魔法科高校生の勘違い   作:和菓子工房

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 第一話です。どこまで続く物語かは分かりませんが、ぜひ楽しんでいってください。


入学式①

 魔法。

 それはおとぎ話や騎士物語の中の産物、などではない。

 

 1999年。それは初めて、正式な記録の中に納まった。

 終末論信者どもの核兵器テロを、たった一人の警官が超能力(それ)を用いて事態を鎮圧したのだ。

 

 当初、超能力といわれた理外の力は、先天的なものであり、理に落とし込み普及させることは不可能だと思われていた。有力国家は彼ら彼女ら、超能力者たちを代替不可能なもの、戦力及び労働力としての恒常的使用に適さないと考えていた。

 しかしほどなくして、その前提が誤りだとわかる。古来より魔法をひた隠しにしてきた者たちが、表舞台へと姿を現したのだ。

 その者たちの協力を得ることで、次第に異能は技能へと変わっていった。超能力は魔法へ、魔法技能師へと入れ替わった。才能は必要といえど、一定数の代替可能な集団によって使用される力となった魔法は、瞬く間に活用の場を広げた。

 

 特に、軍事方面に関する魔法の発展は著しい。時に、核すらも凌駕する魔法は、実に戦争向きな技術だった。

 足並みをそろえる、などという絵空事を否定した各国は、こぞって優秀な魔法師の育成に励んだ。それが今後の上下関係(パワーバランス)に、戦争の勝敗に、国土の保護と拡張に大きくかかわると知っているからだろう。

 

 

 故に、魔法教育の最前線に平等などという綺麗事が入り込む余地はない。教導の機会は優れたものに重点的に割り振られ、そこからあぶれた者たちは、魔法発展の陰に消えていく。

 

 徹底した才能主義。残酷なまでの実力主義。そこに努力が立ち入る隙はなく、数値化された潜在能力のみが彼ら彼女らの未来を決める。

 

 国立魔法大学付属第一高校。東京の八王子に建てられたこの高等教育機関は、国立魔法大学へ多くの卒業生を送り込んでいる、魔法師の大半が憧れるエリート校である。

 一科生(ブルーム)二科生(ウィード)と、明確に分かたれているこの高校では、入学時点で優等生と劣等生が存在する。

 

 

 これが、魔法の世界。

 運などが立ち入る隙のない世界だ。

 

 

*****

 

 第一高校の入学式、その30分前。

 その敷地内を歩く、一人の女子生徒がいた。

 

 女子生徒、否、美少女は小柄な人だった。155センチほどの背丈に、黒磁を思わせる緩いウェーブのかかった髪。そして、その小柄さに見合わぬ、メリハリのついたスタイル。顔に浮かべた小悪魔のような、少し悪戯っぽさの混じった綺麗な笑みも合わせて、新入生を入学早々恋に落としてしまいそうな雰囲気をまとっていた。

 何より目に付くのは、左に手首に巻き付けた腕輪。正確には、ブレスレッド型の術式補助演算機(CAD)である。本来、生徒は校舎内でのCADの携帯を禁じられている。しかし、この規則から逃れられる例外がある。

 それは、生徒会・風紀委員・部活連のいずれかに所属することだ。これらの役員は緊急時の対処のために、CADの携帯が許可されている。つまりその腕輪は、女子生徒がこの一高内で、高い成績と地位を持っていることの証明であった。

 

 

「ふぅ。生徒会長の仕事も、楽じゃないわね」

 

 その女子生徒、現在の第一高校生徒会会長、七草真由美は、入学式を控えた校舎内を一人歩いていた。

 それは決して時間的な猶予からくるものではなく、れっきとした生徒会としての業務と、彼女個人の目的が入り混じった末の行動であった。

 

「さてと、有望そうな、もとい道に迷っている新入生はいるかしら……」

 

 生徒会の業務とは、学校の敷地内において迷子になっている新入生を、入学式が行われる講堂へと誘導することだ。第一高校をはじめとした魔法科高校は、国から莫大な資金援助を受けているだけあって、その敷地も広大である。そのため、例年入学式に遅れる新入生が数名出てしまうのだ。なので真由美の発案により、今年から生徒会総出で新入生の案内をすることになった。

 

 と、いうのは建前だ。確かに真由美自身、新入生の迷子については問題視していたものの、入学式はただの行事であり、出席しなかったからといって特に不利益はない。また、情報端末等からマップを見れば、よほど方向感覚が狂っている者でもない限りたどり着けるのだ。準備を怠った者の自己責任ということにして、自身の業務を減らすこともできただろう。

 ならばなぜ、わざわざ自身の業務を増やしてまで校内の見回りをしているのか。それは、有望な新入生、特に二科生(ウィード)を探すためである。一科生(ブルーム)二科生(ウィード)間の差別撤廃を目指す真由美には、二科生に希望を与え一科生に食らいつくような、両者の溝を埋めるための優秀な二科生が必要不可欠なのだ。

 できれば新年度の頭から、そのような生徒を活用していきたい。残り一年しか時間のない真由美にとって、向上心のある二科生の確保は急務であった。

 

