【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第112話】差し出すその身、最高の立役者

 頻繁に来ていたキルトからの連絡は、ある日を境に完全に途絶えてしまった。

スモック博士も仕事の片手間に捜索したが、その行方はついぞ分からなかったという。

どうにも最後の目撃情報がガラル地方にあるカンムリ雪原の近くだったらしい。

カンムリ雪原は一年中強い吹雪が吹き荒れる、魔の極地だ。

そこから帰ってこないとなれば、彼の身に起こったことは想像に難くない……とのことだった。

そのまま捜査は打ち切られ、キルトはついに今日までその姿を表さなかった。

 

 

 

 ……まただ。

マネネはまた、大切な人を失った。

自分のいない場所で。

 

 

 

 彼の人生はいつもそうだ。

肝心なところで、選択肢を違え続けた。

役立たずになることを恐れた結果、一番誰の役にも立たない存在に成り果てたのだ。

なんとも皮肉で……そしてなんとも残酷なことだろう。

しかしこれが、彼に与えられた報いなのだ。

逃げてばかりの少年に与えられた……報いだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそれ以降も、マネネは研究所で時間を過ごしていた。

その間、彼はテイラーにしきりに話しかけ続けた。

せめてここに今生きている彼女だけでも、元に戻って欲しいと願いながら。

ずっと何の返事もしない彼女であったが、それでも尚マネネは諦めなかった。

 

 

 

 こうして日数だけが重なり続けたある日、スモック博士からある話が持ち上がる。

なんと彼の仕事の現場を見せてもらえる、とのことだ。

どうやらフウジの地下で見つかった『扉』と呼ばれる物体についての研究がピークを迎えたらしく、その開門作業を行うそうだ。

せっかくならば一緒に行こう、とマネネはテイラーの腕を強く引っ張った。

ここで何か普段と違う物を見れば、きっと彼女も生気を取り戻すのではないか……そう信じたからだ。

しつこく誘った結果、ようやくテイラーは折れたようだ。

黙ったままではあったが、スモック博士と共にフウジの地下廃坑まで同行することになった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこで事件は起こる。

開門した『扉』から植物の弦のようなものが無数に伸びてきて、周囲にあったあらゆる物を無差別に飲み込んだ。

飲まれたのは複数人のVCO職員……及び現場に居合わせたテイラーとマネネであった。

 

 

 

 マネネは暗闇の中で目を覚ます。

上も下もわからぬ空間の中で、どこからともなく這い上がってくる不快感を全身で感じ取る。

『………ほう、随分と喉越しの悪いものを飲んだと思ったら。よもや人かポケモンかも分からぬ存在だとは。』

「!?」

暗闇の中から、幾重にも重なった聞こえてくる。

その声は間違いなく、マネネに向けられていた。

 

 

 

 マネネの身体の表面を、ぬめりとした感触が数本駆け抜けていく。

巨大な手でまさぐられているかのような感覚に、彼は更に不快感を覚えた。

『ふむ。いささか不格好だ……だがそれでいい。』

声の主は彼の返事を待たず、一方的に訳のわからないことを言い出す。

発される声の一音一音が、的確にマネネの恐怖心を煽る。

 

 

 

『おい貴様、この女の姿が見えるか?』

その声の直後、マネネの正面……暗闇の中から、弦で雁字搦めになった人間の姿が浮かび上がる。

「………!」

そう、そこに居たのはテイラーだ。

マネネと同じく『扉』に飲まれ、此処に来たのだろう。

 

 

 

 しかしよく見ると、全身の至る場所が黒くなっている。

否……「穴が空いている」と言った方が表現としては正しいかもしれない。

まるで「存在そのものが虫食いにされた」とでも言える状態で、とても人の姿を保っているとは言えない状況であった。

辛うじて息はあるものの、助かる見込みはほぼ無い。

絶望的な状況であった。

 

 

 

『この娘、元より精神が不安定だったようだな。余の体内に飲まれた瞬間、自壊を始めてこのザマだ。』

聞こえる声からは、何の感情も読み取れない。

只々、淡々と事実を述べている。

今まさに、マネネの目の前で人が一人消えゆこうとしているのに……だ。

 

 

 

『そこでだ。余は貴様と交渉をしようと思う。』

「……!」

『交渉』という言葉を提示した後、声の主は生やした弦でマネネの胸をなぞる。

 

