【完結】夢島ナイン   作:たあたん

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番外編 らーぜが来たっ!⑤

 田島悠一郎のファインプレーからのゲッツーにより、ツーアウト走者なしに陥れられてしまった夢島ナイン。続く7番ファースト・寺門は気合を入れて臨んだものの、力いっぱい打ち上げた球を凡飛球に抑えられ、あえなくチェンジとなった。

 

「っ、すいません……せめてオレがフツーに打ち上げてれば、チャンスがあったかもしれないのに」

「何言ってるんだよ、あの難しい球相手にバントを形にしたんだ。結果はともかく、悪い失敗じゃなかったよ!」

 

 無論、結果は大事──しかし練習試合なのだから、公式戦で二の鐵を踏まぬよう反省材料とすれば良いのだ。主将の確固たる言葉で、大河の心もいくらかは解れた。

 

「俺こそ情けないな……。打ち上げちまった」

「まあ、侮れないピッチャーなのは間違いなくなったね」

 

 寿也が単独で挙げた1点は、あってないようなもの。そのようなプレーに頼って戦うのでは、せっかく皆でアメリカにまで渡った意味がない。吾郎が出てくるまでに最低限逆転はしておかなければとの思いは、皆が共有していた。

 

 

 *

 

 

 

『3番、ショート、巣山くん』

「しゃす!」

 

 3回表、トップバッターは遊撃手の巣山。攻守両翼の要を任された有能な少年だが、良く言えばいぶし銀、有り体に言ってしまえば──

 

──とはいえ今は、"次"へ繋ぐという明白な目標を背負って打席に立っていた。

 

(このフィールドなら、田島でもホームランを出せるかもしれねえ。ここはオレが出て、点差を拡げる……!)

 

 才能はあるといっても、まだ経験値の足りていない大河である。それなりの球を、一応は指示された場所へ投げ込める──という程度では、クリーンナップ相手には通用するものではなくて。

 

──かぁんっ!

 

「っ、抜かれた!」

「丸山頼む!」

「ま、任せてっ」

 

 それなりに外野手も板についてきた丸山が二塁に送球し、単打に抑える。得点圏まで侵されずに済んだのは不幸中の幸いと言うべきか。──だとしても問題は、次だ。

 

『4番、サード田島くん』

 

 ふたたび打席に立つ小柄な少年。先ほどとは比較にならないほど真剣な表情を浮かべている。

 これは、打たれる。捕手としての本能から、寿也はそう悟った。

 

(公式戦なら、100パーセント敬遠……かな)

 

 公式戦ならば、だが。この試合、たとえどれほど危険な局面でも敬遠はしないと、事前に申し合わせてある。ピンチを切り抜けるにはどうすれば良いか、自分自身も含めてひたすら思考を巡らせる。これはその、貴重なチャンスでもあるのだから。

 

(失敗してもいい、でも逃げるのはダメだ。踏ん張ってくれ、大河)

 

 寿也の指示に頷きつつも、大河の表情は渋い。仕方ないこととはいえ、自らの実力では如何ともしがたい相手。……こういうのが嫌で、今まで楽に生きてきたのだけれど。

 

(しょうがねー……。打たれても文句言うなよ、おっさん方っ!!)

 

 心のうちで悪態をつきつつ、全力投球を仕掛ける。イメージの上では吾郎のような豪速球のつもりなのだが、田島から見ればたかが知れていた。

 

(今度こそ……ホーム、ランっ!)

 

 大河とは対照的に、己のイメージ通りに腕を振るえるのが田島である。迫りくる白球の軌道を瞬時に看破し──そして、本能と計算のもとに一発。

 果たしてそのスイングは、大河の投じた球を完璧に捉えていた。外野の頭をも越えたそれは、フェンスへと突き刺さってその動きを止めた。

 

「っしゃあ、2点追加ーっ!」

 

 体格に恵まれないゆえ、公式戦ではなかなか出せない本塁打。球場が狭いのはもちろんあるが、結果は結果だ。拳を振り上げて、田島は喜びを全身いっぱいに表したのだった。

 

 

 一方のホスト側ベンチでは、憤慨を露わにしている男がいた。

 

「ぬあぁっ、なーにやってんだアイツら……!3点差に突き放されちまったじゃねえか!」

 

 猛然と立ち上がる吾郎。そのままベンチを出ようとしたところを、試合中は記録くらいしか仕事のない顧問が呼び止める。

 

「おい、伝令は頼んでねーぞぉ」

「っ、伝令じゃねえよ交代だ交代!このまま打てねえ打たれるでやってたら、ボロ負けだっての……!」

「そうなったら、それがおまえ抜きのチームの実力ってことだろ?練習試合なんだから、それはそれで受け入れるしかねーっしょ」

「〜〜っ!」

 

 吾郎とて、そんなことはわかっている。皆が己の課題を見つけるための練習試合、敗けたとて次に活かせば良い。

 でも1年生だけのチームにボロ負けするようなことがあれば、反省よりも後悔が先に立つ。皆の士気がただ下がるような試合なら、最初からしないほうがいい。

 

