っていた。お?喧嘩かぁ?言われっぱなしだもんなぁやったれ!やったれ!
まぁふざけてはみたが、喧嘩なんて起きるはずもなく、井ノ上さんは楠木さんに話しかけた。
「司令!」
「なんだ?」
「私は銃取引の新情報となる写真を獲得し、提出しました。この成果ではまだDAに復帰できませんか!?」
「復帰?誰がそんなことを言った?」
「成果をあげればDAに」
「そんなことを言った覚えはない」
でしょうねぇ!
あぁ、心が痛いなぁ。
だって井ノ上さん尻尾切りに遭ってるんだもの。都合の悪い事を押し付けられてるんだから、現時点ではDAに戻れるはずがないんだなぁ。楠木さんもその辺しっかりと聞かせてあげとけばよかったんではない?
……それはそれでもっと拗れてたか?今となっては何がよかったのかわからないな。
「そ、んな……」
失意の井ノ上さん。
こうなる事が、わかっていたからこそ見ていられない。
帰ったら何か作ってやろうか。それで少しでも気を紛らわせる事ができればいいのだが。
俺がそんな事を考えている間も時間は進む。
乙女サクラとフキが井ノ上さんを挑発し続ける。
井ノ上さんにかかる精神的な苦痛。それに耐え切る事は難しい。結果、井ノ上さんは訓練所から走り去ってしまう。
「あ、ちょっと!たきな!」
「千束。頼んでいいか?今、井ノ上さんの味方は俺たちだけだからな」
「うん、わかってる。シュウは行かないの?」
「ちょっとお話をね」
「そっか。あんまり脅さない様にね?」
脅さない様に、か。
確かに、井ノ上さんの扱いには少し頭にきているが、脅すとか……そんな事をするつもりはないのだが。
千束を見送り、楠木さんに向き直る。
この人は無言で事態を眺めていたが、俺の目を見てくれているあたり、聞いてくれようとしていると判断しよう。
「楠木さん。ありがとうございます」
「礼を言われるような事をした覚えはないが?」
「そーですね。まぁ色々と言いたい事はあり過ぎますけど、井ノ上さんをウチにくれた事です。養成所に送る事もできただろうにウチにくれた。本当に感謝してます」
「……何が言いたい」
「ラジアータがハッキングされた今、リコリスには司令からの指示が無くとも動ける必要がある。これから先、もしもまたラジアータがハッキングされたとします。その時通信できないから指令を待ってます!でも結果何もできずにやられました!なんて馬鹿みたいでしょう?」
「おい修哉!あの時のは私の判断だ!司令は」
「では、井ノ上たきなにはそれができるとでも言うつもりか?アレは完全な独断。独自の考えで動けたとしても最善を掴む事はできないだろう」
楠木さんは俺に突っかかってくるフキを遮りながら、俺の拙い挑発を聴いてくれた。
はぁ、俺って口喧嘩とか弱いからこんな時にどうすればいいかわからないんだけど……。
まぁ、俺なりに精一杯やるけども。
「そうですね。結果的に商人を殺してしまいましたが、仲間を救う為に行動できる人間です。問題は多々ありますが、その辺はウチで教育していきますので。主に千束が」
主に千束がと言ったあたりで、楠木さんの顔が歪んだ。とは言っても本当に分かりにくいが……。
この人と長年接しているからこそ分かるのだろうか?なんにせよ、少しは仕返しができたと思っておこうか。
「……」
「はっはっはっ!今めんどくさい事になるって顔でしたね。千束とバディですからね。多少、面倒な人間になる事は、ほぼ決まっているでしょう?例えば〜、いざDAに戻しても以前よりも勝手な行動が増えるとか?」
「それは確かに面倒だな」
「もういっその事、ファーストにでもします?俺と千束が育てれば半年ぐらいでなんとかなるかもしれませんよ?先生もいるし、本人の射撃の腕は一級品だ。可能性はありますよ?」
「ふむ」
「まぁファーストになっても、千束の同類が増えるだけでしょうが。はは、どう転んでもDAには厄介な問題児が増えるというね。お疲れ様です」
井ノ上さんは俺や千束の様な並外れた才能があるわけではない。だが本人の実力は原石だろう。俺たちで磨いて宝石に仕上げるのも悪くない。
そんでみんなでここに来て、楠木さんとDAのリコリス全員にぎゃふんと言わせようぜ!!
「フキ先輩。なんすかこいつ?笑ってるんですけど」
「ロクでもない事考えてんだよ」
「はー。フード被ってニヤニヤ笑うってきもいっすね!!」
「なんだぁ?こらぁ!?」
「うわキレた!アレっすね。最近の若者はってやつ」
「テメェより歳上だわ」
ん?
