Liellive! TRINITY-リエライブ! トリニティ- 作:海色 桜斗
お待たせまたまた、最新話です。
アニメだと「かのクゥ」でまだ盛り上がってる時期ですね。
……フハハ!残念だったな、此処は「れんかの」一択だぜ!!!!
前の話から見てくれている人は分かる通り、暫らくはななみ、やえ、ここのを準レギュラーとしつつ、かのん、恋、千砂都の3名を主体で動かしていきます。
え、今のところ可可の影も形もないじゃないかって?
HAHAHA、まぁまぁ落ち着いて。まだ慌てるような時間じゃあないさ。
――時は遡り、結ヶ丘女子高等学校の開校から4日後の事。
『よっ、ほっ、はっ・・・・・・!』
相変わらず部活動勧誘が中庭で行われている最中、ダンスの才能を買われて音楽科に所属した嵐千砂都は、勧誘中の他の部の生徒の邪魔にならないように端の方で個人練習に励んでいた。
『うーんっ、やっぱり晴れてる時は外で練習が一番だね!』
自論に従い、今日も今日とて努力する。それが、彼女自身の選んだ道でもあり、試練でもあるのだ。
『すぅーっ・・・・・・――ふぅーっ』
彼女の努力は、この高校に入ってから始まった等と言う底の浅いものではない。自分なりに出来る事を探して、その求道の果てに見つけた素質を伸ばすことで得た才能開花。故に、中学時代は全てそれを磨き上がる事だけに時間を費やしたと言っても過言ではない。
『よっし、基礎トレはこれでお終い、っと。次はー・・・・・・――おぉ?』
身体が程良く温まってきたところで、次の練習メニューに取り掛かろうとした、その時だった。
千砂都の視界の端・・・・・・要するに、彼女が練習している場所よりも更に奥まった、隅っこも隅っこな場所に人影が見えた。最初は気のせいかな、とそのままスルーしかけたが、その人影が何かを掲げているのを確認し、すぐさま視線を戻す。すると。
『・・・・・・』
木陰のせいか、かなり存在が希薄になるその場所で、一人の少女が白い看板を手にちょこんと体育座りをしたまま視線を地面に向けている姿があった。
『(あれは・・・・・・葉月さん? 何してるんだろ、あんなところで)』
――葉月恋。結ヶ丘女子高等学校の音楽科に現在所属する生徒達の中でもトップの座に君臨するエースオブエース。
千砂都は、そんな異名で知られている彼女の事を聞いたことがあった。いや、正確には彼女と同じ音楽科に所属しているが故に、普通に日常を過ごしていようが、彼女の話題みたいなものが自然と耳に入ってくる機会が多く、嫌が応にもすっかり覚えてしまったと言うべきだろうか。
兎にも角にも、彼女の噂について1日たりとも聞こえない日は無かったのだ。
『んん~・・・・・・?』
音楽科どころかこの結ヶ丘で名の知れた有名人である彼女が、一体こんな所で何をしているのか。それが気になって仕方がない千砂都は少し申し訳ないという気持ちを胸に秘めつつ、好奇心の赴くままに、少し距離の離れたところから、彼女の様子を真っ直ぐに見つめる。幸い、彼女は視点を地面に向けているのもあってか、此方の気配には全く気付く様子が無い。
『(ずっと地面を見てる・・・・・・あそこに葉月さんの気を惹く様なモノでも落ちてるのかな?)』
仮にモノだとしても、此方側からは肉眼で一切視認できないと言う事は、それ何なのかを確認する為には彼女のすぐ近くまで寄らなければ分からないくらいにサイズの小さいものだと言う事。つまり、現状としてここに留まっていても何一つとして事が進まないまま、ただ無駄に時を浪費するばかりである。なればこそ。
『――ね、アナタ、音楽科の葉月さんでしょ。そこで何してるの?』
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「では、澁谷さんにも分かりやすく、この部の目的と設立経緯を説明しましょう!」
「う、うん」
「この仲良し作戦執行部(仮)というのはですね・・・・・・」
再び時は戻り、現在。葉月さんに猛烈に勧誘された私は、一通りの説明だけでも聞いておこうと思って、彼女が拠点にしている部室(仮)と思わしき、こじんまりとしたプレハブ小屋に案内されて、葉月さんの熱弁を聞いている最中、という現状だ。
