【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第106話】身勝手な裁量、ふたりの外道(エンビvsクランガ)

 時間は再び遡る。

そこは地下の最奥部……既にMA-Ⅰとスエットの展開する精神領域から外れた現実世界。

理想郷へ繋がると言われている「扉」がある巨大な空間。

 

 

 

 マホイップの群れに流されても尚、いち早くその場に戻ってきたのは……エンビただ一人であった。

彼は他の者よりもこの場所に精通していた故、アテ勘で早めの脱出が叶ったのだろう。

そして彼は迷わず、「扉」のある空間に繋がるドアを開けた。

 

 

 

「……おいおい、まさか最初に到着したのがアンタとはねぇ。」

ドアが開かれるや否や、「扉」の前に立っている男はそう言った。

その不快な高音に、エンビは返答する。

「……そうだ。だがお前にとっても悪い話ではあるまい。獲物が自分から飛び込んできたんだからな。」

極めて冷静な口調で話しつつ、彼は近づいていく。

「扉」を背中に悠然と佇む男……クランガの場所に。

 

 

 

「いやぁ流石はエンビさん、話が早いッスね!」

ヘラヘラと笑いながら振り返り、クランガはエンビを出迎える。

しかしその態度に対する彼の返事は、全く違うものであった。

 

 

 

 エンビは腰元のボールを1つ取り出すと、即座に中のポケモンを呼び出す。

「ウラアアアアアアッ!」

呼び出されたのはファイヤー……いつもの人選だ。

 

 

 

「あー……なるほど?『俺に勝ったら身柄はくれてやる。だけど負けたらマネネとスエット……あとジャックを返せ。』的な?」

「話が早いのはお互い様のようだな。お前は聡くて助かる。」

口ではクランガのことを褒め称えるエンビであったが、表情は一切笑っていない。

今すぐにでも自らの職務を全うしよう、という本気の目であった。

 

 

 

 しかしあろうことか、そんなエンビの目を見てクランガは……

「プッ………ハハハハハハッ!ウッソだろアンタ!」

そう、笑った。

腹を抱え、全力で嘲笑っていた。

「ハハハ……いやぁ失礼。アンタがそんな生き生きとした顔してるのが、あまりに面白くて!プッ……」

「………。」

「それもコレもトレンチちゃんのせいでしょ?ねぇ、教えて下さいよ。アンタにとっての彼女は一体何なんスか?」

「ウラアアアアアアッ!」

 

 

 

 軽口を叩くクランガに、ファイヤーが痺れを切らして咆哮する。

しかしエンビはそれを制止し、表情一つ動かさずに答えた。

 

 

 

「………奴が素晴らしい人間だからだ。いずれ飽かれ、見放され、堕ちゆくかもしれぬ恐怖心を抱きながら……それでも高みに向かわんと生きる。自らの『弱み』すら、死に物狂いで執着する。……だからこそ、今度こそ失うわけには行かない。あの時のジャックのようなことを……起こさせてなるものかッ!」

「………ハハハッ、なるほどねぇ!なるほどなるほど!実に理屈の通った戯言だ!いやはや……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………笑いすら出てこねぇよこのクズ。何をほざくかと思いきや……。あ?」

クランガの様子が、先程から大きく変わる。

彼の脳内で、血管が数本切れる音がした。

 

 

 

「素晴らしい人間だ?よくもまぁそんな綺麗事をほざきやがる。アンタにとって価値があるのは、『自分より強い人間』だけだ。自分に益をもたらす人間だけ。それ以外は死のうが壊れようがどうだって良い。違うか?」

「………。」

エンビは押し黙る。

反論の言葉が見つからなかった。

 

 

 

「なぁアンタ、『ブレザ』の奴を覚えているか?……そうだ、アンタに惚れていた俺の姉貴だ。」

「ッ……!」

クランガの口から出てきたその名前に、エンビは覚えがあったのだろう。

彼の表情が僅かに強ばる。

 

 

 

「姉貴はアンタのせいで夢を追うことを諦めた。」

「ッ!?あ、アイツは今どうしている!?」

「え?今更気になってんのかよ。いやぁ笑えるわ。アンタ、ホンッッッット救えねぇ差別主義者だな。」

 

 

 

 クランガは鼻で笑い飛ばし、エンビに対して最大限の軽蔑の眼差しを向ける。

そして腰元のボールを投げ飛ばす。

「ギャーーーーーッス!」

中から呼び出されたのはサンダー……彼もまた、クランガの右腕のポケモンだ。

その太い脚で足踏みをしながら、ファイヤーを強く睨みつける。

 

