【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第107話】半端者の意地、無情な偶然(エンビvsクランガ)

「……良いだろう。そこまで言うなら見せてやる。貴様が満足するだけの『全力』とやらをッ……!」

「……来いよ半端者。テメェに『敗北』を教えてやるよ。」

両者睨み合い、再び戦いの火蓋が切って落とされる。

かつて無い程の本気を見せるエンビが選んだポケモンは、当然……

 

 

 

「来いカラカラッ!」

「マーーッ!」

彼はボールの中からカラカラを呼び出すや否や、手元のポケットナイフで首筋付近を斬りつける。

SD発動の動作だ。

瞬間、エンビの傷口からは赤黒い血と紫の炎が吹き上がり、カラカラもまた同色の炎に身を包む。

僅か数秒後、そこには姿を大きく変えたカラカラが降り立つ。

 

 

 

「マッ………!」

「ギャ………!」

カラカラとサンダーは互いに睨み合う。

互いが互いの能力の凄まじさを把握しているが故……それは正しく恐怖心として芽生えるのだ。

その恐怖こそが、各々の戦意を助長する。

 

 

 

「ッ………!」

エンビは腕を薙ぎ払う。

普段は欠かさない「言葉による指示」を省略し、感覚共有のみを生かした伝令に切り替えたのだ。

「マーーーーッ!!」

カラカラの背中から放たれたのは5発の『ホネブーメラン』……死角のないミサイルがサンダーを襲う。

当然、これを回避することは至難……否、物理的に不可である。

 

 

 

「おいおいマジで殺りに来てんじゃん……サンダー、『らいめいげり』だッ!」

「ギャアアアアアアッ!」

サンダーは背面から左足を向け、目にも留まらぬ後ろ蹴りを3発繰り出す。

その3撃は正確にホネを叩き砕いたが……残りの2発は見事にヒットしてしまった。

「ギャッ………!」

「……まぁ、最低限のラインまでは軽減できたか。」

本来ならばひこうタイプのサンダーに『ホネブーメラン』は無効である。

……が、SDの力を前にタイプ相性などは関係ない。

全ての攻撃は致命傷になりうる火力があり、受ければ無効化は不可能……まさに理不尽な強さなのである。

 

 

 

 だがそれは今やサンダーにも同じことが言える。

「よし……切り返せサンダー!『らいげき』だッ!」

「ギャアアアアアアアアアッ!」

ダメージを受けたばかりだと言うにも関わらず、サンダーはよろける身体を立て直して攻撃の構えに移行する。

雷電を纏った爆速の突進で、カラカラを襲わんとしてきたのだ。

でんきわざの『らいげき』も、今やカラカラでは無効化出来ない……喰らえば致命傷である。

 

 

 

 エンビは腕を前に構え、それと同時にカラカラもホネを正面に向ける。

これは防御の構え……ホネでサンダーの突撃を受け止める算段だ。

スピード差を考えれば、回避でなく防御の手段を取るのは妥当である。

 

 

 

 そして両者の力は衝突した。

「ギャアアアッ!」

「マッ!」

前へ前へと押し通ろうとするサンダーを、カラカラはホネで押し戻そうとする。

互いの力はほぼ互角……完全な鍔迫り合いの状況が続く。

 

 

 

 だがその状況を打破する方法を、エンビは知っていた。

「ふんッ………!」

彼は足に大きく力を込め、カラカラに次の攻撃を指示する。

「マーーーーッ!」

するとカラカラの足元が急に燃え上がり、前傾姿勢を維持したまま前進し始めた。

その勢いは、まるでレールの上を等速直線運動で動く列車のようあった。

 

 

 

