【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第116話】葬られた伝説、最悪の親和性

 この世界は、作られた。

それが誰の手によるものか、はたまた完全な自然現象なのか……それを知る者は居ない。

しかし此処にある以上、確かに世界は「作られた」のだ。

そしてモノを作るという過程では必ず、「不用品」が発生する。

木を削れば木屑が生まれるように、料理をすれば生ゴミや排水が生まれるように。

世界が作られたときにも例外なく、「不用品」は発生した。

 

 

 

 それはこの世界が「秩序」や「理論」の元に成り立つことを前提とする際、不都合になった物質や概念。

この世の理で説明することのできない非科学的なモノ。

この世全ての混沌の寄せ集めた掃き溜め。

否、今こうして存在する言葉で表現することすら難しいのかも知れない……そういった存在だ。

現代人はこれを「違反物」などと呼称しているが、実態はそんなチャチなものではないのである。

 

 

 

 そうして残留した「不用品」は世界中のあちらこちらに残り、今なお様々な形で存在・表層化している。

例えばサイキッカーの扱う「サイコパワーを用いた超能力」。

例えば極度に優れた身体能力を持つ人間「ギフテッド」。

例えば「異常な心臓を持ったポケモン」。

……そして例えば、そんな具体的な形にすらなれなかった塊。

仮に「ソレ」とでも呼んでおこう。

 

 

 

「ソレ」は地球という惑星の片隅で、密かに息を潜めていた。

「どこにも存在しない」と定義しても、何ら矛盾は無いものであった。

誰からも見られないし、誰にも聞き取れないし、誰にも感じられない。

仮に「ソレ」が居ても居なくても、世界は秩序のもとで成り立ち続ける。

 

 

 

 だが、実際に「ソレ」はそこに居た。

そこに居る以上、誰かの目に留まることもあるだろう。

例えばそう、万物を見通す眼を持つほど偉大なる伝説のポケモン……とかならありうるかも知れない。

 

 

 

 ……結果的に「ソレ」は、バドレックスというポケモンに発見された。

豊穣神として崇められる、心優しきポケモンだ。

白と黒の2頭の馬を従え、生態系の王として自らの住まう地を治めていた。

 

 

 

 このバドレックスというポケモンは大変に庇護欲が強く、そして慈悲深かった。

力なきポケモンの助けとなり、自らを信仰する人間に恵みを与えた。

仇為すものであろうとも、決して傷つけることはなく手を差し伸べた。

そう、後世に語られるに違わぬ「お人好し」というやつだったのだ。

 

 

 

 バドレックスは世界の片隅に打ち捨てられた「ソレ」を見て、大変に哀れんだ。

この世の誰にも必要とされず、この世そのものにすら不要と判断された「ソレ」を、彼は救いたいと考えた。

だからそこに、彼は「命」を与えた。

豊穣の神だからこそ出来る、命を吹き込むという温情だ。

捨てられていただけの「ソレ」に具体的な形を与え、具体的な生物として生まれ変わらせた。

 

 

 

 生まれ変わった「ソレ」は、バドレックスの慈悲に感謝した。

自らを笑って受け入れてくれた彼へ、これ以上ない畏敬を差し向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敬ったからこそ、食い殺した。

感謝の念を抱きながら、感涙とともに彼を味わった。

「ソレ」を救ったはずのバドレックスは、餌として「ソレ」の胃袋の中へと消えていった。

 

 

 

 バドレックスを食し終えた「ソレ」は、彼の情報のいくつかを得た。

そのせいで「ソレ」は、次第に「世界」に興味が湧いた。

「秩序」の上で成り立つこの世界が、果たしてどのようなものか……「混沌」そのものである「ソレ」は知りたかった。

知りたくて、触れようとした。

 

 

 

 そのために食らい尽くした。

人間を、ポケモンを、概念を、地形を……その他のあらゆるものを。

「ソレ」には、「食らう」以外の触れ方が分からなかったのだ。

無邪気に抱擁を求める幼子のような感覚で、万物を喰らって無に還していった。

 

