魔法科高校生の勘違い   作:和菓子工房

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第四話です。楽しんで読んでいただけると幸いです。


二日目①

(はぁ、なんだってこんなことに)

 

 一年E組。その教室の最後尾の席に割り当てられた生徒、吉田幹比古。

 彼は五十音順に従って作られた席順によって、二日目にして猛烈な不運に見舞われていた。

 

 もしかしたら、先ほどの光景は何かの間違いだったのかもしれない。そんなわずかな希望(現実逃避ともいう)を胸に、幹比古はちらりと目で、前方の席を見る。

 だが、現実は無慈悲であった。幹比古の眼前には、堂々と巨漢が鎮座していた。

 

 昨日、入学式にて思いっきり悪目立ちしたその巨漢は、周りからの視線などどこ吹く風といわんばかりに、微動だもせずに席に座っていた。そのせいで、真後ろにいる幹比古は、至近距離でその圧に晒されているのだ。

 正直キツい。隣から発せられる威圧感は、その大柄な体躯と相まって、男子高校生の域を大きく超えたものとなっている。それを長時間受け続けて、平静を保てるほど、幹比古の精神は熟達していなかった。

 

「それでは皆さん、入学、おめでとうございます」

 

 教壇に立った女性の教師のあいさつも、ロクに聞き取れない。ホームルーム前に済ませておくはずだった履修登録も、結局できなかった。

 どれもこれも全部コイツのせいだ、と幹比古は行き場のない怒りを、心の中で前方にぶつける。

 

 とはいえ、最近の教育機関では、グループワークなどというものもなくなりつつある。最先端の教育プログラムを組み込んだ魔法科高校、その中でも基本的に放任されている二科生なら、まず間違いなくグループワークの機会はない。

 同じ空間にいるのは、せいぜいホームルームの間くらいだ。相手も、積極的に人に絡みに行く性格ではないようだし、幹比古自身が何かしでかさない限り、かかわりを持つこともないだろう。

 

 そう考えると、少しばかり気が楽になった。心なしか浴びせられていた威圧感も減り、教師の言葉も理解できるようになってきた。

 

「カウンセリングはこのように端末を通してもできますし、直接相談に来ていただいてもかまいません。通信には量子暗号を使用し、カウンセリング結果はスタンドアロンのデータバンク保管されますので、皆さんのプライバシーが漏洩することはありません」

 

 どうやら今は、カウンセリングに関する説明をしているようだった。どうやら、教壇にいる女性教師と、手元のディスプレイに映された男性教師はカウンセラーらしい。確かに、二科生は学内でやっかみを受ける関係上、カウンセラーにお世話になることも多そうだ。

 今度、機会があれば自分もいってみるか。入学から二日目にして、早くも高校生活に不安を抱き始めた幹比古は、そんなことを考える。

 

「本校では皆さんが充実した学校生活を送ることができるよう、全力でサポートします。……というわけで、皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 女性教師の口調が、生真面目なものから一転、砕けたものに変わる。教室内にも脱力した空気が漂った。それは前方の巨漢も例外ではないらしく、浴びせられる威圧感が、また一段と減ったような気がした。

 

「これから皆さんの端末に、本校のカリキュラムと施設についてのガイダンスを……」

 

 威圧感からも解放され、緊張もなくなった幹比古は、教師の声に耳を傾けていった。

 

 

ー----

 

 

「やっと終わった……。ガイダンス、思ったより長かったな」

 

 廊下を歩きながら、幹比古はひとり呟く。事前に自分が受ける科目を決めていた幹彦にとって、履修登録はそこまで時間のかかるものではなかった。しかし、ガイダンスの動画が想像以上に長く、予定より教室を出るのが遅くなってしまった。

 とはいえ、そこまで問題があるわけではない。もともと、時間に余裕をもって予定を立てていたため、多少の遅れがあったとしても、今日の目的を終わらせられるだろう。

 

 幹比古が現在向かっているのは、高校に付属している工房だ。工房とは、CADをはじめとした魔法関連の器具を制作・調整する施設であり、生徒が設備を用いて自分で調整することも、所属している職員に調整してもらうこともできる。

 

 幹比古は古式魔法と呼ばれる、現代の魔法とは少々趣の異なる魔法を用いる。

 古式魔法は、現代魔法とは異なるプロセス・器具を用いる。そのため、現代魔法向けの設備が多い工房には、たいていの場合用がない。ただ、幹比古はその例外であった。

 

