魔法科高校生の勘違い   作:和菓子工房

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 どうも、佐々部です。

 …………ほんっとうにすみません!
 3ヶ月間投稿を空けるとかいう暴挙をしてしまいました!!

 今後は投稿ペースも戻る、……はずなので!
 どうか、許してくださいお願いしますなんでもしますから!!


実戦

 模擬戦ブース、その中央に再び二人の生徒が立つ。

 

 片や、第一高校が誇る三巨頭の一角。風紀委員長の渡辺摩利。剣術をはじめとした近接格闘術に各種魔法を絡めた接近戦を得意とし、また移動系統魔法による気体操作などの搦手を用いることもある。魔法力は三巨頭の他の二人、十文字克人と七草真由美には劣るものの、このような戦法を好んで用いるため、対人戦に関しては恐るべき戦闘力を発揮する。

 もう一方は、つい先日入学したばかりの一年生。筋骨隆々のガタイ、巌のような顔。一年E組所属、遠塚一。戦闘スタイルは不明だが、遠距離戦はともかくそのガタイから接近戦の実力は察せられる。少なくとも、一筋縄ではいかないだろう。

 

 

 二人の中心にこの模擬戦の発案をした張本人、司波達也が立つ。先ほどまで審判を務めていた渡辺が模擬戦に参加するため、達也がその代わりを務めるのだ。

 

 審判が位置についたのを確認し、摩利が話し始める。

 

「遠塚、ルールを先ほどと少々変える。かまわないな?」

「……えぇ」

 

 ルールの変更。それは急遽決まった模擬戦故か、それともハジメの体格から一般的な魔法師とは異なると判断したからなのか。

 

「先ほどと異なり、一部の武器や小道具の使用を解禁する。刃物や毒物といった、致命傷を与えやすいブツは使用禁止だが、警棒などの長物は使用できるものとする。蹴り技を行う際も、先ほどのようにソフトシューズを履かずに、学校指定の革靴のままで大丈夫だ。ここまではいいな?」

「……えぇ」

「また、開始地点も変更だ。双方の距離を10mとする。先ほどよりも短い距離だが、構わないな?」

「……えぇ」

 

(変更内容は、どれも近接格闘を推奨するもの。魔法師同士の戦いであるにもかかわらず、距離を置いた魔法の打ち合いを縛っている。渡辺先輩は、ここで遠塚の近接戦闘能力を図るつもりなんだろうな)

 

 達也の考察は的を射ていた。この模擬戦は、風紀委員としての適性を測るための模擬戦である。そのため、有事の際には体を張る必要のある風紀委員にふさわしいかどうか、摩利が直々に肉弾戦を仕掛けて試すのだ。

 ハジメからの了承が得られたことを確認すると、摩利は右袖口に仕込んでいた伸縮警棒を取り出す。それもただの伸縮警棒ではない。特化型CADとしての機能を持ち合わせた、武装一体型CADだ。

 

「用意は、良いな?」

「……えぇ」

 

 対して、ハジメは構えらしい構えも取らず、脱力した状態で棒立ちしている。その両手には手袋型のCAD、おそらく特化型がはめられているが、それ以外にこれといった武装は見受けられない。これから模擬戦が始まるというのに、その気の抜けたような姿は、どこか不気味さすら感じさせる。

 しかし、その眼だけは違っていた。日本人としてありふれた黒目は、恐ろしいまでの負のオーラを湛えている。まるで、なにかを恨んでいるような、そんな眼だった。普段とはかけ離れた雰囲気であり、一目で()()()()()ことが分かる。

 

 

 

(あの隙だらけな体勢、どういうつもりだ? あんな目をしている以上、やる気がないというのは考えづらいし、渡辺先輩のことをなめているとも思えない。遠塚も実力者である以上は、何らかの理由があるはずだ)

 

 ハジメの構えに対して、達也は疑問を呈する。彼の実力については入学式の歩行である程度把握している以上、その姿勢を軽んじてみることはできなかった。

 