 

 

 バドレックスの慈悲によって生み出された「ソレ」は、やがて地球規模の大災害へと成り果てた。

時空概念や記憶すらも食い尽くすため、地球上の生物では殆ど認識することすらままならなかった……というのがタチの悪い話である。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし「ソレ」の業を看過出来なくなった者たちが居た。

奇しくも「ソレ」と似て非なる力を持った異能の集団だ。

この世の理で説明の出来ない力……人とポケモンの魂を融合するという超技術を持った6名3対の異能者である。

炎の力を使う「獄炎」、雷の力を使う「迅雷」、そして氷の力を使う「凍雪」。

彼らは自らの事を、『届かぬ天上の存在へ立ち向かう者』の意味を込め「バベル教団」と名乗り、魂の融合を「ソウルディバイド」と呼称していたそうだ。

 

 

 

 異形の大災害に対抗するは、異能の力。

何十年にも渡る戦いの末、バベル教団は「ソレ」を葬り去る方法を編み出した。

「ソレ」と同じ世界の不用品から、『扉』と呼ばれる機構を作り上げたのだ。

 

 

 

 『扉』の向こう側に押し入れられたものは、その存在の記憶ごと「この世界に最初から存在しなかった」ことになる。

いわば「概念ごと収納できる押入れ」とでも言える機構なのだ。

 

 

 

 SDの力を極限まで使ったバベル教団は、多くの代償を背負うことになった。

「ソレ」の呪いによって、様々な弊害が生まれた。

そのうちひとつが、SDの力に代償が伴うようになった事だ。

特に「凍雪」への攻撃は執念深く、心の綻びから別人格を芽生えさせる呪いまで付けていた。

……自らの食らったバドレックスの臣下の姿をさせたのは、「ソレ」なりの無意識の嫌がらせだろう。

 

 

 

 バベル教団の戦いは艱難辛苦に満ちたものであった。

しかし多くの代償を払った末、最終的に「ソレ」を『扉』に封じ込めることに成功した。

そして自らと同じ力を持つ者以外にこの扉を開けないよう、厳重に鍵をかけたのだ。

 

 

 

 だがその戦いの記憶は、誰の中にも残らない。

この大災害の立ち向かったバベル教団本人ですらだ。

「ソレ」に関わる記憶ごと、『扉』の向こうに封殺されたためである。

 

 

 

 こうしてこの戦いは、地球上から忘れ去られた。

記録や痕跡すらも、人の認知できる形では残らなかった。

『扉』という物質のみがイジョウナ地方の地に残ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーそれから5000年の時が経ち、地下鉄トンネルを開発していたときのこと。

『扉』は偶然掘り出されてしまったことで、再度人類の目に留まることになる。

この物質の正体を知る者は、現代の地球には誰もいない。

結局この物質は、スモック博士率いるVCO・イジョウナ支部の預かるところとなった。

 

 

 

 彼らは『扉』について何度も調査をしたが、結果的にその正体を突き止めることは出来なかった。

だが数年経過し、二枚閉じの『扉』に僅かな隙間を見つけることは出来たのだ。

長い年月放置されていたことで生じた、微量の綻びである。

 

 

 

 いよいよ調査の行き詰まったVCOは入念な下調べの元「驚異になりえない」と判断し、この隙間から『扉』を少しだけ開いてみることにした。

その現場には部長・スモックと、その姪テイラー……更には甥のキルトが憑依したマネネが立ち会っていた。

 

 

 

 やがて、複数のクレーンによって「扉」はこじ開けられる。

 

 

 

 

 

 僅かな気配……久方ぶりに外の空気が流れてくるのを感じた「ソレ」は、反射的に手を伸ばす。

長らく感じていた空腹を満たすべく、近くにあったものを片っ端から口の中へと放り込んだ。

……そう、このせいで多くの人間が「ソレ」の餌食となった。

黒い弦のようなもので巻き取られ、一瞬のうちに飲み込まれてしまったのだ。

 

