ヤンデレな神々に愛され過ぎて自由が手に入らない 作:松平 蒼太郎
四毒強襲〜戦乱の檮杌編〜
「あーっ、くそっ!いつまでこんなしけたとこでくすぶってなきゃいけねーんだ!」
ガンっ!と足で壁を蹴飛ばすサラシを巻いた不良っぽい女。長い髪を無造作に一本で束ねており、手には木刀を持っていた。さながら番長とも言うべき姿の女はイラついた様子を全く隠そうともせず、モノにあたっていた。
「落ち着きなさいませ、檮杌さん。もうほとんど準備は整ったから。あとはわたしたちの神威が完全に満ち足りれば、ね?」
そう言って不良の女ーー檮杌を宥めたのはメガネをかけた女性。知性を感じさせる佇まいのその女性は、檮杌の暴挙に動ずる様子もなかった。
「つってもよぉ…いつになったら、神威とやらが満ち足りるんだよ?これでも結構待ってんだぞ?」
「あはは!相変わらず杌ちゃんは堪え性ないよね!そんなんだから、真っ先に天界の神々に討伐される羽目になるんだよ?」
小さな女の子が二人の会話に割って入る。とても楽しそうな様子で、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「んだと、テメェ…アタシに喧嘩売ってんのか?あ?」
「やめなさい?今は喧嘩をしてる場合じゃないでしょう?もうすぐわたしたちの悲願が成就するんだから…ね?」
もう一人、その場にいた女性が言った。彼女はどこか余裕そうな、妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「くそっ…どいつもこいつも…憂さ晴らしはあの四神の野郎どもに付き合ってもらわなきゃ気が済まねぇ…!」
檮杌は地上から天を見上げて言った。その瞳は憎々しげに青い空をとらえていた…
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数日間、四神(プラス2)から限界まで搾り取られた俺は、ベッドの上で伏せっていた。ハーレムエッチは童貞には荷が重すぎた。なんで俺生きてんだろう…不死身だからですね、はい。
「しっかし、マジで身体動かねぇ…セックスってこんなにキツいもんなのか…」
俺の独り言に反応する者はいなかったが、それでもそう言わずにはいられなかった。
童貞を卒業したのはおめでたいことだが、いかんせん、初戦から六人相手というのは、いささか厳しすぎやしないだろうか。ハードプレイにも程があるぞ。
「あー、でもどうすっかなぁ…ヤることヤっちまったからなんか逃げづらい…」
今の俺の最大の問題はそれだったりする。今でも下界に降りて、四神のみんなとサヨナラバイバイしなきゃという思いは変わっていない。
しかし、身体を重ねた挙句、そのままポイするなんて最低のクズ男そのものじゃねえかなんて思う今日この頃。
寝転びながら円満な別れ方とかないのかなって考えてるけど、一向にいい考えが思い浮かばない。
「ホントに…どうしてこうなっちまったんだろうなぁ…」
なぜか独り言が止まらないが、それはこの際置いておこう。俺はただ戦争で傷ついたアイツらの面倒を少し見てやっただけだというのに…
そんなことを頭の中で繰り返し考えていると、誰かがこちらの部屋に近づいてくる音がする。西から聞こえてくるから白虎の奴がまた甘えに来たのか?いや、足音は一人じゃなくて複数…?
「よぉ、邪魔するぜ。テメェが不死身の英雄ってやつか。アタシらと一緒に来い。大人しくついてくるっつうんなら、ボコさずにそのまま連れてってやるぜ?」
扉が開くと同時に四人の女が現れた。なんだ、コイツら…と思う間もなく、俺の目は先頭にいる不良みたいな女が片手に持ってるモノに目が釘付けになった。
「白虎…か?なんで…」
「あぁ、白虎ってコイツ?西門通るのに邪魔だったから、ちょっとボコしただけだ。文句あっか?」
悪びれもせずそういうソイツに俺は腹が立って叫んだ。
「テメッ…!白虎をそんなボロボロにして、文句ないわけないだろ!」
「ギャーギャーうっせぇな。とりあえずお前、アタシらと一緒に来い。つか、お前に拒否権ねーから」
俺のところまで歩いてきたと思ったら、その不良女は俺の胸ぐらを掴み上げた。
「アタシに逆らうんじゃねえよ。てか、これからお前がアタシらの主人になるんだからさぁ…文句じゃなくて命令しろ。天界を滅ぼすためにお前らの力を貸せ、とかな」
何を言ってるんだ、コイツは?全くもって意味が分からん。俺がこんな怪しげな女たちの主人に?明らかにただならぬ様子の女たちに力を貸す道理はない。というかそれよりも今一番許せないのは…
「断る。俺の大切な従者をボロ雑巾みたいにしやがって…そんなクソどもの言うことに従うつもりはねえよ!」
片手で襟首掴まれながら気絶してる白虎を見て、改めて怒りが湧いた。四人で寄ってたかって痛めつけたのだろう。絶対に許せない…!