 

 

『貴様の心臓とこの娘の命を交換しようではないか。』

「!?」

声の主から提示されたのは、予想外に多大な要求であった。

心臓……それは生命の根源だ。

そんなものを差し出せば、到底生きてはいけない。

『確かに貴様は今まで通りに生きていくことは出来ないかも知れない。だが案ずるな。「死なない程度に死にかける」だけだ。』

何も安心などできない。

要するに死ねと言われているようなものだ。

いくら大事な人の命が賭かっていようが、おいそれと頷ける話ではない。

 

 

 

 

 

 ……だがここで、マネネは考えた。

また考えてしまった。

 

 

 

「此処で自分が死ねば、テイラーの役に立てる」と。

あの時棒立ちのまま彼女を見送った、自身への贖罪になると。

 

 

 

 そしてマネネは、声の主の提案を受け入れた。

『……良いだろう。交渉成立だ。余の楽園の鍵となるが良いッ!』

瞬間、彼は意識を失った。

心の臓を抜き取られる前に、長い眠りに就いたのであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーマネネが次に意識を取り戻したのは、カナシバ研究所の生命維持装置の中であった。

意識が戻るにつれて、全身の感覚が蘇る。

それと同時に、胸のあたりに違和感を感じ始めた。

心臓は確かに鼓動を刻んでいるはずなのに、じんわりとした冷感がある。

まるで自分じゃない冷たい生き物が、そこに生きているかのような感覚だ。

 

 

 

 視界の先に、ぼんやりと白衣を着た女のシルエットが見える。

「……気づいたか。よし、手術は上手く行ったみたいやな。」

……その声を聞いて、マネネは状況の全てを理解した。

 

 

 

 テイラーは助かった。

自分の犠牲によって、大事なものを取りこぼさずに済んだ。

今のマネネは、それだけが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーしかし事態は万事解決、というわけではなかった。

それ以降テイラーは研究所から姿を消し、あちこちを飛び回るようになった。

風の噂によれば、裏からバベル教団という組織を操っていたのだとか。

 

 

 

 最後にマネネがテイラーの顔を見たのは、彼女がほんの諸用で研究所に戻ってきた時。

……既にその目に光は宿っておらず、まるで何かに取り憑かれたような表情をしていた。

果たして、あれはテイラーだったのだろうか。

本当に彼女は、元通りになったと言えるのだろうか。

マネネは結局、彼女の事を考え続けることになった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこから更に6年が経った。

カナシバの研究所で生きていたマネネは、その間に多くの駆け出しトレーナーを見送ってきた。

そう、あくまでも『博士の持つポケモン』として。

決してトレーナーが連れて行くようなポケモンではなかった。

 

 

 

 ……が、ある日のこと。

裏の非常用倉庫で、乾パンを貪っていた時の事である。

「ねぇ何それ!?アタシにも見せて!」

「まねっ!?」

彼女は突然に話しかけてきた。

そしてそのまま、乾パンを取り上げて一口。

 

 

 

「……イケるわ!いい趣味してるじゃない!」

「ま、まね!?」

一体この少女は誰なのだ……もしかして新手の泥棒か何かだろうか?

考えていた矢先、彼は思い出す。

そういえば今日はキーボード少女に加えてもうひとり、駆け出しトレーナーが来るのだということを。

 

 

 

「それにしても面白い見た目をしてるわねアナタ。特に頭とか……プッ……もう完全にう【自主規制】こじゃない!プププッ……!」

そして少女はマネネの顔に触れ、頭を伸縮させながらゲラゲラと笑っている。

出会い頭の言動としてあまりに失礼すぎやしないだろうか。

そんな事を考えつつも、マネネは楽しそうにしている彼女の様子を眺めていた。

 

 

 

「ププ……!そうだアナタ!顔芸しなさいよ!」

「まね!?」

「ホラ、お手本見せてあげるから!」

「ま……!?」

急な無茶振りがすぎる。

確かにマネネというポケモンは、学習能力に優れた種族だ。

しかしだからといって、こんな下らないことに駆り出す人間を彼は知らなかった。

 

 

 

 だが、ここで機嫌を取っておけば、いずれは飽きて帰ってくれるだろう……

そう考えてマネネはひとまず彼女の言うことを聞き、その場をやり過ごすことにした。

「まずはソーナンスの顔!こう!」

「ま……まね!」

「次はビーダル!」

「まねね!」

「次は…………」

 