(となると、……何かの構えか。確か古武術には、わざと隙をさらして攻撃を誘導する流派があったはず。入学式での歩法も併せて考えると、古武術、またはそれを起源に持つ武術を習得していると考えるのが自然か)

 

 達也は自身の中で、とりあえずの結論を出す。これ以上は、今から行われる模擬戦を見て考えればいい。

 

 

 

 

「では、……始めっ!」

 

 

 試合開始の合図とともに、摩利が走り出す。即座に距離を詰め、近接戦の間合いに持ち込む。

 手始めといわんばかりに振り下ろされた警棒を、ハジメは咄嗟の反応で右腕をかざし防ぐ。CADを内蔵した手袋に直撃したが、戦闘用に耐久面が調整されているのだろう、壊れた様子は見受けられない。

 

 警棒による一撃を防いだハジメは、一歩踏み込んで反撃の左ストレートを、躱しにくい胴体に向かって放つ。が、摩利は軽く一歩後ろに下がることで、間合いを離しその攻撃を避けた。

 さらに回避とともに引き戻した警棒を用いて、摩利が連撃を仕掛ける。それも今度は警棒だけではない。無手の左腕による拳打や足による蹴り技を混ぜた、間合いとリズムを細かく変えながら放つ連撃だ。

 

 ハジメはこれに対して、警棒を腕で防ぎ、拳を掌で受け止め、蹴りを蹴りで相殺することによって、なんとか凌ぐ。しかし、防ぐのが精一杯で反撃に移れないでいた。

 

(遠塚の近接戦における練度は思った通り、いや、思っていた以上に高い。しかし、やはり武器の有無は大きいな。防戦一方だ)

 

 この近接戦において、摩利が有利な点はなんといってもリーチだ。いくら二人の体格に差があるとはいえ、それは武器一本分の長さを補えるほど大きなものではない。そのためハジメは、警棒による攻撃を防いだ後、一歩踏み込むというアクションを挟まないと、反撃に移れないのだ。そして摩利は、そんな隙を見逃してくれるほど甘い相手ではない。

 また、拳打や蹴撃に対しても間合いがうまく取れない。先ほども言ったように二人の間には明確な対格差がある。摩利が拳や蹴りを存分に振るえる距離は、ハジメにとっては短いものであり、窮屈になって攻撃に威力を乗せきれないのだ。

 

 摩利が有利な間合いを保ち続ける限り、ハジメは満足に攻撃できない。間合いを調整しようにも、この連撃を防ぐのに手いっぱいであり、そんな余裕は存在しない。

 

「そらそら、どうした? このままだと押し込まれるぞ。魔法は使わなくていいのか?」

 

 本来魔法師同士の近接戦において、魔法は不利状況を打開する手段として用いられる。しかし、ことハジメに関してはそれすら使えない。むしろ、近接戦に魔法を織り交ぜるなど悪手も悪手である。

 理由はハジメの処理速度にある。ハジメの処理速度は、二科生の中で普通。つまり、学校全体で見れば遅い部類に入るのだ。そんなハジメがやみくもに魔法を使おうとしても、処理速度で大きく勝る摩利には通用しない。すぐさま他の魔法で抵抗・相殺されて終わりだ。もしくは、その隙をついて殴打で気絶までもっていかれるかもしれない。

 ハジメもそのことは理解しているのだろう。魔法を発動する素振りもなく、しかし何も打開策のないまま追い込まれていく。

 

 

 警棒の一閃。徐々に崩れていたハジメの体勢が、その一撃によって完全に崩された。

 喉元を狙った一撃。四肢による防御は体勢的に不可能。なんとか上体を後方に倒して回避するも、無理な回避によってハジメは大きな隙をさらす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全にバランスの崩れたハジメに対して、摩利の警棒が振り下ろされ、…………なかった。

 摩利は大きく飛び退き、その直後、ハジメが放った鋭いハイキックが空を切った。

 

(なぜだ? なぜ遠塚は、今のタイミングでああも鋭く反撃できたんだ? それに、摩利先輩がそれを躱せたことにも疑問が残る)

 

