ソープ系 悪魔の実『ヤジュヤジュの実』 作:母音イェーガー・ダムドチーフ
偉大なる航路の某夏島。その片隅でひっそりと暮らす男が一人。
彼について話すならば、その一風変わった性質を語らねばならない。
一言で言えば『普通』。
可もなく不可もない顔立ちに、平均的な体格の、本当に何処にでもいるような平凡な男であった。
『覇気』と呼ばれる力を多少は使え、そこらの一般人より腕は経つものの、特筆すべき点はない、道ですれ違えば記憶にも残らないような没個性。
しかしただ一点、男を非凡たらしめる性質があった。
「(転生とか)なんだこれは…たまげたなぁ」
世にも珍しい事に男は前世の記憶があった。この海の世界とは全く異なる、日本という国の一般人として過ごした人生の記憶が。
幸運だったのは、前世の面がそれほど濃くは引き継がれなかった点だろう。
はっきりと自身が転生者だと自覚したのは、齢8歳の誕生日から10日が立った日。
日々生活する上で、ぼんやりと感じていた違和感の原因を認識し、己の置かれた状況を理解したとき、当初彼は歓喜した。
大海賊時代、ひとつなぎの大秘宝、海賊王、世界政府、エトセトラ。
第二の生を得たこの世界は、男がよく知る国民的海賊漫画であると知ったからだ。
自覚してから訪れた異なる常識に悪戦苦闘する日々、前世とは比較にならない治安の悪さ、その負の側面全てを消し飛ばす程の希望が内に溢れていた。
こよなく愛した創作物の世界に赴き、推しと触れあう。誰もが一度は空想した夢が叶ったのだ。
これからオリ主として幸福の絶頂に至るのだと、当初彼は疑っていなかった。
「……駄目みたいですね(諦め)」
当たり前だが、空想と現実は致命的に食い違っていた。
意気揚々と海賊への道を歩もうとしたのは最初の内だけ。
現実に目にする海賊は、それはもう屑の集まりだった。
犯す、殺す、奪うの三拍子は当たり前、彼らの悪行を目にする機会も多々あり、とてもなろうとは思えなくなった。
故郷は観光地としての側面で多少潤っており、イザコザは少ないものの、大海賊時代の負の側面は確かにあったのだ。
ならば海軍の門戸を叩こうにも、彼は掲げられた正義の裏を知りすぎていた。
マリージョアの秘宝、CP9、バスターコール、イム様、エトセトラ。
世界政府が知れば口封じ待った無しの情報のオンパレード。これが露呈すれば暗殺されかねない事は彼にも分かる。
根が小市民な彼に、常に暗殺の恐怖を抱えたまま軍をやる気骨は無かった。
ならばせめて生きるのに必須な強さを求めて、彼は己を鍛え始めた。
「(修行)キツすぎるっピ!」
そして早々に挫折を知った。
シンプルに彼は弱かった。
原作知識で知っていた覇気の習得は叶ったものの、残念ながら極める程の才は彼には無かった。
覇王色の覇気、これは論外であった。
前世も今世も単なる小市民でしかない彼に王の素質がある訳もない。
ならば武装色と見聞色を極めようと鍛えたが、これも男が期待する程にはならなかった。
見聞色は多少勘がよくなる程度、武装色は拳に纏わせる程度には習得したが、そもそも当の本人に戦闘の才が無かった。
具体的な修行方法すら知らず、自己流で武装色を使えるようになっただけでも才はある方だが、それもそこまで。
挫折からの停滞。しかしそれもまた人生の選択として悪くはなかった。
彼の実家は医者の家系である。規模こそ町医者なものの、この時代ではまだまだ生きやすい勝ち組であった。
日々傷だらけになるまで遊ぶ我が子が目に見えて落ち込み、しかし家業にやる気を出した様子に今世の親は大層喜んだ。
それから数年、彼は平穏に日々を過ごした。
手先は器用なものの要領が悪く、まだまだ見習いではあるものの、薬剤師として食うには困らない程度に衣食住は確保できていた。
いつしかこの世界を自由に謳歌する野望は萎み、代わりに台頭した現状維持の甘い誘惑に身を任せたのだ。
運命の分岐点は、この世に彼が生を受けて24年が経った頃。
彼は偶然、毒々しい模様の林檎を入手した。
悪魔の実。売れば1億ベリーの値がつく海の秘宝。
手にした果実の現実感に、忘れていた高揚感が沸き上がる。
彼は躊躇なく口にした。
彼は、彼では無くなった。
ーーーーー
偉大なる航路、某島。
港町の中央に位置する広場は、普段の活気は鳴りを潜め、代わりに殺伐とした雰囲気に包まれていた。
その原因は、背中に正義を背負った無数の兵士たち。
彼らを率いるは海軍本部中将『黄猿』。原作と異なり今だ大将に至っていないものの、その実力は既に中将の中でも上位に位置する強者である。