 

 

 喉を通るその刺激で、「ソレ」は自らの身に起こったことを思い出した。

そしてかつて自分が、「理不尽にこの狭い空間へと押し込まれた」ことに憤慨し、また悲しんだ。

自分は知りたかっただけなのだ。

触れたかっただけなのだ。

この世界のあらゆるものに。

 

 

 

 ……もう一度、向こう側に行きたい。

もう一度、この『扉』の向こうの世界で多くの物事を知りたい。

 

 

 

 しかしそのためには、外で動ける自身の手駒が必要になる。

そこで「ソレ」は、自らの体内に沈みゆく人間たちを探った。

もしかしたらこの中に、再利用できる部品があるかも知れない、と考えてのことだ。

そして「ソレ」は、自らの中で溶けゆく少女……テイラーの姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 ……いるじゃないか、丁度良さそうな人間が。

近くに転がっているマネネの生命エネルギーと合わせれば、いい感じの人形が完成する。

自分にとって都合のいい傀儡が作れる。

 

 

 

 よし、まずはこの女に教育を施そう。

でも彼女に認識されないことには駄目だ。

最低でも声と姿は必要だ……そうだ、昔食べたアイツの情報を使えばいいじゃないか。

名前は何だっけ……バド……まぁいいや。

 

 

 

 

 

 こうして「ソレ」はマネネの心臓を抉り出し、テイラーという存在を再構築した。

そしてバドレックスの姿と声を用いて彼女を唆した。

「お前にしか出来ない」だの「理想郷への道標」だのと体の良い音声データを並べ、テイラーを突き動かしたのだ。

敢えて嫌がらせをするかのように、ご丁寧に「バベル教団」なんて名前まで付けて人を集めさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーバベル教団の結成から少しして。

例の災害のせいで崩落した空間に、ひとりの男が来た。

『扉』とその周辺を修復するために呼び出された教団の人間……名前をクランガと言った。

 

 

 

 最も肝心な『扉』そのものの修理は、クランガ本人がひとりで担うこととなった。

この男は大層乾いた目をしていた。

どうにも全てを諦めていたようであった。

 

 

 

 それを扉の向こうから覗いた「ソレ」は、あることを思った。

「……この男、テイラーに似ているな」と。

少しの気まぐれではあったが、クランガに興味を抱いたのだ。

「ソレ」は試しに、テイラーと同じように彼を食らうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……うおっ!何だ此処は……あれ?俺、生きてる?」

食われたと思ったクランガ驚いた。

そしてこれを食った「ソレ」自身も驚いた。

自らの体内で自我を強く保てる存在など、今まで見たこともなかったからだ。

 

 

 

 早速、「ソレ」はバドレックスの姿でクランガへ干渉することにした。

テイラーに見せた理想郷の幻覚でもてなし、対話を試みた。

 

 

 

「……何スかこれ。すっげぇ胡散臭いッスね。」

だが、どうやら彼のお気には召さなかったようだ。

それでも、「ソレ」はおずおずと話しかける。

 

 

 

『……よ、ようこそ余の楽園へ。余は盛大に貴様を歓迎し……』

「あー……そういうの良いから。というかその姿、辞めてくれないッスかね?大根演技にも程があるッスよ。」

『……!?』

そう、クランガは直感で見抜いていたのだ。

「ソレ」の正体を。

「ソレ」が如何におぞましい存在かを。

 

 

 

『な……何を言ってるのだ!?余は……』

「とぼけなくて良いッスよ。アンタからは同じ臭いがする。……俺と同じロクでなしの悪臭だ。いやぁ、神様にもこんな奴がいるんスね!親近感湧いちゃうなぁ!」

『……ッ!』

「ま、一応この歓迎に免じてアンタのことは「バドレックス」って呼んでやるッスよ。」

クランガは全く怯えていなかった。

寧ろその存在の根底に抱いているものすら、一瞬にして見抜いていたのだ。

テイラーですら騙されていたにも関わらず……だ。

この男の彗眼はあまりにも冴えすぎている。

 

