【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第111話】役立たずの居場所、隣人の重荷

「僕とマネネの身体を入れ替えてほしいんだ。」

「………は?」

キルトの口から発せられた突拍子のない話に、スモック博士はぽかんと口を開けたまま固まる。

 

 

 

「いやいやキルト君。そんな非科学的なことが出来るわけないじゃないか。ましてや僕なんかに……」

「違う。叔父さんだからですよ。」

「まねね!」

そう言うとマネネは、ハナダの空き家で拾ってきた書類のコピーを提示する。

「そ……それは……!」

差し出されたその紙は、博士にとっても知らないものではなかった。

 

 

 

 記されていた内容は、以下の通り。

 

 

 

『××××年。「ポケモンと人間の肉体を交換・融合する」という極めて超常的な装置は、大変画期的な発明である。しかし開発者本人含んだ実害の発覚に伴い、この装置は現状では人の手に渡ってはいけないものと判断される。よってこの装置をA+級の指定違反物と認定し、これを押収する。-VCOイジョウナ支部 部長・スモック-』

「……VCO、そして叔父さんの名前。ねぇ、何か知ってるんですよね?」

キルトは博士を問い詰める。

博士としても、そこに自身の名前がある以上は言い逃れなどしようもないだろう。

 

 

 

 

 

 事実、スモック博士はこの組織と関連があった。

VCOというのは特定違反物収容機関(Volated Collection Organization)の略称だ。

この機関の役割は、科学的法則を大きく逸脱した物品・生命体の収容または処理。

正確には人体やポケモンに対して甚大な被害が及びうるものに限定されるが……その是非の審査も含めてこの機関の仕事だ。

 

 

 

 要するに、科学者の中の始末屋みたいなものである。

スモック博士のコレまでの活動内容は多岐にわたる。

フウジシティ地下で発見された謎の扉の調査、スネムリタウンの消失に関わる少女の収容など……そして博士はそんなプロジェクトのトップに立つ人物だった、というわけだ。

 

 

 

「……なるほどね。そこまで調べ尽くしたって訳か。しかしまぁ……よくそんな所から情報を持ってきたね。一応VCOって機密機関なんだよ?」

「勝手に探って申し訳ありません。まさか叔父さんの名前が出てくるなんて……想定外でした。」

キルトは俯きながら、バツが悪そうに答える。

彼は未だに信じられなかった。

 

 

 

 しかもあの温厚そうな叔父が……普段は「ポケモン博士」などと名乗っている人物が、まさかそれほどの裏組織の長だったなどとは……

 

 

 

「……確かにあるよ。ポケモンと人の『精神』だけをそこに取り残して、肉体を入れ替える装置。開発者本人の同意を得て、ウチの機関が収容済みだ。」

そう、ハナダシティから回収した例の装置は、確かにこの研究所に存在していた。

機関内での話し合いの末、この装置は『世間の目には晒せないが、研究材料として残しておく価値はある』として、カナシバの地下に厳重に保管されることとなったのである。

 

 

 

「じゃあ……!」

「だけどねキルト君。僕は聞きたいんだ。……一体何故、そのマネネと入れ変わりたいと思ってるんだい?」

博士は最も大事な事項を、キルトに確認する。

彼は答えた。

 

 

 

「このマネネの意志なんです。この子は前のトレーナーの都合で、旅を中断させられた。」

「……ほう。」

真剣な眼差しで、博士が相槌を打つ。

「だから僕は、修道院にいたマネネを連れて旅に出た。でも、この子がなりたいのはポケモンじゃない。……トレーナーだ。でも、ポケモンはトレーナーにはなれない。」

「……つまり?」

「このマネネを人間にしてほしい。」

「でもそれには代償がいるよ?」

「分かっている。……だから僕の身体をあげるんだ。」

 

 

 

 キルトの言葉を聞いたスモック博士は、そのままマネネの顔を見る。

彼の表情は真剣であった。

どうやら本当に、互いの意志は一致しているようだ。

 

