【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第117話】混沌の巨人、地球の危機

 フウジの街中からテレポートで飛ばされたお嬢たち。

移転先はアンコルシティの自然公園の広場であった。

かつてお嬢がハオリやレインと戦ったあの場所である。

 

 

 

「ふぅ……ひとまず一時的に安全な場所には飛べたみたいだな。バリヤード、ご苦労。」

「ゔぁ……りりり……!」

バリヤードは息切れと共に返事をし、ボールへと戻っていく。

それなりの大所帯で距離もある転移だった関係で、多くのエネルギーを消費したようだ。

 

 

 

 さて、この自然公園であるが……どうやらリーグスタッフの手によって避難誘導されてきた人々が何人か居るようで、異様なざわめきが広場に広がっていた。

否、それだけではない。

突如としてフウジの街に現れた虹色の巨人を前に、各種メディアが大パニックに陥っているのだ。

人々はスマホを片手に、その様子を眺めていた。

 

 

 

「す……凄い事になってるわね……」

「まね……」

「そりゃあな。VCOが警告していたからそれなりの被害が出るのかもとは思っていたが……まさか巨人が出てくるなんて想定外だぜ。」

ミチユキは溜息と共に、周囲の様子を見渡している。

 

 

 

「おぉ、お前ら……無事だったか……!」

そう言いつつ駆けて来たのは、ボアとセラであった。

彼らに気づいたミチユキとスモック博士は、軽く頭を下げる。

「そちらこそ……無事に避難できたようで何よりです。」

「えぇ。現場でパーカーさんが偵察をしてくれているので……私達は先に脱出して、住民の誘導をしてます。」

セラは鞄からスマホを取り出し、無人ドローンから撮影された現在のフウジシティの様子を見せる。

 

 

 

 街中には相変わらず虹色の巨人が陣取っており、凄まじい存在感を放っている。

しかし未だに動く気配はないようだ。

ただそこに鎮座したまま、虚空を見つめている。

「……ひとまず動きは無さそうだな。」

「でもこれ、誰かに似てるわね……。」

お嬢は巨人の姿を見て、妙な既視感を覚える。

どうやら中背で痩せ型の男性を象っているようだが、そのシルエットは……

 

 

 

『……クランガの形だな。』

「あァ、俺もそう思うぜェ……。」

レイスポスとダフはその姿のルーツにいち早く気づいた。

そう、この巨人……明らかにクランガに姿形が似通っているのだ。

 

 

 

「そんな……まさかあの扉を開いた人間に形が似るってことなの?」

「……いや、違ぇな。あの大厄災は『食ったものの特徴や力を一部借用できる』んだ。」

お嬢の疑問を遮ったのは、ミチユキの言葉であった。

かなり冷静に、目の前の巨人についての分析を行っている。

 

 

 

「あの、気になってたんだけど……この人は一体誰なのかしら?」

完全に初対面のお嬢は、急に喋りだした彼の存在を疑問視する。

確かに他のリーグスタッフとは一線を画す雰囲気を纏っている……が、彼が何者かは未だ知らないのだ。

困惑するお嬢に、ボアが仲介して紹介をする。

 

 

 

「ソイツはミチユキ。イジョウナリーグの特殊捜査班だ。」

「と、とくしゅそうさはん……?」

「まぁ、要するにジムリーダー連合に体の良いパシリだ。ちなみに捜査班っつっても俺しかいねぇ。」

やや疲弊気味の顔で、ミチユキはそう言った。

しかしそれほどの役割を一人で担ってしまう、ということは……かなりのエリートであることは間違いない。

実際に他のスタッフと違うカラーの服を着ているあたり、待遇や立ち位置も別格なのだろう。

 

 

 

「しかし、ここ何年かの記憶がないんだっけ?」

「そうなんすよね……気づいたら雪山で倒れていて、更には名前も忘れてて。」

彼はアフロを弄りながら、実感なさげに答える。

「まぁ偶然パーカーさんに拾って貰って……名前まで貸して貰ったんで、職に困ることは無かったんですけど。」

なるほど、彼にはどうにも壮絶な経緯があるようだ。

 