こいつより歳上なのに挑発に乗る俺って子供じゃない?あ、ダメ。これ思ったよりダメージあるやつじゃん……。
俺は精神的ダメージが致命傷になる前に、楠木さんにキルハウスブースの用意を頼み千束達の元へと行く事にした。じわじわとやってくるダメージのせいで足取りが重いが、訓練所から出る。
おそらくだが、二人はあの噴水にいるだろう。
ほんと、リコリスみんなあそこ好きだよなぁ。
昔、千束もよく俺を連れて行っていた、ある意味思い出の場所。今回その思い出に、新たに井ノ上さんを入れるのも悪くないな。
〜フキサイド〜
少し足取りが重そうな修哉が、訓練所から出ていく。姿が見えなくなった時、ヌルリとまとわりつく様なナニカがなくなる気がした。
あの重くて纏わりつく嫌な感じは修哉の殺気だ。
「なんすかあれ?」
「……はぁ、命拾いしたと思えよ?」
「え?なんすかそれ?」
まぁ、分からないのも無理はない。
アイツは器用な事に、殺気に指向性を持たせやがる。この場で分からなかったのはサクラだけだ。
困惑するサクラに司令は言葉をかけた。
「アレは、修哉は生粋の殺し屋だ。ただそれを千束が抑えてるに過ぎない。現時点でアレに殺しをするつもりがなくてよかったな」
「え?いや司令、だからどういうことっすか?アレが殺し屋って信じられないんですけど。戦闘機械なんて呼ばれているから強いと思ってましたけど、あれサードでも倒せるっすよ?」
「はぁ、そんな事を言えるお前が羨ましい」
「え?えぇ??だから訳わかんないですってフキ先輩!」
「あーもう!千束が居なければ、殺されてもおかしくなかったんだよ!お前は!散々挑発してたやつらのおかげで!今も!生きてるんだっよ!!」
「いったぁ!!蹴るとか理不尽っす!」
これはあの殺気を受けずに済んだ、能天気な後輩への八つ当たりだ。それを理解しながらも叫ぶのはやめられなかった。
「いいかサクラ!?何度でも言ってやる!千束が修哉を!あの化け物を制御してるおかげで、アレは戦闘機械なんかになってくれてんだよ!アレがなんの拘束も無くなった時が一番怖いんだよ!それなのにピーピー挑発しまくりやがって!あぁあもう!!わかったかぁ!?」
「え?え?なんでキレてんすかこの人?」
「うるっせぇ!私にもキレたい時ぐらいあるわぁ!」
「はぁ。フキも言っているが、修哉は千束という拘束具のおかげで今の評価になっているに過ぎない。アレがその気になればDAを壊滅させる事も可能だ。幸運な状況で修哉に出会った自分の運に感謝でもしてなさい」
司令も同じ事を言ってくれる。
だが、本来の修哉を見たことがない奴らには信じる事はできないだろう。アレの本当の姿。烏と呼ばれていた静かな殺人鬼の時の姿。
おそらくその姿は、十年前から何度か一緒に任務についた私や一部のリコリス。そして司令達、大人しか知らない。
……そして、入院していた千束は本当の意味でのアイツを知らないのだ。作業の様に殺しを行う姿。それを千束は見たことが無い。
修哉は千束と出会って変わったからな。
「は、はぁ!?なんすかそれ!」
「本来のコードネームは烏。この国の為に一から作られた、ただ一人の殺人鬼だ。リコリスも殺しを専門とするが、アレよりはマシだろうな」
「え?え?司令まで?」
「……それを、千束が懐柔しただけだ。もし、修哉が千束と出会ってなければ、お前の首はもう身体と別れてるよ。あぁもう!さっさと移動するぞ!このイライラは飼い主の千束に責任取ってもらわねぇと気がすまねぇ!!」
「あ、ちょっ!フキ先輩!引っ張らないでほしいっす!」
いつまでも状況がわかっていなかった後輩を連れてキルハウスブースへと向かう。
本当に助かったと思う。
千束は電波塔事件の時の英雄なんて呼ばれたりもするが、本来の修哉の姿を知っている私達の中では少し違う。凶暴な烏の使い魔持ちの魔女。
……まぁ、小さい頃に見た絵本でのイメージから取られたに過ぎないが、魔女はある意味あっていたかもな。アレだけ飼い慣らしてると本当に魔性だなって思うよ。
〜フキサイドアウト〜
足取りが重い俺は、暗い雰囲気が出ているのか周りに道を開けられながら目的地にたどり着いた。
やはり思った通り千束が井ノ上さんを抱き上げて回って……って、何してますのん?
「ん?うっわ、シュウ?何があったの?フキにいじめられでもした?」
「チサえもーん!フキとその後輩が、僕をいじめるんだ!」
「「うっっわ」」
「おい、やめろ。俺が悪かったから二人でドン引きするな。ごめんなさい」
千束が井ノ上さんを抱き上げたまま三歩程後ろに下がった。いや、俺が悪かったからジリジリと逃げようとしないでくれ。
はぁ、まぁ変なテンションになっていた事は認めよう。
「あの二人は先にキルハウスに行ってるみたいだぞ?お前らはどうするの?俺が代わりに行こうか?」
「そだねぇ。ねぇ?たきな。さっきも言ったけどさ。私たちとの時間、お店のみんなとの時間を試してみない?ね?シュウ。きっと楽しいよね?」
いきなり振られても困るのだが……。
まぁ千束の事だ。悲しんでいた井ノ上さんを慰めたいのだろう。それが、俺たちみんな、リコリコメンバーで居場所を作ってあげられることが出来れば……うん。楽しそうだな。って感じか?