 

 

「……わかった。そこまで言うなら僕も否定はしないよ。」

そしてスモック博士は、キルトとマネネを連れて廊下に出た。

1階の奥の非常用倉庫にある食料棚を横にズラすと、壁には大きなエレベーターの扉が姿を表した。

そのエレベーターは地下へと向かい、ブザー音と共にすぐに扉が開かれる。

 

 

 

 その暗室にあったもの……それこそがハナダの科学者から押収した「例の装置」であった。

人がひとり入れる程度の縦長のカプセルケースが2つ、コードで繋がれている。

ひと目見ればその装置の目的が把握できる程にはわかりやすいデザインであった。

この装置に入れば、ついぞマネネの悲願は為されるのだ。

 

 

 

「……しかしキルト君。確かにマネネはそれでいいかも知れない。でも君は良いのかい?」

博士は最終確認、と言わんばかりにキルトに再度問い直す。

「ポケモンの姿は人とはあまりに勝手が違う。今までのように人と喋れなくなるかもしれない。」

「いいよ。どうせ話さなきゃいけない人もいないし。」

即答だった。

あまりの割り切りの良さに、博士も少し戸惑う。

「そ、それだけじゃない。この交換が万一失敗すれば、取り返しのつかないことになるんだよ?」

「………。」

キルトは少し考える。

確かに人間の姿でなくなれば、今までとは違う人生を送ることになるだろう。

不自由だってするかも知れない。

 

 

 

 ……だが、不自由なのは人の身でも変わらなかった。

彼は学校に行かずに修道院へ通いっぱなしだったが、その事に後ろめたさが無かったわけじゃない。

常に彼は、「誰の役にも立っていない」という思い込みに苛まれていたのだ。

それはキルトにとって、不自由であることと何ら変わりはなかったのである。

 

 

 

 ならばいっそ。

ならばいっそ、マネネにその身を譲り渡すことで、彼に第二の人生を与えてやるべきだと考えたのだ。

誰の役にも立たない自分より、気力も才覚も満ちているマネネが使ったほうが有意義だ。

その方が、自分も後ろめたさを感じること無く生きていける。

キルトはそう考えていたのである。

その思考は打算的すぎた。

……が、彼らの決意は揺るがなかったのだ。

「……わかった。本当に、後悔しないね?」

スモック博士の最後の問いに、キルトは小さく頷く。

 

 

 

 こうしてキルトとマネネはカプセルの中へと入れられた。

スモック博士は装置の電源を入れ、最後に中央のスイッチを押す。

 

 

 

 そこから数分後……少年は自らの身体が大きく縮む感覚に襲われた。

足も思うように曲がらず、頭の上がやけに重たい。

そうして段々と意識が鮮明になっていき、次に目を開けたときには……

 

 

 

 キルトはポケモンに……そう、マネネの姿になっていた。

「ま……まねね?」

彼は言葉を発する。

しかし声帯の形が変わった影響か、思うように言葉を話すことが出来ない。

 

 

 

「……っ!うっわ目線高いな!こりゃ慣れるのに随分と時間がかかりそうだぜ。」

そう言いつつカプセルから出てくる少年……否、その中身は既にマネネの意識であった。

驚くほどすんなりと終わった肉体の交換に、立ち会っていた博士も驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「……上手く行ったようだね。身体に異常はないかい?」

「あぁ、俺の方は無事だ。キルトはどうだ?」

「……まね。」

彼は小さく頷く。

どうやら問題は何一つ無いようだ。

 

 

 

「さて……ここからは俺らの旅の始まりだ!行くぞキルト!」

そう言いつつ、人の身体を手に入れたマネネはエレベーターの入口まで戻ろうとする。

「………」

が、しかし。

走りゆくマネネにキルトはついていこうとしない。

 

 

 