 

 

「まねねっ!!まねっ!!!!」

だがマネネは、ミチユキの自己紹介に対して執拗に噛み付いてくる。

どうにも言いたいことがあるようだが、残念ながらその意図は誰にもわからない。

 

 

 

「……まぁ、そんなワケで俺はこの2年くらい、バベル教団の動向についての調査を任されていたんだ。そりゃもうこの地方だけじゃなく、ガラル地方のカンムリ雪原まで出張してよ……。」

「カンムリ雪原……?なんでお隣のガラル地方まで?」

「……あぁ、色々とあってな。」

 

 

 

 そしてミチユキは、自らの調査と考察を纏めて、簡潔にその内容を話す。

5000年前のイジョウナ地方で発生した大災害と、バドレックスの話を……だ。

 

 

 

 

 

 ーーーーーー「なっ……!」

「嘘だろ……そんな事があったなんて……知らなかったぞ!?」

ミチユキの話を聞いた一同は、みな驚愕する。

今までのバベル教団が言っていた「理想郷」がでっち上げの嘘だったばかりでなく、『扉』の向こうにそれほどの脅威が潜んでいたなど……まさに寝耳に水だった。

「そりゃ知らなくて当たり前っすわ。だってその歴史は『扉』の向こうに封殺されていたんですから。」

冷静さを装うミチユキの首筋には、冷や汗が伝う。

自分の口で説明しつつも、彼自身驚いていたのだろう。

 

 

 

 しかしそんな彼に疑いの目を向ける者が。

「でもおかしい……誰も知らない伝説なら、なんでミチユキさんが知っているんですか?」

セラは手を上げつつ、ミチユキに問いかける。

「7年前に『扉』が一時的に開いただろ?その影響か知らんが、5000年前の大災害に関する一部の記録や痕跡が可視化出来るようになったんだ。」

彼が言っているのは、どうやらスモック博士率いるVCOが行った開門実験のことだろう。

 

 

 

「なるほど……僕の失態がきっかけで、封じられていた情報の一部が漏れ出てしまったということか。」

博士は過去の記憶を呼び起こし、申し訳無さそうに俯く。

「いや、あんなのは誰にも想像できねぇ……博士は悪くないっすよ。それに、結果的にそのお陰で俺は5000年前の災害を知れた。……今起こってる最悪な事態を、なんとかするだけの手立てはあるかもしれねぇ。」

博士の隣に寄り、ミチユキは彼の肩を軽く叩く。

 

 

 

「……んで、実際どうだ?博士ならわかるだろ?」

「あぁ。ひとまずあの巨人についての情報を整理しよう。」

そして博士は、鞄からタブレットを取り出す。

それを板書にし、ミチユキと共に情報を書き連ねていった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこから5分ほどして。

5000年前の大災害の一連の情報と、フウジの巨人の外見を照らし合わせて作戦会議が立てられることになった。

「つまり……だ。奴は5000年前の大災害と同一の存在。この世の混沌の掃き溜めに、バドレックスが命を吹き込んだ存在……その特徴から仮に『Chaos Crown(カオスクラウン、以下:CC)』と呼ぶことにしよう。」

 

 

 

 

 

「そして自ら『器』となったクランガ君を喰らって顕現している……と。」

「……まぁ、そういう事になるっすね。」

「はい!質問!」

お嬢が手を上げ、博士たちの会話に割り込んでくる。

 

 

 

「そもそも『誰にも認識されない』はずのCCが、どうして見えているのかしら?」

彼女の疑問は正しかった。

事実、CCは「虹色の巨人」なんていう具体的な外見の情報が上がっているように、あの巨人は今「認識されている」。

ミチユキの言う過去の情報と異なる状況だ。

 

 

 

「……じゃあトレンチちゃん。例えば透明化したカクレオンがいたとしよう。そこにペンキをぶちまけたらどうなる?」

博士の疑問に回答したのは、お嬢であった。

「……カクレオンの形が浮き彫りになる?」

「そう。CCは、『MA-Ⅰの電脳要塞』というペンキを被った影響で、その姿が偶然、我々にも認知できる形となった。」

博士の言う通り、この厄災は地下の広間からこの街まで床を突き破って顕現した。

その際、中間に存在したMA-Ⅰの電脳要塞を体表に纏ってしまった……というわけだ。

 