「――先ずは、この学校に迫りつつある危機からお話しなければなりません。そもそも、この学校の意義とは亡くなった母の言葉曰く「新たに立ち上げるのであれば、音楽に携わる以外の選択肢を設けて様々な考えを持った生徒達を集める事」。故に・・・・・・(以下略)」
「・・・・・・」
「――しかして、まだ学校が始まって日も浅いと言うのに、その母の理想とはまるでかけ離れた心情を持つ方々もいると言うのが明らかとなってきました。部活動の選択は本来は自由であるべきなのに、プライドが故にそれすらも制限を掛けると言いますか掛け過ぎて逆に入部数が少ないのに現状で満足してしまっていると言いますか・・・・・・(再び、以下略)」
「・・・・・・」
「――だからこそ、生前の母を知っている私としては今の様な《普通科》や《音楽科》と言った違う科目の垣根を越えて、違う道であろうとお互いに切磋琢磨して自己も他己も鍛え上げていける学校になる様、私自身が生徒の皆さんの手本となる為・・・・・・(三度、以下略)」
「ふわぁぁぁ~・・・・・・」
全てを語ろうとすると、原稿用紙何枚分になるか想像もつかない葉月さんの長い長い語りに、思わず欠伸をしてしまう私。
しかし、成程。話の中でも重要そうなところだけを掻い摘んで聞いていても、それとなく葉月さんが目指したい理想と言うのが頭の中に浮かんでくるようで。少しばかり自分が目指していた方針とは大分逸れてしまうかも知れないが、この時の私は葉月さんのこの活動を手伝ってみたいと、何となくだが思ってしまった。
「(別に、思うだけなら・・・・・・無料(タダ)だし)」
実際に、本人を目の前にして、直接言葉に出して同意する事は無かったが。
「以上で全て説明しましたが。何か分からなかった事や不明な点はありませんでしたか?」
「あ、うん。大丈夫、大丈夫。葉月さんの説明、とっても聞きやすかったよ」
「本当ですか、それは良かったです!」
自分の説明が話し相手である私に伝わったのがよほど嬉しかったのか、全てを説明し終えた葉月さんの表情は、再び満面の笑みに変わる。一々のリアクションに新鮮味がある、とても愉快な人だ。
「では、早速ですがこの入部届に澁谷さんのお名前を・・・・・・」
と言う風に傍観をしていたら、いきなり葉月さんが入部届とボールペンを取り出して私に差し出してくる。強制で書かれた訳ではないけれど、流石の私もそこでツッコまずにはいられなかった。
「えっ、何で!?」
「何で、と言われましても・・・・・・私の活動に協力してくださるんです、よね?」
キョトン、とした表情で私に尋ねる葉月さん。どうしよう、私、葉月さんのどこまでもポジティブシンキングな思考が怖いよ。
「はぁ・・・・・・説明聞くとは確かに言ったけど。でもそれとこれとは話は別件だよ」
「大体、私は何処の部活でもいいからギター活動がしたいの。此処だと流石にそれは出来ないでしょ?」
葉月さんは悪い人ではない。けれど、いつまでも自分の本来の目的を話さなければ、相手に理解を示してもらうのは不可能だ。だから私は、葉月さんに今の自分がやりたい事を素直にブチ撒けた。
すると葉月さんは、別段驚いたり悲しんだりする様子もなく、しれっと。
「出来ますよ、ギター活動」
と、言ってのけた。
「出来るの!?」
「はい。その、何と言うか誠にお恥ずかしい話なんですが」
「実はこの部活を設立したところまでは上手く行ったのですが、どうすればこの学校に通う全ての人に各々が考えた自由な道を進んでもいいと示せるのか、まるで見当が尽かなくて」
少しばかり気恥ずかしそうにしながら、葉月さんがそう答える。えぇ、でも確かこの部活って学校の雰囲気を良くする為のお手伝いって言う名目なのに、私の意思一つでギター活動出来ちゃうって一体どういう理由なの!?
「ですから。そんな私がよく分からないまま闇雲に、手探り状態で何かをして逆に皆さんの妨げになる行為を働いてしまっては元も子もないので」
「ここは一つ、澁谷さんのやりたい事がそれに繋がると信じて、賭けてみたいと思いました」
「ええっ、理由もそれだけ!?」
「はい。それに、そんな澁谷さんの姿を見る事で、私自身の後学にも繋がればと」
葉月さんの考えは、実にシンプルで分かりやすいものだった。けれど、そう思うに至るには私と言う人間を多少は知っている事が前提であって、それ以外で即信頼に値するとは到底思えない。
・・・・・・もしかして、葉月さんっていい意味でも悪い意味でも純粋過ぎるんじゃあ?