 十メートルほど進んだところで、カラカラはホネのひと薙ぎでサンダーを殴り飛ばす。

加速度付きの特大火力で放たれる『ホネこんぼう』だ。

「ギャッ……!」

受け身の間に合わなかったサンダーは、近くの鉄柱に叩きつけられた。

普通であれば大ダメージで、復帰は絶望的だ。

だが、サンダーはすぐに2本の足で立ち直る。

その精神力を表現するならば、「異常」の一言であった。

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアッ!」

サンダーの鳴き声が、地下の空間にけたたましく共鳴する。

自らの闘志を高めているのだろうか、全身の体毛から更に激しく火花を散らしている。

だがその様子はまるで……

「ッ、マズい……SDの凶暴化が進んでいるッ!」

 

 

 

 エンビには見覚えがあった。

7年前に見たSDサンドの大暴走……目前のサンダーはそれに酷似しているのだ。

一刻も早く戦いを終えないと、いよいよサンダーの生命的危機に関わってくる。

……が、話し合いによる解決は不可能だ。

であれば必然、求められるのは「勝利」という結果のみである。

 

 

 

「そろそろ活動限界みてぇだな。いやぁ、流石に突貫工事じゃ長持ちはしねぇかぁ……」

「ッ……お前……!」

クランガのその態度に、エンビは堪忍袋の緒が切れた。

彼はあまりにも、ポケモンをないがしろにしすぎている。

それが自覚を持った上での行動かどうかなど関係ない。

目前の男は、あまりに邪悪であった。

 

 

 

「まぁ、早めに決めるか……行け、『らいめいげり』だ。」

「ギャアアアアアアアアッ!」

クランガの指示の直後、サンダーは上空に飛び上がって蹴りの構えを見せる。

まるで雷が落ちるかの如き勢いで踵を叩き落とす……『らいめいげり』の最もオーソドックスな構えだ。

 

 

 

 攻撃前の隙は比較的大きい……が、それはあくまで相対的な話。

飛び上がってから落下までの時間は僅か1秒にも満たない。

当然、カラカラに回避が可能な速度ではない。

だが……

「おっと……まさかホネで防御しようだなんて考えてねぇだろうな?やめとけ、高低差付きの攻撃を耐えられるわけがねぇ。」

「………。」

そう、クランガの言う通り……この基本形態の『らいめいげり』は凄まじい火力を叩き出す。

加えてこのわざそのものが、対象の中核に直接衝撃を与える効果がある。

 

 

 

 つまり、この攻撃を受ければホネが砕け散る。

防御も回避も不能……

エンビ側は既に、手詰まりの一歩手前まで追い詰められているのだ。

 

 

 

「終わりだエンビィイイイイイイイイイイッ!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!」

サンダーの痛烈なキックが、カラカラに直撃する。

それも真正面からのクリティカルヒット……誰がどう見ても、無事で済む攻撃ではなかった。

 

 

 

 ……だが、カラカラは立っていた。

真正面に傷が付いてはいるものの、それでも膝を折ること無く立っていた。

 

 

 

「なっ……どういうことだよ……!?致命傷じゃねぇのか……!?」

「……あぁ、間違いなく致命傷だ。」

「……!?」

そこに立っていたのは、脳天から血を流して直立するエンビであった。

足元が震えており、既にそこに立っていることは限界なのだろう。

 

 

 

「ばっ……どこにテメェが耐える要素が……!?」

「さぁな。敢えて言うなら『ただの根性』って奴さ……!」

「は!?」

エンビの言葉は正しかった。

……そう、彼はあくまでも「己の意地っ張り」だけでそこに立っている。

 

 

 

 SDは感覚を共有する力……即ち、片方の意識が保たれていれば、そこから無理矢理引き出すことも可能なのである。

しかしそれは、普通の人間が成し得る事ではない。

エンビの精神力が、ただひたすらに強かっただけなのである。

 

 

 

 しかもエンビとカラカラは、ただそこに立っていただけではない。

彼らの差した一手にクランガ達が気づくのは、そう遅いタイミングではなかった。

「チッ、サンダー!追撃だ!……おい……サンダー……サンダー!?」

「ッギャ………!」

「は……!?」

サンダーはその場で呻いて悶えている。

足の裏を床につけぬよう、必死に転がっているのだ。

 

