ヤンデレな神々に愛され過ぎて自由が手に入らない 作:松平 蒼太郎
東門攻略〜東方の青龍編〜
俺は走った。長い廊下を走り続けた。
この先を突っ切ればきっとそこには自由が待っているーーーはずだった…
「我が主。どちらにおいでになるつもりで?」
だが無情なるかな、そこには俺にとって最強の刺客とも言うべき女が待ち構えていた。
「もしやまたこの屋敷から脱走しようとしましたね?わたしの目は誤魔化せません」
「あ、や、違うんだよ、青龍。トイレがめっちゃ近くてさ、ほら、猛ダッシュしないと間に合わなかった的な…?」
「トイレなら反対方向ですが?こちらは東門の出入り口です。すぐお戻りになってください」
早速の交渉決裂。やっぱダメみたいですね(白目)。
今の状況をかいつまんで説明すると、俺は四神と呼ばれる天界における最高位の神々に屋敷に監禁されていて、現在絶賛脱走中というわけだ。
屋敷には東西南北の門があり、出入り口はそこしかない。そしてそれぞれの門を守っているのが、四神という神々なわけである。
今、脱走チャレンジしているのは東門。そこを守る青龍は天界を統治する天帝陛下への謁見で、今日は留守にしていたはず…とりあえず一旦、話題変えてみるか。
「なぁ、それより今日の天帝陛下への謁見はどうだった?なんか褒められた?」
「いえ。悪神や妖魔の類いが最近地上で蔓延っているので、さらに監視を強化するようにとのご命令を承りました。主を守るという役割も放棄できませんし、大変ではありますね」
「だ、だったらそっちに集中して、俺のことは自由に…」
「なりません。貴方はわたしが守るべき一番のお方。どんなことがあろうとも、貴方を外に出したりはしません」
二度目の交渉失敗。やっぱ無理ゲーだった。誰かここから出してくれよ。マジ誰でもいいからさぁ…
「さ、主。大人しくお部屋にお戻りください。わたしの機嫌がいいうちに。さぁ、早く」
怖っ。それで機嫌いい方なの?とんでもない圧をひしひしと感じるんだが。それでも俺は…
「悪い…それでも俺はここから出たい。出て、人間の女の子と仲良くなりたい」
思い切って本音をぶちまけてみた。この期に及んで、嘘をつくのは悪手だろう…
「ふむ…それはつまり、浮気ということでよろしいですか?こんなに堂々と宣言するなんて見上げたものですね。さすが我が主」
…と思ってた時期が俺にもありました。一瞬だったけどな。
まぁ元々話し合いで解決できるとは思ってなかったし…ここは強行突破一択だな、うん。
「青龍…お前のことは嫌いじゃないけどさ、いやむしろ見た目はパーフェクト美女なんだけど…それでもやっぱり俺は普通の人間の女の子と付き合いたい」
「遺言は以上ですか?では、死に方を選ばせて差し上げます。業火で焼かれるか、濁流に呑まれるか、雷に打たれるか、竜巻で吹き飛ばされるか…どれでも好きなものをお選びください」
…どれもろくな死に方しそうにないな。というか、自然災害に巻き込まれて死ぬのは確定なのか…
「えっと、じゃあ…青龍が、俺が一番安楽死出来そうだと思うやつで」
「全部ですね。かしこまりした。それではお覚悟を」
あ、ダメだこの子、全然人の話聞いてねえわ。
なんて呑気なことを俺が考えてる間に、青龍はその姿を龍人体から龍神体へと変える。
普段こそ人の姿を保っているものの、真の姿はその名の如く、龍であった。
身体は蛇のような長い胴体に変化し、みるみるうちに皮膚は硬い鱗に覆われた。
胴体からは鋭い爪をもった手足が、頭からは長い角が、口辺からは長髭がそれぞれ生えてきた。
ちなみに喉下を覆っている鱗は逆鱗と呼ばれる箇所で、そこを触ると文字通り「逆鱗に触れ」て、触った相手を漏れなく消し炭にするそうな。おっかないよ、青龍さん。
青龍の完全体を見るのは久しぶりだな。雄々しく逞しい姿で、それはまさに東方の守護神の名にふさわしいものだった。
味方だったらこれほど心強い相手もいないんだろうが、いかんせん、今は完全に俺の敵。詰んだわ、これ。
当然、勝算なんてものはこれっぽっちもありはしない。一体どこの世界に自然災害に勝てる人間がいるというのか。
俺に残された手段はただ一つ。青龍の猛攻をかいくぐり、東門を突破するしかない。
なんか上手いこと隙をついて東門を攻略(脱出)するとしよう。
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「お目覚めですか?主。ずいぶん長く眠っておられたようですが」