「あと、こうやって澁谷さんと話している内に何となく思い出したのですが」
「少し前に澁谷さんの声に似た歌声を、夕方の街へ散策に出た時にとある喫茶店の近くで聞きましてですね」
「えっ・・・・・・?」
心の中でまさかとは思いつつも、私は黙って葉月さんの話に耳を傾ける。
「あくまで似ている、というだけでその方のお姿は見てないので確証には至ってはいません」
「ただ、その方の歌声とギターの旋律があまりにも綺麗なものでしたので、買い出しの途中であったにも拘らず、ついつい道端で聞き入ってしまったのです」
うわああああああああああああああああああああああああ!? ちぃちゃんのアドバイス通りに中々踏み出せずにいて、そんな自分に鬱憤がたまってついつい癖で弾き語りしてたの聞かれてたああああああああああ!?
ハハ・・・・・・そっか、あの時窓開いてたんだ。じゃあ、葉月さん以外にも聞かれてたかもなぁ・・・・・・死ぬんだぁ。
「あの、澁谷さん。どうかしたんですか?」
「イヤ、ダイジョウブ。ナンデモナイヨ」
正直、その場で偶然聞かれるよりも後から聞かれていたと判明する方が、襲ってくる羞恥度とダメージがデカい。吐きそう。
いや、でも、歌っている姿を直接見られてないだけマシ・・・・・・かな?
「とまぁ、そんな訳で。手段と言う手段に乏しい私よりも、澁谷さんのやりたい事をやって頂いた方が上手く事が運ぶ様な気がしますから」
「・・・・・・葉月さん、楽観視しすぎってよく言われない?」
「そんな事はありません。それに、私の勘はそれなりに当たるんですよ?」
ふぅん、それなりに、ね。完全に納得した訳ではないけれど、自分の望んだ活動が出来てそれがもしかしたら葉月さんの目指す目的ともいずれ繋がるかもしれないと言うならば。
「分かった。けど、あんまり期待しないでね」
「ありがとうございます、澁谷さん! もし、私に出来る事があれば、何でも仰って下さいね」
――こうして私は、どういう運命の悪戯かは知らないが、無事に葉月さんの「仲良し作戦執行部」に協力する事になったのだった。
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「「「えっ、何その奇妙奇天烈な部活動」」」
翌日。葉月さんに協力する事になった経緯を、お昼休みの際に一緒に屋上に集まった、ななみちゃん、やえちゃん、ここのちゃんに話したのだが・・・・・・まぁ、そういう反応にはなるよね。
「かのんちゃんの事だから、普通な感じの部活入るかと思ってたのに。ちょっと意外」
「まぁまぁ、かのんさんも偶には冒険したい年頃ってことだろぉ?」
「ミーハー全開で購買部選択したここのちゃんに言われたくないと思う」
「いやいや、ななみだって結構最後まで気にしてたじゃんか、購買部」
「それに、その購買部もバスケ部との兼部でどっちかっていうとサブの方だからな、サブ」
私が過去のトラウマ含め、散々迷っているうちに、ななみちゃん達はもう既にそれぞれの部活動へと所属していたようだった(当然のことながら)。
「でも、かのんちゃんが本気でここに決めたって言うなら。私は応援するよ」
「ななみちゃん・・・・・・!」
「かのんちゃんの弾き語り、いつか聞いてみたいな。私、かのんちゃんの歌声好きだし」
「それは・・・・・・まぁ、機会があったら、ね?」
「あたしらに出来る事があれば何でも言うといいさ。少しは役に立つぜ?」
「うん、分かった。頼りにしてるね」
うぅっ、ななみちゃん達がこの学校に入ってくれて、本当に良かった。持つべきものは、お互いに信頼し合える友達だよね・・・・・・!
