魔法科高校生の勘違い   作:和菓子工房

2 / 7
 第二話です。続けて楽しんでいただけると幸いです。


入学式②

「……まぁ、予想はしていたが」

 

 講堂に立ち入った男子生徒、司波達也は心の中でため息をついた。

 講堂ではすでに、多くの新入生たちが席についていた。入学式開始のに二十分前なので、それ自体は何らおかしくない。

 達也がため息をついた原因は、新入生の分布にあった。これといった規則がないにもかかわらず、前方半分に座る生徒の制服には8枚花弁のエンブレムが、後方半分に座る生徒の制服には空虚な八角形がついていた。

 

(もっとも差別意識が強いのは、差別を受けている者である、か……)

 

 達也は少々の呆れを抱きながらも、自身もその風潮に倣い後方の席に腰を下ろした。わざわざ悪目立ちする趣味もないため、当然の判断である。

 通信制限がかかっている講堂内では持参した端末も無用の長物である。手持無沙汰になった達也は、背もたれに体重を預け、そのまま意識を……

 

 

 

 

「あの、お隣は空いてますか?」

 

 手放そうとして、横から声をかけられた。目を開けて横を確認すると、いかにも気の弱そうな女子生徒が立っていた。

 

「かまいませんよ」

 

 なぜ、わざわざ自分の隣に来たのかは気になるものの、ガチムチ筋肉などに隣を占領されるよりはよっぽどマシだ。達也は特に気にすることもなく返事をした。

 達也の隣に女子生徒が四人ほど座る。どうやら、知り合い同士で固まるために達也の隣に来たようだ。

 

 

 

 

「あのぉ……」

 

 隣の女子生徒が話しかけてきた。達也自身は特に迷惑をかけている気はないので、いったい何事だと思いながらも、そちらに顔を向ける。

 

「私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

「司波達也といいます。こちらこそよろしく」

 

 どうやら、自己紹介だったようだ。あまり自分からアプローチするタイプには見えなかったが、達也も自己紹介を返す。

 

 柴田美月と名乗った女子生徒は、この時代では珍しく眼鏡をかけている。視力矯正技術が進歩したため、眼鏡を実用目的でつけることはそうそうない。実際、美月の眼鏡にも度が入っている様子はなかった。

 考えられるのは、霊子放射光過敏症をはじめとした特殊な視力異常だ。これらは未だ分からない点の多い、霊子(ブシオン)が関係している視力異常であって、現在の技術では根本的な治療は難しいとされている。霊子放射光は視認した者の情動に影響を与えてしまうため、霊子放射光過敏症者はその対策として、特殊な眼鏡やコンタクトを装着し、視認する霊子放射光を弱めるのだ。

 

(とはいえ、常に眼鏡をつけなければいけないほど、強い症状はかなり珍しい。さすがというか、なんというか。魔法科高校には、癖の強い生徒が多そうだ)

 

 霊子放射光過敏症者は、何かと勘が鋭いことが多い。様々な秘密を抱える達也にとっては、要注意対象であった。

 

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね、司波くん」

「あぁ、こちらこそ」

 

 美月の向こうにいた女子生徒が話しかけてくる。明るい髪の色や、はっきりと整った目鼻立ちが、快活そうな印象を与える少女だった。千葉という姓に少々引っ掛かりは覚えたものの、達也は特に警戒することもなく言葉を返した。

 

「にしても、面白い偶然よね。チバにシバに、シバタって」

「あぁ、確かに……」

 

 エリカは美月とは違い、物おじしない性格なのだろう。初対面にもかかわらず、気兼ねなく話しかけてきた。達也もコミュニケーション能力に難があるわけではないので、何か問題があるわけではないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時。入学式開始の、おおよそ10分前だろうか。会場が静かに、しかし確かにざわめいた。

 

 

 

 講堂内の全生徒の視線が、入り口から入ってきた男子生徒に向けられる。

 何か異常事態が、緊急事態が起きたわけではない。男子生徒が何かをしでかしたわけでもない。しかし、だからといって目が離せるかというと不可能であった。その生徒は、あまりにも印象的過ぎたのだ。

 

 

 その男子生徒を一言で表すなら、筋骨隆々。育て続けたその筋肉にとって、制服などもはや枷のようなものだろう。その体躯は、やや広めに作られた講堂の椅子にすら、収まることはない。威圧感にあふれた容姿は、周囲に一切の新入生を寄り付かせなかった。灰色に塗りつぶされた肩口の八角形など、彼を前にしては特徴でもなんでもなくなっていた。

 

 

 