 

 

 だが、サンダーの様子がおかしいことにはエンビもすぐに気づいた。

「……いや、待てクランガ……ソイツは……!」

「おっと、流石。気づいたか……。」

全身の体毛から青い火花がバチバチと飛び散っており、僅かに身体が金色に輝いている。

本来でんきにまつわる能力は持たないはずのサンダーが……だ。

その様子は、まるでカントー地方に居る方の種族のようである。

 

 

 

 この現象には、エンビも見覚えがあった。

「ま……まさかお前……!?」

「あぁ。丁度テイラーのやつが、アレを切り落としてきてくれたんでね。」

そう言ってクランガが指し示したのは、彼の脇に置いてあった黒く細長い物体……そう、『レインの右腕だったもの』だ。

 

 

 

 ソレが指し示されたということは、答えは一つ……

「そういうことか……貴様、サンダーに無理矢理SDを発動させたな!?」

「おぉ、ご名答!いやはや、やはり6年モノの腕は質が違う!お陰で適合者ナシでSDが出せる。」

クランガは軽い拍手と共に、エンビを称える。

 

 

 

「まぁ、アンタを仕留めるならコレくらいの対策は必要かなぁって。興味本位でやってみんスよ。」

「なんてことをしたんだッ……そのサンダーと接続されているのは、ただの右腕の断片!おまけにそのサンダーは『迅雷の秘鍵』を持っていない!そんな不完全な状態でSDを発動させてみろ……お前ならどうなるか分かってるだろ!?」

「ウラアアアアアアアッ!」

エンビの怒鳴り声と共に、ファイヤーが『もえあがるいかり』のブレス攻撃を放つ。

既に言葉による話し合いは不要……一刻も早くあのサンダーを無力化させねばなるまいと、互いの考えが一致したゆえの行動であった。

 

 

 

 だが残念……その攻撃はサンダーのひとっ飛びで完全に回避されてしまった。

「ギャーーーーーッス!」

飛び上がるや否やサンダーは足を壁につけ、爆速キックでUターンタックルをかましてくる。

「ファイヤー!『ふいうち』だッ!」

「ウラアアアアアアッ!」

ファイヤーの翼がサンダーの足元に直撃し、その力を無駄なく別方向へと受け流す。

力の向かう方角は見事に転換され、サンダーは近くの床へと叩きつけられた。

 

 

 

 形だけ見れば、ファイヤーが攻撃を防ぎきったかのように見える。

しかし実際には……

「ウラッ……ラッ……!」

「ファイヤー……なっ、痺れだと!?」

そう、ファイヤーの様子が明らかにおかしい。

まるで電撃を食らった直後であるかのように、翼が痙攣しているのだ。

 

 

 

「いやいや、まさかひこうポケモンが『らいげき』を無傷で受けられるとでも?」

「チッ……もうその攻撃が使えるレベルにSDが進行してるとは……ッ!」

そう、本来であれば『らいげき』は普通のでんきポケモンですら取得は困難な技だ。

しかし法則を乱すSDであれば、それは可能となる。

だがそれは適合者との融合が進んだ場合に限る。

 

 

 

 つまり何が言いたいか。

このサンダーはかなり前からSDを仕込まれていた……ということだ。

「お前ッ……自分が何をしたか分かっているのか!?」

「えぇ、分かってますよ?俺はサンダーの命を削ってアンタを仕留める計画を立てた。当然、人様に褒められるようなことじゃあねぇ。」

「ッ……!?」

クランガは開き直って言う。

あまりにも平然と……悪びれもせず。

 

 

 

「決まってるじゃないッスか。俺たちバベル教団のやってきたことなんてロクなことじゃあない。その証拠がコレだろ?」

そう言ってクランガは僅かに身を退き、眼前に広がる「扉」の方を指差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに立ち並んでいたのは、「扉」の周辺に打ち捨てられた無数の『人』だ。

その誰もがバベル教団にまつわる装飾品を身に着けている……即ち、この教団の信者たちである。

彼らは皆、スエットの如く全身にケーブルを巻かれており、意識のない状態に合った。

 

 

 

「コレは………!?」

「おいおい今更聞くなよ。アンタと俺で集めてた信者だよ。」

「違うッ……彼らに何をしたのかと聞いてるんだ!」

「ハァ……とぼけてんのか察しが悪いのか……」

クランガは半笑いの表情で溜息を漏らす。

 