「――へへーっ、そういう事になってたんだ」
すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ななみちゃん達に応援されて、上機嫌になった私は少しばかりニヤついた顔で振り向く。
「そうそう。だから、ちぃちゃんも・・・・・・――えっ、ちぃちゃん!?」
「おー、千砂都。今来たかぁ」
驚く私を尻目に、ここのちゃんが暢気に挨拶を交わす。そして、一瞬だけここのちゃんの方を向いて挨拶代わりで手を振り返すと。すぐに視線の先を私の元へと戻し、それはもう物凄くムッとした表情を浮かべながら、私を睨みつけていた。
「ち、ちぃちゃん? 何でその事知って・・・・・・?」
「今日、葉月さんから聞いた」
「ゔえ゛え゛っ!?」
そっか、そうだった。葉月さんは音楽科所属だし、ちぃちゃんも同じ音楽科所属だった。ちぃちゃんの性格なら、同じ科の色んな人と交流をしていてもおかしくはないから、葉月さんとも繋がってたとしても不自然じゃないのに!!何で今まで気づかなかったのぉ、私!?
「はぁ・・・・・・まさか人にアドバイス聞いておいて、1週間も迷い続けた挙句、音楽活動とはあまり縁が無そうな名前の部活に所属したって話だもん。何だかなーって感じだよね」
「ごごご、ごめんちぃちゃん! あ、でも、ちぃちゃんの話を信じてなかったとかそういう訳じゃ――」
私のダメな部分が、ちぃちゃんの大切にしていたことを傷付けたかもしれない。そう思って、私はすぐにちぃちゃんに向かって頭を下げる。本当にみっとも無い、これがかつて彼女に「ヒーロー」と呼ばれた人が見せていい姿勢であるものか。
けれど、そんなビクビクした私を見たというのに。ちぃちゃんはふっ、と優しく微笑んで言った。
「知ってる。ま、その実態がよく分からない部活動の主が葉月さんだったから良かったけどね」
「え・・・・・・?」
「葉月さんってさ、ウチの学校の音楽科の中でも飛び抜けてエリートな人なんだって」
一人呆ける私を他所に、ちぃちゃんは遠い目をしながら話を続ける。
「単にウチの学校の創設者の娘さんってだけじゃないんだよ。ピアノも、歌唱も、ダンスも。あまり一般的じゃない専門知識だって、ほぼほぼ知ってる」
「・・・・・・」
「そんな子がさ、「親の目指してきた理想と相反するから、私は違う道を選びます」なんて言って、本当にそれをたった一人で実行しちゃうんだもん」
「同じ音楽科の人からすれば、溜まったもんじゃないよね」
ちぃちゃんによって、淡々と語られる葉月さんの物語に、只々私は聞き入ってしまっていた。まさか、葉月さんがそれ程までに優秀な人材だったなんて思いも寄らなかった。
確かに、思考とか発想が一般的ではないのが天才の証とはよく言うが。その言葉通りの人が、この世に本当に実在するとは。
「兎に角、そんな逸材がいる部にかのんちゃんが偶然でもなんでも滑り込んだんだもん」
「これはもう、運命としか言い様が無いんじゃないかな」
「ちぃちゃん・・・・・・」
「あ、でも一つだけ。葉月さん、偶に天才故の、って感じで奇行に走る時があるから」
「そこら辺も視野に入れて、付き合ってあげて欲しいな」
「えっ・・・・・・?」
割といい話風に〆るかと思いきや、最後に葉月さんに関する、とんでもない情報をぶっ込んできたちぃちゃん。き、奇行って何???
「ま、私は私で今は忙しい身だから、後は若い二人に任せるよ。それじゃあね、かのんちゃん」
「えっ、いや、ちぃちゃん!? お昼は!?」
「もう食べたから大丈夫ー。ななみちゃん達も、またねー」
何気に重要そうな情報を手掛かりのない状態で渡すだけ渡して、話の内容を整理しようとしてパニくっている私を尻目に、ちぃちゃんは満面の笑みで颯爽と屋上から去っていった。
「まさに嵐のように現れては去っていったね、ちさちゃん」
「短いながらも、非常に濃厚なちぃかの成分はそこにはあったね」
「へへっ、さっきはあたしら、いい感じにモブれてたな。そう思うだろ、かのん?」
一方、何があったのか謎に得意げだったり満足げな状態のここのちゃんとやえちゃんの姿があった。ななみちゃんの素直な感想は分かるけど、二人共何で・・・・・・?