 達也はハジメの攻撃に疑問を持つも、すぐにその理由を悟る。

 達也の目から、否、()から見てもハジメの体勢は完全に崩れていた。あの体勢では、反撃はおろか、回避も防御もできない。それは紛れもない事実であった。

 そこでハジメは、あえて踏ん張らずに後方へ倒れこんだ。そして、その倒れこむ勢いを足へと伝え、予備動作なしで鋭い蹴りを放ったのだ。躰道(たいどう)といわれる武術に含まれる、転体に近い動きだ。

 

 そして、達也は摩利がその攻撃を読めた理由もある程度予想できていた。

 

「摩利、なんであの攻撃が分かったのかしら?」

「おそらく、表情でしょうね」

「表情?」

 

 疑問を呈した真由美に対して、達也は自分もつい先程気づいたことを話す。

 

「遠塚の表情は、防戦一方だと言うのにまるで揺らいでいません。一撃をまともに浴びかねない危機であるにも関わらず、未だに表情に変化が見られないんです」

「それが、どうかしたの?」

「つまるところ、あの状況に追い込まれてもなお、遠塚は焦ってないんですよ。あの状態から巻き返すだけの『何か』が、冷静さを保てるだけの『何か』が、遠塚にはあるんです。渡辺先輩も、その『何か』を警戒して下がられたのでしょう」

 

 そう、ハジメの表情は微塵も揺らいでいなかった。始まってから今のいままで、ずっと無骨なツラのままだった。本来なら多少なりとも焦りが見えるはずの状況下でも、その表情は変わらない。摩利はそこを怪しみ、完全に崩したはずのハジメから遠のいたのだ。

 

(しかし、俺の()でもあの蹴りは気づけなかった。実際にくらっても対処は可能だが、その隠密性には注意が必要だな)

 

 達也がハジメへの警戒を強める中、摩利は先ほどまでの余裕のあった表情を引き締める。ハジメへの評価を、腕の立つ一年生から一筋縄ではいかない曲者へと繰り上げたのだ。

 

 距離をとった摩利を追って、体勢を立て直したハジメが駆ける。後退する摩利よりも突進するハジメの方が素早く、彼我の距離を詰めていく。このままでは、摩利はハジメの間合いに入ってしまうだろう。攻守は完全に逆転していた。

 

(いや、これは罠だな)

 

 しかし、達也は摩利の思惑に気づく。()を以て彼女の周囲の想子(サイオン)を視認できたからこそ、摩利の仕込みに気づくことができた。

 

 ハジメの間合いに入るまであと数歩といった距離で、警棒を握った摩利の右手、その指が踊る。

 五指によって入力されたコマンドによって、警棒に組み込まれたCADから魔法が発動する。

 摩利が発動させた魔法は、単一移動系統。発動させた数は三つ。

 摩利自身にかけ、後退速度を上昇させるために一つ。

 ハジメにかけ、突進を停止ないしは減速させるために一つ。

 警棒にかけ、ハジメめがけて投擲するために最後の一つ。

 一科生、その中でもトップクラスの実力者である摩利による魔法。魔法の構築は恐ろしいほどに迅速であり、ハジメも魔法の存在に気づいて対応しようとするが、間に合いそうにない。

 

 摩利の魔法式によって情報体(イデア)が改変され、ハジメは彼女がかけた罠にまんまとはまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直前、ハジメを中心に濃密な想子(サイオン)が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 摩利と達也の、驚愕の声が重なる。

 摩利は自身の術式がサイオン波によって一つ残らず消し飛ばされたことに驚き、達也はハジメが想定外の術式を発動したことに驚いた。

 

 

「達也くん。今のって……」

「……えぇ。術式解体(グラム・デモリッション)でしょうね」

 

 ハジメが用いたのは、最強の対抗魔法とも謳われる術式解体(グラム・デモリッション)。超高濃度のサイオンを放出し、その圧を用いて術式を力づくで吹き飛ばす魔法である。ハジメは自身のサイオンを周囲に一気に放出することで、摩利が起動した三つの移動魔法を消し去ったのだ