 男子生徒は、入り口で少々立ち止まり、何かを探すかのようにあたりを見渡して、……やがて歩き始めた。前方へと向かって。

 彼の制服には校章がついていなかった、二科生だったのだ。にもかかわらず、彼は前方の席へと向かっていった。

 まるで、周りなど知ったことではない、と言わんばかりの態度。一目見ればわかるであろう講堂内の空気を、我関せずと引き裂いていった。

 

 無論、そんなことをされれば一科生のプライドが黙ってはいない。そんじょそこらの二科生が同じ行動をすれば、即座に絡まれ、さらし者にされていただろう。

 しかし、男子生徒の体がそれを許さない。ただものではないと一目でわかるその身体が、そこからほとばしる圧が、一科生の接近・干渉を無言のままに阻んでいた。

 

 

 

「あの男子、なかなか度胸があるじゃない」

「そ、そうですね。なんというか、ちょっと怖いぐらいです」

「あぁ、まぁ、威圧感のある見た目だな」

 

 

 

 ただものではない。達也の、男子生徒への第一印象はそれであった。その特徴的な外見、筋肉もその要因の一つである。しかしなにより、彼が魅せた繊細な歩行と、座っている状態とはいえ一切動くことのない彼のその身のこなしに、達也は興味と、少しばかりの警戒心を抱いていた。

 

 入学式中ならばともかくとして、入学式前のこのタイミングで、気を張り詰めている新入生などいるはずがない。ましてや彼は、平然と一科生の中に身を投じるような男だ。このような状況で神経を尖らせることもないだろう。

 にもかかわらず、彼の歩行は見事なものだった。彼の体は微塵も動いていなかった。達也の()をもってしても、彼の上体がブレることはなかった。

 

 

(平時ですら、あのレベルの身のこなし……。体術に限れば、俺や師匠と同格か? いや、下手すればその上を行くかもしれないな)

 

 見れば見る程、達也の中で興味と警戒心が高まっていく。ここは魔法科高校。異質・異端な生徒がいることは先ほど実感したばかりだが、あんなレベルの者すらいるとは。少々侮っていたかもしれない、と達也は自分の進学先への認識を修正する。

 

 

「なんといっても、あの身のこなしよね。重心のブレが微塵もないわ。見事なものよ」

「え? エリカちゃん、そんなこともわかるの?」

「えっと、まぁ、それなりにね~」

 

 

 ……どうやら隣の女子、エリカへの認識も正さなくてはならないようだ。

 

 

*****

 

 

 ……やっと着いた、ぞ。講堂に。

 

 マジで時間かかった! マジで迷った! ほんま、あのクソマップ作った責任者出て来いやゴラァっ!

 

 生徒会長さんに会ってなかったら、多分未だに迷ってただろうな。話しかけられるまで俺、講堂とは真逆の方向に向かってたみたいだし。あの人、菩薩の依り代かなんかだろ。この説、その筋の学会に提出したろうかな。

 

 

 にしても結構、席埋まっちゃってるな。今何時だ? ……なんだ、開始十分前か。案外余裕あったな。エリート校に進むだけあって、時間管理ができるやつが多いみたいだ。

 え? 俺? いや、時間管理はできるんだよ。元々は三十分前に講堂についている予定だったんだよ。……ただ、道に迷う時間が想定より長かっただけで。

 

 いや、そんなこと考えて突っ立ってないで、早く席を探さないと。えっと、空いてる席はどこだー? 欲を言えば、美少女同士が仲睦まじくしているところを後ろから眺められる席か、ギャルゲーのイベントが起きそうな席がいいんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 見つけた。

 

 

 ターゲットは、おとなしそうな黒髪ロングの小柄な子と、明るそうな茶髪ツインテールの子。まったく、俺のような百合豚の前でそんな仲睦まじくしているなど、妄想してくれと言っているようなものだ。

 となると俺が狙うべきなのは、彼女たち二人が座る席から、2列後ろ。距離はおおよそ、3mといったところだろうか。

 なに、俺の視力ならこの距離からでも容易に、お二人の友情を観察することができる。堅苦しい入学式は聞き流して、俺は百合鑑賞に浸らせてもらうとしよう。

 

 

 そうと決まれば即行動だ。他のだれかに先を越される前に、急いで、しかし限りなく自然に、あの百合豚専用特等席を獲得する。

 うなれ! ボッチ下校で身につけた陰キャ歩行術! 誰にも注目されることなく、静かに歩くことができるぞ(たぶん)!

 歩け! 己の出せる全速力で! 周りに怪しまれないようにー--!

 

 

 

 

 

 ……ふっ、勝ったな。特に誰とも争うことなく、ごく自然に理想の席を手に入れられた。こんな特等席を放置しているとは、今年の新入生は全員節穴か? 視覚を振動系魔法で妨害されてるのか? まったく、百合豚の端くれとして、俺は恥ずかしいよ。

 

 

 ささっ、お待ちかねのご褒美タイムと行きましょうか~!

