【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第100話】才能の使い道、過ちの分岐点

 これは、ジョウト地方の開業医・エプロン氏の家に生まれた……少女の話。

名を「テイラー」と言った。

彼女は決して、能のない人間ではなかった。

否、寧ろ多くの才に恵まれすぎていた程である。

 

 

 

 彼女は容姿も愛想も良く、多くの人から愛された。

更には非常に勤勉で、学習速度も人並み外れた子であった。

その天才ぶりたるや……僅か4歳にして高校までの学習過程を終え、6歳になるころには医学書を読破するほど。

あまりに出来の良い……否、良すぎるほどの子であった。

 

 

 

 後に彼女の教え子となるレインも凄まじい才覚の持ち主だったが、アレは幾らかSDを加味されてのもの。

テイラーは素で「天才」と呼ぶべき存在だったのである。

 

 

 

 これほどの才を持つ人間は、きっと多くの人の役に立つ。

多くの人を助ける存在になる。

そう願って、誰も彼もが彼女を褒め称えた。

彼女の親・エプロン氏ですら、それは例外ではなかった。

 

 

 

「テイラー、去年の医師国家試験の過去問で満点取ったんやって?ホンマに末恐ろしいな。ワイも親として鼻が高いで。」

「………。」

食事の席で、嬉々とした表情で語るエプロン氏。

父親としても、これほど誇らしいことはないだろう。

この家は妻が早くに亡くなり、父子家庭の辛い現状だった。

だからこそ、娘の成長は彼にとって何よりの楽しみだったのである。

 

 

 

 将来は、きっと立派な医師になる。

そして自分よりも、多くの人を救うだろう。

エプロン氏は、テイラーにそんな期待の念を込め続けた。

 

 

 

 しかしそんなテイラーの目線は、リビングに流れるテレビの方へと釘付けになっていた。

「……おい、聞いとんのか?」

「……ん。聞いとるで。」

テイラーは画面から目線をほとんど動かさず、生返事をする。

本来ならば親としての叱責の一つでもあるはずだろう。

こんなやり取りは、この親子の間ではいつものことだ。

少なくとも、エプロン氏はテイラーを強く叱ったことは一度もなかった。

彼の中では「自分ごときに教えられるものはない」と、どこかテイラーを上に見ているフシがあったからだ。

 

 

 

「全くホンマ……キルトの奴とはエラい違いや。」

キルト……とは、テイラーの2つ上の兄のことだ。

妹のテイラーとは対照的に、内気で愚鈍で覚えも悪い……何もかもが平均以下の子であった。

そのあまりの出来の悪さに、エプロン氏も辟易していたのである。

 

 

 

 だが、キルトはポケモンに対しての興味だけは人一倍あった。

エプロン氏はそれを見越して、14歳になった彼をポケモントレーナーの旅に送った。

無理に彼を座学で学ばせるより、外の世界へ送り出したほうが有益だと考えたからだ。

 

 

 

 そしてここで、彼の才は開花した。

ポケモンに対しての興味や愛情だけは人一倍あった彼は、トレーナーとしての才覚を見せた。

多くのポケモンを仲間にし、多くの戦いに勝利していった。

旅に出て1年目でセキエイリーグベスト4の好成績を叩き出し、以後も他地方のリーグでベスト8以内に入り続ける……というかなりの実力者であった。

 

 

 

 そしてテイラーが今、釘付けになっているテレビ……そこに映っているのはイジョウナ地方で開かれているリーグの決勝戦。

奇しくもその参加者の片側は彼女の兄……キルトであった。

「……お、もしかしてキルトの奴が出とるんか?」

ようやくテレビの音声に気づいたエプロン氏は、やや前のめりになって画面へ目を向ける。

不機嫌そうだった彼の顔は、とたんに明るくなった。

 

 

 

 ……彼はいつもそうだ。

息子の話をする時は、大抵いつも娘の引き合いとして悪く言う時だ。

しかしトレーナーとしての息子を見る時は、その表情は一変する。

誇らしげに、自慢気に……明るく息子のことを語るのだ。

 

 

 

 だが、そんな些細な違いはテイラーは気にしていなかった。

彼女はずっと、テレビの方を見ている。

 

 

 

 そして……その瞬間、勝負は決着した。

キルトが残り1匹の状態から、逆転勝ちを果たしたのだ。

彼はイジョウナリーグにて、初の優勝を成し遂げたのである。

画面越しの会場では多くの歓声が上がり、実況者の声はかつてないほどの興奮に満ちている。

エプロン氏も、その凄さがどれほどか分かっていないながらも手を叩いて喜んでいた。

 

 

 