 

 

 

 

 ーーーーー10分が経過した。

マネネはふと我に返り、自らの感情を疑う

そう、彼はこの10分間、本気でこの少女との遊びを楽しんでいたのだ。

予想外にノッてしまった自分に、大層驚いた。

……が、それでも。

彼はその感情を止めることが出来なかった。

 

 

 

 それは久しく感じたことのない感情……そう、「誰かと共にいる喜び」であった。

「プッ……ふふふふふ!いいじゃない!アナタ最高よ!!」

「まねねねーー!」

マネネは笑っていた。

目の前の少女と同じく……床に転がり、腹を抱えて。

それは決して模倣などではなく、彼の中の本心であった。

 

 

 

「……あの、お嬢様。博士のお話は……」

ふと横から、男の声が聞こえてくる。

倉庫の入り口に居たのは、スーツ服の男性であった。

どうやらこの少女の保護者のようだ。

「あらジャック!見てこの子!さっき仲良くなったの!」

そう言いつつ、お嬢はマネネを掴んでジャックの目の前に差し出す。

 

 

 

 瞬間、マネネは違和感を覚えた。

違和感……否、「懐かしさ」と言ったほうが良いかも知れない。

心臓の奥底から惹かれ合うようなそんな感覚を……このジャックという男に感じたのだ。

 

 

 

 しかし「ジャック」……その名前はどこかで聞いたことがある。

マネネはそこで思い出した。

それはキルトが必死になって追いかけていたトレーナーの名前だ。

だが、些か雰囲気が違う。

それに少なくとも彼は、こんな男を知らない。

……もしかしたら同名の別人かもしれない、とマネネは一旦忘れることにした。

 

 

 

 そんな事をマネネが考えている間に、どうやら話が勝手に進んでしまったようだ。

「そうだスモックおじ様!私、最初のポケモンはこの子がいいわ!」

「!?」

そう、なんとこのお嬢は、マネネを旅に連れて行くというのだ。

 

 

 

 マネネは当然、それを断ろうとした。

そもそも彼は、旅向けのポケモンではない。

当然いくらお嬢が望んでいようが、同伴するのは道理じゃない。

 

 

 

 ……しかし、だ。

彼は「この選択」を何度後悔したのだろう。

「ついていかない」ことで、一体何人の隣人を失ったのだろう。

 

 

 

 ……もしかしたらだ。

この少女も、旅に行ったきりどこかに消えてしまうかも知れない。

今この僅かな時間だけではあるが、「友達」になれた彼女が……キルトやテイラーの様な目に遭う。

それは耐えられなかった。

 

 

 

 ならばここが……

ここが自分の生まれ変わるときだ。

こんな事で自分の罪過が許されるわけじゃない。

それでも……彼女らを放っておけない。

そう思ったマネネは、お嬢の提案に乗ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーこうしてマネネは短い間ながらも、お嬢と共に旅をした。

多くの人に出会い、多くの戦いを共にした。

逃げそうになった彼女を、なんとかギリギリの所で繋ぎ止めた事もあった。

きっとお嬢が選んだ最初のポケモンがマネネでなければ、この旅はより早く幕を閉じていただろう。

 

 

 

 他にも、ジャックの事も多く知れた。

彼は確かに、キルトの言うジャックで間違いなかった。

しかしそれ以上に、マネネは彼に対してシンパシーを感じていた。

自分の責任から「逃げてしまった」という負い目……その一点に於いて。

 

 

 

 どちらも非常に危うい存在であった。

しかしその命と心は、マネネという最高の立役者のお陰で此処にある。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーははっ、我ながら碌でもない走馬灯だ。

人の身でいることを辞め、友にもなれず、兄にもなれず……逃げてばかりの人生だった。

でもね、ジャックやトレンチにまでそうなっては欲しくない。

だから、僕の命を寄越してやる。

それでちゃんと生きるんだ、ジャック。

きっとそれで、君たちは幸せに生きられる。

 

 

 

 ……良かった。

僕は最後の最後で、ちゃんと役に立つことが出来た。

これで良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いわけないだろこの【自主規制】ッ!!!!」

「!?」

閉じゆく彼の意識は、覚えのある声に引き戻された。

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