結論から言うと、やっぱりダメでした。
業火で焼かれるのも、濁流にのまれるのも、雷に打たれるのも、竜巻で吹き飛ばされるのも、宣言通り全部やられた。
自然災害クラスの攻撃を掻い潜るなんて言った奴誰だよ。寝言は寝て言え。
とりあえず今、目の前には青龍の顔がある。改めて見るとコイツ、綺麗な顔してんな。
「あ、あまりわたしの顔をマジマジと見ないでください…恥ずかしいので」
そう言って青龍は俺から顔を逸らす。俺を屋敷には監禁するくせに、その辺は意外と純情なんだな。
そして今気がついたんだが、俺は青龍に膝枕された状態らしい。寝心地のいい枕だと思っていたら、青龍の膝だったとは…
とりあえず身体を動かしてみようとするが、どうにもうまく動かせない。どうやら、思ったより重症を負っていたらしい。不死身の身体を持っていなかったら、人としての原型も保てなかっただろう。
「身体、動かせませんか?ですが仕方ありません。主があまりにも堂々と浮気を宣言するものですから、手加減を怠ってしまいました」
あれは浮気のうちに入るのか?そもそも俺は青龍と付き合った覚えは全くない。
コイツとの縁はちょっと昔に遡る。
昔ーーといっても数十年前の話だがーー「天地大戦」という、天界の神々と地上の人間との間で戦争が勃発した。
詳しい経緯は未だによく分からないのだが、人間がなんかバカでかい塔を立てて、天の神々に反逆の宣言をしたことで始まったのだとか。
結果だけ言うと、天界側の勝利。無事、身の程知らずの人間どもを黙らせることに成功したわけだ。
とは言うものの、天界側も無傷というわけにはいかず、戦争の最中、多くの神々が傷ついた。
青龍もその一人で、最前線真っ只中で他の四神と共に地上側の総攻撃を受けたんだとか。
その頃の俺はといえば、各地を気ままに放浪する旅人であった。間違っても戦争の当事者ではない。完全に部外者である。
天地の間で大戦争が勃発していることなどつゆ知らず、ノコノコ戦地に出かけてしまったわけだ。
そこが戦地だと気がついた俺は、山奥にある一つの小屋で嵐が過ぎ去るのを待っていた。
そんなある夜、外で物音がしたので、外の様子を見に玄関を出ると、四人の女が倒れていた。
言わずもがな、この四人の女こそ四神である。
もちろん、当時の俺は何も知らず、戦争に巻き込まれて山の中を彷徨っていた哀れな女どもだと思い込んでいたので、飲食物の提供とケガの治療を行なってやった。
そしたらまぁ、あら不思議。俺を主と崇める立派な従者たちの完成である。
いや、助けてくれたお礼をするだけならまだ分かる。だというのに、高名な四神の方々がこの平凡な人間たる俺を主に仕立て上げるとは何事か。全くもって理解が追いつかない。
そんな調子であれよあれよという間に戦争は終わり、俺は天に昇らされた。
そこで天帝陛下に謁見したり、蓬莱の薬を飲んで不死身になったりしたのだが、まぁその辺は割愛。思い出すと頭が痛くなる。
とにかくそんなこんなで、俺は生きているにも関わらず、地上から天に昇ることになったのであった。全くめでたくない話である。
っと、昔のことを思い出してる場合じゃない。今は青龍の機嫌をとるのが先だ。
「あ、あぁ…その、ちょっとした気の迷いだったんだ。ずっと屋敷に篭りっぱなしで気が滅入ってたのかもな」
ちょっとは外に出してくれない?ってそれとなく伝えてみた。いや、実際もう何年外に出てないんだか…年はとりたくないもんだ。いや、不老不死だから年とらないんだけどさ。
「外に…?いけません。主はその、よくモテますから…」
はい?俺がモテるって…人生で一度もなかったぞ、そんなこと。
初恋は…たしか生まれ故郷の村で好きな子がいて、思い切って告白したんだけど、見事玉砕。他に好きな男がいたんだとか。
あとは旅ゆく先でちょっとタイプの子にアタックを仕掛けては玉砕。みんな他に好きな男がいたというオチである。非モテの呪いにでもかかってんのか、俺は。
それはともかく、俺がモテるからというのは、屋敷に監禁する理由としては苦しすぎる。青龍、俺を納得させたいんなら、もっと頭を回せ。
「あのなぁ、青龍…それは俺を監禁する理由としては弱すぎるって。言っとくけど俺、マジでモテないからな?」
途端に無表情になる青龍。え、なに?俺、なんか変なこと言った?
