【完結】夢島ナイン   作:たあたん

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今回は非オリ高校との対戦ということで
サンデーうぇぶりで原作の久里山戦を読みながら書きました。
終盤からはやや分岐してきます。


準決開始

 

 七月下旬、神奈川県大会準決勝。午前中にBブロック、午後にAブロックの試合を行うこととなっている。順序的には間違っているようにも感じられるが、そこはいわゆる大人の事情というものが多分に関係してきているのだろう。何せAブロックを勝ち抜いてきた片割れは、既に甲子園出場どころかその制覇までもが確実視されている厚木学園高校なのだから。

 一方、このBブロック最後の試合も注目度そのもので言えば遜色はない。厚木に挑戦するのは夢島か、久里山か。いずれもプロ注目のバッテリーが属している。観客席も双方の関係者はもちろんのこと、マスコミやプロのスカウトで埋め尽くされている。

 

 

 暑く、熱い一日がはじまろうとしていた。

 

 

 *

 

 

 

『──1回の表、夢島学園高校の攻撃は、1番センター、草野くん』

 

 先攻、夢島ナイン。俊足の1番打者・草野が打席に立つ。

 

「打てよ、草野ー!!」

 

 ベンチから声をかける吾郎。無論彼の言う通り、出塁して点に繋げるのが最良ではある。とはいえ香取という投手、こちらの手法が易々と嵌るような相手ではなさそうで。

 

「スライダー、投げてくるか?」

「どうだろう、初回だからね。彼らが僕たちをどこまで評価しているか……」

 

 彼らにとって最大の脅威は、言うまでもなく吾郎だろう。そこさえ乗り切ればいいと考えているなら、少なくとも序盤はそれ以外に切り札は切ってこないかもしれない。

 作戦変更を強いるためには──やはり、打つこと。

 

「ボール!」

「………」

 

(一球目は外してきたか……。バント警戒されるのは当然か)

 

 今大会、草野の出塁は殆どバントによるものだ。打力がないわけではないが、脚を恃んで強引に出塁、からの二盗で事実上の二塁打にできる。そこから泉の安打ないし送りバント、三宅のスクイズで1点、そこから吾郎と寿也で相手の投手を完全に叩き潰す──夢島ナイン初回の黄金パターンだった。

 ただ相手も、わかっていてそれを許すほど甘い相手ではない。

 

「っ!」

「ストライ〜ク!」

 

 今度は低めに入れてきた。またボールかと思って見送ったが、際どいところだったようだ。

 

(俺相手に四球を出すわけがないか……。スライダー狙いは泉にまかせて、とにかく出塁()るしかない)

 

 セーフティバントを狙う草野と、それを阻止せんとする久里山バッテリー。

 後者がツーストライクまでをとったところで、ついにあとへは引けなくなった。

 

(っ、とにかく前へ転がすしかない!)

 

 勢い込んでついにバントを仕掛けた草野。いちかばちかだったが、ボールは投手正面に転がっていった。流石に草野の脚でも一塁に間に合わず、アウトになってしまう。

 

(流石に無理か……。だが、多少はプレッシャーも与えられたはずだ)

 

 初打席からそれなりの読み合いはできた。ただ、香取の高速スライダーを引き出すには至らない。それは続く泉が為してくれるだろう、と。

 ただここでも、久里山バッテリーは徹底的にスライダーを避けた。様々な変化球を織り交ぜながら、かく乱にかかる。それでいて明らかなボール球は、なかなか出てこない。

 

「くっ!」

「ファール!」

 

(ダメだ噛み合わねえ……。スライダーなしでこれかよ)

 

 歯噛みしつつ、ボールの飛んだ先を見上げる。スライダーを引き出させて、そのうえで打つ。それが目標だったが、ここはいずれかを捨てるしかないかもしれない。──ならばどちらをとるべきか、泉の判断は素早かった。

 

(まずはその余裕、ブチ砕くっ!)