 

 

 強靭な精神と併せて考えると、間違いない。

クランガは、「ソレ」にとって最も相応しい部品であった。

 

 

 

『……なぁ、貴様。適合者とやらになるつもりはないか?貴様であれば間違いなく、「扉」を開くに相応しいと余は思うのだが……』

実際彼の言う通り、クランガはSDに対しての適性はずば抜けて高かった。

「いや、それは遠慮しておくッス。自分の身を削って戦うとかガラじゃねぇし。」

……まぁ結果的にクランガ自身はその力を欲しなかった故、誰もその事を知らなかったのだが。

 

 

 

「俺はもっとこの目で見たいんスよ。人の気高い心が砕け散っていく様子を……最も美しく輝く瞬間を!」

『ッ………!』

「ま、そういう未練が無くなったら考えてやらんこともないッスけどね。」

 

 

 

「ソレ」は悍ましさすら感じていた。

目の前の男の、底なしにして強靭な……否、強靭すぎるほどの悪意に。

だが、同時に頼もしくもあった。

彼の存在があれば、バベル教団は必ずや自らを救ってくれる……そう確信できたからだ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそして時間は現在に戻る。

バベル教団の暗躍により、「ソレ」は再度地上へと顕現した。

 

 

 

 地下から脱出したばかりのスモック博士とトレンチお嬢一行は、フウジの街でその巨人を目の当たりにする。

「なっ……何よアレッ……!?」

規格外の生命体に、お嬢らは言葉を失うしか無かった。

一方でお嬢を乗せたレイスポスが、やや息を荒げている。

「ど、どうしたのジャック!?」

『空気ガ……薄イ……!』

「……!た、確かに……!」

先程まで全力疾走をしていた彼だからこそ気づけた異常だろう。

そう、確かに空気が高山のように薄くなっているのだ。

 

 

 

 だがそれ以外にも、感じ取れる異常があった。

「おかしいだろ……前に見たアイツはあんな形はしていなかった筈だ……!」

「まねっ……!?」

スモック博士とマネネもまた、その姿に戦慄していた。

あの日みた「ソレ」は、少なくとも人型ではなかった。

何かしらの影響で、明らかに異質な変化を遂げている。

 

 

 

「ッ……おーーーーい!生存者か!?」

「!?」

どこからともなく、声が聞こえてくる。

お嬢がメインストリートの向こう側に目をやると、そこには大柄なスキンヘッドの男……そしてリーグスタッフの制服を着たアフロの男がいた。

ダフとミチユキだ。

 

 

 

「よォトレンチ!それと博士やジャックも……無事だったかァ。」

「え……えぇ、アタシは無事よ。そっちこそ。」

彼らは互いの安否を確認し、ほんの少しの安堵を感じていた。

 

 

 

 だがその時……

「ま……まねねっまねっ!」

「ま、マネネ?」

お嬢の腕に抱かれていたマネネが、ミチユキに強く反応しているのだ。

鬼気迫る様子で、彼はミチユキに話しかけている。

 

 

 

「……マネネ?この人を知っているの?」

「ま……まねねねっ!」

マネネは身を乗り出し、ミチユキに対して何かを必死に訴えかける。

彼がここまで何かに熱心になることは、たいへん珍しかった。

 

 

 

「……何か言いたいようだが、すまん。俺には彼の言っていることがよく分からねぇ。」

「まねっ……!?」

ミチユキが申し訳無さそうに謝ると、マネネは大層ショックを受けたような顔をした。

 

 

 

「……そうだ!それよりも君たち……此処に居るとマズい!一旦街の外に出るんだ!」

そう言うとミチユキは、近くのバリヤードの肩をわずかに叩く。

「ゔぁりりり!」

バリヤードは『テレポート』を起動させると、すぐに周囲の人物たちを緊急脱出させる。

 

 

 

 

 

 こうしてフウジの街の中には、人っ子一人いない状態となったのであった。

 

 

 

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