 

 

「コレは今は電脳要塞の追加オプションとして使っている『ドライブディスク』だ。MA-Ⅰだけではここまで広大な世界は築けないもんでね。」

「ッ……!」

「まぁ、『扉』を開く準備ができたら、今度は先遣隊として使ってやる予定だ。」

「それって、まさか……!?」

エンビはクランガの次の言葉を予見し、生唾を飲む。

予想通り、彼から紡がれたものは最悪な単語だった。

「あぁ。要するに『生贄』……否、『捨て駒』ってやつさ。ま、敬虔な信者である彼らなら喜んで扉に突っ込んでくれるだろ。」

 

 

 

 そう……これがバベル教団が「教団」たる理由。

彼らが多くの人民を集めていた理由だ。

この「扉」を開けるには、大量の人柱が必要なのである。

 

 

 

「え?まさか信者たちがこうなるってこと、アンタは知らずに勧誘してたワケ?マジかよ!これはとんだ笑い草だ!」

「……もういい!俺も貴様も外道であることは認めよう!だがそれが貴様を許す理由にはならんッ!」

エンビは怒りに身を任せて叫び、ファイヤーに指示を送る。

 

 

 

「ファイヤー、『ぼうふう』だッ!サンダーが起き上がる前に仕留めろッ!」

「ウラアアアアアアアアッ!」

痺れた翼をものともせず、ファイヤーは空気の塊を叩きつける。

「ハッ、SDの力を知らねぇアンタじゃないはずだ!『らいめいげり』ッ!」

「ギャーーーーッス!」

 

 

 

 だがサンダーも負けじと、暴風の中を蹴りの一撃のみで貫いてきたのだ。

ダメージを真正面から受けつつも立ち向かうその精神は、最早異常としか言いようがないソレであった。

「そこだ穿てッ、『らいげき』だッ!」

「ギャーーーッ!」

サンダーの全身に雷が纏われ、下側からファイヤーを突き上げる。

効果は抜群……大ダメージを与えたのである。

 

 

 

「ウラッ……!」

「クソッ……『まひ』か!」

身体が痺れ始めたファイヤーは、徐々に高度を保てなくなる。

そしてついには、その背中を地面に打ち付けることとなってしまったのだ。

 

 

 

「ふぁ、ファイヤーッ!」

「ウラ……」

痺れる身体を起こし、なんとか攻撃の体勢へと戻ろうとするファイヤー。

だがそれを、SDの超強化で復帰が早まったサンダーが許すわけもない。

「これで終わりだッ……『らいめいげり』ッ!」

「ギャアアアアアアアッス!」

上空から迫りくるサンダーの攻撃が、ファイヤーの首筋を踏み潰す。

「ウ………ッ」

致命的な大ダメージを受けたファイヤーは、その場で動けなくなった。

 

 

 

 

 

「ッ………!」

エンビはファイヤーをボールへ戻す。

だが彼らの策が甘かった訳ではない。

……明らかにサンダーの身体能力が異常なのだ。

やはりSD相手に勝てるのは、SDだけなのである。

「……なぁ、いっつも思うんだけどよ。アンタっていつもファイヤーばっかり使うよな。」

「……それがどうした?」

「カラカラが居る割に、SDの力を使わねぇよなって言いたいんだわ。」

クランガはエンビに近づき、長身の彼の顔を覗き込むようにして話す。

 

 

 

「なぁ……アンタは『ちゃんとした敗北を知りたい』んだよなぁ?その割には本気を出さねぇ。最初からSDを使っていれば良いものを……。」

「……黙れ。」

 

 

 

「アンタ……怖いんだろ?全力を出すのが。SDの力を使うのが。」

「黙れッ………!」

「アンタはSDの力を副作用無しで使えるんじゃねぇ。『ただSDを使っていないだけ』だ。それはアンタがビビってるからに他ならない。」

「黙れと言っているッ……………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉は、エンビの逆鱗に触れた。

事実は時に、何よりも残酷なものであった。

彼の中で、リミッターがいくつか外れる音がした。

顔つきが完全に変わったエンビは、次のボールを取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「………良いだろう。そこまで言うなら見せてやる。貴様が満足するだけの『全力』とやらをッ……!」

「……来いよ半端者。テメェに『敗北』を教えてやるよ。」

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