それから、暫らくして。放課後にはなったが、特にこれといってするべき事がなかったので、私の足は自然と昨日葉月さんに案内してもらった部室・・・・・・つまり、『仲良し大作戦執行部』へと伸びていた。すると、その途中で。
「あれ、REIN TALK(リィントーク)からの通知だ。誰からだろう?」
アプリを起動し、チャット画面を開くと、ポコン♪という軽快な音と共に送られてきたメッセージが表示される。送り主は、葉月さんだった。
『本日の活動は、音楽室を使用します』
『既に許可も取っていますが、一度部室前に来ていただけると幸いです』
業務連絡か何かかな、と勘違いする程のお堅い文章のみが並べられた画面を見て少しだけビックリする私。成程、如何にも創設者の母を家に持つお嬢様という感じだ。向こうもそれなら私もそれに倣って打とうと思ったが、何となく気乗りしなかったので。
『OK♪』
と、「イマドキの女子高生はスタンプも使わなきゃ駄目だよ」的な意味を込めて、可愛らしいキャラクターがOKと書かれた看板を何とも言えない表情で掲げているスタンプで返信をした。
部室の位置が位置なだけに、今まさに部室に向かっているんだという実感は湧かないが。そんな些細な事は私の目的が達成できるか否かの前では、そこまで重要な意味を持たない。
「あっ、いたいた。葉月さんだ」
部室(仮設プレハブ小屋)までもう少しというところで。私の視界に飛び込んできたのは、何やら部室前の地面をじっと見つめたまま、微動だにしない葉月さんの姿だった。
「・・・・・・」
「(ずっと地面を見つめてる・・・・・・あそこに何かあるのかな?)」
無感情という訳ではないが、かと言ってそれ以外に当てはまる感情がどれかと言われたら答え辛い。寧ろ、知り合って間もない人の異様な行動を見ると、純粋に何をしてるのだろうという興味よりも若干の怖さが勝ってくる、そんな感じ。
「(まさか、ちぃちゃんがお昼休みに言ってたのって、この事だったり・・・・・・?)」
――偶に天才故の、奇行に走る時がある。
かつて、誰かが言ったであろうこんな言葉がある・・・・・・○○と天才は紙一重、と。この○○という部分に当てはまるワードについては、一部の人の気分を害してしまう恐れがある為、ここでは詳細に語る事を割愛するが、かのんが見た葉月恋の様子はまさにそれを体現した光景であった。
我々のような極々一般的な思考では到底辿り着けない様な、若しくは自然の事であるように思えてしまう事が、彼等の審美眼からすれば不自然極まりないものだったりする。と言う事は、だ。そういった究極的に思考を研ぎ澄ましてしまうような何かが彼女の視線の先にあるのやもしれない。
「・・・・・・」
かのんは、ゴクリと生唾を飲み込むと、ゆっくりと恋のいる場所まで近づいて行って、彼女の背後に回り込むと、その視線の先を追った。そこには。
「へっ・・・・・・?」
わらわらと何処からともなく沸き立ち、地面の色を徐々に自らの黒色へと染め上げる密集体。
そう、蟻だ。我々が良く知っている・・・・・・寧ろ知らない人の方が希少な程に知られた存在の、あの蟻である。密集した彼等の背には、既に骸と化したバッタが横たわっていて、栄養源とされる為に彼等によって巣に運び込まれている、その最中であった。
「えっと・・・・・・葉月、さん?」
「あ、かのんさん。見て下さい、蟻さんたちによる抜群のチームワーク作業、ですよ」
堪らず話しかけたかのんに特に動揺することなく、視点を固定したままで話し始める恋。そう、これは夢でも幻でもなく、目の前の葉月恋が見つめていたのは、その蟻の大群の様子だったのである。
「そ、それは分かるけど・・・・・・えっ、何で???」
「かのんさんが部室に来るまで待ってようと思って、部室前まで来たのですが」
「うんうん」
「そしたら、丁度ここら辺で黒くてわさわさしてるものが地面に見えまして」
「うんうん・・・・・・うん?」
「少し気になって見えみたら、蟻でした」
「えっ、うん、そうだね」
「・・・・・・因みに、ここにしゃがんでみる前に、葉月さんはそれが何だと思ってたの?」
「蟻だと思ってました」
