【完結】夢島ナイン   作:たあたん

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あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いいたします

一年前はまさかMAJORの二次を書いてるとは思いもしなかった…
これもパーフェクトクローザーに感謝?


寿也の反撃

 

 ノーアウト一・三塁。一塁にはギブソンJr.三塁にはロディ。

 この状況で点をとられないための最善は、三振をとることに決まっている。

 

「タイム!」

 

 ここでタイムを要求した寿也は、そのままマウンドの相棒のもとへ駆けていった。

 

 

「──変化球を使おう、吾郎くん」

 

 チームの頭脳の思いもよらぬ指令に、手足たる内野陣は一瞬ざわついた。厚木戦でそれをやって、読み切られて本塁打を打たれた──その苦い記憶は、誰より寿也が色濃く残しているはずなのに。

 

「皆の反応もわかる、厚木のときを忘れたわけじゃない。でも三振をとるためには、()()()が必要なんだ」

「!……なるほど、そういうことね」

 

 泉の呟きに、三宅が「どういうことや?」と首を傾げる。同じく寿也の意図を理解した国分が代わって口を開いた。

 

「ボール球として変化球を挟むんだ。バラバラのタイミングでそれが挟まれば、向こうはストレートにも手が出しづらくなる。よほど悪球打ちしてこない限り、見逃し三振をとれる確率がぐっと上がるんだよ」

「お、おぉ……まぁそうなるわな」

「しかし、そう上手く行くか?手のうちがわかれば向こうも──」

 

「──3、4番だけだ」

 

 寺門の言葉を遮るように、寿也は続けた。

 

「ツーアウトにできれば、次の5番には打たせてもいい。そのときは皆、頼むよ」

「!佐藤……」

 

 寿也は焦っているわけでは決してない。最終的な勝利のため、考え抜いた末にそれが必要なのだと結論づけたのだ。

 であればその女房役の判断を、エースは尊重することにした。

 

「わかった。──でも、」

「?」

 

「全員、三振にしちまってもいいんだろ?」

 

 この期に及んでも自信に満ち溢れた言葉に、場がふたたび沸いた。

 

 

 *

 

 

 

 改めて、プレイ。

 

(何相談したか知らんが……このチャンスをモノにできないほど、オレは落ちぶれちゃいねえぜ)

 

 2番に最強打者を配置しているとはいえ、彼らはクリーンナップである。チームの中でも打撃に秀でているという自負はあったし、吾郎の豪速球を常に意識しながら練習だってしてきた。

 とはいえ、

 

「Strike!!」

(っ、すげぇ際どいとこ突いてくんな……)

 

 吾郎の精密なコントロールにかこつけて、厭らしいリードをするキャッチャーだとサムは思った。見かけは細っこい優男のくせに、日本人(ジャパニーズ)とはこういうものなのか。

 

(まあいい。それでも大体の癖は掴んだ、次はおそらく……)

 

 寿也の配給の癖から次のコースを予測し、長打を狙うサム。果たして二球目は、それに合致した軌道を描き──

 

「──ッ!?」

 

 スイングしようとして、慌てて腕を止めた。ボールの軌道が少しずつ、しかし確実にぐにゃりと湾曲したのだ。結果的にはストライクゾーンから大きく外れ、ボール判定となったが。

 

(ゴローが変化球だと……!?)

 

 瞠目するサム。吾郎が試合において変化球を扱う姿は、殆ど見たことがなかった。彼なりに色々習得はしていたようだが、Jr.を筆頭とした強打者たち相手に何度も試行錯誤した結果として豪速球一本でねじ伏せるスタイルを選んだはずだ。

 

(どういうつもりだ?今さらオレら相手にそんなもんが通用すると?)

 

 吾郎の変化球もそれなりのものではあるが、実戦で使い込まれていない付け焼き刃である。一流の打者には通用しない。ストライクゾーンに入ってくれば、容赦なく飛ばしてやる。

 そんな考えとは裏腹に、二球目はストレートが来た。咄嗟にバットを振るが、うまく飛ばせずにファール。

 

「ちっ……」

 

 舌打ち混じりにバットを握り直す後ろ姿を見上げつつ、寿也は心のうちでガッツポーズをとる。

 

(いいぞ、迷ってる。もう一球、クサいところにストレートを入れて……)

 

 見逃し避けにもう一度スイングするサムだが、これもファール。そして四球目。

 

「Ball Two!」

「っ、」

 

 ストレート、と見せかけてのカットボール。また手を出しそうになって、咄嗟に引っ込める。腹立たしいことこのうえなかった。

 続いて──五球目。

 

(さっきと同じ軌道……!こいつは──!)

 

 またボール球の変化球(カットボール)だ。そう判断したサムはバットを振ろうとしなかった。

 しかし、

 

「Strike Out!!」

『な……!?』

 

 と、見せかけての──速球。ストライクゾーンの際も際を狙ったその一発が、見事この試合初の三振をとったのだ。

 

「っしゃあ!!」

 

 ガッツポーズをとる吾郎。背後の内野手たちからも「ナイピー!!」と声がかかる。

 

(これでワンナウト……。僕らの意図には気づかれたか?でも、打ちづらくなったことに変わりはないはずだ)

 

 続く4番ステフは真ん中寄りのストレートに見せかけたボール球の変化球に手を出し、三直(サードライナー)で凡退。寿也の狙い通りツーアウトとなった状態で、続く打者を迎える。

 

(サムもステフも、こんな見せ球にあっさり引っかかっちゃって)

 

 内心毒づくマシュー。二打席ぶん変化球がボール球ばかりだったことで、本気で打ち取るための球でないことは彼らも理解していた。これではせっかくの大量得点のチャンスをフイにしたようなものだ。もとよりアウトカウントをとられる前提のプレーはしていないが、吾郎相手に易々とヒットが打てるわけではない。

 

(オレ相手にも使ってくるかな?それとももう打ち止めかな?)