 

(それも、ただの術式解体(グラム・デモリッション)じゃない。本来なら圧縮したサイオンを砲弾として打ち出すところを、遠塚は砲弾として固めずに全方位にサイオンを放出している)

 

 達也の分析通り、ハジメの術式解体(グラム・デモリッション)は本来のものとはやや異なる。砲弾としてではなく、周囲にドーム状にサイオンをまき散らすことから、本家に比べてサイオン消費量は多い。また、射程も短くなってしまっている。

 しかし、全方位に効果をもたらすため、本家と異なり狙いを定める必要はなく、また発動に必要なプロセスも少ない。また、今回のように一度の使用で複数の魔法を打ち消すこともできる。

 座標や変数を入力する必要もないため、ハジメの処理能力でも発動が間に合い、摩利の魔法を打ち消すことができたのだ。

 

 ハジメはその勢いを止めぬまま突進し、摩利は魔法の不発によって足が止まり、警棒を取り落とす。その隙目掛けて、ハジメは…………。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「かはっ……!」

 

 

 

 摩利に飛びつき、抱きしめた。

 

 ハジメは飛びついた勢いのまま、摩利を巻き込んで倒れこむ。体格差もあり、摩利は抵抗できなかった。

 摩利が衝撃による痛みをこらえている隙に、ハジメは馬乗りになって彼女の四肢を抑え込む。ハジメの表情は変わらず、無骨なままだ。

 

(上手いな。拳でダメージを与えるのではなく、体格差による捕縛を選択したか。渡辺先輩はCADを取り落とした以上、抵抗のしようがない)

 

 達也の考えの通り、ハジメの行動は最善といって良いものだった。特に、相手を取り押さえ被害を食い止める役割を持つ風紀委員としては、最速で相手を行動不能にしたこの行動は理想的といってもいい。

 

 

 

「……っ!」

「……はぁ、降参だ」

 

 詰みと判断した摩利が、敗北を宣言する。

 

「勝者、遠塚一」

 

 達也は、不意打ちじみた攻撃とはいえ、二科生ながら三巨頭の一角を打倒して見せたクラスメイトに対する警戒を、より一層強めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………おい、遠塚。模擬戦は終わったぞ。いい加減に胸から顔を離せ」

「渡辺先輩。遠塚、気絶してますよ」

「は!?」

「サイオン枯渇が原因でしょうね。術式解体(グラム・デモリッション)を使ったんだ。無理もない」

「まったく。閉まらんというか、なんというか…………」

 

 

 

*****

 

 

 読者諸君に問いたい。……どうしてこうなった!?

 

 なんで風紀委員長の渡辺先輩と闘うことになってんだよ。元々は服部先輩のはずだったじゃん。別に、後日服部先輩が回復してから模擬戦って形でもよかったじゃん!

 

 それもこれも、全部司波とかいうイケメンシスコンくそ野郎のせいだ。あいつがあんな提案をしなければこの試合はなかったはずだし、服部先輩を秒殺して原因を作ったのもあいつだ。末代まで呪ってやる。……あー、いや、そうすると司波深雪さんという超絶美少女まで巻き込んでしまうな。

 

「遠塚、ルールを先ほどと少々変える。かまわないな?」

「……えぇ」

 

 どうにかして人ひとりをピンポイントで呪えないものか。そもそも魔法で呪いって再現できるのか?

 

「先ほどと異なり、一部の武器や小道具の使用を解禁する。刃物や毒物といった、致命傷を与えやすいブツは使用禁止だが、警棒などの長物は使用できるものとする。蹴り技を行う際も、先ほどのようにソフトシューズを履かずに、学校指定の革靴のままで大丈夫だ。ここまではいいな?」

「……えぇ」

 

 そもそも魔法っていうのは、想子(サイオン)によって構築された情報体(イデア)を改変することによって、現実の物理現象に介入するものだ。例えば、発火魔法は一見種も仕掛けもないように見えるが、実際のところは物体の振動数を引き上げて加熱するといった、物理法則に則った仕組みで発動している。

 