 違和感を感じたマネネは立ち止まり、振り返る。

「……おいキルト?何やってんだよ?早く旅に行こうぜ!」

「………まねね。」

しかしキルトは首を横に振った。

そしてそのまま、スモック博士の背後に隠れたまま動かなくなったのだ。

 

 

 

「……はぁ!?『僕じゃあ君の旅にはついて行けない』だあ!?」

「……。」

キルトは小さく頷く。

「おいおい、どうしてだよ……!?」

「……。」

その答えは、単純だった。

 

 

 

 キルトはまた、怖くなったのだ。

戦うことがじゃない。

「評価される」ことがだ。

マネネは必然的にトレーナーとなる以上、ポケモンである彼のことを評価し統率していく立場にある。

その立場に立たされるのが……彼は怖かったのだ。

また役立たずに逆戻りしたらどうしよう……今度はキルトの足を引っ張るかもしれない……

そんな事ばかり考えて止まなかったのだ。

 

 

 

 その意志を、キルトは懸命に伝えた。

するとマネネは溜息とともに答える。

「………そうか。まぁ、お前も色々辛かったんだろうしな。……それがお前の選択だって言うなら、無理強いはしねぇよ。」

そう言ってマネネは長く伸びたその手で、ポケモンと化したキルトの頭を撫でる。

「その代わり、後悔しても知らねぇぞ?『あの時一緒に旅に出ていれば、チャンピオンのポケモンを名乗れたのに!』なんて言うなよ?」

「……まね。」

どこか元気無く返事をするキルト。

その心内では、「これでよかった」と安堵していた。

 

 

 

 こうして彼はスモック博士と一緒に、研究所から旅立つ少年の背中を見送ったのであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこから1年後。

研究所でスモック博士と共に過ごしていたマネネは、ある知らせを聞く。

『キルトというトレーナー』がカントー地方のセキエイリーグで、ベスト4の好成績を叩き出した……というのだ。

 

 

 

「まね……」

マネネは研究室に鳴るラジオの音声に、耳を傾ける。

やはり『彼』は才能があったのだ。

少しだけ……あの時の『彼』の言葉を思い出す。

しかし少なくとも、今の『キルト』が快調な成績を出していたことは間違いない。

そしてそこに自分はいない。

……これが正解だったのだと、彼は自分の中で結論づけることにした。

 

 

 

 そこからも『キルト』の快進撃は続いた。

更に2年経過したころには、なんとイジョウナリーグで優勝したというのだから驚きだ。

「おい見ろよキルト!トロフィーだぜ!すげぇ重い!」

そうホロキャスター越しに喜ぶのは、見違えるように明るくなった少年。

「まねね!」

彼は偶に研究所の方に連絡を寄越してきたが、その度にマネネはキルトの事を讃えていた。

そう、「これ」が一番、彼の役に立つ方法だと盲信しながら。

 

 

 

 

 

 ーーーーー更に時間は経過した。

このカナシバタウンの研究所は、『最初のポケモン』の受け渡しを行う施設でもあった関係で、多くの駆け出しトレーナーが訪れていた。

そんな彼らの旅立ちを、マネネはスモック博士とともに幾度となく見送ってきた。

 

 

 

 ……しかしその日、訪れた来客はあまりに予想外の人物であった。

「ウチな、ポケモントレーナーになりたいんや。」

聞き覚えのあるその声に、まさか……と思いつつマネネは部屋を覗き込む。

「ホンマか?いやぁ、悪いなスモックのおっちゃん。」

そう……そこに居たのは彼の妹、テイラーだったのだ。

なんと彼女も自分と同じように、海を渡ってイジョウナ地方まで来たのである。

 

 

 

「それはもちろん、多くの人に注目されるトレーナーになって……みんなの記憶に残り続けることや!」

相変わらずの明朗快活な声に、キルトは懐かしさと少しばかりの嫉妬心……そして何より安心感を抱いていた。

そうだ、きっと万物に通じる天才たる彼女であれば、トレーナーとしてもやっていけるだろう。

そう考えていたのだ。

何も心配することはない。

 

 

 

 ……本当にそうなのだろうか?

