【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第103話】集いし傀儡、繰り返す諦観

 ーーーーー丁度テイラーが旅立ってから3年。

ジャックと対面したあの戦いから数えて、4回目のリーグが終わった頃。

 

 

 

 テイラーはカナシバタウンの研究所の一角を貸し切り、あちこちから文献をかき集めて目を通していた。

それは、表向きは「マネネの心臓を探すため」というものであった。

実際、それは間違っていない。

 

 

 

 しかし本当の目的はそこではなく、あのバドレックスがいた理想郷に行くこと。

あそこで彼から貰った情報を全て正確に結びつけるべく、多くの文献や観測記録が必要だったのだ。

そしてその多くは、決して表沙汰には出来ないような資料であった。

少なくとも、そんな資料を用意できる環境にいるスモック博士もまともな研究者ではないことは確かだろう。

……が、それを全て熟読して理解する彼女はそれ以上に狂っていた。

「ほう……キズナ現象に類似した現象……ソウルディバイド……特殊な心臓……なるほど?」

 

 

 

 やがて半日かけて目ぼしい資料を纏め終えたテイラーは、おおよそ自らのやるべきことを把握した。

「……集めるべきは、3つの『秘鍵』とその『器』。そしてーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーそこから1日後。

テイラーはスマホを取り出し、ある番号に電話をかけた。

 

 

 

「……もしもし?ジャックか?」

『……その声は……テイラー!?』

相手は、ジャックであった。

そう、4回目のリーグでチャンピオンになりそこねた、嘗てのテイラーの友……ジャックである。

「せや、ウチや。」

『い、今まで何処に行っていたんですか!?』

電話口のジャックの声は、えらく驚いている。

どうにも彼女の知る彼とは口調も声も違うようだが、それでも構わずに本題を切り出した。

 

 

 

「なぁジャック。……お前、サンドはどうなったん?」

『……亡くなりました。えぇ、「私」の失態で。』

ジャックの声は、電話越しにもやるせなさが伝わってくるものであった。

……受け答えているのは、別人だと言うのに。

 

 

 

 しかし、そんな彼の心情などテイラーはこれっぽちも興味はない。

「ちゃうって。その事は知っとるわ。……サンドの遺体を何処に埋めたのかって聞いとるんや。」

あまりに直球な質問であった。

『……何を考えているんです?』

ジャックは流石に、彼女を不審がる。

「いやいや。アンタのサンド、SDの力を使っとったやん?今後同じ事例が出た時に、ああいう事故が起こらないように……」

『……嘘だ。』

つらつらと説明を重ねる彼女の言葉を、ジャックはぴしゃりと遮った。

 

 

 

『……アナタが早口になる時は、決まって何か都合が悪い時です。……一体何があったのですか?テイラー?……否、アナタは本当にテイラーか?』

「……何を言うとるんや。ウチはちゃんと最初からテイラーや。アンタと違ってな。」

『そうですか。ですが私はアナタのような情のない方は知りません。……二度と話しかけないで下さい。』

そう言うとジャックは、テイラーの電話をブツリと切った。

 

 

 

 少なくとも、以前までのテイラーなら、サンドの訃報を聞いて多少なりとも悲しむ様子を見せただろう。

しかし、今の彼女は違った。

その得体の知れなさから、ジャック……否、『新人格のジャック』は、テイラーから距離を置くことにしたのである。

以降、テイラーが何度電話をかけてもジャックに繋がらなかったという。

 

 

 

「……まぁええわ。まだリーグ終了から日も浅いし……居場所の検討くらいは付いとるわ。」

 

 

 

 そう言ってテイラーが向かったのは、ポケモンリーグの存在する街・コランシティの病院であった。

白衣を着た上で、『スモック博士の助手である、ある実験のため資料がほしい』と言ってそのまま押し入った。

実際、嘘は言ってない。

そのための報告書類などは、彼女の頭脳を駆使して瞬時に偽装した。

 

 

 

 彼女がこの建物に入った目的は唯一つ……そう、サンドの遺体である。

そしてサンドのトレーナーであるジャックがまだ退院していない以上、その遺体もまだこの施設内にあると見て間違いない……と彼女は考えた。

事実その考えは正しく、目当てのものは霊安室の引き出しを開けるとすぐに見つかった。

 

 

 

「まぁ、ここにあるとは思ったけどな。……にしても酷い有様やなコレ。」

目は開きっぱなしで血走っており、体表は鱗が剥がれ落ちてボロボロになっている。

他にも見るに堪えない損傷箇所が数多くあったが、いずれもSDの力の凄まじさを物語っていた。

「……まぁ、相方がジャックだったのが運の尽きやな。」

 

