【完結】夢島ナイン   作:たあたん

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番外編 らーぜが来たっ!⑪

 

「っ!」

「セーフ!」

 

 吾郎が一塁にたどり着き、

 

「よっしゃ同点や──ッ!」

 

 三宅……ではもちろんなく、寿也が本塁へと達したことで、苦戦を強いられてきた夢島ナインはようやく点差をゼロに詰めることができたのだった。

 

「やった、やったでぇ!」

「おまえ……さっきから自分の功績みたいに喜んでるよな」

 

 「スクイズミスったくせに」と、毒を吐く泉。事実を指摘しているがゆえに三宅には突き刺さった。

 

「ぐっ……え、ええやんけ!チームの成功はワイの成功や!」

「……羨ましいすね、そのポジティブ思考」

 

 やっかみ半分に呟く大河。いかに才能があると皆に持ち上げられていてもまだまだ素人、今日の試合を見ればわかるようにうまくいかないことのほうが多い。泉などに言わせれば能天気な三宅の思考回路も、皮肉抜きで羨ましいと思う大河なのだった。

 

 

 *

 

 

 

「むぅっ!」

 

──かぁんっ!

 

 続く寺門もかなり良い形で引っ張ったものの、予測していた花井が素早く飛び込みスリーアウト。

 

「すまん……」

「ドンマイドンマイ!もう同点だ、あとは勝ちに行くだけだぜ!」

 

 自分の球が、1年生たちに攻略されるなどありえない。まして相手は"繋ぐ"ことで得点を重ねるチームなのだ。

 

(警戒するとしたら……あいつか)

 

 一瞬だけ、背後を振り返る吾郎。反対側のベンチに戻っていくとりわけ小さな背中──確か、田島悠一郎といったか。

 彼だけは打者として図抜けている。勝負しがいがありそうだと、吾郎は燃えた。

 

 

 *

 

 

 

 とはいえ田島の出番はまだまだ先である。西浦も夢島も下位打線からのスタートであるがゆえに、この回は双方三者凡退に終わった。尤も西浦側は三人が三球三振、夢島側は全員当てはしたものの凡打という結果だったが。

 

「ナ〜イスピッチ、三橋!」

「!た、田島、くん……あ、ぁりが、」

「──同点に追いつかれちまってんだ、浮かれてらんねぇぞ」

「!!」

 

 冷や水をぶっかけるような阿部のひと言に、へらへらと表情を緩めていた三橋はふたたび挙動不審に陥ってしまう。

 

「……ここだけ切り出すと阿部、とことんヤなヤツだよな」

「えっ……あ、あぁまぁ、引き締め役も必要ってことで……」

 

 泉の密かな毒舌に、一応は阿部と旧知の仲──顔見知り程度だが──という関係性ゆえ、フォローを入れる栄口。とはいえ三橋の性格を考えると、果たしてどちらに比重を置くべきなのか。発足から二ヶ月、未だ尽きぬ調整役の悩みであった。

 

 

 *

 

 

 

「──っ!」

「く……っ!」

 

「ストライク、バッターアウト!」

 

 その栄口も、続く巣山も、吾郎の豪速球にはむやみに手を出すのが精々だった。上位打線に置かれている以上、彼らは決して悪い打者ではないのだが。

 

(まっずいねー……流石にレベルが違いすぎる)

 

 内心の話とはいえ、あまり悪い方向に断じたくはないのだけど──と、百枝。相手のストレートは推定100マイル、プロ野球選手の、しかも上澄みと対戦させているようなものだ。

 

「あ、あんなのどうやって打つんだよ……」

「……向こうは今んとこストレートしか投げてきてない。キャッチャーのクセが掴めれば、コースは見えるはず……」

「コースの問題じゃねえっての!」

 

 実際この通り、西浦ナインの大勢はすっかり萎縮してしまっている。さて、どうやって励ますべきか。

 

『4番、サード田島くん』

「っしゃああぁす!!」

 

 ベンチの様相とは対照的に、田島は今までで一番賑々しい声でコールに応じてみせた。その表情も、もはや抑えきれないとばかりにわくわくしたもので。

 

(あんなストレート見たことねえ……!これは勝負のしがいがあるぞぉ)

 

 今にもステップを踏み出しそうな様子の田島に、寿也は思わず苦笑した。吾郎の球を見てこういう反応になるとは、西浦の中では図抜けた逸材かもしれない。

 

(それでも体格からいって、ジャストミートでも吾郎くんの球をホームランにはできない。まずは真ん中で、どれだけ合わせてくるか見てみよう)

 

 ど真ん中にストレート──よほど投手を信頼していなければ、できない指示である。それを感じ取り、吾郎はニヤリと笑った。

 

(っし、いくぜ──!!)

 

 ツーアウト走者なし、何も遠慮することはない。両腕を大きく振りかぶって──投げる!