「おうおう、君ぃ、とんでもないことやらかしてくれたねぇ~。いい加減大人しくお縄についてくれないかなぁ」
間延びした口調とは裏腹に、鋭い眼光は戦意と嫌悪感が剥き出しである。
黄猿が対峙するのは、一人の男。
「んにゃぴ」
意味不明な返答であった。
小汚ない肌にブリーフ一丁の怪人。茶色に輝く不自然に発達した筋肉を惜しげもなく晒す不審者。
ボルサリーノは顔をしかめた。海軍に囲まれてなお、彼に恐怖の色はない。
それどころか謎の余裕すら醸し出しているが、注目すべきはそこではない。
『汚い』
意味不明な言動も気色悪いが、この男はまるで全身に糞を塗りたくっているような、見るだけでも我慢できないほどおぞましい不快感を発している。
彼を取り囲む海兵の中には、辺りの汚さに嘔吐する者まで居た。
このうんこの擬人化とも称すべき男は、今やこの海に知らぬ者はいないと言える有名人。
世界を震撼させたとある事件の首謀者にして、犯罪者。
俗に言う”天竜人昏睡レ○プ事件”。その主犯である。
810日前、近海のとある国家に天竜人が来訪していた。
人々にとっては良い迷惑だが、世界貴族の中には道楽で国々を巡る者もいる。
国をあげて大々的な歓迎が行われる最中、悲劇が起こった。
偶々器量の良い女性が天竜人の目に止まり、そのまま彼の妻……『奴隷』としてマリージョアに連行されそうになったのだ。
どことなく蜥蜴に似た風貌の顔を愉悦に歪める天竜人、絶望する女性とその家族。
よくある悲劇の一幕。世界貴族の権力には誰も逆らえない事は子供でも知っている。
そのまま一人の女性が過酷な運命に晒されるのは確定していた。
『頭にきますよ~(義憤)』
この男が蛮行を犯すまでは。
突如天竜人の前に飛び出した彼は、能力の一端でその場の『男性』全員を昏睡させた。
そこまでは理解できる。天竜人の理不尽に我慢できなかった誰かが、蛮勇をもって行動に移しただけだ。
問題はそこからだった。
『ホラホラホラホラ、もっと舌使って舌使ってホラ』
『ぎゃ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”あ”!!尻がっ! 尻が痛いえ”ぇ”!!』
激痛で絶叫する天竜人。獣のように激しく腰を前後する男。
彼は、公衆の面前で天竜人に狼藉を働いたのだ。
昏睡せず、その様子を見せつけられた女性たちの悲鳴と交わる肉の感触。
別の意味の地獄であった。
『あーイキマスよ!イクイクイクイク…ンアーーーー!!』
『………』
地獄は、男がぐったりと横たわる天竜人と幸せなキスをして終了となった。
あまりにも恐ろしく、同時におぞましい陵辱事件に、連絡を受けた海軍及び世界政府はドン引きした。
公にできない要素極まる事件であったが、運悪くその場にニュース・クーの記者が訪れていたため、情報統制も間に合わず、その真夏の悲劇は幸せなキスシーンと共に全世界に公開されてしまった。
心に深い傷を負った天竜人は、マリージョアに引きこもっている。
そして現在に至る。
「(天竜人は)悔い改めて、どうぞ」
「愛の形は人それぞれだけどねぇ~。流石にあんな事しでかした君を世界が許すと思うかい?」
呆れたようなボルサリーノの言葉こそが、海軍の総意であった。
”野獣先輩” タドコロ。
懸賞金11億4514万ベリー。
海軍の威信をかけた最重要抹殺対象。
「いきますよーイクイク。『歩母壷呂利(ホモコロリ)』!」
戦いの先手をとったのは野獣だった。
彼の両腕から脈絡なくサァー!!と放出される白い粉。
予備動作なく散布された『睡眠薬』が周囲一体を汚染する。
「なっ!なんだこ―――グゥーグゥー」
「くっ、薬物か―――スゥ」
空気中に覇気を纏って放出される睡眠薬が、あり得ない即効性で容易く海兵たちの意識を昏睡させる。
「おー、情報通りだねぇ~。でもわっちには効かないよぉ」
いち速く察知した黄猿は空中に待避し、そのまま野獣にビームを撃つ。
「ホラホラホラホラ!!」
飛来する無数のレーザーを、野獣は拳の連打によってその全てを迎え撃つ。
その怒涛のラッシュは、まるで拳を切り取りそのまま張り付けたかのような妙な感覚を覚えさせる。
光線を撃墜した野獣は、両腕をぐるりと回す。
すると唐突に股間に出現した謎の人事部長の顔が二つに割れ、飛び出たのは無数の銃火器の銃口。
「ンアァーッ!!」
野獣の咆哮と共に打ち出される、一発一発に覇気が籠められた実弾。
先程の意趣返しか、合わせて野獣の口からは白い光線が放出される。
圧倒的な火力が、黄猿を蹂躙すべく殺到する。