 

 続く球は、内角寄りのチェンジアップ。タイミング外しのつもりだろうが、想定できていればどうということはない。冷静にひと呼吸を置いてから、泉は狙ったコースにボールを叩きつけた。

 

「おおっ!」

「よっしゃ抜け──」

 

 三遊間、三塁寄り、ライナー性の打球。にもかかわらずなぜか三塁手は動かず、完全に外野へ抜けたと夢島ナインの誰もが確信していた。

 しかしその直後、予想だにしない光景が彼らを待ち受けていた。

 

 砂塵を巻き上げながら、白い影が視界を横切る。なんだと思っているうちに、"それ"が打球を捉えていて。

 

「へへっ、──ほらよ!」

「えっ!?」

 

 一塁への送球に、泉はらしからぬ間抜けな声を発していた。結局彼は塁までたどり着けず、あっさりと2アウト目をとられてしまった。

 

(さ、サードにとられた?)

 

 そう思って振り向いた泉は次の瞬間、ぎょっと目を見開いていた。得意げに足元の砂をはたいていたのは──遊撃手、だったのだ。

 

(あいつ、かなり二塁に寄ってたはずだろ……!?なんつー脚と反応速度だよ……!)

 

 信じがたいことだったが、現実は現実として受け入れるほかない。無念さを堪えながらベンチへ戻る泉を、香取は一見すると慈しむような笑みで見送っていた。

 

(ふふ……そうやってしおらしくしてればいいのよ、おチビちゃん。ウチ相手にラインドライブなんて、通用しないんだから)

 

 そういえば、彼も遊撃手だったか。守備には定評があるようだが、どちらが上か、徹底的に教え込んでやらねばなるまい。

 

 

 *

 

 

 

「だあぁっ!」

 

──パシッ、

 

「アウト!──チェンジ!」

 

 三宅の打った球は浅い飛球として処理され、夢島初回の攻撃は三者凡退に終った。

 

「す、スマン……当たるには当たるんやけど……」

「なかなかに手ごわいピッチャーだな」

 

 結局出塁も、スライダーを見ることもかなわなかった。彼らとしては、思わしくない滑り出しではある。

 ただ、

 

「まぁいいさ。こっちも三者凡退させて、仕切り直しだ!」

「──ああ!」

 

 

『1回の裏、久里山高校の攻撃──』

 

『──1番ショート、多岐川くん』

 

 トップバッターは先ほど泉の安打を阻んだ遊撃手。三白眼と時折覗く鋭い犬歯が爬虫類を思わせる。気になるのはやはり、その尋常でない反応速度だ。

 

(速さは草野並……。外野じゃなくショートなのは、反応速度と低い打球の処理能力を買われて、か)

 

 ここまでの試合はバッテリーのふたりばかりがクローズアップされていたが、この少年もなかなかの強者に相違あるまい。ボールに触れさせるだけで、危険だ。

 

(ここは──)

(──三振一択、ってね!)

 

 振りかぶって、初球。颶風が巻き起こり、スピンのかかった白球がミットに吸い込まれていく。

 

「ストライィク!!」

 

 流石の多岐川も、これには手が出なかった。映像ではさんざん見ているとはいえ、生で、それも相対する形ではまったく感触が異なる。

 

(なるほど……。こりゃそこいらのまっすぐとは格が違ぇな……)

 

 球速もさることながら、球威が凄まじい。唐沢のジャストミートで、ようやく外野へ運べるかどうか、というところだろう。とはいえ内野の守備は固く、まぐれ当たりは簡単に処理されてしまうだろう。

 

──普通なら。

 

(ストレート1本で三振とられるほど、平塚のタッキィは甘くねーんだよ!!)

 

 迫りくる100マイル級ジャイロめがけて、今度こそ多岐川はバットを振った。先端がかろうじてボールに命中し、一・二塁方向に飛んでいく。

 

(当てた……!?でも、ただのゴロだ!)