 

 

 だが本来であれば、それはあり得ざる現象だ。

そもそも精神世界というのは、物理的に存在しうる次元のものではない。

あんな形で外側から可視化ことはありえないのだ。

しかしその境界を突き破ってしまう要素が、そこにはあった。

 

 

 

「……なるほどなァ。スエットが楔になることで、形までもが具体化しちまったってことだァ。」

そう、スエットだ。

あの地下空間から逃げ遅れてしまったスエットまでもを食べたことで、CCは電脳世界に干渉できるようになったのだ。

「そういうことだ。全く、流石は混沌の掃き溜め……何でもアリにも程があるぜ。」

まさにこの世の理屈で説明できないもの……理解の領域外の事象だ。

 

 

 

 

 

「ん……ちょっと待て。」

画面越しに見えるCCの違和感に気づいたボアが、画面に差し迫って指摘をする。

「どうしたんすか?」

「……なんかさ、コイツ、徐々に大きくなってないか?」

「確かに、言われてみれば、さっきまで400mちょいでしたよね……。」

『……否、サイズだけじゃない。街のビルが……!』

「!!」

そう、巨人の周囲のビルに電子的なノイズが走り始めているのだ。

そこにある建物は実際に存在する実物であるにも関わらず、まるでホログラムのように……

 

 

 

 

 

「まさか……電脳世界と現実世界の境界が曖昧になってるの!?」

「近いな。どっちかと言うと、奴は今まさにゆっくりと捕食を始めている所だ。」

捕食……それは即ち、自身の周囲にあるものを取り込もうとしている、というわけだ。

取り込まれたものはどうなるか。

そう……完全に消え去る。

誰の記憶からも忘れ去られ、事象として始めから存在しなかったこととなる。

あのフウジの街のビル群は、存在そのものが消滅しつつあるのだ。

 

 

 

『なるほど……空気が薄かったのはこれが原因か。あそこに存在するものは「空気」すらも食われている!』

「あぁ。そしてこのままアレを放っておくと……イジョウナ地方全体。否、下手したら地球そのものの存在が真っ向から消滅する!」

目の前に差し迫った脅威の規模は、想像以上に大きいものであった。

改めてそれを実感した一同は、揃って戦慄する。

 

 

 

 

 

「でもよ……じゃあ対策はどうするんだよ。」

そう、重要なのはここからだ。

 

 

 

 CCをどう処理すればいいか……というのが問題だ。

「多分だけど、普通の物理的な攻撃は効かねぇだろ?アイツは触れるものを全てを飲み込む化け物だ。」

「そうっすね。そもそもアレに攻撃を加えた所で、傷つくのは虹色の外殻だけでしょうし。」

あくまでCCの形を作っているのは、表層化した電脳世界でしか無い。

CC本体には普通の物理法則は通じない、と見た方が良いだろう。

 

 

 

「でも元祖バベル教団はCCを倒したのよね。アレに干渉できるのは……」

「CCと同質の『異形の力』。即ちSDのことだね。」

博士の言う通り、SDを発現させたポケモンであればCCに対抗しうる可能性がある。

 

 

 

 だが、そこには問題が発生する。

SDの発現にはポケモンは勿論、そこにリンクするためのトレーナー……『器』の存在が必要なのだ。

レインはトリガーとなる右腕が無く、そもそもこの場にいない。

エンビは全身を激しく損傷しており、瀕死状態。

少なくとも、SDが起動できる人間はいないのだ。

 

 

 

 ……そう、『人間』はいない。

逆に言えば、『ポケモン』ならいる。

『……俺が行く。』

だがここで、名乗りを上げる者がいた。

そう、レイスポスだ。

「じゃ……ジャック!?」

『俺は元々適合者だ。マネネとのパスも完全に途切れたわけじゃない。』

「まねっ!」

彼の申し出に引き続き、マネネも返事をする。

どうやら彼らが、特攻を仕掛ける算段のようだ。

 