 

 

 そう言うとテイラーは、白衣のポケットからメスを取り出す。

すると一瞬のうちに、サンドの胸部を切り開いた。

そこから先は僅かに2分未満……神の如き手さばきで、まだ僅かに脈打つ心臓を切り出した。

青紫の禍々しい色をしたその臓器は、ゴム手袋越しに触れるだけで凍傷になりそうなほどに冷たい。

これがいわゆる『凍雪の秘鍵』と呼ばれる心臓である。

 

 

 

 そこからテイラーは、1分未満の時間でサンドの傷口を縫合する。

これで一見すれば、元通りのサンドの遺体……後処理の完了だ。

この一連の流れは、とても無免許・未成年の人間がなし得る業ではなかった。

まさに天才の所業……道を違えていなければ間違いなく評価される力だっただろう。

しかし今となってはありえぬイフの話である。

 

 

 

「よし……出てこい、モスノウ。」

そう言うとテイラーは、腰元のボールからモスノウを呼び出す。

「はるる……!」

「モスノウ、『れいとうビーム』や。この心臓を凍らせろ。」

彼女の指示の直後、モスノウの僅かな冷気がサンドの心臓を凍らせた。

 

 

 

 氷漬けになって動かなくなったその心臓を確認したテイラーは、すぐさま手元の簡易クーラーボックスに心臓を入れる。

そしてその紐をモスノウに結びつけると、すぐに霊安室の外へと撤収した。

「……ほな、モスノウ。ソレをカナシバタウンまで届けるんや。よろしゅう頼むわ。」

「はるる!」

元気な返事とともに、クーラーボックスを抱えたモスノウは遠い空へと飛んでいった。

「……まぁ、凍雪の『器』の確保は後回しでエエやろ。まずは1つや。」

そして彼女は霊安室のある病棟から脱出した。

 

 

 

 ……これは補足であるが、このあとマネネは出所不明の心臓を移植する手術に成功する。

そしてその後、何事もなかったように6年間をスモック博士の元で過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、後は撤収するだけやな。」

仕事を終えたテイラーは、迅速にこの病院を後にしょうとする。

極力不審がられないように、最低限の行動で……と心がけて移動していた。

 

 

 

 ……が、そんな彼女の計画はすぐに頓挫した。

正面から走ってきた男に、思い切りぶつかってしまったからだ。

しかも相手の身長が高かっただけに、突き飛ばされた衝撃も中々のものであった。

「す、すまん……!」

「痛いなぁ……アンタ、図体デカいんやから気ぃつけなはれや。」

腰を擦りつつ、テイラーは目の前の男の顔を見る。

 

 

 

 長い赤髪を靡かせているその男は、テイラーにも見覚えがあった。

ジャックと決勝戦で戦っていた超凄腕のトレーナー・エンビである。

例の決勝戦で鎖骨を負傷しており、そのせいで長期の入院を強いられていたのだ。

 

 

 

 ここでテイラーは思い出す。

あの時、バドレックスに埋め込まれた記憶が強く警鐘を鳴らしていた。

……『ここ』だ。

『ここ』に鍵の1ピースがある。

 

 

 

 そして丁度都合よく、そのピースを嵌めるために身体が欠損している。

加えて明らかに目の前のエンビは取り乱している。

心が不安定な証拠だ。

 

 

 

 ……コレを利用しない手はない。

 

 

 

 テイラーは、エンビを手駒にすることにした。

いかなる言葉を使ってでも、彼を騙し切ると決めたのであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーこうしてエンビとカラカラを『獄炎の秘鍵』の適合者とした彼女は、彼の力を余すことなく利用した。

バドレックスの存在をエンビに話したら、彼は半信半疑になりつつも積極的に協力した。

ジャックを失った彼は、強者に飢えていたからだ。

 

 

 

 エンビの人脈を駆使した結果、メカニックのクランガという男が見つかった。

彼の協力の下、封鎖地帯となったフウジの地下の扉の修復を進めることとなった。

 

 

 

 また、エンビの協力の末、アンコルの森に生息していた『迅雷の秘鍵』持ちのピカチュウが見つかった。

ピカチュウを手に入れたテイラーは、次にその適合者となる人間を探すことになった。

マネネに心臓を提供した見返りとして、彼女はスモック博士から極秘の情報を入手する。

 

 

 

