ヤンデレな神々に愛され過ぎて自由が手に入らない   作:松平 蒼太郎

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第五話。主人公に本気を出させたら、シリアス成分マシマシになった。


中央攻略〜中央の麒麟編〜

四門攻略失敗で、身も心もボロボロになった俺は自分の部屋に戻ってきた。

 

どの門も隙がねぇ…というか、誰一人俺を自由にさせる気がねぇじゃん。

 

改めて実感した。アイツらの愛、重すぎだろ。俺じゃなくても受け止めきれんわ。命がいくつあっても足りない。たとえ不死身だとしても。

 

でもこれでなんとか、ひと通り門は回り終わったし…あとはアイツを呼び出せれば…

 

「お兄さん…やっと戻ってきた。おかえり」

 

噂をすればなんとやら。ちょうどお前のことを考えていたところだったんだよ、麒麟。

 

「その格好…全部の門から出るの、失敗した?」

 

「まーな…おかげさまでボコボコのボコにされちまった。まったく、酷い目に遭ったぜ」

 

麒麟ーー屋敷の中央を守る守護獣だ。たまに俺のところにこうしてフラッと遊びに来る。

 

見た目は白虎と同等かそれ以上に幼く、性格は内気で人見知り。天地大戦にはついぞ参加しなかったくらいだ。

 

だというのに、俺にはなぜか懐いている。この子に特に何かした覚えはないんだが。

 

「ふふ、そうなんだ…でも仕方ないよね。脱走しようとするお兄さんが悪いんだもん」

 

え、やっぱ俺が悪いの?いやいや、自由と(人間の)女を求めることの何が悪い。男として生まれたからにはそれくらい普通じゃね?

 

コイツらと俺との意識の乖離というか隔たりというか、そういうギャップみたいなのがすごい。異文化同士のコミュニケーションって難しいね(白目)。

 

「いや、でもさぁ…俺、もう何十年もここに閉じ込められてるわけじゃん?たまには娑婆の空気吸いたいって思うじゃん?賢い麒麟なら分かるよな?」

 

「知らない、そんなの。わたしバカだから、お兄さんの言ってること全然分かんない。とにかくお兄さんはここにいればいいの。わたしたちが全部満たしてあげるから」

 

頑なすぎる。子どもを相手にするために習得した会話術が全く通用しないとは…恐るべし、麒麟。

 

「えー?いや、頼むよぉ。この通りだからさ!なっ?」

 

秘技・泣き落とし&土下座。もうなりふり構ってる場合ではない。プライド?そんなものとっくに全部下界に置いてきたわ!

 

「泣き落とししてもダメ。お兄さんを守ることこそが五神の総意だから」

 

そう、コイツらは四神ではなく、正確には五神。麒麟は普段表に出てこないから、一般的には四神と認識されている。

 

そうそう、更に言うなら麒麟の他に実はもう一人いるから、俺的には実質六神だったりするんだが…アイツ、どこに隠れてんだろうな。麒麟と違って引き篭もりニートな性格じゃないくせに。

 

「なー、そういや黄竜は?アイツも中央守ってんだろ?いつもどこにいんの?」

 

「え?黄竜ちゃん?それは……知らない。というか、わたしより黄竜ちゃんに会いたかったの?やっぱりお兄さんも、黄竜ちゃんみたいな明るくて可愛い子の方が好きなんだ…わたしみたいな根暗女、お兄さんは好きじゃないよね…わたしはお兄さんのこと、こんなに好きなのに…」

 

おかしい。黄竜の居場所を聞いただけなのに、なぜか麒麟のメンヘラスイッチを押してしまった。

 

いや、君も十分可愛すぎるレベルに達してるんですが。レベルの高い自分の容姿に全く自覚がないタイプだな。

 

小柄な身体に、肩まで伸ばした銀色の髪、目鼻のパーツはまるで精巧な人形のごとく整えられており、前髪で目元は隠れがちになってはいるが、上げればきっともっと可愛いはずだ。

