ヤンデレな神々に愛され過ぎて自由が手に入らない 作:松平 蒼太郎
「…渾沌(こんとん)は行ったようね。気分はどう?」
え、誰?てか、いつの間に俺の近くに?
いや、もしかしてコイツは四凶の最後の一人…
「…わたし以外の三人の毒を受けて、まだ抗うの?」
「あー、うん…一応、全部事情は聞いた。流石にお前らの言いなりになるわけにはいかねぇな。」
「そう…全部聞いたのね。」
目の前の女は目を伏せながら、物憂げに言葉を続ける。
「これで分かったでしょう?わたしたちがいかに貴方を愛しているか、どんな思いで四神に戦いを挑んでいるか…」
「わからねぇな。悪意を量産して、人界を自分たちの食糧基地にしようとする奴らの気持ちなんざ、わかりたくもねえよ。お前らのやってることは、間違ってる。」
言うことは言ってやった。というか、これくらいは言ってやらないと、俺の気が済まない。
「間違っている?わたしたちが?そんなことは、ない…!」
がっ…!こ、いつ…!いきなり首をっ…!
「人間の悪意を喰らう…これは四凶として当然のこと。だから貴方には、わたしたちの主人として悪意の生産装置になってもらう。」
勝手なことを、言いやがる…!誰が悪意の肥溜めなんかに…!
「貴方…いいえ、ご主人様はわたしたちに悪意と愛情を与える。その代わり、わたしたちはご主人様の望みをすべて叶える。」
ふと、首を絞める力が弱まり、優しげな声色で囁かれる。
「ご主人様…貴方はとても優しい。でもその優しさは…貴方自身が愛に飢えていることの証左でもあるわ。」
それはどういうことだと聞き返そうとした瞬間、彼女にギュッと抱きしめられる。
「我慢しなくていいのよ、ご主人様…貴方は元々、天涯孤独の身だったから、周りからの愛情を素直に受け取れないの。」
何を、言ってる…?俺は、俺はそんなんじゃ…
「四神からどれだけ好きだと言われても、貴方は心のどこかで怯えてた。自分には何もない、空っぽの存在だって…そう思ってるんでしょ?」
そんなことない…そう言いたいはずなのに、口が動かない。首を絞められたせいか?
「だからその不安の種となるものは、全て滅ぼしてしまえばいいの。ご主人様を不安にさせるものは全部、この世から無くなってしまえばいい。」
そんな極論、通るわけがない。不安の芽なんていくら潰してもキリがないだろうに…
「そのための力を、わたしたちが与えてあげる。」
「ご主人様はわたしたちだけを見ていればいい。」
「わたしたちなら、本物の愛をご主人様に教えてあげられる。ご主人様を不安にさせることはしない。約束するわ。」
矢継ぎ早に繰り出される彼女の言葉が俺の心を真っ黒に染めていく。このままじゃ…
「ご主人様…わたしからの愛も受け取って。ンッ…///」
口内に舌をねじ込まれ、蹂躙される。受け入れてはいけない感覚なのに、どこか心地良い。
「これで四凶の毒がすべてご主人様の体内に入ったわね…」
満足げに微笑む目の前の女。そして更に彼女は問いかける。
「どう?わたしたちへの愛と、わたしたち以外のモノに対する悪意とに包まれる気分は?」
俺は…オレは、悪意なんかに呑まれたりシナイ…
「ふふっ…貴方はもうすぐ、名実と共にわたしたちのモノになる。」
愛おしそうに頬を撫でられる。オレは、オレハ…
「ねぇ、ご主人様…わたしのこと、ちゃんと見て?」
彼女のドス黒く濁った目に思わず惹き込まれる。
「好きよ、ご主人様…貴方以外は何も要らない。むしろ貴方以外のモノは全部、わたしが喰らい尽くしてあげる。」
喰らい、尽くす…?そんなのは……あぁ、それもイイカモナ。
「わたしは饕餮(とうてつ)。ありとあらゆるものを貪り尽くす、最凶の怪物。山だろうが人間だろうが神様だろうが、喰らい尽くす自信があるわ。」