(とりあえず、魔法科高校に来たからには、現代魔法についての造形を深めなくちゃ。もしかしたらそこに、スランプ脱出の糸口があるかもしれないし)

 

 多少の焦りを内に秘めながら、歩を進めること数分。工房にたどり着いた幹比古は、早速手続きをしようと受付に向かい……

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

「…………む」

 

 間抜けな声を吐き出した。

 

 それもそうだろう。幹比古が受付の列に並んだ直後、予想だにしなかった人物が、その後ろに並んだのだから。

 その人物とは、教室にて目の前に鎮座していた巨漢。先日の入学式において、悪目立ちしまくった男が、幹比古の後ろに並んでいた。

 

「お前は、俺の後ろに座っていた……」

「え、あ、あぁ。うん、君の後ろに座っていた、吉田幹比古だ」

「俺は、遠塚一、だ。……お前も、ここに用が、あるのか?」

「え? あぁ、そうだね。君も、ここに用があるんだ」

「まぁ、な。意外だったか?」

「正直ね。闘技場とかに行くものだと思ってた」

「この見た目だと、そう思われても仕方ないだろうな」

「あはは……」

 

(案外、話ができるやつ、なのかな? 外見と昨日の行動だけで、てっきりやばい奴だとばかり思ってたけど……)

 

 幹比古は、巨漢ことハジメへの印象を変える。こうして接してみると、自分が想像していたよりも断然、好感の持てる相手だとわかった。少々態度が固い気がしないでもないが、それも個性の範疇であり、何か問題があるレベルではない。

 ハジメへの印象が和らいだ影響だろうか、幹比古はこんな提案をしてみた。

 

「これも何かの縁だし、一緒に工房を使ってみないかい?」

「え…………」

 

 

 ハジメの口から発された声、驚愕を示すそれに、距離を詰めすぎたかと、幹比古は内心後悔する。初対面の相手にこんなことを言われれば戸惑うのも当然だ。

 

「あぁ、いや。そっちが大丈夫なら、だけど」

「…………はっ。いや、こちらとしてもありがたい話だ。是非ともよろしくお願いする」

 

 どうやら、幹比古の心配は杞憂だったようだ。突然の申し出に驚いていただけらしいハジメは、幹比古の提案を快諾した。

 

「実は、こういった施設の手続きなどは苦手でな。同行者がいると心強い」

「あはは。なら、頑張ってみようかな」

 

 幹比古は新たな友人に、年齢相応に心を躍らせながら、受付で手続きを始めた。

 

 

*****

 

 

 さて、学校二日目でございます。にしても教壇にいる先生、おっぱいでけぇな。

 今は、クラス単位でのホームルームを受けているところだ。元々寝ようと思ってたけど、なんか後ろからにらまれてる気がするのでやめておく。隙見せたら刺されたりしそうだ。

 

 え~と、なになに。ホームルームの内容を簡単にまとめると、カウンセリングいつでも歓迎ってことと、ガイダンスと履修登録終わったら今日は自由行動ってことかな。

 ほな、とっとと履修登録終わらせて、校内探索でもしますかね。

 

 

「おーい、ハジメ」

「ん。レオか」

 

 なんて考えながらガイダンスを見ていると、昨日仲良くなったクラスメイト、レオが話しかけてきた。その後ろには、一人の男子生徒と、二人の美少女が続いている。……って、美少女!?

 

「後ろの三人は?」

「ん? あぁ、この三人は、さっき知り合ってな」

「自己紹介は自分でやるよ、レオ。同じクラスの、司波達也だ」

「あたしは千葉エリカ。よろしくね」

「え、えっと、柴田美月って、いいます。よろしく、お願いします」

 

 ほーん。美少女たちはエリカちゃんと美月ちゃんっていうんだぁ(キモヲタ感)。俺の百合豚としての嗅覚が、この二人の間でもカップリングを作れると言っている!

 で、その百合の間に挟まっているこの愚か者は、司波達也と。絶妙な感じの細マッチョとイケメン面しやがって。今度機会があったら、個人的に折檻してやる。

 

 というか、この三人よく見たら、昨日の行動入り口での修羅場にいたやつらじゃねぇか! ってことは、司波達也が昨日のギャルゲ主人公ムーブしてた奴か!