 

「っ!」

「ストライク!」

 

 流石に初球は、田島も手を出してこなかった。尤も振ったところで、到底スイングの追いつくような球ではなかったが。

 

(ま、マジかよやっべぇ〜……これ、あと2球で当てなきゃなのか)

 

 流石にこれは、初打席でどうこうするのは困難かもしれない。打てても後続には繋がらないだろうし……。一瞬弱気になりかかる田島だが、それはそれとすぐに思考を切り替えた。

 

(細かいこと考えるのはナシナシ!オレが打ちたい、今はそれだけ)

 

 長打を狙って、仮に的中させても飛球になるだけだ。ここはうまく転がして、内野を抜くのが最善手。

 

(次はアウトロー、ゾーンの枠一杯に入れてみよう)

 

 頷き──投げる。今度は田島も積極的なスイングを仕掛けてみせた。バチ、と、不穏な音が鳴り響く。

 

「……ストライク、ツー!」

 

 結果的に、吾郎の球はしっかりとキャッチャーミットに納まっていた。その感触に衰えのないことは確信しつつも、瞬詰めた息をふっと吐き出す寿也。

 

(掠った……。2球目でもうタイミングを合わせてきたのか)

 

 動体視力、敏捷性のある筋肉──その両方を兼ね備えていなければ、そんなことは不可能だ。1年生にして、彼は殆ど完成形に近い能力をもっている。体格を除けば、だが。

 

(……ここはもうひと枠外してみよう)

 

 これまでの全員、三球三振で打ち取っている。ここでボール球がくれば、"次"を読みにくくもなるはずだ。

 

(ボール球か……。ま、こいつ相手じゃ仕方ねえ)

 

 ひとりの例外なく三球三振で仕留めたい──というのも本音ではあったが。優先すべきが勝利であるのは、言うまでもないことだった。

 

「!」

「ボール!」

 

 今度もスイングを仕掛けようとしていた田島だったが、ボールの軌道を見た途端とっさに腕を引っ込めた。

 

(っぶねー、ウエスト挟んできた……。今までなかったのに、それなりに警戒してくれてるってこと?)

 

 ただでさえ度し難いものがさらに困難になるのだ、ここは焦るべきところなのだろう。しかし田島の心は、これほどの相手に認められたのだという喜びに支配されていた。

 

(とはいえ、いきなりヒットはキツいよなぁ。次はとにかく当てて、カットする……!)

 

 唇をぎゅっと引き結び、元々は大きめの瞳がすぅっと狭められる。纏う雰囲気が一気に鋭くなるのを、対峙する吾郎は感じていた。

 

(こいつは……──へへ、年下相手にゾクゾクすんのは初めてだぜ)

 

 アメリカでは一貫してエリートチームに属しつつ、卓越したピッチングで上級生をもやり込めてきた吾郎である。下級生が喰らいついてくる経験というのは、貴重なものに違いなかった。

 

(でも──そう長くは、続かせねえぜっ!!)

 

 寿也の指示したコースに、全力で速球を投げ込む。自らあれこれ考えないという意味では、彼も三橋と同じだった。

 

(来る……!今度はインハイ、枠から6センチってとこ──!)

 

 あとは、タイミングを間違えない!

 

──かぁんっ!

 

 果たしてボールは、田島の左斜め後ろへと弾かれていった。

 

「……ファール!」

(っし、狙い通り!)

 

 安打ではない。それゆえ表立って喜んだりはしなかったけれど、吾郎が登板して以来の快挙であることに間違いはなかった。

 

「あ、当てた……!」

「田島のやつ、やるじゃん!」

 

 あんなプロでもそうそうお目にかかれないような豪速球を、15歳の田島が──敵味方問わず、これには衝撃を受けた。

 とりわけ、直接ボールを采配するバッテリーは。

 

(当てただけ……とはいえ、ウエスト入れても4球目で……。なんて子だ)

(今の、コースまで完全に読んでやがった。それもトシの癖を掴んだとかじゃない、)

 

──吾郎が投じた瞬間、動体視力と反射神経のみで当たりをつけた。

 

(よーし、ギリギリだったけど狙い通りにはできた。あとは打ちながら修正修正、っと)

 

 とりあえずカットするのと、ヒットを出すのには当然ながら隔絶した差がある。できるだけ少ない球数で、そこにたどり着きたいところ。

 

(ちっ……そうはさせねえぜ──!)

 

 田島のねらいはわかっているとばかり、躊躇なく次の投球に移る吾郎。先ほどに輪をかけて勢いの激しい豪速球だが、

 

──かぁんっ!

 

 またしても、田島は命中をとった。今度はより大きく、ライト方向へのファールボール。

 

(おっしゃ、引っ張れた……!いいぞいいぞ)

 

 とはいえその副作用は、如実に身体に表れていたが。

 

(でも腕、ビリビリするぅ……!こりゃ、粘るのはきちぃなー)

 

 できればしばらくカットを続けながら球に慣れたかったが、腕が使い物にならなくなっては元も子もない。無理は承知で、決着(ケリ)をつける──!

 

(──そのつもりで来るなら、こっちも本気だ)

 

 今の吾郎に100マイル・ジャイロを超える武器が備わっていることを、当然ながら田島は知らなかった。

 

(な……!?落ち、る──)

 

 手元までまっすぐに飛んできて、さあ打つぞというところでガクンと落下する──アメリカ修行で身につけた切り札となりうる魔球、ジャイロフォーク。

 如何に天才打者といえども、事前情報なしでこれに対処できるわけがなかった。

 

「ストライク──バッターアウト!」

「っ、くそぉ!」

 

 まず口惜しがる。しかし見守る西浦ナインは、その段階にすら達していない。

 

「な、何今の……」

「フォーク、か……?」

「でも、球速も軌道も完全に──」

 

──ストレートと、変わらなかった。

 

「ふー……できれば速球(ファストボール)一本で勝負してやりたかったけどな」

 

 

「オレを本気にさせたんだ。お前らにはもう、勝ち目はないぜ?」

 

 

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