珊瑚宮本家、その家の一角にある呪具保管庫。そこには呪術高専ほどではないが、様々な呪具や呪物が封印、保管されている。
そこへ訪れてきたのは五条家の当主である五条悟と呪術高専東京校の二年生、禪院真希であった。
「知り合いの伝手でここにある呪具を一個持って行っていいって言われてさ、どうせなら呪具をメインで使う真希が一番でしょう、と言うことで今回連れてきたけど・・・どう?いい物ありそう?」
「おいおい・・・逆にいい物がありすぎて一個なんて選ぶのに時間が掛かりそうなレベルだぞ」
「だろうねぇ。さすが眞と珊瑚宮。持ってる呪具のレベルも段違いだ」
開けられた倉庫の入り口で、中に納められた呪具を見て戦慄している真希と、いつもと変わらず飄々としている五条。その背中に声を掛けてきたのは、次期当主とされている珊瑚宮心海だった。
「お話は先輩から聞いています。ここにある呪具は管理こそすれど、使用することはなく宝の持ち腐れになっていますから、是非使ってください」
「ねー、ここみん。呪具持って行っていいのって真希だけなの?」
「貴方は使わなくても大丈夫じゃないですか。真希さんだけですよ。あと『ここみん』って呼ばないでください」
「・・・試し切りとかもできるならしたいな、これ。多すぎて困る」
「分かりました。試し切り用の標的も用意しておきますので、ゆっくり検分してください」
ゴローと呼ばれた青年が残され、心海は戻っていった。
倉庫の中の呪具に目を向けている真希の表情はおもちゃを選んでいる男児のごとく輝いている。どれも立派な物だからこそ、見ているだけでも相当なのだろう。
そもそものきっかけは五条が眞に交流会のことを喋ったことだった。 元は眞の元にいる双子の実力を見たいため、一年生を組み手をさせようと思って軽く言ったのだが、眞の方から「なら武器も準備した方がいいでしょう」と言ってきたのだ。
元々呪具を使って戦うのは真希がメインであり、他の生徒はその時によって使ったり、専用の呪具を用いたりとまちまちである。様々な呪具を使うのは真希だけであるため、五条家の方から(勝手に)持ってきた呪具を貸してる程度だった。
突然の申し出に思わず五条は乗った。多少条件は付いたものの、組み手もOKを貰い、呪具の貸し出しも口添えしておくと言ってくれたのだ。
しかも呪具の貸し出しをするのは珊瑚宮である。
珊瑚宮家は御三家ほどではないものの古くから存在し、そして九州の一部地域を治め、呪霊を祓い、呪術師を独自に育成したりとかなりのやり手の一族である。
古くから存在しているだけあって、呪具や呪物もかなりの数を保有しており、高専ほどではないものの封印指定呪物も管理している。
恐るべきは管理している呪具の豊富さ。珊瑚宮家は鍛治師の家系を取り込んでいたこともある事から、呪具を制作する一族をその庇護下においていた。そのため、呪具の品質と数は高専、ひいては御三家以上とも言われている。
その珊瑚宮から、呪具を借り受けれる。これが京都との交流戦においてどれだけのアドバンテージとなることだろうか。
かの珊瑚宮が管理する呪具には当然特級クラスの物も含まれている。それを無償で借り受けれるとなれば、当然受ける。五条はつくづく眞に足を向けられないと思っていた。
水晶のように輝く材質不明の壁で覆われた倉庫の中へと入っていく真希。入り口から見ただけでも立派だと思っていたが、いざ実際に目の前にすると、さらに違うと理解した。
ざっと見ただけで「片手剣」「刀」「大剣」「弓」「槍」「長刀」と豊富に揃い、その他にもよく分からない呪具まで綺麗に納められ、並んでいる。ここで呪具の販売をしています、なんて言われても納得できる清潔感まであった。
「・・・なんだこれ、すげえしか言葉が出てこないぞ」
「御三家が警戒して手を出そうにも怖くて出せない家だからね。それに、呪具専門の家系が庇護下にいたからいっぱい揃ってるんだよ」
「ここは比較的取り扱いやすい呪具の倉庫です。もし必要なら【暴れ馬】の倉庫も見ますか?」
「おいおい、そんなに至れり尽くせりでいいのか?借りる側だけど心配になるぞ」
「眞直々の紹介だから気にしなくていいと思うよ。ゴロークン、あとでその暴れ馬のほうも見せてくれ」
「分かりました。担当者に連絡しておきます」
この倉庫にあるのが取り扱いやすい物のみと聞いて、思わず真希は引き攣った笑みを浮かべる。些か物の多さに驚いて言葉も出なくなっていた。
並ぶ呪具の下には名前の掘られたプレートもあり、それを見ていけば「狼の末路」「若水」「和璞鳶」「風魔剣」など、ずいぶん俗っぽい名付け方だなと真希は思った。
とりあえず、いつも使っている長物と同じ物から試そうと考え、目の前の和璞鳶を手に取った。
瞬間、真希は和璞鳶から伝わる呪力の強さに思わず手を離した。
「・・・なんだ、これ」
「どうしたの?」
「いや、呪具だから呪力はあるってのは知ってるけど・・・これ、呪力があるで収めるほど軽くない」