 ……そう、この瞬間。

誰もがキルトの勝負に湧いたのだ。

在り方に魅せられたのだ。

「優勝」の結果に感涙するキルトを目にし、多くの観客がつられて感情を昂ぶらせる。

 

 

 

 テイラーは感動した。

「(………すごいなぁ、ホンマ。)」

それは、本心からの憧れであった。

彼女もまた、魅せられていた。

ただしそれはキルト本人にではない。

 

 

 

 ……多くの人間が湧き上がるその様子に、だ。

彼女は欲した。

彼女は思った。

『自分も、多くの人間から称賛されたい。多くの人を湧かせたい。注目されたい。』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

テイラーはリビングにて、自らの父親に自らの思いを打ち明けた。

「……ウチ、ポケモントレーナーになりたい。」

彼女ははっきりと、自分の口からそう言った。

自らの意思を、珍しく告げたのである。

 

 

 

「は………!?」

そのあまりに突飛な申し出に、エプロン氏は困惑した。

「だってお前、もう13歳やし……それに来年から飛び級でヒウン大学に行くんやろ!?何を今更……!?」

慌てふためくエプロン氏に、テイラーは言葉を続ける。

 

 

 

「……あのな、ウチは思うんや。このまま医者になれば、きっと人を救えるはずや。でも、それで一体何人の人生に関わる?一体何人の記憶にウチが残る?」

「お、お前……何を言うてんねん!?」

「兄貴は昨日の大会で、優勝者として歴史に名を残した。それだけやない。あの一瞬で、きっと多くの人の記憶に……強く刻まれたはずや。」

テイラーは何も映っていないテレビの方を見ながら、昨日の試合を思い出す。

 

 

 

「……ウチがなりたいのはな、誰かの役に立つ人間になりたいワケやない。注目される人間になりたい。もっと褒められる人間になりたい。だからウチは医者を目指すのを辞めて、ポケモントレーナーになるんや!」

そう言ってテイラーは、父親の前で頭を下げた。

「……お願いします。ウチはどうしても譲れん。」

本気で彼女は、その憧れを打ち明けた。

 

 

 

 

 

 ……が、エプロン氏の首は縦に振られなかった。

それどころか次の瞬間には、彼の腕はテイラーの顔を殴りつけていたのである。

「………!?」

予想外の出来事に、彼女は呻くことすら出来なかった。

痛みに悶えることすら出来なかった。

 

 

 

 ……初めてだったのだ。

自分の父親に殴られるなど。

 

 

 

「……と、父さん……?」

「……ふざけんなよお前!お前は自分の持っている力を分かっていない!一体どれほどの人間が医者を志し、そして夢半ばで折れるか!その才の無さにどれほど絶望するかッ!」

エプロン氏はかつて無いほどの勢いで、テイラーを怒鳴りつけた。

それはもう、恐怖や憎悪や絶望など……あらゆる負の感情を交えて。

 

 

 

 事実、エプロン氏も血の滲むような努力の末に医者となった身だ。

多くの時間を勉学につぎ込み、それでも尚届かぬ「天才」たちとの差異に苦しみながら、ようやく掴んだ夢なのだ。

そんな彼からすれば、娘の有り余る才能は喉から手が出るほど欲しかったものだろう。

 

 

 

 だからこそ、そんな才をドブに捨てるような彼女の発言……医者を侮辱するような発言が許せなかったのだ。

「………ッ!」

「……お前にトレーナーは無理や!お前は医者になるべきなんや!」

エプロンは感情に任せ、きつく言葉を投げつけた。

 

 

 

 ……実を言うと、彼が言いたかったのは「それ」ではなかった。

が、彼は怒りのあまり、言葉の選択を間違えてしまったのだ。

思えばここが、全てが歪み始めた場所だったのかも知れない。

 

 

 

「……何やねん……おどれはウチの何を分かっとんねんッ!!今までウチのことを薄っぺらい言葉で持て囃しておいて、いざ自分の意志を伝えたらソレか!」

父親の言葉を聞いたテイラーもまた、かつて無いほどに激昂する。

自分に対して賛辞のみを述べ、衝突を避けてきた互いの関係が、ここで崩れ去った。

その溝が、距離が……彼女にとっては心底気色が悪かった。

自分の父親との距離を視認できて、初めて彼女は自らの怒りを顕わにしたのだった。

 

 

 

 

 

「ウチはおどれの人形やないッ!」

彼女は最後にそう言い残し、裸足のまま駆け出していった。

「お、おいテイラーッ!どこ行くねんッ!」

静止する彼の声も聞かず、彼女は廊下の窓から飛び降りる。

そしてそのまま、逃げるように夜の闇へと消えていったのだった。

 

 

 

 ……これがテイラーとエプロン氏の交わした最後の会話である。

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