 おのれ司波達也、入学二日目でもうハーレムを築きやがって。俺なんて、女子の知り合いなんていたことないんだぞ!?

 

 まぁ、しゃあない。自己紹介された以上、こっちも返さないとな。

 

「……遠塚一だ。(司波達也以外の二人は)よろしく」

 

 司波達也はイケメンだから敵だ。どうせこういう奴は、勉学万能で魔法工学とか専門的な分野にも精通していて、それでいながら魔法なんかも実は達者で戦闘力ぴか一で、美少女たちに気を向けられながらも心に決めたある女性と結ばれるんだろ!? 俺はそう言うのに詳しいんだ! ギャルゲとか俺TUEEEモノで散々見てきたからな! こういう主人公みたいな奴は、何の弱点もないっていうのがお約束なんだ!

 

「それでさ、ハジメ。履修登録終わったら、闘技場にでも行かないかって話になってるんだけど、ハジメも一緒に行かねぇか?」

「闘技場、か……」

 

 いやー、昨日できたばかりの知り合いからの誘いだし、美少女も二人いるしで、同行したいところではあるんだけど……

 

 

「すまん。午前中は、一人で行きたい場所があってな。昼から合流するのでも、いいだろうか?」

「そうなのか……。ま、ならしゃあないか。じゃあ、その用事が終わったら連絡してくれ」

「あぁ、恩に着る」

 

 すまんなレオ。今日ばっかりは、どうしても譲れないことがあるんだ。主に、やましい欲望的な意味合いで。

 

 

 レオと、食堂で合流する約束をして、俺は一人目的地に足を運ぶ。もちろん、あのクソマップを開きながら、だ。

 

 自分の目的地は、昨日も行った演習所だ。といっても、昨日のように魔法の実技の練習をするわけではない。今日は、昨日とは違う目的で、演習所に向かっている。

 その目的とは、午後に行われる三年A組の実技授業、それを見るための観客席の確保だ。三年A組には、昨日お世話になった七草真由美生徒会長も所属しており、彼女のハイレベルな容姿と射撃魔法を目当てに、多くの新入生が見学に訪れるらしい。

 そんな状況では、俺のような二科生など、到底見学できないだろう。というわけで、事前に特等席をとっておこうと考えたのだ。

 

 さて、噂によると猛者はホームルームの直後には、既に並び始めているそうだ。俺は、履修登録を挟んでしまったせいで、猛者たちに比べて遅れてしまっている。少しでもいい席をとるために、足早に進ませてもらうとしよう。

 

 

 俺がいくら方向音痴だからといって、さすがに昨日行ったばかりの場所が分からないというほどではない。念のためにマップも見ているし、これなら迷う心配もないだろう。そうと決まれば、とっとと移動するとしようか。

 

 

 

 そうだ! 歩いてる間暇だし、さっきの二人(千葉エリカ・柴田美月)のカップリングについて、考えていくとしようか!

 

 

 

 

(この長文は、読まなくても結構です)

 

 このカップリングの肝は、なんといっても二人が対照的な性格をしているってところだよな。明るくポジティブなエリカちゃんと、おとなしくネガティブな美月ちゃん。この対称性は日常系でも生かしやすいし、いざ非日常パートに入れば、緊急事態における二人の内面も見えてきて、そういったところでもシナジーを作れるよね。特に、エリカちゃんが咄嗟の事態に弱くて、美月ちゃんが強かったりすると、普段とは違った二人が描けたりして良き。まぁ、話してみた感じ、エリカちゃんは緊急事態にも強そうだけど。あと、美月さんの眼鏡は結構キーになるよね。一昔前なら、眼鏡が外れて低視力ゆえのイベントとかが起こりそうなものだけど、医療が発達した今じゃ全員裸眼でも視力が高いから、そういうのがなくなっちゃったんだよね。実際、美月ちゃんのレンズには度が入ってなかったし。まぁ、そうなると美月ちゃんは、霊子放射光過敏症とかの特殊な視力異常を持っているんだろうし、そこを上手いことイベントにつなげたい感じかな。それと、二人とも二科生ってところもポイントだよね。二科生ってやっぱ、この学校内だと差別を受けがちで、メンタルにもダメージを負いがちじゃん。そうして生まれたストレスのはけ口として、二人ともお互いの体を求めて……。最初は体だけの関係だったんだけど、それが段々、本当の恋情に変わっていって、でもそれをなかなか言い出せなくて……、みたいな感じで。打算から始まるどろどろとした百合、良いと思います。ここに、魔法師特有のお家騒動とか絡められると良いよね。特に、エリカちゃんは千葉って性とあの身のこなしから、多分結構な名家の出だろうし、そこを上手いこと使って……

