【完結】夢島ナイン   作:たあたん

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帝仁もそうでしたがオリキャラ祭りです


サンフランシスコ・ヴァルカンズ

 

 アメリカ滞在、初日。深夜の到着だったために昼近くまでたっぷりと寝た夢島ナインは、午後になってジョー・ギブソンJr.と妹のメリッサの案内で近くの球場に移動することとなった。

 

「い、いよいよ本田の元チームメイトと対面か……」

「何緊張しとんねん、メジャーリーガーと会うんやあるまいに」

「まあ、数年後にはそうなっててもおかしくはねえけどな」

 

 そんなやりとりとともに、バスから降りる。──グラウンドに躍動する複数の人影が目に入ったのは、それから間もなくのことだった。

 

『お、もう練習始めてんのな』

『そのほうが話も早いからな。──見てろ』

 

 Jr.の指示のもと、グラウンドの外で"彼ら"の練習風景を観察する。敏捷なグラブ捌き、豪快なスイング。厚木高校のそれと比較しても、遜色ないメジャーリーガー候補生たちの所作。

 

「す、すごい……」

「これが、吾郎くんのチームメイト……」

「ばーか、なに言ってんだよトシ」バシッと肩を叩き、「今はお前らがチームメイトだろ?胸張ってろって」

「ちっ、なんで偉そうなんだよおまえはよ」

 

 児玉が毒づいたところで、メンバーのひとりがこちらに気づいたようだった。朗らかな笑みを浮かべ、こちらに駆け寄ってきた。

 

『おー、来たかJr.メリッサ。ゴローもおひさじゃん』

『おぅ。おまえも変わんねーな、ロディ』

『まーねー。お、ジャパニーズボーイがたくさん。そいつらがJr.の言ってたゴローの今のチームメイトなワケね』

 

 『ハジメマシテ』と軽い調子で会釈する、派手な茶髪に浅黒い肌が特徴的な、ラテン系の少年。彼──ロディは自分と同じチームで遊撃手を務めていたのだと、吾郎は語った。

 

『つーかそんなとこで何してんのよ。早よこっち来れば?』

 

 ロディの言葉で、一行の練習見学は終わりを告げた。彼らがグラウンドへ入っていくと同時に、吾郎の元チームメイトたちも練習を中断して集まってくる。

 

『元気そうだなゴロー、ジャパンはどうだ?』

『おまえもなリック。ま、楽しくやってんぜ』

 

 親しげに吾郎に声をかけたのが、吾郎と長くバッテリーを組んでいた捕手のリックだった。その他の面子とも、吾郎の通訳を介して自己紹介を行っていく。

 

──むろん、ただ挨拶をして新旧の吾郎のチームメイト同士で親睦を深めようなどというのではない。

 

『忙しいとこ集まってくれてありがとな、みんな。俺ら夢島チームが日本一になるために、力を貸してほしい』

『!……へぇ、日本一ねェ』

『ゴローらしい目標だな』

 

 皆、吾郎とは長い付き合いである。彼のフィジカルもメンタルもよくよく知り尽くしていた。

 ただ、

 

『おまえの実力はよぉく知ってる。……でも、周りの連中がそれについてこられるのか?』

「!………」

 

 英語での会話ゆえ、はっきりと理解できたのは吾郎含めごく一部の面々のみだった。その一部である寿也は瞠目したあと、ぎゅっと唇を引き結ぶことしかできない。

 ただ吾郎は、その問いに対して淀みなく返答した。

 

『そう言うと思ってたぜ。……ま、口で言うよりやりあったほうが早いだろ。そう思わねえ?』

『──なるほど。今のおまえのチームと俺らの親善試合ってとこか』

 

 顔を見合わせるリックとロディ。彼らは互いが目に好戦的な光をたたえていることを確認しあったうえで、同輩たちにも了承を求めた。──尤も彼らも最初から、ただただ吾郎の連れてきた日本人たちにのんびり指南してやろうなどという気は毛頭ない。我らがエースピッチャー、ゴロー・ホンダのチームメイトを標榜するのであれば、相応の実力を示してもらわなくては。

 

「つーわけで皆の衆、試合だ試合!ぱぱっと着替えて作戦会議すんぞー!」

「いやどういうわけやねん」

「会話の流れが僕らにはさっぱりなんだが……」

「ま、どうせそうなるだろうとは思ってたけどね」

 

 唐突は唐突だが、試合をすること自体に異存はない。戦ってこそ深まる親睦というものもある。

 

『で、Jr.はどっちに入んの?』

『決まってるだろう。ゴローのチームはちょうど9人、俺が入ってもしかたがない』

『オーライ。──見せてやろうぜ、俺らサンフランシスコ・ヴァルカンズの実力を』

 

 ギブソンJr.にとっても、それは望むところだった。

 

 

 *

 

 

 

 夢島ナインの準備と簡単な作戦会議が完了した四半刻後、いよいよ親善試合を開始する運びとなった。

 『ジャパンのウグイス嬢ってやつ、やりたい!』という申し出──というか、わがまま──を押し通したメリッサによって、試合開始が告げられる。審判はヴァルカンズの控え選手たちが交代が務める。

 

「Well……1回、オモテ、ヴァルカンズのコウゲキ。1バン、ショートストップ、ロディ!」

 

 拙い日本語でのコールに失笑しつつ、1番遊撃手のロディが左打席に立つ。彼は背後に座る相手捕手を一瞥すると、「ヨロシクネ〜」と片言の日本語とともにへらりと笑った。

 

(如何にもショートってタイプの人だな。でも……)

 

 会釈を返しつつ、寿也は準備中の吾郎による解説を思い出していた。

 

 

──はっきり言って連中は、日本なら全員が4番でもおかしくねえ。俺の球にもガンガン当ててくる。

 

──攻略するには、打たせてとるしかねえ。頼りにしてるぜ、お前ら!