 地下施設に隔離している超能力少女『スエット』の話だ。

なんとか超能力を抑え込んだが、今度は社会復帰に大きな問題を抱えている……とのことだった。

彼女はそれもまた好都合だと考えた。

圧倒的なサイコパワーを持つ人間であれば、SDの負荷にも耐えうるかも知れない。

と、彼女は考えたのだ。

「怖がらんでもええ。ウチはな、アンタをトレーナーにスカウトしに来たんや。」

「……私を?」

「せや。スモックのおっさんからアンタのこと聞いてな。そないに凄いサイコパワーを持っとるのに、持て余すなんてもったいない。……アンタにはトレーナーの才があるとウチは踏んどるで。」

そして実際にスエットと会って、テイラーは彼女を適合者にすることを即決した。

 

 

 

 

 

 ………しかしそれと同時に、彼女の脳裏にはある考えが浮かんでいた。

もしかしたら、彼女であれば自分の為せなかった『夢』を為せるかも知れない……と。

全てはあの理想郷にたどり着くの過程に過ぎない……が、それでも。

もしかしたらまだ、自分には教育者としての才能があるのでは……と、希望をいだいていたのだ。

 

 

 

 テイラーにとって、スエットはただの手段であった。

しかしそれでも。

彼女は誰より真剣に、スエットにトレーナーのいろはを教え込んだ。

彼女のようにゼロから始めた人間でも、頂点に立ちうるのだと……心の何処かで思っていた。

 

 

 

 しかし結果は実らなかった。

彼女はトレーナーとしての才能も開花せず、SDの適合者にも選ばれなかった。

無才な者がどう努力しても、何一つ為すことは出来ないのであった。

 

 

 

 テイラーはスエットを見限り、彼女とエンビとクランガ……あとは金で雇った暴力団のダフを集めて『バベル教団』を創り上げた。

『あるもの』のために、多くの人材が必要であったからだ。

あの扉の向こうで見たものについて有る事無い事をでっち上げ、さも正当な宗教であるかのようにバベル教団を存在させた。

そのついでで教団には、『凍雪の秘鍵』の器の探索を任せていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、そこまで多くの事に着手してきたテイラーであったが、まだやることが残っていた。

そう、『迅雷の秘鍵』の適合者探しだ。

これといった心当たりもなかった彼女は、タントシティという街にある孤児院を訪れた。

そしておあつらえ向きと言うか……丁度、孤児院のポストの前には生まれたての赤子が捨てられていた。

彼女はこの子供……後のレインを、『迅雷の秘鍵』の適合者として選ぶことにした。

 

 

 

 スエットは成人だったからダメだったのかも知れない。

だが未熟な乳児から育てれば、きっと今度こそは強いトレーナーになる……そう考えたのだ。

実を言うと、二度目の『迅雷』の器は……正直、誰でも良かった。

否、無作為に選ばなくては行けなかった。

 

 

 

 テイラーは、自分の手で……どんなトレーナーでも頂点に建てることを証明したかったからだ。

あの時、無才さに打ちひしがれた己を、どこかで否定したかったからだ。

 

 

 

 その執念だけでテイラーは、レインに必死の教育を施した。

過度な自己肯定感と、ジャックの存在を植え付けながら……。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこからはや5年。

レインはトレーナーとしてデビューを果たし、快調に勝利を重ねた。

テイラーの教育が実を結んだのである。

彼はトレーナーとしても一流になり、適合者としての力も存分に発揮していた。

多くの問題点は散見されたが、それでもイジョウナリーグの頂点を目指すには十分すぎるほどの実力があった。

 

 

 

 

 

 ……しかし彼女は見てしまったのだ。

アンコルシティの公園から出てきた、ジャックとマネネ……そしてその隣りにいたトレンチの姿を。

彼女の姿を見て、テイラーは恐怖とともに確信した。

 

 

 

『この子はいずれ強くなる』と。

 

 

 

 それは単純な彼女の実力の話ではない。

心の話だ。

その最たる理由が、彼女の隣にはいる。

……恐らく『あの』ジャックがいる限り、彼女はどこまでも強くなる。

「戦う理由」が「強さ」に変わる、順当にトレーナーとして強いタイプの人間。

「理由」が「弱点」となってしまったテイラーとは真逆の存在なのである。

 

 

 

 それを果たして、レインは分かっているのか。

恐る恐るであるが、テイラーは訪ねてみる。

「……どや?あのトレーナーを見た感じは。」

「大したこと無いね。あのマネネはさておき、トレンチとかいう奴は話にもならない。」

テイラーは肩を落とす。

分かってない……分かっていないのだ。

彼はあのトレンチという少女の恐ろしさが分かっていない。

 

 

 