 

 

 

 

 っと、いかんいかん。妄想に夢中になっていた。道を逸れたりしては、いないと思うんだけど。

 ていうか、もう目の前に建物あるじゃん。多分、ここが演習所だな。昨日行った時も、こんな感じの建物だった気がするし。

 

 おっと、噂どおり、既に結構な人数が並んで……

 

 

「…………は?」

「…………む」

 

 なんか、目の前に見たことのあるやつがいる。誰だっけこいつ? えーと、えーと……、あっ、思い出した!

 

「お前は、俺の後ろに座っていた……」

「え、あ、あぁ。うん、君の後ろに座っていた、吉田幹比古だ」

 

 っしゃあ! ビンゴ! やっぱりこいつ、さっき俺を後ろから睨んでた奴だ!

 

「俺は、遠塚一、だ。……お前も、ここに用が、あるのか?」

「え? あぁ、そうだね。君も、ここに用があるんだ」

 

 しかし意外だな。こいつ、幹比古はすかした感じの美形だから、生徒会長とかには興味がないと思ってたんだけど。まぁ、人間内側に何を秘めてる変わったもんじゃないしな。おそらく幹比古は、むっつりスケベの類なんだろう。

 

「まぁ、な。意外だったか?」

「正直ね。闘技場とかに行くものだと思ってた」

「この見た目だと、そう思われても仕方ないだろうな」

「あはは……」

 

 ま、この筋肉だと、そう思われてもしょうがないか。俺も、筋肉をつけたくて、つけているわけじゃないんだけどな。いろいろ複雑な事情で、今のこの体形になっているのだ。

 にしても幹比古、話してみると結構いい奴だな。面がいいのは許しがたいが、話はしやすいし、案外仲良くできたりするかもな。ここにきてる時点で、むっつりスケベ仲間なのは確定だし。

 

 

 

 

 

 

「これも何かの縁だし、一緒に工房を使ってみないかい?」

「え…………」

 

 こうぼう? 攻防? 工房!?

 待って!? ここ、演習所じゃないの!? やっば、場所間違えた!?

 どうしよどうしよどうしよ!? てっきり演習所だと思ってこの列に並んだけど、間違ってたとすると話が変わってくる! 急いでここから離脱しないと!

 あぁ、いや、でも! いまさら、場所間違えました、っていうのもなぁ……!

 

「あぁ、いや。そっちが大丈夫なら、だけど」

 

 やっべ、幹比古が申し訳なさそうにしてる! 急いで返答しないと!

 でも、どうやって!? えーと、えーと!?

 

 

「…………はっ。いや、こちらとしてもありがたい話だ。是非ともよろしくお願いする」

 

 腹、くくるか。こうなったら、演習所での席取りは諦めて、工房を目一杯活用させてもらうとしよう。

 

「実は、こういった施設の手続きなどは苦手でな。同行者がいると心強い」

「あはは。なら、頑張ってみようかな」

 

 よし、待っていろ工房! 徹底的に使い尽くしてやる!

 そんな意気込みとともに、俺は幹比古と一緒に工房へと入っていった。

 

 

 

 

 

 この後、職員さんに頼んでCADに入っている魔法を少々いじってもらった。悪ふざけで術式解体(グラム・デモリッション)なんかも入れてもらった。俺の想子(サイオン)保有量だと、撃てて一、二発といったところなので、完全におふざけようだ。

 そんな風に午前中は、幹比古と一緒に工房を満喫した。その流れで、食堂にも一緒に連れていくことにした。




達也(なんだ? やけに敵視されていないか、俺? 念のため、こちらも警戒を高めておくか)
美月(な、何か悪寒が……。だ、誰かに、辱められてる気がします……)
エリカ(この感じ、私の実家が誰かにバレた? でも、そういった証拠は今のところ見せてないんだけどなぁ……)

E組連中、察しすぎな件。

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