「……とにかく、何があっても中盤まで出すなって涼子ちゃんには言われてっから。──信じて、見守ってやれよ」

「っ、……わかったよ」

 

 不承不承、座り込む吾郎。その自分より遥かに逞しい背中を眺めつつ、南雲は密かにため息をついた。彼の年若い義母に一目惚れしてしまったのが始まりとはいえ、こんな"教諭"の肩書きにふさわしい言葉までかけるようになるとは。

 

(……まあ、見てて飽きない連中だしな)

 

 今日のところは自らにそう言い聞かせ、試合の推移を見守ることにしたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 続く5番、西浦主将・花井。パワーだけなら間違いなく田島を大きく上回る少年だが、打球を大きく打ち上げてしまい、すかさず落下線上へ入った草野に捕られてしまう。

 

(くそ、田島のホームランで気負いすぎちまった……!)

 

 田島の腕力で打てるなら自分も、と思ってしまった。いやそれ自体は間違いではないのだ、ただ精神面で後塵を拝してしまっているがために、結果に結びつかない。花井梓、内心少なからずの焦りがあった。

 続く6番・沖は四球で出塁()してしまい──7番・水谷の出番。

 

(ワンナウト一塁……。沖は盗塁ナシか、こういう場合は──)

 

 送りバントではツーアウト二塁──次が三橋であることを考えれば、打つしかない。自信があるか否かは別にして、揺るぎのない結論だった。

 

(このピッチャー初心者だっていうし……今度はきっちり、打ってやるぞ!)

 

 やる気を見せる水谷。大河の球にミートするのは難しいことではない、が。

 

(──よし来たっ!)

 

 スイングが命中し、球が地面すれすれに翔んでいく。一・二塁間、一塁寄り。一塁手は足が遅いようだし、これなら抜ける──水谷がそう確信したときだった。

 

「──っ!!」

 

 すかさず飛び込んだ国分が、落着寸前でボールを確保する。判定は……ライナーで、アウト。

 

「ナイス、キャプテン!」

「さっすがやで!」

 

(ぜ、絶対抜けたと思ったのに……!)

 

 称賛の声がかかる中、悔しがるほかない水谷。我ながら良い当たりだと思ったのだが。

 

「やっぱり二遊間が堅いね。とはいえ外野も足の速いセンターと肩のいい左右が揃ってるし、案外、隙がないよ」

「ピッチャーが平凡なのを除けば、っすけどね」

 

 己も打席の用意をしつつ、女監督の言葉に応じる阿部。ツーアウトで三橋の打席である、本当はさっさと防具の用意をしたかったがこればかりは仕方がない。うまく四球を選んで出てくれれば、それはそれで御の字だが。

 とはいえそうそう何もかもがうまく行くわけもなく、あえなく三振にとられてスリーアウト。

 

(う、打てな、かった……。でもオレは、守れば、挽回できる)

 

 己に言い聞かせるようにして迅速にベンチへ戻り、阿部の用意を手伝う。その光景をたまたま目にした寿也は、そんな発想すらないだろう己の相棒──無論、大河ではなく──を横目で見て、複雑な気持ちになったのだった。

 

 

 *

 

 

 

 さて──なんとか田島の2ラン一本に抑えた夢島ナインだが、この回はあいにく8番からのスタート。

 

「ううっ」

「ストライク、アウト!」

「おらぁあっ……あれぇ?」

「……アウト!」

 

 と、これでツーアウト走者なし。内心辟易しつつ、リードオフマンは打席に立った。

 

(まったく、ふたりしてあっさり三振にとられやがって。……まぁ、俺も人のことは言えないけど)

 

 自分もそうだが、ここまで三橋の球を捉えられたのは寿也ただひとり。彼のようにはいかないにしても──このまま尻上がりに調子を上げさせるのを阻むことはできる。

 

「──っ!」

 

 初球から、すかさずバントを仕掛ける。名人といえるほどの巧みさをもっているわけではないと自覚しているが、転がしさえすれば。

 

(いける!!)

 

 三塁方面にころんと転がし、打球とは裏腹に全力で駆け抜ける。長らく短距離走(スプリント)で鍛えた脚力は、通常の打球処理では捕捉できない。

 

「っ!」

「セーフ!」

 

 そのまま一塁に滑り込み、みごと出塁。その俊足ぶりに、改めて西浦ナインは舌を巻いた。

 

(は、はえぇ……)

(さすが1番って感じだな……オレはあんな速く走れねーけど……)

 

 泉が口惜しく思う一方で、

 

「あの人……少なくとも陸上の経験がありますね、それも短距離走の」

「!わかるの、西広くん?」

「はは……これでも、僕も元陸上部なので」

 

 西浦ナイン10人目の男、西広辰太郎。野球の実力はまだまだ未知数だが、その博識と慧眼で皆から重宝されていた。

 閑話休題。

 

『2番──ショート、泉くん』

 

 ともあれ、走者は出た。──ここからが反撃の時機(とき)だと、泉は腹を括っていた。

 

 

 

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