 

 転がってきたボールを、国分は特にエラーもまごつくこともなく処理した。二塁手として、何も落ち度はない。

 にもかかわらず、

 

「──セーフ!」

「な……!?」

 

 寺門がボールを受け取るより早く、多岐川は塁を踏み越えていたのだ。

 

「マジかよ……ふつーのセカンドゴロだぞ」

「ありゃ、草野より速ぇんじゃねえか?」

「速さっていうより……とにかくなりふり構わないって、感じがします」

 

 ベンチの3人の会話。そのいずれもが間違ってはいない。短距離走者が本職の草野はとにかく正統派な全力疾走であるのに対し、多岐川のそれは強行突破と言っていい。ただタイムを縮めるのではなく、野手たちの打球処理より早く塁を踏むための走り方を、彼は知り尽くしている──

 

(すばしこいセカンドに、リーチのあるファースト……。正直五分五分だと思っていたけど、さすが多岐川だ。これなら、チャレンジさせてみてもいいな)

 

 続く2番打者、及び多岐川にサインを送る球太。失敗してもそのときはそのときだ。まだ初回、こちらのペースを上げ、相手のそれを崩せれば及第点。実際、顔に出やすい多岐川は目を輝かせている。

 

「多岐川のやつ、あれじゃ仕掛けるってバレバレね」

「まあ、仕方ないさ。それがあいつの個性なんだから」

「ふふ……球ちゃんのそーいうトコ、アタシ嫌いじゃないわ」

「……バカ言ってないで早く次、行きなさい」

「はぁーい」

 

 

 一方、キャッチャーズボックスの寿也。彼もマウンドの吾郎も、いま打席にいる打者以上に多岐川を警戒していた。次にどんな手でくるかは、読み合いをするまでもなく明らかだった。

 

(絶対盗塁してくる。防ごう!)

 

 サインに頷き、クイックモーションで投球。高く外したボール球を投げたところで、多岐川は走った。

 

「っ!」

 

 すかさず二塁に送球する寿也。待ち構えていた国分がそれを受け取って迫る多岐川を刺しにかかる。果たして、

 

「……セーフっ!」

 

 判定は、多岐川の勝利。流石に彼も内心ではヒヤヒヤものだったが。

 

(あぶねーあぶねー……。審判がもうちょいテキトーだったらアウト判定でもおかしかなかったぜ)

 

 なかなかの賭けだったが、それを厭わず挑戦させてくれる監督のことは心の底から有り難いと思っていた。自信家の多岐川は入学当初から先輩相手にもずけずけとモノを言うタイプだったが、当時その"先輩"のひとりだった──選手ではなくマネージャーだったが──球太はしっかりそれを受け止め、対等に意見をかわしてくれた。

 

(せっかくノーアウトで得点圏に入ったんだ。ここはきっちり1点とって、球ちゃん監督を喜ばせてやるぜ!)

 

 ただここからは、チームプレーだ。2番・森が空振ってしまえば、1点は遠のく。

 逆を言えば──空振りでさえなければ、多岐川はそのチャンスを活かす自負があった。

 

 その森はというと、半ば破れかぶれのようなバントを決めていた。というより、なんとか当てたというのが正しいか。

 ボールを大きく打ち上げてしまい、後方へ飛ばしてしまったのだから。

 

「っ!」

 

 すかさず寿也が走り、ボールを確保する。それを確認した主審によりアウトが宣告され、送りバント失敗──普通なら。

 

「トシ、サードだ!!」

「!」

 

 よもやと思っていた。しかし、まさかという気持ちもあった。

 ともあれ寿也は呆けることもなく、三塁めがけて送球した。今度こそ──!

 

「セーフ!」

「ぐ……っ!」

 

 またもやすれすれながら、多岐川は三塁に到達してみせた。いったい、何が起こったのか。

 

(佐藤が捕った瞬間、帰塁してタッチアップ……)

(やろうってだけでどうかしてる……でも、成功させるなんて──)

 

「っ、……こりゃあ、タフな試合になりそうだぜ」

 

 汗を乱暴に拭いながら、吾郎は笑みを浮かべた。続くはクリーンナップ──初回にして、正念場が訪れようとしている。

 

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