 

 

「まさか足裏を火傷したっつーのか……!?」

「マッ……!」

そう、カラカラはただ相手の攻撃を受けたわけではない。

その場で体温を急激に上昇させ、『らいめいげり』の一撃と交換で相手の足裏を焼き切ったのだ。

それは回避でも防御でもない……エンビの精神力を犠牲にした、捨て身の反撃だったのである。

 

 

 

「……どうだ!?これが貴様の言う半端者の……力だッ!」

「ッ………!」

エンビはふらつく頭を無理矢理抑えながら、遠のく意識の中で正面を見据える。

カラカラと繋がった意識を手放さないよう

「さて……これが最後だ……!トドメを刺せッ『フレアドライブ』だッ!」

「マーーーーーーーーーーーーーッ!」

カラカラの全身が燃え上がり、最大級の攻撃をサンダーに仕掛けようとする。

エンビの意識も自然とその熱の中に溶けていく。

互いの心身もほぼ限界に近い。

恐らくこれが、最大にして最後の攻撃だろう。

文字通り、全身全霊を賭ける。

 

 

 

「行けぇええええええええええええええッ!」

「マーーーーーーーーーーーーーッ!」

まさに爆速……カラカラは真正面のサンダーに向かい、全力で駆け抜けていく。

そう……まっすぐ……前を見つめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……チッ、動けってんだよこの【自主規制】ッ!!!!」

まさにクランガの負けが確定しようとしたその瞬間……彼は手元にある『レインの腕だったもの』を手元のスパナで殴りつける。

それは即ち……サンダーのSDのトリガーである。

「ギャ……ギャアアアアアアアアアアアアッ!」

あまりの痛覚に、サンダーが耳の裂けるような金切り声を上げた。

そして彼は、自らの生存本能から体内のエネルギーをあらん限りに暴走させた。

 

 

 

 するとその力は、彼の体毛を通して光へと変わる。

その場で甚大な雷が散り散りになるかの如く、黄金の閃光が周囲を覆い尽くしたのだ。

 

 

 

 あまりに明るいその光は、人の目に入れていいものではなかった。

これを人が直視すればどうなるか……想像に難くないだろう。

「目がッ……あああああああああああッ……!」

「マアアアアアアッ!」

丁度サンダーを直視していたエンビとカラカラは、モロにその光に目を刺されてしまった。

ふたりは両目を抑え、強すぎる光に悶絶する。

SDで感覚共有をしているということは、即ち受け取る刺激も2倍……彼らにとってはまさに地獄のような苦しみだったのだ。

 

 

 

「クソッ……!」

エンビはすぐにSDを解除する。

カラカラはその場で倒れる……が、これで彼はボールに戻れる。

結局この勝負は、クランガの偶然……あまりに卑劣な偶然によって幕を閉じたのだ。

 

 

 

 

 

「ッ……ふぅ。やれやれ、サンダーも最期くらいは役に立ったか。ま、怪我の功名っつーことだな。」

頭のゴーグルをとっさにかけたことで、クランガはこの光の餌食とならずに済んでいた。

そして黒光りするグラス越しに、苦しむ彼らの姿を眺めて嘲笑っていたのであった。

 

 

 

「……お、何か近づいてくる音が聞こえるな。あっちもタイムリミットか。……っし、こういうときのために用意していおいてよかったな。」

そう言うとクランガは、作業着のポケットからスプレー缶を取り出す。

そしてそのスプレーを、エンビに向かって思いっきり吹き付けた。

 

 

 

「ぐあああッ……クソッ……何をしたクランガぁああああああッ!?」

「……何をしたか……ねぇ?まぁ、今にわかるんじゃないスか?」

クランガはそうほくそ笑む。

彼の宣言通り、そこには間もなく訪れた。

……逃れようのない終末が。

 

 

 

 

 