困惑する以外に選択肢などなさそうなくらい、スパッと当然であるかのように答えた恋に、かのんは頭を抱え、思った。
「(ちぃちゃん、もしかして葉月さんって、ドが付く位の天然だったりしないかな)」
常人に理解できない行動と言うよりかは、此方が対処した際に混乱してしまう様な、極めて対応不可能な思考回路。これを天然と呼ばずに何と呼ぶ。
「うん、よく分かんないけど分かった。それで、えっと。音楽室に向かうんだっけ?」
「あ、はい。鍵も既に預かってきたので、音楽室に向かいましょうか」
取り敢えず、先程の一連の流れを気にしない事にした私は、葉月さんの後に続いて、音楽室へと歩みを進めようとする・・・・・・あれ、ちょっと待って。
「ねぇ、葉月さん。特にここですることが無いなら、何で態々部室集合にしたの?」
「え、あぁ。実は、これを音楽室に寄る前に取っておきたくて」
そう言って、葉月さんはスカートのポケットから、何かに使うであろう鍵の付いたメタリックグリーンのカラビナを取り出して、私に見せて来た。鍵の頭部分には、可愛らしい苺柄のシリコンカバーが被せられている。
「それに、今日向かうのは旧校舎の音楽室ですので。現地集合にしてしまえば、普段新校舎の方を使っている澁谷さんに、色々と誤解をさせてしまうかもしれないですからね」
成程、そういう事か。というか、この学校の音楽室って旧校舎と新校舎にそれぞれ一つずつあったんだ、知らなかった。
「因みに、その鍵って何処の鍵なの?」
「此れは、鍵としては使えませんよ。ただのレプリカですから」
「・・・・・・ですが、私にとっては一種の――母の形見の様なもの、なので」
葉月さんはそう言いながら、ニッコリと微笑んだ。だが。
――ほんの一瞬だけ。揺れたレプリカの鍵に交じって、不自然な空白が見えた。
心なしか、葉月さんのその笑みの裏に少しばかりの寂しさみたいなものが、ほんの僅かな間だけ顔を覗かせていた・・・・・・そんな気が、したのだ。
「着きました。ここが、旧校舎の音楽室です」
初めて『仲良し大作戦執行部』の部室に行った時のように、葉月さんに案内されて歩くこと数分。《音楽科》の生徒達の根城とも言える旧校舎の入口に辿り着き、そこから更に音楽室のある3階へと移動した。旧校舎に立ち入るのは、私の歌う事に関してのトラウマが蘇った、あの入学試験以来だ。うん、あの時のことはあんまり思い出したくはない、かな。
「わぁ・・・・・・!」
ガラガラと音を立てて開いた、年代を感じる木製の引き戸の向こうに。こちらの音楽室にあるピアノに劣らない・・・・・・いや、もしかしたらそれよりも高価なものかも知れない年代物のピアノが、どっしりと窓際の一番目立つ位置に居座っていた。きちんと手入れされた痕跡のあるそれが放つ、荘厳たる雰囲気に、私の口からも思わず感嘆の声が漏れてしまう。
「ふふっ、流石は澁谷さん。お分かりになられたようですね、この場に漂う空気の違いに」
「まぁ、ピアノに関してはそんなに詳しくはないんだけどね」
「いいえ、詳しいかそうではないかの話ではありません。感覚的に良さを感じ取る心こそ、最も重要な事なのです」
私と会話しながら、葉月さんは真っ直ぐにピアノの方へ歩いて行き、そのまま椅子の近くまで来ると。そこに座って、鍵盤を覆い隠していたカバーを引き上げ、鍵盤の上に指を静かに置き、私の前で軽く弾いて見せた。凄い・・・・・・これが、音楽科のエースの実力かぁ。
「うん、ちぃちゃんに聞いた通り。葉月さん、ピアノ上手いんだ」
「はい、習い事の範囲内ですが、多少は」
うっとりとした目で鍵盤を軽くなぞりながら話す、葉月さん。初めて会って勧誘された時には感じ取れなかった、葉月さんの隠された一面というのが、少し分かった気がする。
「・・・・・・それで、澁谷さん。えっと、ちぃちゃん、と言うのは?」
「あっ、ごめん。この呼び方じゃ分かんなかったよね」
「音楽科でダンスをやってる、私の幼馴染み。千砂都ちゃんって言えば分かるかな?」
「あぁ、嵐さんのことでしたか」
「勿論、知っていますよ。現状、同じ音楽科で孤立しがちな私の、唯一の話し相手になってくれるお方です」
言い方に、若干の悲壮感が漂っている気もするが。まぁ、別にそこは気にしない方がいいのだろう。・・・・・・多分、きっと。