「……あぁ、そういう話?」
「うん。そういう話」
え?わかったのだろうか?
こいつすげぇな。
「そだなぁ。今までになかった時間を過ごせる事は保証するよ。大変な事もあるし、楽しい事もある。みんなと一緒の時間は、あっという間に十年が過ぎるぐらいには、うん。充実してる事は保証するよ」
思い返してみれば、あっという間だった。
この場所から俺の新しい人生を始めた。
千束のおかげで本当に楽しい毎日で、これからもこれがずっと続いていくのだろう。そこに井ノ上さんも本格的に混ざってくれたら、うん。とても楽しそうだ。
クルミ?アレはもう馴染み過ぎ。一応過去は引きこもりのはずだよね?コミュ力チートすぎね?
「たしかに十年あっという間だったねぇ。……どうかなたきな。まだまだ時間はたっぷりとあるし、私達との時間を少しだけでも試してほしいな。それでもDAがよければ、戻ってくればいい。その時は私とシュウがなんとかするから」
「おい、俺を巻き込むな?」
「えぇ?手伝ってくれないの?」
「いや、手伝うけどさ」
お前がやりたい事ならなんでも手伝うさ。
「それじゃあ後はよろしくね?私は今、あの二人をぶちのめしたいからそろそろ準備しないと」
「ずいぶん言ってくれたからなぁ。コテンパンにしてやれ」
「お任せあれ〜!じゃあたきな先に行ってるね」
そうして千束はキルハウスブースへと向かった。
ちょうどその時、放送がかかり千束達の演習が始まる事を知らせた。
「本当に、あの人は不思議ですね」
放送が終わった頃。
井ノ上さんは俺に話しかけてきてくれた。
「それな!いやぁ、千束はやりたい事最優先主義だからさ。振り回される事も多いけど、コレが中々悪くない」
「その割に、文句は言ってたみたいですけど?」
「そりゃなぁ。ブレーキ役でもあるからなぁ俺」
千束といるのは楽しい。コレは否定しない。
だがしかし、やることなす事全てを許容してしまうのは無理だ。特に千束特製のパフェ。俺が休憩中とかの知らない間に作られてしまうと材料が消える。ついでに金も消える。
「……俺は、井ノ上さんに謝らないといけない事がある」
「急になんですか?」
「俺は、あの日、銃取引の日現場にいたんだ。そして、ラジアータがハッキングされた可能性に気付いた。実際、ハッキングはされたみたいだし、結果あの日に通信障害が起こっていた事もその場にいたからわかっていた」
「……」
「君に、黙っていた。どう考えても、楠木さんはその事実の隠蔽のために、君を使っていた事も。……だけど、いいように利用されたんだと、君に言ってあげる事ができなかった」
「……」
「すまない」
黙っている井ノ上さんに頭を下げた。
何度でも罵ってくれてもいい。話してほしかった事だと思う。だけど、言えるはずが無いだろう?
あの日、リコリコに来た井ノ上さんを初めて見た時、焦っているのがわかった。最初の篠原さんの事件の時、手柄を焦っていての行動。その後、クルミの時は俺たちの方針に従った上で失敗。すごく落ち込んでいたのを見た。
落ち込みながらも精一杯頑張る君に、俺は事実を言う事が、ますますできなくなった。
「すまなかった」
「言ってほしかったです」
だろうなぁ。やっぱそうだよなぁ。
「……帰ったら」
「ん?」
「帰ったら、仕事の事を教えてください」
「あ、あぁ」
「お菓子も作ってください。ここではかりんとうしか食べた事ないですから。もっと色々と食べてみたいです」
「わかった」
「……では、許します」
そう言って井ノ上さんは歩き出した。
って!違う違う!ちょっと待ってくれ!
「い、井ノ上さん?それだけ?」
「そうですけど?……あぁ、それじゃあ名前で呼んでください」
「名前で?」
「私もリコリコの仲間になるのなら、いつまでも名前で呼ばれないのは仲間外れみたいですから。ね?近衛……いえ、修哉さん」
「……あぁ、そうだな。その通りだ。これからもよろしくな。たきな」
「はい!では、私は一発やり返してきますね」
「お、おう!」
いや、お前、そんな笑顔でやり返すって……。
フキ、コレは重い一発を貰うことになるぞ?
今キルハウスでは、千束がいい感じに時間を潰しているだろう。そこに井ノ上さん……いや、たきなが入れば、うん。簡単に殴れそうだな。
どんまいフキちゃん!