 仕方がなく、テイラーは視点をジャックの方に動かす。

そう……散々今まで映像で見せてきたジャックの存在だ。

厳密には違うのだが、それでもこの質問の意図は変わらない。

「……いや、そっちやあれへん。あのスーツ男の方や。」

「……まぁ、所詮は欠陥品って感じかな。控えめに言って出来は良くない。」

 

 

 

 ……この回答で、テイラーは半ば諦めかけていた。

彼には致命的な弱点がある。

他人本位のテイラーと類似した弱点が……そこを彼は自覚すらしていない。

これではいずれは限界が来る……と落胆したのである。

 

 

 

 それでも……それでもだ。

「……まぁせやろ。アンタに比べたら大概の適合者は足元にも及ばんわ。」

『その時』が来るまでは、夢を追わせようと。

自分もまた、レインを支えようと。

そう考え、言葉を……そして自らの心をも偽った。

「えぇ、なんや釣れないなぁ。これからポケモンリーグを目指すトレーナーの付添い同士、仲良くしようやぁ。」

「あれやで、今丁度ジムチャレンジの予約に来たとこなんやわ。」

「それになぁ。ウチの子はアレや。多分近々アンタの後輩になるさかい。せや、後で紹介したろか?」

 

 

 

 きっと既に、ジャックの視界にテイラーたちのことは捉えられていないだろう。

「あのときの代理戦争」なんて考えているのも、彼女だけかも知れない。

それでも……彼女は空虚な言葉を連ねるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして遂に、『限界』は訪れた。

レインは自らの力に溺れ、床に倒れ伏した。

 

 

 

 SDを扱えなくなったのであれば、早めに右腕を摘出するしか無い。

しかしそうなれば、トレーナーとしての復帰は絶望的である。

……テイラーの志は、ここで完全に途絶えたのだ。

ならばせめて、一思いにその夢を断ち切ってやるのが優しさというものだろう。

 

 

 

 あの時、エプロン氏が下ろせなかった……トレーナー人生の幕を、彼女が下ろしてやるのだ。

 

 

 

 彼女は後悔した。

自らの無謀な夢を、レインに追わせたことを。

自らの諦めが中途半端だったせいで、その負債を負わせたことを。

 

 

 

 だからこそレインのトレーナー人生を終わらせるのは、せめてもの慈悲なのである。

「……今までスマンな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーそして時間は現在に戻る。

 

 

 

 彼女には分からなかった。

最後までわからなかった。

一体何故、自分が勝てなかったのか。

一体何故、お嬢とレインがザマゼンタに勝てたのか。

 

 

 

 ……何故、彼らは諦めなかったのか。

 

 

 

「………なぁ、嬢ちゃん。教えてくれや。ウチは一体何がダメだったんや?」

座り込んだまま、テイラーは枯れかけの声でお嬢に問う。

「……なんでレインの肩をそこまで持つん?」

 

 

 

 彼女の痛々しいその声を聞き、お嬢は一呼吸を挟んだ。

レインはそんな彼女らの様子を、息を飲んで見守る。

 

 

 

 

 

「……いい?アンタの敗因は唯一つ。何もかもを中途半端に諦めたことよ。自分を無才と決めつけ、そして更にはスエットやレインのことまでをも諦めた。」

そう言ってお嬢は、後ろのレインの方を見る。

それはもう、尊敬の意味を込めた視線だ。

 

 

 

「そしてこの子が戦う理由は……アンタがいるからよ、テイラー。」

「………!」

「確かにコイツは『トレーナーの未来』とか無駄に壮大なことを抜かしていたわ。でもね、もしホントにそうだったら……アンタなんかいなくても、この子はひとりで立ち上がっていたでしょうね。」

「…………」

お嬢の言葉で気まずくなったのか、レインは完全にそっぽを向いている。

 

 

 

「ハッ……そんなわけがあるかいな!ウチはレインを見捨てたんやぞ!それが一体どうして……」

「………子供が何かをするのに『親に褒められたい』って理由じゃダメなわけ?」

「………!」

 

 

 

 ……分からなかった。

「……わからんわ。」

テイラーには、お嬢の言うことなんて微塵も理解できなかった。

「何言うとん?アンタ、相当のアホとちゃうんか?」

何が親だ。

何が子供だ。

そんなもの、彼女には分からなかった。

 

 

 

 根本は同じだというのに。

 

「誰かに認められたい」という一点では、レインもテイラーも何の違いもないというのに。

 

 

 

 彼女には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど、何故だろう。

普段ずっと、空虚な笑いを浮かべていたテイラーが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに泣いていたのは。

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