「また、開始地点も変更だ。双方の距離を10mとする。先ほどよりも短い距離だが、構わないな?」

「……えぇ」

 

 何が言いたいかというと、呪いという抽象的なものは中々再現しずらいのだ。

 特に、魔法は持続性に難がある。何せ、発動中は常にサイオンを消費するわけだからな。一日魔法を維持するだけでも、湯水のようにサイオンを保有している人外でもない限り不可能であり、末代まで永続的に呪うなんて、夢のまた夢だ。

 また、呪いにありがちな条件付きで発動させるというのもなかなか難しい。というのも、現代魔法は即効性を重視しており、いかに早く事象を改変させるか、ということに重きを置いている。そのため、時限式の術式を組むのが難しいのだ。また仮にできたとしても、一度発動すれば常に魔法演算領域の一部をその術式に占領されてしまうため、その後の魔法師生命に大きな支障が出てしまう。

 

「用意は、良いな?」

「……えぇ」

 

 となると、呪いを再現できる可能性があるのは、禁忌とされる精神干渉系魔法ぐらいだろうか。俺も良くは知らないが、精神に直接干渉できるような魔法ならば、世間で呪いといわれるような効果を再現できるかもしれない。特に、精神面にトラウマのようなものを植え付けられれば、疑似的な呪いとして機能させられそうだ。

 ただ、これでは末代まで呪うのは難しい。子孫が生まれる度に術をかけて、としていてもいつかはこちらの寿命が尽きてしまう。それこそ、相手に生殖行為に関するトラウマを植え付けるか、子孫たちが自分の子に過激な情動教育をするように仕向けるしかない。

 それでいうと、相手の生殖器官に物理的に干渉するのもありかもしれないな。子孫に重篤な障害が残るように生殖器官に手を加えれば、それこそ末代まで呪えるようになる。

 

「では、……始めっ!」

 

 となると、まずは人間の生殖に関して学ぶ必要が……、って危なっ!?

 渡辺先輩、いきなり警棒で殴ってきた! しかも今の軌道からして、狙い頭部だろ! 殺す気か!?

 いつの間にか模擬戦始まってんじゃねぇか。審判合図したか? いや、聞き逃しただけって説もあるし何とも言えんか。

 

 まぁ、それはそれとして渡辺先輩は殴る! くらえ、男女平等正拳突きー!

 説明しよう! 男女平等正拳突きとは、性別の隔たりなく平等にダメージを与える一撃である!

 これだけを聞くと、性別の差を考慮せずに放たれる無慈悲な攻撃のように感じられる。相手がか弱い女子だろうと、何の遠慮もなく放たれる恐ろしい一撃だと。しかし、それは間違いだ。

 もう一度言うが、男女平等正拳突きは性別の隔たりなく『平等に』ダメージを与える一撃だ。屈強な大男にも、華奢な少女にも、等しくダメージを与えるのだ。

 それを実現するためには、相手の体を観察しその頑強さを寸分の狂いもなく見抜き、適切な力加減で的確に当てるという、途方もない技術が要求される。かくいう俺も、この技を習得するには、小3の夏休みを開発者の祖父母のもとでの修行に費やすことになった。

 そんな御託は置いといて、とりあえずくたばれ渡辺ー!

 

 

 

 

 あっやべ、躱された。

 

 ちょっ、まっ、タンマタンマっ! 渡辺先輩、一旦ラッシュやめてもろてっ。

 いたっ、やばい手ぇ痛いっ。CAD越しでも結構キツい! 辛いです苦しいですしんどいですっ!

 痛い痛いっ、痛すぎて逆に真顔になってまうわ! あっ、今なんかピシって言った! 体内から嫌な音鳴っちゃった!

 勘弁してくれー! さすがに登校三日目で重傷は負いたくないんだ! というかマジで容赦ないな渡辺ぇ!

 あっ、ラッシュの速度上がった。ごめんなさい! 呼び捨てにしちゃってごめんなさい! 生意気言ってすみませんでしたぁ!

 

 ちょ、、っと、これはっ、やばいなっ! 余裕、もう、ないぞっ!?