「あ?いいのか、拒否って?白虎っつったっけか、この子猫ちゃん。コイツがどうなってもいいんなら、いくらでも断れよ。なぁ?」
白虎を人質にしてでも俺を誘拐したいらしい。なんとか助け出したいが、このままだと…
「おい、どうすんだよ?コイツを今ここでぶち殺してやってもいいんだぜ?アタシは気が短いからな。とっとと決めねえと…」
「…分かった。お前らと一緒に行く。だからその子を離せ」
俺は観念した。異変に気づいた他の四神が到着するまで時間を稼ごうと思ったが、それも叶わないらしい。白虎をここで死なせるくらいなら、俺が人質になった方がまだ勝機はある。
「ははっ!最初から素直に言うこと聞いてりゃいいんだよ…つーことで、ちょっとばかし寝てろ」
鋭い拳が飛んでくるのを目の当たりにして、俺の意識はブラックアウトした。
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目を覚ますと、薄暗い天井が見えた。目だけ動かして周りを確認すると、なんだか全体的に薄暗い。俺は廃墟のような所に連れ込まれているようだった。
「よぉ、目ぇ覚めたか?ここはアタシらのアジト。結構いいとこだろ?」
目の前には白虎をボコし、俺に鉄拳をくらわせた張本人の不良女がいた。苦々しげに俺は尋ねる。
「白虎はどうした?あれからちゃんと解放したんだろうな?」
「あん?まーだあの子猫ちゃんのこと気にしてんのかよ。とりあえず殺しはしてねえから安心しろ。四神の連中を本格的にボコすのは、後のお楽しみだ」
コイツの言葉を信じるなら白虎は無事らしい。
そしてどうやら、コイツと、今はこの場にいない三人の目的は四神、あるいは天界の神々を倒すことであるらしいことが推測できた。なんか見るからに悪神っぽいしな。
「俺をこんなとこまで連れてきて何するつもりだよ?俺は見ての通り、ただの人間。お前らの役には立たないと思うが」
「あ?簡単なことだよ。アタシらの目的は二つ。一つはあのクソ生意気な四神の連中をぶっ倒すこと。もう一つはお前を俺らの主人にして、天界を支配すること。分かりやすくていいだろ?」
うーん、馬鹿か?コイツ?
天界の神々の強さを目の当たりにした俺だからこそ言えることだが、あんなヤバい連中に挑もうなんて無謀が過ぎる。手の込んだ自殺でもしようとしてんのかと思ったわ。
四神はもちろんだが、天界には四天王やら七福神やら、強力な神々が多数存在している。そんな奴らにたった四人で挑もうって?俺を担ぎ上げて?やっぱ馬鹿なんだろうか…
「…おい。なんだその可哀想なモンを見るような目は?馬鹿にしてんのか?あ?」
不良女が俺にガン飛ばしてきた。結構迫力あって怖いな。控えめに言ってちびりそう。てか、そろそろコイツらが何者か聞かないと。
「なぁ、俺を主人にするっつったけど、まずお前ら何者?いい加減自己紹介してくれよ」
「あ?してなかったか?アタシは檮杌。四凶の一人だ。喧嘩なら誰にも負けねぇ。夜露死苦」
四凶って聞いたことないな。おそらく、四神の悪者バージョンと考えればいいだろう。青龍がグレたら目の前の檮杌みたいになるのだろうか。
にしてもマジモンの不良だな、コイツ。あとサラシ巻いてるくせに、デカい胸強調してきやがって。サラシの意味ねぇだろ。実にけしからん。
それはともかく、もう一つ聞かなければいけないことが。
「じゃあもう一つ質問。お前ら、なんで俺を選んだ?俺なんてただの人間だぞ?主人にするならもっといい人選があったはずだろ?」
今一番気になっているのはそこである。
四神は戦争の際に助けたという実績があるから一応納得はしてるものの、この悪神とは初対面のはずで、何の実績もない。
なのになぜ、わざわざ四神の屋敷を襲撃するというリスクを冒してまで、俺を担ぎ上げようとするのか。
「んなもん決まってんだろ。アイツらから大事なモン奪うためだよ。四神の連中、どうもお前にご執心みてぇだからな。今ごろ、屋敷でみっともなく狼狽えてんだろうぜ」
まるっきし悪役のセリフだな。ここまで清々しいとなんだか逆に毒気が抜かれる。シンプルに性格悪い。さすが四凶。
「ずいぶんいい性格してんな、お前…」
「だろ?アイツらのすました顔が歪んでるの、今すぐ拝みに行きてーぜ!」
ホントにいい性格してる。その凶悪な面に拳をぶち込みたくなるくらいには。
「あ、お前を攫った理由、もう一つあるぜ」
…俺の唇に目の前の女の唇が重ねられる。いや、意味が分からん。
「アタシらもお前を愛してるからだよ。わかんねえか?」
わかんねえよ。馬鹿な俺にも分かりやすく説明してくれ。
などと心の中で毒づいていたら、檮杌が俺の身体を抱きしめてきた。
「この感覚…思い出さねえか?前にもこうやって抱きしめてやったろ?」
…そんなことあったっけ?いや、もしかしたらアレのことか…?
