打順をがっつりミスってることに気づいたので突貫作業で修正しました……。
元のは夢島側の3回の攻撃分をまるごと飛ばしてしまってたので、4回裏を吾郎からの攻撃に変更、5回裏を丸山スタートにするために夢島の得点を1点に減らしてます。既に厚木戦を書き終えてしまっているので、できるだけ最低限の修正で済むようにした形です。そのため修正前より内容が相当薄くなってますがご容赦ください。
この試合、書いてる途中ここの他でもミスが頻発してました……。バトルものと違って野球の描写ミスは脳内補完がきかず致命的だと痛感しています。何か対策考えないとなぁ……。
4回裏、夢島学園高校の攻撃。3回は三者凡退に終わったために、結果的に4番からのスタートとなった。
『4番ピッチャー、本田くん〜』
静香の軽い声に気の抜けるような思いをしながらも、吾郎は打席に向かっていく──
刹那、三塁側──厚木ベンチに、思いもよらぬ姿を彼は認めた。
(!、あれは……)
この場には不似合いな、夏服姿の青年が三人。
「げっ、あいつらもう来たのかよ……!」
振り向いた渡嘉敷が蛙の潰れたような声を発する。"あいつら"が何者かは、続いて発せられた石松の笑い混じりの言葉によって確たるものとなった。
「うひひひっ、トカちん大ピ〜ンチ!ここで打たれたらピッチャー永久交代だネ!」
「──!」
(ようやく大本命のお出ましってわけかよ……!)
不敵に笑いながらも、冷たい汗が噴き出る。とりわけ三人の中心に立つ鉄面皮の男からは、強烈な闘気を感じとったのだ。──強敵だ、間違いなく。あるいはアメリカで相対してきたどんなライバルよりも。
「よォ〜、小森。おまえが言ってた剛腕ピッチャーっつーのはどいつだ?」
厚木学園が擁する投手のひとり、阿久津の問いに、小森は「ちょうど今打席にいる人だよ」と応じる。へぇ、と鼻を鳴らしたのは、鈍牛のようなのんびりとした風貌の市原だった。
「ウチ相手に4回までで1vs1か。小森が嘘をついたんじゃないことはわかったよ」
「打者としても優秀だよ。渡嘉敷くんを相手に初回でツーベースを打ったからね」
「プッ、それで焦ってんのかトカちゃん」
意地の悪い笑みを浮かべる──元々笑ったような表情だが──阿久津に対し、もうひとりの投手は微塵も表情を変えぬまま訊いた。
「こちらの1点は誰がとった?」
「薬師寺くんがツーベース、そのあと大場くんの進塁打と石松くんのスクイズで1点。あとはみんな三振か、よくて凡打に終わってる」
「かーっ、なっさけねー。こりゃ俺の出番かなァ」
コキコキと肩を鳴らす阿久津。その言葉を裏付けるように、渡嘉敷は吾郎から初球でまたしてもツーベースヒットを打たれていた。そこから5番の寿也は抑えられそうになるも意地を見せ進塁打、三宅が涼子からの指示のもとスクイズを敢行し、見事成功させた──
「よっしゃあ!勝ち越しだぁ!!」
ベンチで喜びを露にする夢島チーム。一方の厚木チームは大勢が歯噛みし、マウンド上の渡嘉敷は真っ白な灰のようになっている。
「ありゃもうダメだなぁ、トカちゃん脱落ぅ〜」
笑い混じりに茶化す阿久津を嗜めようとする小森だったが、それを見計らったかのように持ち込んでいた携帯電話が鳴動した。──予想どおりの人物から、予想どおりのタイミング。
「はい、小森です」
『ああ小森くん?静香でーす』監督とは思えない軽い声が響く。『眉村くんたち、もう到着してる?