 

 

「無茶だ……!君たちはさっき、それで死にかけたんだぞ!?」

「そうよ!アナタ達、また死の淵を彷徨うつもり!?」

『じゃあここから新しくSDの適合者を探すか?無茶だ。』

「ッ……!」

しかしレイスポスの言うことも最もであった。

現バベル教団の一味ですら、適合者の発見に6年の歳月を費やしたのだ。

そもそも、今この場で新たに手術をこなせるほどの人材が確保できていない。

結局のところ、ここに残っているSDの適合者はレイスポス……否、ジャックしかいないのである。

 

 

 

『だったら多少の無理を承知で俺らが行くしか無い。俺らしかいないんだったら、やるしかないだろ。』

「でもッ……!」

「おっと待ちやがれェ。『俺しかいない』のセリフは訂正してもらうぜェ……」

お嬢をなだめつつ、割り込んできたのはダフであった。

彼は手元のジュラルミンケースを差し出すと、その中に入っているものを皆に見せびらかす。

 

 

 

『こ、これはダイマックスバンド!?』

「そうだァ。それも『ガラル粒子を介さずに無理矢理ダイマックスを起こせる』やべぇブツだ。代償に、一部のポケモンにしか使えねぇんだけどな。」

そう、本来であればダイマックスはガラル粒子と呼ばれる空気中の物質が必要になる。

しかしこのダイマックスバンドは特殊仕様であり、粒子の密度に関わらずダイマックスを行うことが可能なのだ。

当然、VCOなんかの目に留まれば収容対称として認定されること間違い無しの道具だ。

 

 

 

「嘘だろ……ソレは確か、昔VCOの方で押収したのに!?」

「ま、裏の世界には色々あるって事だァ……。」

ダフが暴力団……裏の世界の住人だからこそ調達できたものなのだ。

本来であれば銃火器や爆弾を持ち運んでいるようなものだが、この場においては救いの手の一つとなりうる。

 

 

 

「要するに「この世の理で説明できない力」があれば対抗できるんだろォ?だったらこれで引き起こすダイマックスも該当するはずだぜェ。ま、SDには及ばねェけど、多少の力にはなれるはずだァ。」

『ダフ………』

「まね……」

「だからよォ……テメェ一人で行こうとするなァ。俺らも協力してやる。」

ダフはお嬢とジャックの肩を叩く。

 

 

 

「ちょ……なんでアタシまで……?」

急に肩を叩かれて焦るお嬢。

そんな彼女の耳元で、ダフが呟く。

「(……ま、これでテメェも置いていかれねェ。今度はちゃんと助けになってやれェ?)」

「(ッ……!)」

彼のその言葉は、まるでお嬢の負い目を見透かしているかのようであった。

 

 

 

「……ジャックさん。あなたが今からしようとしていることは取り返しのつかないことかも知れない。覚悟はできていますか?」

『えぇ。寧ろここで俺が踏ん張らなかったら……あの日のサンドに顔向けが出来ない。これは俺の贖罪だ。』

「……それは『生還すること』まで含めて?」

『……勿論。』

レイスポスは念を押してくる博士の言葉に、更に頷く。

マネネも同じように、首を縦に振った。

 

 

 

 彼らは共に、過去の罪を引きずっていた。

であれば今、誰にも代えの効かぬ今、逃げられぬ今……彼らが立ち上がるときなのだろう。

 

 

 

「……わかった。では作戦はこうだ。マネネとレイスポスの間にSDを発現させ、CCの体内に送り届ける。その間、ダフ君のバンドを使って、ダイマックスしたポケモン達でサポートをする。……異論は?」

この場にいる人間の誰もが、否定の意志を示さなかった。

その沈黙をもって、スモック博士は同意を総意と見なした。

 

 

 

「よし。では決行は30分後、バリヤードのテレポートで突撃する。それまでポケモンの回復およびその他整備を怠らないように!」

「「「了解ッ!」」」

公園に集ったトレーナーたちが元気よく返事をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これより、CCとの戦い………地球を救う戦いが始まる。

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