「既に何人か、目星はついてるわ。筆記で一位を取りながらも、実技の成績によって二科生に落とされた司波達也くん。【剣の魔法師】千葉家の娘、千葉エリカさん。古式魔法界の元神童、吉田幹比古くん。軽く調べただけでこれだけ出てくるんだもの。実際に見て探せば、他にも有望そうな二科生はいるはずよね」

 

 事前にリストアップしておいた二科生の名前を挙げながら、周囲を見渡して迷子の新入生を探す。

 先程、司波達也と吉田幹比古には声をかけておいた。といっても、軽い世間話程度ではあるが。どちらも好青年のように思えたが、達也は年齢に不相応なほどに大人びており、幹比古はどこか焦っているように感じた。優秀でありながら二科生に身を落としているだけあって、どちらも一癖ありそうだ。

 

 

 

 

 そんなことを思い返しながら、歩を進めていると、視界の端に一人の男子生徒の姿が見えた。

 場所は、一高の校内の片隅に位置する実演所区域。実際に魔法による実習や部活動を行う区画であり、間違っても一般的な新入生が初日に立ち寄るような場所ではない。

 

 

 男子生徒の背丈は、180~190センチほどだろうか。日本人離れした長身に、制服の上からでもわかるほどに鍛え上げられた肉体。分厚い胸板に広大な肩幅、頭のてっぺんからつま先まで引き締められた、威風堂々を体現したかのような体躯。短く切りそろえられた黒髪に、掘りの深い顔立ち。まさに巌の擬人化のような漢であった。制服はおそらく最大サイズなのだろうが、校章のついていないそれは、隆起した筋肉によって強張っていた。

 すれ違った者の十人中十人が、その存在感に振り返るような彼は、おそらく新入生であろう。クリーニングなどでは説明がつかないほど真新しい制服に、着慣れていないことが丸分かりな挙動。そして何より、明らかにこの一高という施設に慣れていなかった。

 

 

 肩部に位置する灰色の八角形を目にして、真由美は男子生徒に声をかけた。

 

「そこの君、新入生ですね? 講堂はそっちじゃないわよ」

「…………!?」

 

 

 背後からの声に、男子生徒は驚きながらも即座に振り返る。武道などに精通していない真由美の目から見ても、見事な身のこなしであった。

 

 

「あら、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」

「い、いえ…………」

「なら、よかったわ。入学式の会場は、向こう側なのだけれど……」

「え、あ、はい。……ありがとう、ございます」

 

 真由美への男子生徒の受け答えは、どこかぎこちないものだ。

 

「ふふっ、入学初日だものね。緊張してるのかしら?」

「……そうかも、しれません」

「そんなに気を張らなくても大丈夫よ。全国有数の名門校とはいえ、ここにいるのは、あなたと同じ高校生なんだから」

 

 相手の緊張をほぐしつつも、真由美は男子生徒へと話しかける。外見だけでも、只者ではないことがよくわかる。男子生徒を有望そうな二科生だと見なすのは、ごく自然なことだった。

 

「ここの校舎、広いでしょう。ここまで来るのも大変だったんじゃないかしら?」

「はい。とても広かったです」

「その中でこんな奥の方に来るなんて……。もしかして君、こういうの(魔法の実技)に興味があるのかしら?」

「……えぇ、とても」

(キター! SSR(有望な二科生)確定演出よね、これ!)

 

 望んだ通りの反応に、心の中でガッツポーズを決める。基本的に心が折れている二科生の中で、向上心を持っているのはかなりの希少価値だ。真由美にとって、彼のような二科生は大歓迎であった。

 

 

 

「…………あまり、このような事を望むべきではないのは、分かっているのですが」

「それは、二科生だから、かしら?」

「……はい」

 

 男子生徒の表情が曇る。彼自身も理解しているのだろう。一科生と二科生の環境の差を。この校内の風潮を。

 

(新入生に、入学早々そんな気持ちを抱かせて……。生徒会長たる自分の失態ね)

 

 新入生の夢を摘み取るような環境にしてしまっていることに、責任を感じながらも、真由美は男子生徒に声をかける。今、自分がなすべきことは、悔いることではないとわかっているからだ。

 

「……大丈夫よ。二科生という理由で、自分の望みを諦める必要はないわ」

「それは……」

 

 

 

 

「努力次第でどうにでもなる、なんて、無責任なことは言えないわ。……でも、この学校はこれから変わる。私が変える。二科生でも、希望を抱ける環境に変えてみせる」

「…………」

「だから、あなたも諦めないで。望みを捨てようとしないで。あなたが目標に向かって立ち向かう姿は、きっと他の生徒の希望になるはずだから」

 

 

 己の目標を語る。一切の虚飾なく、自らが目指すものを男子生徒にぶつける。それが、彼への相応しい対応だと、真由美は思ったのだから。

 …………会ったばかりの新入生に、少々語りすぎた気もするが。

 

 

「……はい、はいっ。ありがとう、ございますっ」

 

 まぁ、語りすぎが功を奏したのか、男子生徒は感銘を受けたように、希望と気力に満ち溢れた顔で真由美に応えた。

 

 

 

 