 

特に目を引くのが頭から生えている一本のツノ。彼女のアイデンティティでもあり、彼女にとって一番大切な箇所と言っても過言ではない。

 

「えっと…とりあえずここから出してくれたら、麒麟のこと一番に好きになるよ?」

 

「…その手には乗らない。わたしを甘くみないで。たとえお兄さんに愛されなくても、わたしはお兄さんのこと愛してるから」

 

健気な子や…健気すぎて涙が出そう。別に交渉が失敗して悲しくなったからとかではない。

 

「それよりお兄さん…わたしのツノ、撫でて?」

 

いきなりツノ撫でを要求してきた。いいの?そこ、前に一番デリケートだとか言ってなかったっけ?

 

「あ〜…いいのか?そこ、触られんの嫌じゃなかったっけ?」

 

「お兄さんは特別…今は触られたい気分だから。お願い…」

 

涙目で上目遣いとか反則やろ。なんかこう、守ってあげたくなる妹キャラみたいな…いや、実際守ってもらってんのは俺の方なんだけど。

 

恐る恐る手を伸ばし、できるだけソフトタッチで優しく撫でる。意外とスベスベしてて触り心地いいな。

 

「ンッ…くすぐったいよ。でもこうして撫でられるの、気持ちいい」

 

とりあえず満足してくれたようで何より。目を細めてなすがままにされてる様子が可愛すぎて仕方ない。コイツは俺の妹だ(盲目)。

 

「初めてこの屋敷に来た時もこうして優しく撫でてくれたよね…お兄さん、好き。ずっとここにいて…?」

 

……俺がこうして優しく撫でてるのも、これからすることへの贖罪の意味が入っているんだろうな。

 

気持ち良くなってるとこ、申し訳ないとは思うが…これもお互いのためだからな。諦めてくれ。

 

「なぁ、麒麟…俺さ、なんだかんだ言って楽しかったぞ。お前らと過ごすの…まぁ脱走しようとして止められるの繰り返しだったけど。そろそろさ、ここらで終わりにしようぜ。なっ?」

 

シリアスは苦手なので、努めて明るく声を出してみる。しかし、麒麟はそんな俺のシリアス成分を感じ取ったのか、震える声で言った。

 

「え…それ、どういうこと?終わりにするって…何が?」

 

目に見えて動揺して、今にも泣き出しそうな麒麟を見て一瞬躊躇うが、心を鬼にして俺は言った。

 

「いや、あのさ…お前らって本来、天地全体の守護を司る神様なわけじゃん?東は青龍、南は朱雀、西は白虎、北は玄武。そして真ん中はお前ってふうに」

 

麒麟は黙って聞いている。俯いていて表情はよく分からないが、俺は構わず続けた。

 

「だからさ…もう俺に構うな。お前らはお前らの本来いるべき場所に帰って天命を全うしろ。こんななんの取り柄もない、一人の男に執着すべきじゃない」

 

そうだ。コイツらがこうなったのは、元はと言えば俺の責任だ。生半可な希望を持たせたばっかりに、コイツらは自分の職務の傍ら、俺を守ることに労力を費やしている。いくら優れた神様だろうと、大変じゃないわけがない。

 

それに俺は元々、地上でフラフラあちこちを回っていた放浪人に過ぎない。果たして、コイツらに守られるような価値のある男なのか?俺は全くそうは思わない。

 

自由になりたいーーそれは紛れもなく俺の本心だ。だけどそれが全てじゃない。

 

俺は四神…いいや五神を俺という呪縛から解放してやりたい。

 

コイツらには本来果たすべき役割があり、使命がある。俺一人にかまけているような存在じゃない。

 

だから俺は四門を攻略しようとした。お前らには気がないと言わんばかりに、さっさと出て行こうとすれば、アイツらも幻滅するだろうって。

 

