ヤンデレな神々に愛され過ぎて自由が手に入らない 作:松平 蒼太郎
めちゃくちゃ息が荒い。過呼吸で死ぬんじゃないかってほどだ。
まさか貧弱な人間代表の俺が、天下の聖獣様たる麒麟に必死こいて挑むことになるなんてな。
本来なら全く勝負にならないはずなんだが…俺はこの身に宿した四神の力で、なんとか彼女と渡り合っていた。
「お兄さん…!いい加減諦めてよ!わたし、お兄さんを傷つけたくない!」
彼女自身の戦意が今ひとつ上がってないというのも、俺がどうにか戦えてる理由のひとつ。ガチで本気を出されたら、秒殺だろうな。
だけど…今はその隙をつかせてもらう。躊躇っていたら、その瞬間にやられてしまうからな。
「悪い…俺は昔っから諦めがクソ悪くてな!」
麒麟の蹴りをすんでのところで躱す。屋敷の床が抉れる。あんなもの食らったらひとたまりもない。
麒麟の攻撃を躱せているのは、白虎の身体能力を借りパクしているからだ。アイツの動体視力・運動能力は人間のそれを遥かに上回る。現在進行形で、めちゃくちゃ役に立ってる。
だがその分体力の消耗が激しく、すでに俺は肩で息をしていた。このままだと、麒麟の攻撃をくらうのも時間の問題だろう。
「だったら…これはどうっ⁉︎」
二本のツノから雷が繰り出された。雷なんぞ躱せるものではない。なら、俺がこの場で取れる手段は一つ。
「おっ…らああ!」
俺の手からも雷鳴が轟く。青龍が扱う雷の属性の力をそのままぶっ放し、麒麟の放った雷と相殺すr……って、あだだっ!手!手焦げる!ヤバい!
雷を雷で相殺しようとしたら、手から物凄い衝撃が走り、全身を駆け巡った。これはアカン。カッコつけて雷を雷で殴ろうとするんじゃなかった。やってからガチ後悔した。
仕方ない…今度はアレを試してみるか。
腰を落とし、両腕をダラっとさせる。全身の力を抜き、背中にだけ意識を集中させる…
「…ッ、これは…!」
麒麟が目に見えて驚く。なんせいきなり俺の全身が炎に包まれたんだからな。
俺の背中には炎の翼ーーすなわち、朱雀完全体の翼が生えていた。実際には借りてるだけなんだけどな。
翼を羽撃かせると、一瞬で麒麟の身体が炎に包まれた。これで一気に…
「…無駄。その程度じゃわたしは倒せない」
麒麟が激しく身体を震わせると、炎は何事も無かったように消し飛んだ。マジかよ、あれだけの炎を一瞬で…⁉︎
「分かったでしょ?わたしとお兄さんの力の差は埋められない。たとえ四神の力を借りたとしても同じこと」
「それはどうだろう、なっ!」
突然、麒麟の脚が地面にめり込む。玄武の重力操作だ。彼女の脚は少しずつ地面に埋まっていく。このまま動きを封じれば…!
「甘い。こんなものでわたしは止められない」
なんとあろうことか、麒麟は重力に逆らい、片脚をゆっくり上げてそれをそのまま地面に落とす。
すると物凄い揺れと共に重力操作が途切れ、逆に俺がバランスを崩して転んでしまう。
転んだ隙に麒麟に一瞬で接近され、俺はその脚で蹴飛ばされてしまう。
「があっ!ぐっ…!」
たったひと蹴りで、俺は屋敷の壁を何枚も突き破りながら転がされた。あまりの衝撃に、身体がバラバラになってしまったのかと錯覚したくらいだ。
床に転がっている俺を一瞥しながら、麒麟は言う。
「もういいでしょ?わたしもこれ以上お兄さんを傷つけたくないから…降参して。お願い」
俺に降伏勧告を突きつけるその声は、どこか憂いを帯びていた。俺を止めるためとはいえ、攻撃するのは嫌なんだろうな。それでも…
「わり…俺、まだ戦えるんだわ。俺が諦めない限り、勝負は決まらねえ」
らしくないことを言ってる俺。黒歴史確定だな、こりゃ。
身体も心もすでに限界だった。とっとと飯食って風呂入ってあったかい布団で寝てえわ。
だけど…今だけはバタンキューするわけにはいかなかった。ここで負けたら、これまでの苦労が全てが水の泡。
もしまた捕まったら、束縛も監禁も今よりキツいものとなって、一生屋敷から出るチャンスはなくなるだろう。それだけは避けたい。俺と五神、お互いのためにも。
卑怯な手を使うことにはなるが…やむを得まい。
「麒麟…こい。今度こそ引導を渡してやるよ」
俺は挑発的な言葉を放つ。負けてる側のセリフじゃないのはおいといて、こんな安っぽい挑発に乗ってくれるかどうか…
「わかった。なら、この一撃で最後にする!」
麒麟のツノが光り出したと同時に俺は走り出した。自らの手に火・水・風・雷の四つの属性を同時に宿して。
「おっ…らああああああああ!」
麒麟の雷撃が放たれる前に、俺は四属性を宿した拳を麒麟のツノにぶつけた。
とんでもない衝撃が俺と麒麟を中心に起こり、屋敷は崩壊した。
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「はぁっ、はぁっ…ど、どうにかなったか…?」
崩壊した屋敷の中心で俺は呟いた。
屋敷の壁も屋根も跡形もなく吹き飛び、床は地面ごと抉り取られていた。修繕にどんだけ費用と時間がかかるんだろうな、これ。
俺は既に勝利を確信していた。なぜなら、麒麟が粒子状になって消えていくのをこの目で見たからだ。
死んだわけではなく、一時的に霊体としての身体が保てなくなっただけだろう。
麒麟の弱点があんな分かりやすいところにあって助かったぜ。まぁ分かってても、なかなか触れられなかったわけだが。
…あの時の悲しそうな麒麟の顔は見なかったことにする。こうするしかなかったんだよ、俺には…
「あーらら…お屋敷、門以外全部吹き飛んじゃったね。建て直すのにまた時間かかっちゃうなー」
あっけらかんとした、どこか陽気さをはらんだ声が聞こえた。嘘だろ、まさかこの場面で出てくんのかよ…!
「ふふふっ…何驚いてるの?麒麟ちゃんが攻略されたら次に出てくるのは、あたしって相場が決まってるでしょ?」
俺の目の前に現れたのは、四神のもう一人の長と言われている五神最後の砦ーー黄龍。
「選手こうたーい♪ 今度はあたしが相手してあげるね、おにーさん♪」
ーー金色の龍が俺の敵となって立ち塞がる。
黄龍編は次回ということで。キリがよかったので、一旦区切りました。