 やっべ、体勢崩れた。防御も回避も無理! ていうか何なら転ぶんじゃないかこれ!?

 やばいやばいやばい! なんとか踏ん張れ俺ぇ! 足上げてでも踏ん張れー!

 

 

 

 

 

 よっし、なんとか踏みとどまった!

 しかも、なんかようわからんけど渡辺先輩も引いてくれてる! ラッシュが止まってる!

 よっしゃ反撃のチャンス来た! これはもろたで工藤!

 

 ぐっへっへ~。そう逃げんなよ渡辺せんぱーい。何もひでぇことをしようってわけじゃないんだ。ただちょいとばかし、俺が受けた痛みを味わってほしいだけでよぉ。

 下がるのが遅い遅い! あと数秒もすれば追いつけるなこりゃ。もう逃がさねぇぞ~。

 

 

 

 

 …………ん?

 あっ、渡辺の奴やりやがった! 魔法使いやがった! しかも魔法式の展開早いな、数も三つとか多いな!

 やっばいやっばい。見た感じ移動系統の魔法か? 魔法の対象は俺・渡辺先輩・警棒の三つだな。てことは距離を離すのが目的か! よし、そうと決まれば対抗で停止魔法を…………。

 

 

 

 

 

 これ、間に合わなくね?

 俺の処理速度的に、魔法発動前に警棒でぶったたかれて終わりじゃね?

 しかも何なら、キーの入力ミスったんですけど。これ、停止魔法のキーじゃないんですけど。なんて魔法のキーだっけ? 最近いじった覚えはあるんだけど。

 あ、もう警棒近づいてきてる。これ、当た…………。

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、俺の視界はサイオンの荒波に埋め尽くされた。

 いや、マジでこれ、何が起こった!? 目を開けたらそこには一面のサイオン景色、……ってンなこと言ってる場合じゃねぇ!

 何が起こったのかは分らんが、とにかくこれはチャンスだ。移動魔法は今の謎現象で全部吹き飛んだ。渡辺先輩の足も止まってる。警棒も取り落としている! つまるところ殴り放題!!

 

 ヒャッハー! ここまでの鬱憤、一気に晴らさせてもらうぜ渡辺さんよぉ! 大人しくサンドバックになりなっ!

 なーに、俺とて紳士だ。グーパンはやめてやろう。掌底で殴ってやる。

 もしかしたらラッシュの途中で、手のひらが胸部や臀部を打ち据えてしまうかもしれないが、それはただの事故だからな! 模擬戦に熱中しているが故の、不幸な事故なんだ!

 もしかしたら、掌底が勢い余って掴みになってしまうかもしれないが、それも事故だ! 柔らかくつかみやすい部位を揉みしだいてしまうかもしれないが、全てどうしようもない事故なんだ!

 

 というわけで、お楽しみの時間だぜっ! イヤッフー!!

 

 

 

 

 

 

 

 …………あれっ。

 なんか、視界が霞む。

 体が、思ったように動かない。

 足が踏ん張れない。前に進めない。

 

 くそ、なんでったってこんなタイミングで、体の調子が崩れるんだよ。

 目の前には雄の欲望(パラダイス)が待っているっていうのに、俺はたどり着けねぇのかよ。

 あと一歩を、踏み出せないのか。

 また、()()()みたいになっちまうのか……。

 

 

 

 

 嫌だ。

 それは嫌だ。

 あんな思いをするのは、もうコリゴリだ。

 俺は変わったんだ。あの時の俺とは違うんだ。

 

 あと一歩が踏み出せないのなら、蹴り出せ。

 今ある一歩に、残ってる気力を全部乗せて、体を蹴り出せ。

 たった一度の跳躍で、届かせて見せろ。

 できるはずだ、今の俺なら!

 

 

「ふんっ!」

「かはっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 意識を手放す寸前、俺が感じたのは。

 顔を程よく押し返す、確かな弾力だった。




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 ……多分碌なこと呟かないし、投稿予告ぐらいしかしないけど。

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