だけど俺の目論みは外れ、アイツらは頑強に抵抗した。全力でもって俺が屋敷から出るのを止めようとした。

 

目の前の麒麟も含め、なぜアイツらが俺を頑なに外に出さず、閉じ込めようとするのか…その本当の理由もなんとなく分かってはいた。

 

いや、分かっているからこそ…俺はこれまで真面目に頑張って脱走に励んできたのかもしれないな。

 

と、ここまで黙って聞いていた麒麟が顔を上げた。その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 

「お兄さんの言ってること、わたし全然分かんない…!なんで?どうして?お兄さんのそばにいちゃいけないの?わたしたち、好きな人の近くにいることも許されないの?」

 

…心が締め付けられる。けど、その通りだ。許されないんだよ。ただの力のない人間と高貴で力のある神様とじゃ、絶対的に釣り合わないんだよ。たかが一人の人間を神様が主人と崇めること自体、歪と言わざるを得ない。

 

コイツらを歪ませてしまったのは俺だ。だから、正してやるのも俺の務め。どんな手を使ってでもそうする必要がある。

 

「許されねえよ。そもそも俺とお前らとじゃ、絶対的に釣り合わない。つーことで、俺のことはさっさと下界にポイしてくれると助かる。あと、俺に関する記憶も完全消去してくれたら、完璧だな」

 

これが俺のまごうことなき本音。四神…いや、五神を俺から解放する。計画の最終段階だ。

 

「嫌だ…嫌だ嫌だ!お兄さんと別れたくない…!ずっと一緒に居たいよ…!」

 

未だに駄々をこねる麒麟に向かって、俺は一歩踏み出す。今なら麒麟を攻略できる。そう確信して。

 

中央を守る麒麟はいわば四神の統括役、すなわちリーダーだ。麒麟さえ攻略できれば、四方の門は開かれ、俺はどこからでも出ることができる。そして五神もこの屋敷の封印から解放されるっていう寸法だ。

 

「お兄さん…わたしたちがこの屋敷に自らを封印したのは、わたしたち自身の意志なんだよ…?自分で自分に軛をつけているのは、みんなで話し合ってお兄さんを守ろうって決めたから…それなのになんで、わたしたちの気持ちを分かってくれないの⁉︎」

 

麒麟は涙で顔を歪ませながら、悲痛な声で俺に訴えかける。情に流されないように、俺は努めて冷静に声をかけた。

 

「なぁ…一応確認なんだが、中央を守る麒麟を攻略すれば、四門が全部解放されて、俺はここから出られるんだよな?」

 

「…うん。たしかにわたしを倒せば、四神は一時的に無力化され、四門は一気に解放される。だけどさせると思う?これでも四神の上に立つ存在なんだよ?」

 

分かってる。コイツの力は強大だ。でも俺もなんの勝算も無しに挑むわけじゃない。

 

これまで四神と対峙したという実績が、俺の身に刻み込まれているからな…!

 

「バーカ。やるに決まってんだろ。もう後には引けないからな」

 

「そう、なんだ…考え直してはくれないんだね…残念」

 

そこまで言うと、麒麟は人から神獣へとその姿形を変える。

 

胴体は鹿に、手足は馬に、顔は龍にそれぞれ変化を遂げた。お尻からは牛の尾が生え、全身が鱗に覆われ、更には金色の毛並みが生え揃った。ツノは人間体のときそのままに、巨大化を果たした。

 

麒麟完全体ーー動物も植物も食さず、歩くときは虫も芽も潰すことがないなど、仁徳の高い神獣としての真の姿である。

 

決して好戦的ではないが、いざとなれば戦うことも厭わない。そんな彼女は天界屈指の聖獣であると言われている。

 

くそっ、今までで一番やりにくい相手だな…ぶっちゃけ、良心がズキズキする。コイツは最後まで言葉で俺を止めようとしてくれた。

 