「あっ、そう言えばお伝えするのを忘れてしまう所でした」
「もし良ければ、澁谷さんもギター、どうですか? 奥の扉を開けた機材室に、確か置いてあった筈です」
「えっ、出来るの? と言うか今日の活動は!?」
「はい。今日はここを貸切にしてあるので、自由に使って頂いてもいいですよ」
「活動に関しては、その、まだ完全に決めれてはいなくて・・・・・・ですが、ここであれば、落ち着いて今後の方針を考えることが出来そうだったので、ここを選びました」
納得出来るかどうかは、微妙な理由ではあるが。要するに、今日の活動内容は『この部の進むべき方向を具体的に決める』といったところだろうか。正直、私自身もこれに関しては、乗り掛かった舟と言うか乗ってしまった船と言うか・・・・・・まぁ、なるようにしかならないだろう。
「取り敢えず、分かった。その代わり、私が此処に入った理由、忘れないでよね」
「はい、承知していますとも。澁谷さんは趣味のギターを活かす場所としてこの部を使いたいんですよね?」
「まぁ、そんなところ」
「であればこそ。澁谷さんは澁谷さんの思うが儘、この部を使ってくれればそれで良いのです」
それは、世間一般で言うところの、部の私的利用って事にならない?葉月さんの言葉を受けて、ふとそんな疑問が私の頭の中を過ぎる。
「うーん、自分のじゃないから上手く弾けるか分からないけど・・・・・・それでもいい?」
「出来ますよ、きっと。それにその、私も澁谷さんのギター、改めて聞いて見たいですし・・・・・・!」
今度は、期待に満ちた目を爛々と輝かせながら私を見つめている葉月さん。正直、会ってまだ2日足らずだと言うのに、ここまで自分に期待してくれるなんて、奇妙な感じではあるけれど。
――案外、そう言うのも悪くないかも、なんて・・・・・・へへへ。
「うーんと、じゃあ・・・・・・あっ、これでいいかな」
葉月さんに言われた通り、機材室から適当なアコースティックギターを拝借して、チューニングを弄る――よし、これで大丈夫。
「・・・・・・!(そわそわと、期待で落ち着かない様子でかのんを見つめている)」
「折角だから、一曲弾いてみようかな――葉月さん、何かリクエストある?」
「あっ、では、この曲なんてどうですか?」
と言いながら葉月さんが見せて来た、スマホのプレイリストに表示されている曲名を見た。
「あ、その曲だったら私も知ってる。良いセンスしてるね、葉月さん」
「はい。この曲は元々母が好きな曲でもあったので・・・・・・私の思い出の曲なんです」
「そっかぁ、それなら猶更ミスは許されないね」
「あっ、いえ!決してそう言う意味で言った訳では・・・・・・!」
「にひひ、分かってる分かってる。それじゃあ、行くよ」
何と言うか、凄く当たり前のことだけど。私が今まで出会ってきた、ななみちゃんややえちゃんやここのちゃん、それにちぃちゃんとも違って。葉月さんは見た目や肩書こそお堅いお嬢様に見えなくもないが、それ以上にとっても不思議な魅力を持った人だな、と思う。
「あっ、ちょっと待ってください」
と、葉月さんが何かを思いついたみたいで、今まさに携帯の画面に表示した楽譜を見ながらギターを弾こうとしていた私を制止して、先程まで座っていたピアノの椅子に座り直し、ピアノの楽譜台に何処からか引っ張り出してきた楽譜を置き、再び口を開く。
「あの、どうせでしたら。一緒に弾いてみませんか?」
「セッションって事? ふぅん、別にいいよ」
「それじゃあ、気を取り直して・・・・・・ワン、ツー、ワン、ツー、スリー、フォー」
『♪~』
急に始まるイントロ部分から奏でていく。すると、私のギターの音色に合わせて、葉月さんの演奏するピアノの音色が聞こえて来た。合図はしたものの、やはり初回一発目ではなかなか重なるものも重ならないか、と最初は思っていた。しかし――
『『♪~』』
「・・・・・・!」
徐々に重なっていった・・・・・・と言うより、音色同士が途中で自然と混じり合うような感じでゆっくりと交わっていく様を聞き取った。流石は葉月さん。序盤のメロディを態と繰り返しで弾く、謂わば助走をしている段階で、私のギターのテンポを直ぐに理解して合わせられるなんて。