 

 ただ、このまま3アウト目を狙って仕掛けてくるかどうかは、マシューも判断に迷っていて。

 

(迷ってるな。よし……最後に一球だけ、ダミーで入れておこう)

 

 チェンジアップのサインを出すと吾郎は一瞬呆気にとられた様子を見せたが、寿也の表情からすぐに意図を理解したらしい。頷くと、素早く投球に転じる。

 

「Ball!」

 

 マシューはこれで見せ球作戦が続くと確信したはずだ。あとは2回のような、内野を抜かれるような当たりを封じるだけ。

 

(あとは俺の実力次第だ、なっ!!)

 

 寿也の策でここまで積み上げて、ヒットを打たれるようでは自分は二流だ。そんなことはないと信じるからこそ、全力でねじ伏せる──!

 

「っ!?」

「Strike!!」

 

(まだ速くなるのか……!?)

 

 100マイル、いやそれ以上に達しているのではないか。それでいて捕手のリードで打ちづらいところを突いてくるから、迂闊に手が出せないのだ。

 それでも意地でバットに当てたマシューだったが、詰まらされて平凡なセカンドゴロにしてしまう。素早く拾い上げた国分が二塁を踏み、Jr.をアウトにして"3つ目"をとった。

 

「Change!」

「──っしゃあぁ!!」

 

 マウンドの上で喜びを露にする吾郎。寿也もまた、ガッツポーズでそれに応えた。バッテリーの戦術と信念とがひとつの勝利をもたらした、それは間違いない。

 むろん、試合そのものはまだこれから。これから──真の勝利を掴むのだ。

 

 

 *

 

 

 

「4バンピッチャー、ゴロー!」

 

 5回裏、エースから始まる打順。この試合の中でもとりわけ気合の入る局面、投げ疲れているから、守備で十分な活躍をしているから、などという言い訳は本田吾郎とはおよそ無縁の代物だった。

 

(ここで俺が打って、流れを取り戻す)

 

 そのチャンスは大いにある。ここまでひとりで投げ抜いてきたアラン──未だ表情には出ていないけれど、間違いなく疲労が蓄積しているはずだ。

 逆にここでビハインドを覆せなければ、勝利は大きく遠のくだろう。現状の1点差がどう動くかに関係なく、そうなるという本能的な予感があった。

 

(初球で、決めてやるぜっ!!)

 

 投げさせて体力を消耗させる手もないではないが、さっさと決めたいのはこちらも同じ。何より疲れていようと、球数が増えれば増えるほどヴァルカンズバッテリーのとりうる選択肢は無数に枝分かれしていくのだ。

 

 果たして吾郎の考えは的中し、アランの投じたストレートを見事に捉えることに成功した。とはいえ思ったほど弾道は上がらず、内野を抜けて左中間へ転がるだけに終わったのだが。

 

(ちっ、思ったより飛ばなかった……!)

 

 アランもリックも、まだまだ気合十分ということか。ここは一発ホームランで、仲間たちの士気を盛り上げようと思っていたのだが。

 しかし続く寿也なら、自分の結果にかかわらず打ってくれるはずだ。──そんな吾郎の信頼に応えるように、相棒は鋭い当たりを異国の空へ飛ばした。

 

「やった……!」

「ツーベースやツーベース!」

 

 夢島ベンチから「ナイスバッティング!」と揃えた声援が響く。彼らは少しずつ、しかし確実にチームとして完成されつつあった。

 それは陸上部を本業とする、彼とて例外ではない。

 

(ノーアウト二・三塁か……)

 

 自分も先を行ったクリーンナップのふたりのように、ナイスバッティングと言われたい。そんな欲が頭をもたげる。格上相手ばかりとはいえ、2試合も安打がないというのは未だに悩みの種だった。

 いや、と頭を振って考え直す。必要なときに、必要なプレーをする。それができてこそ真のプレイヤーだ。あの吾郎だって──ウラをかいてやろうという遊び心半分とはいえ──、打てる可能性が十分にあるところ、スクイズを実行したのだ。

 

(なら、この場は僕も……!)

 

 結果として草野も、それを選んだ。ボールをうまく一塁方向へ大きく転がし、自らを囮にして二・三塁走者を進塁させる。アウトカウントひとつと引き換えに、1点。

 

「よっしゃ同点ン!」

「ナイススクイズ、草野ー!」

 

 ベンチから称賛の声が飛ぶ。ベンチだけではない──ともにそこへ帰る吾郎からも、肩を叩かれた。

 

「グッジョブ!いい仕事だったぜ、草野」

「……きみには敵わないよ」

 

 「まーな!」と鼻頭を擦る吾郎。こういうとき、ちっとも謙遜しないのが彼らしい──苦笑いしつつ、草野はそう思った。

 

 

 その後寺門の犠牲フライにより寿也も生還を遂げ、夢島ナインはふたたび勝ち越し点を挙げることができたのだった。

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