それでも俺のやることは変わらない。麒麟を攻略し、俺自身はこの屋敷から出る。そして、彼女たちを俺から解放する。

 

「んじゃ、始めるか…これからはお互い自由に生きようぜ?なぁ…?」

 

ーーー戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

麒麟side

 

いつものように駄々をこねてるだけかと思った。けど違う。今日のお兄さんは本気だ。

 

最初はどうやってわたしに対抗するつもりなのかと思ったけど…なんてことはない、お兄さんは四神の力を使って、わたしと戦っている。

 

詳しい原理は分からないけど、何度も対峙するうちに、みんなの技を習得したのかな?それでも…

 

「はぁっ、はぁっ…お、おい、俺ってば、か弱い人間なんだからさぁ、もうちょっと手加減してくれても…」

 

「ダメ。手加減はしない。お兄さんも四神のみんなもわたしが守るって決めたから…!」

 

わたしに食らい付いてはいるけど、辛そう。わたしからの攻撃と、普段使い慣れない力を使ってるから、不死の身体といえど、消耗が激しいんだ。

 

青龍の火・水・雷・風の四つの属性をバランスよく操る力、朱雀の火力重視の炎を操る力、白虎の人や神すらも軽々と超える身体能力、玄武の重力を操る力……その全てを自らの中に宿し、わたしを翻弄している。

 

やっぱりお兄さんは本気なんだ。本気でわたしたちを、以前の神としてあるべき姿のわたしたちを取り戻そうとしている。

 

分かってる。本当はお兄さんが正しいってことくらい。たかが一人の人間の男にわたしたち神が執着するなんて歪なんだ。

 

だけど…それでも止められない。この気持ちは止まらない…!

 

わたしは大戦の時には戦場に出ていなかった。ううん、出る勇気がなかった。人から敵意を向けられるのが怖くて仕方なかったから。

 

けど結局、わたしは人の怖さを知ってしまった。わたしと四神は精神的に繋がっているところがあり、彼女たちの気持ちがわたしの中に流れ込んできた。

 

安全圏にいるはずのわたしでさえ、つらくて怖かった。実際に戦場に出ていたみんなはどれほどだっただろう。

 

だけど、わたしもみんなを通じて知ってしまった。お兄さんのあたたかさを、優しさを。

 

お兄さんが初めてここに来た時はどう接していいか分からなかった。むしろわたしなんかが、お兄さんみたいなすごい人に話しかけていいのかすら思った。

 

そんなわたしをお兄さんは…

 

『あー、えっと…今日からここで世話になるわ。よろしくな。麒麟?だっけ?……あ、おい、そんな隠れなくても…取って食ったりしないから。な?」

 

わたしに対しても優しくしてくれた。それからわたしが避け続けても根気よく話しかけてきてくれた。それがとても嬉しかった。

 

『なぁ、これって何?なんか俺の部屋に食事とか持ってきてくれるやつ。……へー、式神っていうんだ。教えてくれてサンキューな』

 

『あ、なぁなぁ、見てくれよ。青龍の奴がさ、市場で買ってきてくれた珍しいお土産なんだけどさ、これめっちゃ量あるから、少しお前にもやるよ』

 

『いでで…あー、これ?気にすんな。白虎に餌と間違われて噛まれただけだから。いつものことだし、ヘーキヘーキ』

 

『麒麟っていい子だよな。俺の話ちゃんと聞いてくれるし。普通に好きだわ』

 

お兄さんにとってわたしは、単なる暇つぶしの話し相手だったのかもしれない。

 

それでも、お兄さんからかけてもらった言葉は全部わたしの宝物だから…!こんな人見知りばかりするわたしを好きだって言ってくれたから…!

 

「お兄さんはわたしたち…ううん、わたしにとって絶対に必要だから…!ずっとここにいて欲しいんだ…!」

 

わたしは一生、お兄さんに呪われたままでいい。




次からはほら、ちょっと明るくなるかもしれないから(震え声
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