「ええ、ちょうど今到着しましたよ。──交代ですか?」
投手たちの間に少なからず張り詰めたものが走る。とりわけ阿久津と市原は互いをライバル視していてお世辞にも仲がよろしいとは言えないので、いずれかが、となると対立が浮き彫りになりかねない。どちらかに肩入れするわけにいかない捕手としては悩みの種なのだが、投手というのは我が強いもの。今ちょうど「早く次の打者コールしろよー!!」と急かしている、相手の投手も例外ではないだろう。
『ええ。阿久津くんと、準備を始めてくれる?』
「阿久津くんですね、わかりました」
指名された阿久津がうひひと笑い、市原が不機嫌そうな表情を浮かべる。むろん、監督の指名である以上は文句など出ようはずもない。小森が電話を切ろうとしたところで、それを制止したのは眉村だった。
「小森、代わってくれ」
「えっ、ああ……。──監督、眉村くんが話したいと」
『……いいわよ、代わってちょうだい』
携帯電話を受け取った眉村は、「眉村です」と恭しく名乗ってから本題を切り出した。
「俺が出ます」
『……私は阿久津くんを出すと指示したのよ?』
「わかっています。ですがこんな試合、ダラダラと長引かせてもいいことはありません」
あの4番投手のバッティングを見て、眉村はひと目で判断したのだ。阿久津や市原では、試合が膠着するかもしれない。──自分なら、迅速に決着をつけられる。むろん、厚木ナインの勝利という形で。
『そう。ならこの試合、ノーヒットノーランを達成しなさい。あのエースくんからも、渡嘉敷くんからホームランを打った5番からもよ。できるわね?』
「当然、そのつもりです」
淡々としているが、自信……否、確信に満ちた声。彼にはもう、その未来が視えているのだ。
通話を終えると、
「着替えてくる」
「わかった、ブルペンで待ってるね」
ベンチの奥へ消えていく眉村を見送りつつ、小森はふたたびグラウンドを見た。吾郎はじっとこちらを見据え、挑戦的な笑みを浮かべている。根っからのチャレンジャー気質、相手がそうだと小森も嬉しくなる。
ただ、
(本田くん……。残念だけど、きみの快進撃もここまでだよ)
*
その後寺門はアウトとなって中盤5回の表は、引き続き吾郎の速球にチェンジアップやフォークを織り交ぜた投球によって三者凡退に終えることができた。
「ええ感じやんけワイら!中盤まできて日本一の高校に勝ち越してんねんで!?」
「お前はボーンヘッドやらかしてるけどね」
「うぐっ……」
「また泣くなよ国分?」
「泣かないよ!」
「油断しないで」
涼子のぴしゃりとした声に、場が静まり返る。
「向こうはまだ切り札を切っていないのよ。たかが1点のリード、向こうはいつだってひっくり返せるのを忘れないで」
そう──厚木の真の実力はこんなものではないはずだ。彼らは今、ようやくそれを引き出すところまでいった。ただそれだけのこと。
──そして王者は、隠していた牙を剥いた。
『選手の交代をお知らせしま〜す♪』
それを報せたのは、熱闘にはまったく不釣り合いな早乙女の軽薄な声だった。
『ピッチャー渡嘉敷くんに代わりまして、眉村くん。キャッチャー米倉くんに代わりまして、小森くん』
「!!」
5回裏、攻守交代のタイミング。ブルペンから現れたエース投手と、相棒の捕手。対照的な容姿のふたりは、しかしその足取りが一糸たりとも乱れていない。バッテリーとしての信頼関係がとうに完成に至っていることは、その姿を見れば容易に想像がついた。
「ちょ、監督!」
渡嘉敷が声を張り上げると、早乙女は忘れ物を思い出したかのように手を叩いた。
『はぁ、しょうがないわねぇ。──西城くんに代わって渡嘉敷くんがセカンドに入りまぁーす』
「………」
不満を隠せないながら、渡嘉敷が二塁手と交代する。──彼は眉村たちの後塵を拝する控えの投手であると同時に、正二塁手でもあった。尤も今日の試合で前者としての地位は剥奪が決まったわけだが。
「恨むからなぁ、小森〜……」
なんだかんだ投手の肩書きに誇りをもっていた渡嘉敷が恨み言を溢す中、改造厚木ナインは守備位置についた。
「……いよいよ、彼らも本気だね」
「ああ……」
面白ぇ、と不敵に笑う吾郎。──しかしそんな彼が己の虚勢を自覚するほどには、相手投手・眉村の放つ覇気は強烈なものだった。