しかしこの程度の火力では黄猿は倒せない。銃弾と光線は命中することなく周囲を更地に変えるだけであった。
しかし落胆する事なく、空中の黄猿目掛けて跳躍する野獣。
「邪剣『夜』(じゃけん よる)」
いつの間にか野獣の手に出現した日本刀。鋭い一線が敵を両断すべく空を切る。
「天叢雲剣(あまのむらくも)」
黄猿は呼応するように、半身以上もある光でできた巨大な剣を作り出す。
「ンアッー!!」
武装色の覇気の衝突。数度打ち合いも、力負けした野獣が吹き飛ぶ。
「頭に来ますよ~!(憤怒)」
体勢を崩した野獣に追撃のビームが迫るが、野獣の変貌が一手早かった。
下半身をドリルに変化させた野獣が地中に消える。
次の瞬間、足元からの無数のラッシュが襲いかかるも、見聞色の覇気で予期したボルサリーノは容易く避ける。
「う~ん、不思議だねぇ。一体何の悪魔の実の能力なんだい?」
多彩な変化に驚く言葉に、返答を待たずして放たれる黄猿の光速の蹴り。
常人なら避けることはおろか、認識すら不可能な強力無比な攻撃を野獣は気色悪い動作で回避する。
「ダイナモ感覚!ダイナモ感覚!」
「見聞色の覇気も扱えるか…こりゃ相当手強いねぇ」
この野獣のような男は厄介だ。そう悟ったボルサリーノは警戒を強める。
「まぁ多少はね?(王者の風格)」
力強く覇気を纏う野獣。
悪魔の実により作られた偽りの肉体がより強い茶色を帯びる。
「……こりゃ早いとこ芽を摘まないと不味いかもねぇ~。本気でいくよぉ」
ーーーーーー
戦闘の決着が訪れたのは、丁度1時間14分後が経過した頃。
「痛いですね…これは痛い…(迫真)」
満身創痍の野獣と、それを見下ろす黄猿。
両者の実力には圧倒的な差があった。
野獣は多彩な能力によるゴリ押しで勝利をもぎ取ろうとしたが、それで倒せるほど海軍中将は甘くはない。
寧ろここまで食い下がっただけ評価に値するだろう。
「何か言い残す事はあるかい?」
止めを差そうと指を向ける黄猿に、唐突に野獣の纏う雰囲気が変わった。
野獣のような鋭い眼光に気圧される黄猿。
「喉乾いた…喉乾かない?」
苦し紛れの命乞いでも述べるのかと思えば、飲み物の確認。
勝利が確定しているからこそ、ボルサリーノに僅かな隙が生じる。
「真夏の夜の御茶会(アイス・セカンド・ティーパーティ)」
技名と共に野獣の体からドバーっ!!と放出される茶色い汚濁。
「なっ!?」
アイスティーの津波が、周囲ごと虚を突かれた黄猿を飲み込んだ。
ーーーーー
「ぬわあああああああああ疲れたもおおおおおおおおおおおん」
数時間後。
黄猿を退けたタドコロは海上にいた。
間の抜けた言動だが、流石に疲労の色が濃い。しかし、中将時代とは言え黄猿を退けた達成感が野獣を昂らせていた。
唐突だが、この男は航海術を修得していない。
能力の一端である『新説シリーズ』を発動すれば擬似的に獲得はできるが、この能力は圧倒的な自由度と引き換えに体力の消耗が激しく、こうも連続して能力を使った後は使用を控えたかった。
ならばどうやって航海しているのかと言うと、これもまた己の能力によるものである。
「(悪魔の実の能力)やりますねぇ!」
野獣が乗船している船は、野獣自身であった。
毒々しい青色を繋ぎに、野獣自身のパーツを無数に切り離し、張り付けた事で作り上げられた巨船。
前世で『棄てるところのないゴミ』とまで称され、数多の趣味人に素材とされた彼の能力をもつタドコロは、大抵のものは己を素材に作成する術を持っていた。
悪魔の実の能力によるものなので長時間の航海は出来ないが、即席の移動手段としては十分に使える。
おまけにこの世界には存在しないエンジンまでも野獣をパーツに再現でき、通常の帆走船では不可能なカームベルトの移動すらも可能としていた。
「じゃけん”新世界”いきましょうね~」
身も心も野獣と化した転生者は、気の向くままに歩み始めた。
超人系悪魔の実、ヤジュヤジュの実
食べたものは野獣人間となる。
一般人が食べると人獣型にしかなれない動物系の劣化版のようになる能力だが、実は能力者の持つ『野獣』のイメージが能力に影響するという特性がある…あっ(察し)
頑張れば新説シリーズで森羅万象に変化できたりもする。
なお転生者の意思が弱々なので、『野獣先輩』に九割ほど自我が侵食されている。
天竜人をレ○プしたのもリザード顔の天『竜』人=遠野とかいうガバガバ理論の末路。
悪魔の実に意思があるのは動物系だけだろ!いい加減にしろ!
まぁ多少はね?
続きは野獣先輩の正体が判明したら書きます。