 

 

(吾郎くんにそこまで言わせたんだ。尻込みなんてしていられない……!)

 

 今日はコーチャーの涼子もいない。自分の指示が試合の潮流を決めるのだと、寿也は肚をくくった。

 

──プレイが宣告され、一球目。

 

「Strike!」

 

 内角中心寄りに納まった白球を見下ろして、ロディはひゅうと口笛を吹いた。

 

『相変わらず速ぇー』

「………」

 

 当然だが、驚きは微塵もないようだった。シニア時代に吾郎の速球はさんざん見てきているのだ、彼らは。

 

 二球目。内角低め、ストライクゾーンに入るか際どいところだったが、ロディはバットを振った。ファウルゾーン内のフェンスに、ボールが鋭く突き刺さる。

 

(本当にあっさり当ててきた……)

 

 吾郎の言葉は大袈裟でもなんでもなかった。100マイル・ジャイロをミートできるバッティングを前に、寿也だけでなく、野手たちも圧倒されていた。

 ただひとり、吾郎だけが泰然としている。彼らサンフランシスコ・ヴァルカンズのOBたちが吾郎の実力をよく知っているように、逆もまた然りだ。だからこの試合は正面の女房役と、背後の番人たちの力が必要になる。

 

(さあどうする、トシ?)

 

 持ち味の速球ばりに鋭いアイコンタクトを受けて、寿也は三球目のサインを出した。それを認めて、吾郎はかすかに笑みを浮かべる。

 いったんボール球に逃げる、あるいは厚木との練習試合のように変化球で煙に巻くという選択肢もあった。しかし寿也は、引き続き速球による勝負を提示したのだ。

 

 繰り返すようだが、吾郎の手のうちは知り尽くされている。ならば必要以上に臆病になってもしかたがない。打たれたとしても、アウトをとればいい。

 

「いい判断だぜ──恋女房!!」

 

 力いっぱい、三球目を投じる。ロディは八重歯を覗かせてニヤリと笑った。吾郎の使ってくる球種が──変化球も使えるとはいえ──ひとつしかない以上、狙い球も何もない。ここだと思ったところで、バットを振るだけだ。

 

──かあぁんっ!

 

「!」

 

 果たして鋭い打突音とともに、ボールは高く舞い上がった。思わず立ち上がる寿也。マスクを外し、白球の描く軌道をみる。

 

(大丈夫だ、これなら)

 

 ゆっくりと落ちてくる球を、ライトの児玉が捕球する。一塁を踏んだロディだったが、ふたたびひゅうと口笛を吹くとそのまま踵を返した。

 

『ちぇっ、カチ上げちまった』

 

 ぼやきながらベンチに戻る。その道中には、次の打者たるメジャー投手の2世がいる。

 

『打てそうかい、Jr.?』

『いちいち訊くな』

『ははっ……頼んだぜ』

 

「──2バン、サードベースマン。ジョー・ギブソン、ジュニアー!!」

『メリッサ!叫ぶな、普通にやれ普通に』

『えー……』

 

 せっかくの兄の打席なのだからと盛り上げたつもりのメリッサだったが、その兄からお叱りを受けて唇を尖らせる。まあウグイス嬢はどんなときでも公平に落ち着いた声色でアナウンスするのが当然なので、叱責は当然ともいえるのだが。

 ともあれ前のロディと同様、左打席に立つギブソンJr.ヴァルカンズの中でも打撃において頭ひとつ抜けたセンスをもつ彼が2番打者というのは意外に思われるところかもしれないが、ここに最強打者を置くのはアメリカでは既に主流となりつつある用平術のひとつである。アウトカウントを増やさず、大量得点を狙う。むろんそのためには、クリーンナップの実力も必要になってくるが。

 

──Jr.は俺の知ってる限り、三振したことがない。それと……毎試合必ずひとつは、ホームランを打ってる。

 

 ふたたび思い出される、吾郎の言葉。普通ならボール球を挟みつつ慎重にいきたいところだが、彼はこうも言っていた。ボール球には、絶対に手を出さないと。

 

(選球眼もずば抜けてるなら、勝負するしかない)

 

 寿也のサインに、吾郎は頷いた。大枠の考えはまったく同じだ。あとはコースで裏をかくしかない。

 

 ワインドアップから、投球。内角、ストライクゾーンからぎりぎり外れない高度──低め──に吾郎はボールを投げ込む。

 しかしミットにボールが収まろうかという寸前、Jr.は躊躇なくバットを振った。

 

「──!」

 

 先ほどと同じ鋭い打突音、舞い上がるボール。慌てて追う草野だが、

 

──ボールは、フェンスを越えていった。

 

「ウソ、やろ……」

「本田の……球が……」

 

 眉ひとつ動かさず、ダイヤモンドを回るJr.その表情はまるで、この結果を最初から確信していたかのようで。

 

(これが、本場の野球……)

 

 

 吾郎を除く面々はようやく、自分たちが今いるのがアメリカなのだと実感させられるのだった。

 

 

 

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