不安を感じたマネネは、スモック博士の顔を見つめて問いかけた。

「まね……?」

「はは………大丈夫さ。あの子ならきっといい旅をするよ。」

そう、何も問題はない……そう信じて送り出した。

 

 

 

 

 

 ーーーーーしかしその1年後。

テイラーは見事に惨敗した。

ジャックという同じく新人のトレーナーに、見るも無残に敗北したのだった。

否、テイラーだけではない。

なんとキルトまでもが、決勝戦にてジャックに敗北を喫してしまったのである。

マネネは心底驚いた。

自らの知る『才あるもの』が2人……こうも敗れ去るなど、心底信じ難かったからだ。

 

 

 

 そこから先のテイラーは、まるで彷徨うかのように他の地方に赴いたが結果は振るわなかったようだ

更にそこに追い打ちをかけるように、悪い知らせが飛び込んでくる。

……父・エプロン氏の訃報だ。

 

 

 

 その一報には、マネネも大層悲しんだ。

関係が希薄だったとは言え、自らの父親の死だ。

何も感じないわけがない。

……しかし彼以上に、その事に傷心したのはテイラーの方であった。

どうやらトレーナーとしての旅に出る前にエプロン氏と言い争っていたようで、その事を謝ろうとした矢先のこの報せだったのだそうだ。

 

 

 

 訃報からまもなくして、エプロン氏の葬儀が行われた。

一応形の上で、ということでそこにはキルトとマネネも参列していた。

久方ぶりに再開した彼であったが、その表情は以前と比べて幾ばくか暗くなっていた。

……ジャックに負けたあの時からだ。

彼の目には、常にあの男の姿が映るようになってしまったのである。

 

 

 

 そんな彼だからこそ、こんな見知らぬ人間たちが辛気臭そうにしている場からは、早めに帰りたがっていたのだ。

キルトは退屈な気持ちを抑えつつ、周囲の人間を見渡す。

そして自然と彼の目には、テイラーの姿が映った。

 

 

 

「なぁ……お前の妹ちゃんってあんな奴だったっけ?」

まるで抜け殻のようになった彼女を見て、キルトはマネネに問う。

「……まねね。」

マネネは横に首を振る。

それは『いいえ』の意味ではなく、『わからない』の意味だ。

 

 

 

 ……そう、彼は何も分かっていなかった。

自分の才ある妹なら、大丈夫だと思っていた。

ポケモントレーナーの旅も、何のこと無くこなせるだろうと思っていた。

しかし彼は気づいていなかったのだ。

テイラーの過剰なまでの承認欲求に。

自分すらも壊しかねないほどの、大きな重荷に。

 

 

 

 家族でありながら、彼女の背中にあったものの存在に気づかなかったのである。

……マネネ、否、キルトはそれを後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 そして葬儀は終わり、諸々の出来事を介して1週間後。

キルトはガラル地方に行くと言った。

どうやら来たる10ヶ月後のイジョウナリーグでジャックを倒すべく、人目につかぬ厳しい環境で修行を積むらしい。

「どうだキルト?次はお前も来るか?」

「……。」

 

 

 

 本当ならば、マネネはここで頷くべきだったのだろう。

彼の隣にいれば、もしもの時に支えられる。

少なくとも、テイラーのような悲劇を迎える可能性は減るはずだ。

 

 

 

 

 

 ……しかし何を思ったのか。

マネネは再び首を横に振った。

この時の思考を思い出せと言われても、彼は未だに言語化は出来ないだろう。

ともかく結果として……彼はキルトの誘いを断ってしまったのだ。

 

 

 

「……そうか。悪いな。」

それだけ言い残すと、キルトは去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それ以来、キルトからの音沙汰は一切なくなった。

 

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