『『♪~』』
私のギターと葉月さんのピアノの音が交錯し、奏でるハーモニー。ああ、やっぱり音楽って最高だ。本当ならこれに加えて、私が歌えれば一番いいんだけど。今は、まだちょっと無理かな・・・・・・そんな感じに、私がいつもの弱気でギターを弾くことのみに専念していると。
――何処からか、誰かの歌声がはっきりと耳に届いた。
聞いていて、とても心地よく、はっきりとしたクリアな音程で。私は驚いて、ギターの演奏に支障がない程度に周囲を見渡す。
――歌っていたのは、まさかの葉月さんだった。
ピアノを弾きながらも、この空間に流れる音楽に身を任せ、自らの口で更なる旋律を生み出していく。そして、その度に彼女のポニーテールがリズムに合わせて躍動する。
私はこの時、葉月さんの綺麗な歌声に、完全に心を持って行かれそうになっていたのだ。
人前で一人で歌うのは、過去のトラウマが蘇ってしまうから、私にはできない。でも、葉月さんの歌声と気持ちよさそうに歌っている姿を見聞きしていると。次第に私も自由に歌える葉月さんが羨ましくなってきて・・・・・・気付いた時には。
最後のパートのハモりの部分、葉月さんの歌声に隠れながらではあるが、私は自然と口ずさんでいた。
――演奏が終わり、一息を入れたところで。周囲から複数の拍手のような音が聞こえてきて、びくっとした私が顔を上げると、音楽室のドアの前に十数人規模の人だかりが出来ていて、その人達が一斉に拍手をしながら、各々の反応を示している光景が視界に入る。な、何事!?
「わっ、えっ!? な、何なんですか、皆さんは・・・・・・!?」
「あはは、ごめんね、葉月さん。皆を呼んだの、私なんだ」
葉月さんの疑問に答えるかのように、そう言いながら人だかりの中から姿を見せたのは、葉月さんととある先生が言い争っていた時に、同じ場所に居合わせたあの子だった。
ええと、確か名前は・・・・・・。
「吹奏楽部の刑部さん、ですね?」
「うん・・・・・・それでその、葉月さん。あの時は私達の顧問が、大変失礼いたしました・・・・・・!」
刑部さんがそう言って頭を下げると、そこにいた全員が彼女に倣って葉月さんへ頭を下げた。勿論、急にそんな事をされたものだから、当の本人である葉月さんは。
「そ、そんな、別に私は気にしてませんから・・・・・・!」
皆さんが態々集まって謝る程では、と先程同様に少し困惑している様子。
「そうだとしても、ちゃんと謝りたかったの。あの時は何もできなかったけど、私達は別にあの先生の言い方に文句がなかった訳じゃないから・・・・・・!」
「同じ音楽科の葉月さんとも、最初から悪い印象持たれたままでこれからの3年間一緒にって言うのも全然嬉しくないし。何より――」
やや矢継ぎ早ではあったが、刑部さんが吹奏楽部を代表して葉月さんに何かを伝えようとした、まさにその時。そんな流れを破壊するかのように、一際大きな拍手を叩きながら、凄く見覚えのある人物が、空気を読まずに現れた。
「わ、凄い凄い!」
「さっきの歌声に感動して、用もないのにフラフラとここに立ち寄ってしまいました! 誰だか分からないですけど、本当に綺麗な伴奏ハモり具合、でs・・・・・・あっ」
その人物は、前に出てきた途端に私と目が合うと、しまったとでも言いたげな表情をして、その場に固まった。
忘れもしない、あの完璧に整った容姿でありながら、何処か抜けているような。はたまた、知性が一部分欠損しているかもしれない可能性を孕んだ、その人物とは。
「漸く見つけた、フレンさんだ!!」
入学初日に私が通学路にて衝突事故を起こしてしまった、今だ謎が多い人物。そして、会話の途中で少し意味深なワードを呟き、私がそれについて尋ねた途端、慌てて姿を消した色々と疑惑持ちの人物・・・・・・フレン・E=ルスタリオさん、その人であった。
ご視聴有難うございました。
次の話は、フレン視点で進行していく予定です。ここまでの内容の裏で、フレンは一体どんな行動をしていたのか。また、かのん以外に交流していた人物はいたのか、そもそも何故結ヶ丘に来たのか等の掘り下げを2話に入る前にしときたいので、ね。
それでは、次話でまたお会いしましょう。