「自覚がないようですね。これだから主は…やはり外に出すわけにはいきません」
なぜか態度を硬化させやがった。どういうことだよ、俺にも分かるように説明してくれ。
「主…今一度はっきり申し上げます。わたしは一人の女として貴方を愛しています」
あ、あかんやつや、これ。誰か止めt…
「貴方はかつての大戦で、わたしと仲間の命と尊厳を守ってくださいました。本来であれば、地上の人間をも守ることが我ら四神の役割であるはずなのに、ちょっとしたボタンの掛け違えから、彼らに敵視され、戦うことを余儀なくされました。言い訳に聞こえるかもしれませんが、わたしたちはそういう事情もあって、人間相手に本気を出せなかったのです。そうして身も心も傷ついたわたしたちを貴方は癒してくださいました。この青龍、あの時のご恩を一時たりとも忘れたことはございません。そして思ったのです、わたしたちを救った貴方こそが、我が主にふさわしいと。従者の身で出過ぎたことなのは重々承知なのですが、貴方を異性としてもお慕い申し上げております。人の身でありながら、仮にも神であるわたしを恐れず、一人の女として扱ってくださいましたから。いわば、わたしにとって貴方は二重の意味で大切な存在なのです。それに今は下界には妖魔や悪神の類いが蔓延っており、決して安全とは言えません。あと、自覚がないようなので改めて申し上げておきますが、主はモテます。なんせあの大戦を終わらせた英雄ですから。天帝陛下をはじめ、神々も主には注目しているんですよ?」
長い長い、長いよ!どんだけ喋んの、この子⁉︎
いや、もう長すぎて途中からほとんど聞いてなかったわ!絶対口に出しては言えんけど!
「わ、わかったわかった。俺のことを思ってくれてるんだよな、うん」
「はい、ご理解いただけたようで何よりです。これからもずっと、我ら四神のそばにいてくださいますよね?」
怖い。『絶対逃さねえぞオラ』って顔に書いてある。思わず頷いてしまった俺を誰が責められようか?
「それに…わたし個人としても、主にはそばにいてほしいと思っています。だから…」
青龍が俺の身体をそっと抱きしめてきた。大事な我が子を守る、母親のように。
「どこにも行かないでください…ここにいる限り、衣食住の不自由はさせませんし、望みだって何でも叶えてあげますから…」
静かに、少し弱々しく青龍は言った。俺が自分の元からいなくなるのがよっぽど不安なのだろう。その声色からひしひしと伝わってきた。
一瞬、心が揺らいだ。それでも俺は…
「分からぬなら何度でも申し上げます。わたしは貴方のことを心から愛しています。ですからどうか、これからもよろしくお願いしますね…?」
その瞬間、青龍の唇が俺の唇と重なった。
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ーー
青龍side
わたしの想い…少しは主に伝わったでしょうか?久しぶりに本気で主を説得しました。
人間の女の子と結ばれたいから下界に降りたいだなんて…主は節操が無さすぎます。
助けてくれた時はあんなに情熱的に愛を囁いてくれたのに…はぁ。
「よっ、青龍。しけたツラしてんじゃん。またご主人が脱走した?」
振り向くと、朱雀が立っていた。燃えるような赤い髪と瞳は、彼女の朱雀という本来の姿を彷彿とさせる。
ちょうどいい。彼女には頼みたいことがあったんだ。
「えぇ。相変わらず人間の女に夢中で…だから貴女には一つ頼まれごとをして欲しいと思って」
「ん、オッケー。何すればいい?とりあえずベッドイン?」
この女…油断も隙もありはしない。わたしだって、まだ主とはそういうことはシたことないのに…!
「あはは、んな怒んなって。大丈夫、抜け駆けはしないからさ。四神全員でそういう協定結んだもんね?」
わかっているならいいけど…見た目と言動のチャラさといい、こいつは本当にそういうことをシかねない。
「そんで?ご主人の脱走を止めればいいの?」
「えぇ。おそらく主は、貴女がおやつの時間にいない時を見計らって、南門から脱走しようとするわ。その時間にあえて南門に居てほしいの」
そう言うと、朱雀の顔が不満げなものに変わる。
「えぇ〜?まさかおやつ我慢しろっての?こないだ玄武姉さんが買ってきた『ぷりん』ってやつ食べたかったのに〜」
そう言うと思った。だから…
「そんなの、おやつの時間をずらせばいいだけの話でしょ?玄武にはちゃんとその旨伝えておくから」
主を外に出さないために、朱雀には存分に働いてもらいましょう。実際、南門を守れるのは彼女しかいないし。
「んー…まぁそれならいいかな。本当に外に出られるとあたしも困るしね」
無事、朱雀の了解はとりつけられた。一抹の不安は残るけど、少なくとも主を外に逃がすような真似はしないだろう。
本格的に主を堕とすにはどうすればいいか…そんなことを考えながら、わたしは再び東門の守護に戻るのだった。
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