「ふふっ、元気になったようでよかったわ。私は、生徒会会長、七草真由美よ。あなたの名前も、教えてもらえるかしら?」

 

 

 

 

 生徒会長(持つ者)からの問いに、二科生の新入生(持たざる者)は、一拍空けてからこう答えた。

 

 

 

 

「自分は、遠塚(とおづか) (はじめ)と言います」

 

 これが、魔法界に叩き込まれた異分子(オリ主)の産声となった。

 

 

*****

 

 校内で迷子になっていたら、めっちゃ綺麗で可愛い先輩に声をかけられた件。

 

「あら、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら?」

「い、いえ…………」

「なら、よかったわ。入学式の会場は、向こう側なのだけれど……」

「え、あ、はい。……ありがとう、ございます」

 

 やっべ。ギャルゲみたいな状況に頭が追いついてない。変な受け答えしてないよな俺。

 

「ふふっ、入学初日だものね。緊張してるのかしら?」

「……そうかも、しれません」

 

 心配してくれた。優しいな、この先輩。おまけに美人でロリ巨乳とか最高か? 俺、チョロインだから、コロっと惚れちゃうよ? そんでもって振られちゃうよ?

 

「そんなに気を張らなくても大丈夫よ。全国有数の名門校とはいえ、ここにいるのは、あなたと同じ高校生なんだから」

 

 ふーん? 優しさでたたみかけてくるじゃん。本気で惚れちゃうからな?

 

「ここの校舎、広いでしょう。ここまで来るのも大変だったんじゃないかしら?」

「はい。大変でした」

 

 主に講堂を探すのがな!

 体力には自信があるが、俺は地図が全く読めないんだ。おまけに方向感覚も最低ときた。マップを画面上でぐるぐる回しているうちに、どっちがどっちか分からなくなる。なんでこんな分かりにくいマップにしたのか、責任者に小一時間ほど問いただしたいところだ。

 

「その中でこんな奥の方に来るなんて……。もしかして君、こういうのに興味があるのかしら?」

 

 

 

 

 こういうの? それってどういう…………。

 

 

 あぁ、このギャルゲみたいな状況のことか!!

 

「えぇ、(ご都合主義たっぷりのギャルゲとか大好物なので)とても」

 

 

 ん、待てよ? これってもしかしなくても、女子相手に赤裸々に話すことじゃないんじゃ…………。

 

 やっべ、今すぐ訂正しないと!!

 

「…………あまり、このような事を望むべきではないのは、分かっているのですが」

 

 頼む〜! これでどうにか有耶無耶にしてくれ〜!

 

「それは、二科生だから、かしら?」

 

 追及してきた!?

 いや、落ち着け! とりあえず、ギャルゲみたいにモテるのは現実的に考えて一科生みたいなエリートで、自分みたいな二科生は女子にキャーキャー言われる機会なんて一度もないと思うので……

 

「……はい」

 

 これでどうだ!? 頼む、これ以上の追及は勘弁してくれ! してください!!

 

 

 

「……大丈夫よ。二科生という理由で、自分の望みを諦める必要はないわ」

「それは……」

 

 どういうことで? 追及に怯えてたら、なんか急に語り始めたんだが………

 

 

 

 

「努力次第でどうにでもなる、なんて、無責任なことは言えないわ。……でも、この学校はこれから変わる。私が変える。二科生でも、希望を抱ける環境に変えてみせる」

「…………」

「だから、あなたも諦めないで。望みを捨てようとしないで。あなたが目標に向かって立ち向かう姿は、きっと他の生徒の希望になるはずだから」

 

 

 なんか、よくわからんけど……

 

 とにかく、俺のこと応援してくれてるってことでおk!?

 え? は!? 優しすぎん!? あんな低俗なこと言ったのに、貶すどころか応援!? 聖女様かなにかなんですかね? やばい、冗談で言ってた惚れる云々が、現実味を帯びてきたぞ。

 

 とりあえず、返事をしないとな。こんだけ背中を押してくれたんだ。

 

 

「……はい、はいっ。ありがとう、ございますっ」

 

 やっべ、感動で言葉が詰まっちまうや。この期待に応えられるように、学校生活に励もう。うん、二科生になってちょいとばかし意気消沈してたけど、やる気出てきたな。

 

 

 

「ふふっ、元気になったようでよかったわ。私は、生徒会会長、七草真由美よ。あなたの名前も、教えてもらえるかしら?」

 

 ほーん? 気を遣ってくれるとか、優しすぎか? 優等生は皆、人ができているんだろうか。

 

 って、生徒会長!? 想像以上の大物とお話ししてたんだな、俺!? いや、生徒会長が一介の新入生、それも二科生に声をかけるとかそうそうないだろ。

 あれか? 天文学的確率で俺に一目惚れでもしたか? もしかして、俺にもワンチャンあったりするのか!?

 

 一旦落ち着け、俺の恋愛脳。まずは、聞かれたことに答えるんだ。顔は斜め45°、できる限りのイケボを捻り出して。一息でビシリと格好良く……

 

 

 

「自分は、遠塚 一と言います」

 

 

 

 

 

 キマったーーー!!




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