「・・・うわ、なんだこれ。五条家にもこんな呪具無いよ。正直言って呪霊じゃないのが不思議なレベルの呪力量なんだけど。ごめん、僕もちょっとこれは予想外」
外から覗いてきた五条も思わずドン引きする呪力量を誇る槍に、真希はもしやと思い「狼の末路」にも触れてみる。すると予想通り、和璞鳶と同じかそれ以上の呪力を感じ取り、最早笑う事しかできなかった。
「ッハハ!なんだここ!この倉庫の呪具だけで日本ぶっ飛ぶんじゃないかってレベルじゃん!」
「同感。マジで珊瑚宮って恐ろしいところだね・・・いやー、ご先祖様が襲いかからなくて心底良かったよ」
紹介しますね、と言って軽く収めた眞が恐ろしい。思わず五条は心の中で土下座した。いくら最強とてここまで来るといろいろ惜しいのだ。
そこでふと思い出す、先ほどゴローは「ここは扱いやすい呪具の倉庫」と言っていた。別の「暴れ馬」と称される呪具は一体どうなっているのか。ここら辺で一度五条は考えるのを止めた。
ついでに、あとで眞にお礼のお菓子を何か見繕うことにした。
▼▼▼
「──それで、緑色のその槍が気に入ったんですか真希さん」
「おう。長物は他にもあったけど、これが一番しっくりきた」
ついでに外壁ぶち抜いた、とも言われ、思わず伏黒は引いた。ただでさえ天与呪縛によって身体能力が高いところに特級呪具の槍を持たせたのだ。恐らく今なら特級呪霊ともやり合っても余裕で殺しそうだな、と思うくらいには。
クルクルと回してから、ピタリと止まり構えるその姿は綺麗を通り越して恐ろしいとまで感じさせる。呪具から感じる呪力もそうだが、この武器は呪力が無くとも名槍として名を馳せていただろう。それほどまでに完成度の高い槍だった。
「これで振り回せる特級呪具が二個になったわけだが・・・恵、ちょっと対人戦に付き合えよ」
「えっ」
「なーに、致命傷にならないように加減はする」
「ちょっと」
「あー、でもこいつの効果で攻撃が強制的に致命傷になるんだっけ・・・よし、死ぬ気で避けろ」
「拒否権無しですか!?と言うか機嫌良すぎですね真希さん!そんなに気に入ったんですかその槍!」
ブオン、と自分の真横を突っ切る穂先に全力でビビる伏黒。真希は水を得た魚、おもちゃを与えられた男児の如く機嫌が良く、調子も良かった。
にっこりと、今までに無いほどいい笑顔になった真希に、伏黒は己の死を覚悟した。
──笑顔は、元々威嚇ってのを、身をもって知りました。
後日、伏黒は五条にそう言って真希を止めてほしいと懇願した。
▼▼▼
「眞先輩、和璞鳶を貸し出したのはいいんですけど、他の生徒からも貸し出し申請が・・・」
『・・・まあ、珊瑚宮の呪具とは言っても元々はテイワット産ですし。影響がない範囲で出してもいいのでは』
『あ、私の【草薙の稲光】は駄目ですよ!あれは強すぎるので影響が!』
『影、いきなり出てきては心海が驚きます』
「す、既に手遅れです先輩・・・影様もお元気そうで」
突然眞との会話に入ってきた影の声にびっくりした心海は思わず心臓の辺りを押さえた。雷電将軍としてなじみのあるはずの影はこの世界に来てからは大分俗世に染まったな、と言うのが心海の感想である。テイワットの雷電将軍(人形)が今の影を見たら何というか非常に気になるところだ。
それはそうと、雷電将軍が使用していた長刀である【草薙の稲光】がなぜ危ないのか。心海は管理者として一応聞いておくことにした。
「影様、どうしてあの長刀は危険なのですか?」
『いえ、その。どうにもテイワットに現存していた時の私の元素力を強く引き継いでいるらしく、雷神であった「雷電影」と【草薙の稲光】が同一視されているようなんです』
「・・・つまり?」
『それを使うと、私が姉様から離されてそっちに完全顕現してしまいます』
非常に申し訳なさそうに喋る影の言葉を理解して、心海は思わず天を仰いだ。
影は今、眞が使役する特級呪霊と言うことで登録されている。しかし完全顕現は許可されていない。もし今言ったとおり【草薙の稲光】を使用することで完全顕現すると、その呪具と影を完全に葬り去らなければならない、と言うことに直結するのだ。
電話先で聞いていた眞も初めてだったのだろう。しばらく無言になっていた。
『心海、貸し出した物は和璞鳶で合ってますね?』
「はい」
『・・・確か、双子の元に居る金鳳大将がその武器を扱っていましたね。一応、こちらでも確認しておきますが、万が一の場合は回収してください』
「了解しました」
電話を切り、すぐ後ろに待機しているゴローに急いで確認をとった。
「ゴロー、今すぐ東京校の五条さんに連絡を。万が一貸した彼女に異変があれば──」
「はい!!確認してきます!」
しばらくの間、珊瑚宮の呪具倉庫では殺気立って何かの確認がされていたという。
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それを書くための布石です。真希先輩ニッコニコ案件