 直後、遠くでこの空間に通ずるドアを蹴破る轟音が聞こえてくる。

そして4つの蹄が鳴る音と共に、『ソレ』は現れた。

『ハァ゛ッ………ハァ゛ッ………ア゛アッ……ェエ゛…!』

「そ……その声は……ジャック!?」

エンビは目を塞ぎつつも、僅かな旧友の声に耳を傾ける。

そこにいたのはジャック……もとい、ジャックと同じ声のレイスポスであった。

 

 

 

『ァアア……ォオオ゛オオオオオ゛オオ゛オッ!』

レイスポスは亡者のように濁った声で咆哮する。

脂汗を垂らし、自らの軌跡に血反吐を撒き散らしつつ、それでも驀進する。

そんな彼の目標に居たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 エンビであった。

彼は一切の迷いなく、エンビに馬乗りになって襲いかかってきたのだ。

『ハァッ……ウォエ゛……アアア゛アアアア゛アッ!』

「……なっ……何故だジャック!?」

エンビはようやく慣れてきた目をゆっくりと開くが、そこに居たのは憔悴しきったレイスポスの姿……

しかも自分に、これ以上無いほど明白な殺意を向けているのだ。

 

 

 

 ……が、彼らに考える時間は与えられない。

互いに許されたことは、理由のない蹂躙をすることと、それを受け入れることのみであった。

「がっ……あああッ……!」

『アア゛アアッ……ア゛ア゛アアア゛アアアアア゛アッ!』

レイスポスはその凄まじい体重とともに、エンビの全身を踏み抜いていく。

歯を突き立て、喉の欲するままに肉を食いちぎっていく。

全身の骨が折れ、曲がってはいけない部位が曲がる。

鮮血が漏れ出し、エンビは徐々に意識を失っていく。

 

 

 

 ……それはまさに、殺戮にも等しい行為であった。

 

 

 

『ア゛ア゛アッ……ウ゛ォアア゛ア……ア゛アアア゛アッ!』

「…………ッ。」

エンビから言葉が紡がれることはない。

既に彼の意識は途切れかけていた。

「いやぁ、まさか『いかりのこな』をスプレーにしたものがここまで効くとは想定外だわ。今日の俺、死ぬほど付いてるゥ!」

クランガは口笛を吹きながら、レイスポスに踏み潰されるエンビを見下ろす。

 

 

 

『いかりのこな』……それをまぶされた対象は、あらゆるポケモンからの怒りを買い、攻撃・加虐の対象となる。

これは理性を失ったレイスポスには効果的だった。

彼はこの粉を受けたエンビを、本能的に『忌み嫌うもの』として認識してしまっていたのである。

 

 

 

「……ま、良かったな。これ以上ねぇ無様な『敗北』じゃねぇか。」

「………。」

その声は、エンビに届いていたかどうかはわからない。

が、彼は何も返さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、遠くから再び別の音が聞こえる。

「……よし、行くぞトレンチ。覚悟を決めろよ。」

「……わかったわ。」

そう、お嬢とレインの声であった。

彼らはMA-Ⅰの電脳要塞を抜け出し、レイスポスを追ってこの場に辿り着いたのである。

 

 

 

 その音を聞いたエンビは、途端に意識を取り戻す。

精神の奥底から、激痛を堪えて死物狂いで這い上がってきたのだ。

 

 

 

 そうだ……彼らをここに立ち入らせてはいけない。

彼らが来れば、目にするのはあまりに残酷な事実だ。

ここは大人の自分のみで片をつけなくてはいけない……

その意地のみで、エンビはありったけの大声を出す。

 

 

 

「来るなッ……レイン……トレンチッ!」

「え……エンビ……!?」

「今は……駄目……だ………………」

「エンビ?……おいエンビッ!?返事をしろッ!」

彼の声は、途絶えてしまった。

 

 

 

 エンビの身に何かがあったことを察した二人は、互いに目を合わせる。

「……レイン!」

「あぁ、わかってる。助太刀に行くぞッ!」

二人はそう言って、閉じかけの扉を思い切り開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………直後、お嬢が悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

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