饕餮…そうか饕餮か。オレの配下で、愛しの恋人…
「さぁ、ご主人様…その口から言って。『お前たちのことを愛している』って。それだけで完全に契約は成立するわ。」
「…ホントウニ?オレハ、オマエラノ、ナカマニ…?」
「えぇ、もちろん。ご主人様の望みは何でも叶えるって言ったでしょう?わたしたちは四神と違って、貴方を屋敷に閉じ込めたりはしない。自由に外を出歩いていいのよ?」
ナラ…オレノコタエハ、キマッテル。
「ふふっ、もう答えは決まったようね。」
饕餮が両手を広げて、男を迎え入れる体勢を整える。
「おいで、ご主人様…わたしは貴方の全てを受け入れてあげるから…ね?」
ソシテ、オレハカノジョニ……
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー
饕餮side
ご主人様がわたしに吸い寄せられるように、そっと抱きついてくる。まるで母親に甘える息子のように…
「よしよし…いい子、いい子…」
彼の頭を優しく撫でる。彼は、今やわたしたち四凶のことしか考えられなくなっているだろう。そして内心では、己の自由を阻害する者たちを憎んでいるに違いない。
「それでいいの…だって、貴方はこれまでたくさん頑張ってきたんだもの。これ以上、頑張らなくていいのよ?全部わたしたちに任せてくれれば…ね?」
わたしから抱きついて離れない彼の背中をさする。ふふ、本当にわたしに息子ができたみたい。
「もし、ご主人様が望むのであれば…わたしのミルク、飲んでもいいのよ?///」
我ながら大胆な発言だと思う。けれど、それほどまでにわたしはこの可哀想なご主人様に入れ込んでしまってるみたい。
「本当に可哀想な人…♡ 四神には監禁され、わたしたち四凶には理性を奪う毒を流し込まれて…貴方の人生は、神々に翻弄される定めにあるのかもしれないわね♡」
ご主人様を抱きしめながら、わたしはそう呟く。きっと彼はそういう星の元に生まれてきたのだろう。だからこそ、わたしが…
「あらあら♡ 楽しそうなことをしておりますわね♡ わたくしも是非、混ぜていただきたいのですけど♡」
…後ろから耳障りな声が響く。御しやすい檮杌や渾沌と違って、一番面倒で厄介な存在…
「…窮奇さん?貴女もそろそろ前線に出た方がいいんじゃない?四神の連中がカチコミに来てるんでしょう?」
「うふふ、ご心配なく。すでに手は打っておりますわ。」
相変わらず胡散臭いが、手を打っているというのは本当だろう。本当によく頭は回るのだ、この女は。ここに来たのも本当は…
「そう…それなら、わたしが出る幕はないってこと?」
「いいえ?饕餮さんには、中堅の精鋭部隊を率いて迎撃に当たってもらいます。無論、わたくしも後方から支援いたしますわ。」
…おそらく後方支援にかこつけて、ご主人様といちゃつくつもりだろう。まさか、このフラフラな状態のご主人様を前線に出すわけがない。
「わかったわ。軍略に秀でた貴女が言うのなら間違いないでしょう…けれど」
そこで一旦言葉を区切り、殺意を込めた目で彼女を睨む。
「もし、抜け駆けでもしようものなら…貴女のマズい肉を、骨の髄までしゃぶってやるわ。覚悟なさい?」
窮奇は一瞬、目を細めてわたしを睨みつける…が、すぐにいつもの食えない笑みを浮かべた。
「えぇ、もちろん。主様はわたくしたち皆のモノですもの。決して裏切ったりなど、致しませんわ…うふふ♪」
わたしはその言葉を鵜呑みにはしない…だってこの女はひねくれ者で、裏切りを生業とする悪神なのだから。
「まぁ、いいわ…言いたいことは沢山あるけど、今は飲み込んであげる。せいぜい寝首をかかれないようにね?」
彼女にそう言い捨てたわたしは、荒くれ者の部隊を統率するため、激戦となるであろう戦場へと向かうのだった…
不定期すぎてごめん