「えっと…大戦のときに人間側についた神々がいたようないなかったような…」
「あー…それだけじゃ満点はやれねえな。たしかにアタシら天界の裏切り者で、地上との戦争ん時は人間側についた。そん時に俺ら、お前と会ってんだよ」
そうなの?四神に天界に連れ去られた時のインパクトがデカすぎてすっかり忘れてたのかもしれん。
「ま、詳しいことは窮奇あたりから聞きな。アタシ、細けぇこと説明すんの苦手だし」
ここにきて仲間に丸投げかよ。そのあたりも俺のイメージする不良ら、し、い…?
「んなことより身体、熱くねえか?実はさっきキスしたときに、アタシの毒をお前の体内に流し込んだんだ。そのままだと、地獄の苦しみを味わい続けることになるぜ」
なん、だと…?なんかだんだん息苦しくなってきたと思ったら、毒を流されてたのか…?
「特にお前は不老不死だし、どんだけ苦しくても死ぬことすらできねえな。可哀想に」
ヤバい…死ねない身体を今ほど恨んだことはない。絶対死んだ方が楽なやつじゃん、これ。
「なぁ…苦しいだろ?苦しみから逃れる方法をひとつだけ、教えてやろうか?」
檮杌に馬乗りになられて見下ろされる俺。何を要求されるかは薄々勘づいていた。
「アタシを受け入れろ。アタシのことを好きになれ。そうすりゃ、お前は晴れて俺らの仲間入りだ」
なんて無理ゲーを…そもそも初対面の印象最悪なのに好きになれとか、不可能にも程がある。今のお前への好感度、ゼロを通り越してマイナスだぞ。
「いや…正確に言うなら、アタシらの主人になる、だな。主人になったら、お前を天界の長(おさ)にしてやる。要するに、力で天下を獲るんだよ。カッコいいだろ?」
力で天下を、か…時代錯誤も甚だしい。どこの戦国時代の話してんだ、コイツ…
「いや…お前、天下って…天界の神様の強さは知ってんだろ?いくらなんでも無謀すぎんだろ。そんなのに協力したら俺、死ぬじゃん」
「平気だって。四凶だけじゃねえ、アタシらんとこには続々と悪神が集まってきてる。また戦争(祭り)が始まるんだよ。面白えだろ?」
面白くねえよ、この戦闘狂が。そんなことになったら、きっとまたアイツらは苦しむ。アイツらの悲しんでる顔は見てて心にくるんだよ。俺のメンタル的にもよろしくないから、是非ともやめていただきたい。
「ほら…早くアタシのこと、受け入れろよ。四凶の一角で戦乱の神と言われた、この檮杌(とうこつ)様をな」
毒が回ってきたのか、意識が朦朧としてきた。返事すらろくにできない。このままじゃ…
「どうした?もう毒が回って口も動かせねえってか?ま、いいけどな。もうじきお前もアタシのことを好きになるさ」
ありえない。そう言いたいはずなのに口が動かせない。それにこの身体の熱さはまるで…
「媚薬、飲まされたみたいだろ?当然なんだけどな。だってそういう効能の毒なんだからよ」
…えてして、嫌な予感というのは当たってしまうものだ。惚れ薬の効果がある毒なんて聞いたこともないし、ご都合主義もいいところである。
だけど…そんなご都合主義を現実化するのが神であることを、俺はその身をもって知っている。目の前にいる女が人知を超えた存在であることを改めて思い知った。クソゥ…
「そんじゃ、アタシは四神をぶっ倒す準備でもしてくっかぁ。お楽しみはその後で、な?」
朦朧とした意識のまま、立ち去っていく檮杌を俺は見送るしかできなかった。
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檮杌side
アイツ、人間のくせにアタシの毒に耐えるなんて、思ったより根性あるな。ああいう根性ある奴は今どき珍しいし、アタシの好みだ。
「あらあら、うふふ♪ ずいぶん機嫌が良さそうですわね、檮杌さん?」
「んだよ、窮奇か…お前もアイツにご挨拶しに行くのか?」
メガネをかけた女ーー窮奇はアタシの問いに薄く微笑むだけだった。
四凶の仲間ではあるが、コイツはアタシにも何考えてるか分からねぇ。元々あの男をアタシたちに紹介したのもコイツだからな。どういうツテで知ったんだか…
「さっき天界まで偵察に行ってきたけど、皆さんずいぶんご立腹でしたわよ?わたしたちを八つ裂きにせんと言わんばかりに」
だろうな。四神の野郎ども、全員あの男にゾッコンだったからな。逆の立場だったら、アタシも攫った下手人どもをぶち殺しに行くだろうし。
「関係ねえけどな。ぶち殺してえのはアタシらも同じだし。とりあえずアタシは行くぜ。あとの説明は任せたからな」
窮奇にそう言い捨てて、アタシはとっとと戦場へ向かう準備をすることにした。
屋敷襲撃してきた時になぜか一言も喋らない残りの三人