 

 

 

(この長文は、読まなくても結構です)

 

 

 

 よくよく見てみると、二人そろって一科生なんだね~。優等生同士の禁断の恋、アリだと思います。昔なら、明るい子が攻めなのが普通だったけど、最近はおとなしい子の方が攻めになることも増えてきたよね。むしろ、後者の方が普通になってきた節すらある。いつもは控えめな子が、いざ恋愛事となるとどんどんアピールしていくの、良いよね。それに対して、明るい子はいつもの様子はどこへやら、タジタジになっちゃってさ。そういう日常と恋愛での逆転現象やギャップが、やっぱ刺さるよね。いくら使われても鈍ることのない、王道の味でございますわ~。もしくは、おとなしい子がいつも無意識に攻めちゃって、明るい子の方が先に恋慕の情に気づいちゃって、思い切って自分の気持ちを告白してさ、いつも無表情なおとなしめの子がその時だけ驚愕を顔に出してさ。これがいいと思うの、自分だけっすかねぇ!? あと、スタイルの差とか肉体的な要素も重要だよね。キャラ付けができるし、我々も百合豚とはいえ一端の男なんだから、肉感あふれる要素はありがたいわけですよ。こういうのが出てくるのは、やっぱり水着衣装が出る海イベやプールイベ、後は全裸を湯気越しに拝見できる温泉シーンとかだよね。健全な男どもを釣るには、やっぱりお色気系は強いわけですよ。これ古事記にも書いてあるから。そうそう、百合はやっぱ、温泉シーンも一味違った楽しみ方ができるよね。だってさ、自分の恋愛対象が同性なわけだから、当然風呂なんかにも一緒に入るわけですよ。それがたとえ、恋人みたいな関係になってなかったとしても。そこで生まれる葛藤や劣情がまた、たまらないんですわ~。特に、時間を重ねるにつれて友情が恋情に変わっていく、長編の百合ものだったりするとこれが顕著でさ。序盤は友情全開だから風呂場とかでも特に意識することもなく触れ合ったりはしゃいだりするんだけど、中盤・終盤になって相手のことを意識し始めるとそういうことも簡単にできなくなってきてさ、その差分が素晴らしくいいんですわ~。特に片思い状態だと良い。片方は劣情とかを必死こいて押さえているのに、もう片方は何の遠慮もなく接近してくるの、良いわ~。あ、あかん、そんなこと考えていたら想像上の鼻血(イマジナリーブラッド)が……。

 

 

 

 

 

 と、いかんいかん。百合について思考を巡らせていたら、前方の二人に誰かが話しかけて、……って男ぉ~!? おいこら、そこのクソガキども! 崇高な百合の間に挟まりに行くとか、何考えとんねん! ぶちのめすぞ手前らっ!

 というか、こいつらも一科生なのか。なんか周りの一科生比率高いな。見る限り、俺の近くにいるの全員、一、科生…………。

 

 

 

 あかん!!

 

 やらかした! この席たぶん、二科生が座っちゃいかんやつだ! あれか!? 席の場所によって、一科生と二科生に分けられていたりするんか!? 百合に夢中で全く気付かなかったぞ、ちくしょう!

 あー、感じる! 周囲からの、「なんだコイツ」って視線を感じる!

 やめろー、見るなー! 俺だって悪目立ちしたかったわけじゃないんだ! 己の欲望に従った末に起こった、不幸な事故だったんだ!

 

 くそう。さすがに、こんなに注目された状態で、いまさら席を変えるのも恥ずかしすぎる。かといって、この視線に晒され続けるのも精神的にきつい。万事休すか?

 せめて何かきっかけがあれば。誰かが話しかけてくれれば……。いや、でもそんな気配ないしなぁ。

 おいこら、一科生のエリートさんども。何おとなしく、良い子ちゃんしているんだ。俺にムカついているんだろ? 「何しゃしゃり出とんねん、二科生ごときが」とか内心思ってるんだろ?

 絡んで来いよ! いちゃもんつけて来いよ! たかが見た目ごときに気圧されてんじゃねぇよ! この腰抜けチキンどもが! お願いします俺にこの場から脱出する機会をください何でもしますからっ!

 

 

 

 

 

 

 そんな俺の願いは届くことなく、結局俺は地獄の席で入学式に参加することになった。周りの視線が痛すぎて、体などみじんも動かせなかった。




雫(なんか、後ろから視線を感じる……。気のせい? いやでも、これはさすがに……)
ほのか(ひぃ~~~っ! 怖い怖い怖いっ! 警察よばなきゃっ!? でも通信は遮断されてるしぃ~~~!)




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や誤字報告があれば、教えていただけると嬉しいです。
お気に入り登録や評価は、今後の励みになります。
今後ともこの作品をよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。