【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
ここはフウジシティ。
CCと仮称された巨人が顕現した後、1時間強が経過した。
西の空が赤くなり、夏の長い夕暮れ時が始まる。
イジョウナリーグ本部の警告により、既にこの街の周辺に人はいなくなっていた。
それでも無人のドローンがいくらか空中を飛び回っており、CCの容貌を撮影している。
世界に迫りくる脅威を、画面越しに世界中の人間が見守っているのだ。
さて、そんな世界の危機の中心地……そこの大学キャンパス中庭にて。
何名かの人間が、瞬時に姿を表す。
バリヤードのテレポートで、再移転してきたのだ。
そこに居たのはレイスポスとマネネ、スモック博士、ダフ、ミチユキ……そしてトレンチお嬢。
以上の6名であった。
ボアとセラ、及びその他団員は避難先での仕事があるため、現地に向かうのはこのメンバーとなったのである。
「ふぅ……全員いるっすね。ご苦労だ、バリヤード。」
仕事を終えたバリヤードは、すぐにボールへと戻っていった。
やはりこの規模の転送は、何度やってもしんどいようだ。
「しかし大丈夫なのか……?トレンチちゃんまでこんな危険な場所に駆り出す必要は……」
「いや、あるんすよ。それが。」
「……彼女じゃなきゃ駄目なのかい?」
「駄目だなァ。トレンチ以外じゃ無理だと思うぜェ。」
スモック博士の心配……もとい疑念を、ミチユキとダフが遮る。
そんな彼がふとお嬢の方へ目をやると、彼女も決意に満ちた表情をしていた。
……実際、彼女はこの作戦における大事な要素なのだ。
ある意味では最重要人物にすらなりうるかも知れない。
そんな時であった。
何匹かのポケモンが、空からキャンパスの中庭に降り立ってくる。
「ばしゅっ!」
「ゔぁっぷ!」
「うおっ……!ドラパルトとガブリアス……!」
そこに現れたポケモンはどちらもドラゴンタイプ……その中でもかなり強力なポケモン達だ。
その2匹は、どうやらお嬢ら一行の存在を見つけて降り立ってきたようだ。
遅れてキャンパスの建物内から、紺色のスーツを着た女性が現れる。
「……予定通りの時刻ですね、ミチユキさん。お待ちしておりました。」
ピンクの団子ヘアに眼鏡という、如何にもなキャリアウーマンの女性だ。
どうやら状況を見るに、このドラパルトとガブリアスも彼女のポケモンなのだろう。
「パーカーさん、お疲れ様っす。早速ですが現場の状況報告をお願いするっす。」
ミチユキが軽く挨拶をする。
そう、この女性こそがパーカー。
ジムリーダー連合に名を連ねる一角。
それも連合内で最強のジムリーダーだ。
最後の最後まで現場を任されるほどなので、その実力は疑う余地はないだろう。
「えぇ、わかりました。まずはフウジの現在の状況ですが……ん?」
パーカーは何やら気になることがあったのか、ある人物の方へと顔を合わせる。
「………。」
「あの……アタシが何かしたかしら?」
急に睨まれたお嬢は、へびにらみを受けたポケモンのように引きつった顔をする。
「どうしてこんな所に子供が……?いえ、それより……どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「ううん……初対面だと思うわ。」
そう、お嬢とパーカーはここが初対面同士だ。
彼女らが互いを知っていることなどあり得ない。
だが、それでも……パーカーもお嬢も、言いようの無い既視感を感じていたのだ。
懐かしさのような、そんな感覚を。
「……すみません、話を遮ってしまいましたね。本題に入りましょう。」
そう言いつつパーカーは、自身のスマホを取り出す。
ドラパルトの首に下げていたカメラから撮影していた映像や、ガブリアスに計測させた様々なデータ……それらを統合し、ホログラムの画面に映し出したのだ。
「現在の状況は1時間前と変わらず、CCは沈黙している状況です。街の方にも変化はありません。……見かけ上は。」
「見かけ上……?」
意味深に付け加えられた単語に、ミチユキは首を傾げる。
「……例えばですけどミチユキさん。この街の西のエリアで最も高いビルってどんな特徴がありました?」
「え、西にビルなんて無いはずっすけど……?」
彼はわずかに振り返り、他の人々に同意を求める。
「さて……僕は知らないなぁ。」
『……俺も、心当たりがない。』
「アタシは……ぼんやりと知ってるような知らないような……」
「まね……」
その反応は多種多様……しかしお嬢とマネネ以外は一切記憶に無い、という感じであった。
「……やっぱり。」
何かを確信した様子のパーカーは、自身の胸ポケットから手帳を取り出して見せびらかす。
するとそこには、走り書きの何かが書かれていた。
まるで子供の落書きのような雑なイラストである。
「これは……フウジの地図?」
「ええ。そして西側……私のメモによれば、此処には『ジムが収納された高層ビルがあった』はずなんです。」
そう言うとパーカーは、イラストの左端をペンで指し示す。
確かにビル……とも取れないような記号が意味深に書かれていた。
その場所は、お嬢もかつて訪れた場所だ。
MA-Ⅰとの戦いの末、敗れ去った……あの場所である。
当然、お嬢がその場所を覚えていないはずがないのだ。
「……そうか!僕たちがそのビルに記憶がないのは……CCに存在そのものを食われたから……!」
スモック博士が真相に気づく。
そう、彼らは既にそのビルに関しての情報ごとCCによって抹消されてしまっていたのだ。
「そういうことです。つまり、我々の認識の外で……CCは既にこの世界を侵食しつつある。見かけ上は何も動きがないかも知れないですが、危険は意外と
近くまで迫っているかも知れないのです。」
「ッ……!」
彼らは身を持って、CCの恐怖を体感する。
目に見えない……認識できない……這い寄られるが如き恐怖を。
「……で、スモック博士。アナタ達にはあのCCを倒すための算段がついているようですが……私は未だ詳細を知りません。今一度説明をいただけないでしょうか。」
「……わかった。ではパーカーさんへの説明も兼ねて、作戦のおさらいだ。」
そう言いつつスモック博士はタブレットを取り出し、ダフはジュラルミンケースの蓋を開く。
「まず根幹の作戦として、ジャックさん……いや、レイスポスとマネネにSDを発動させて、CCの体内に送り込む。」
「……。」
スモック博士の説明を、一同は固唾を飲んで聞き届ける。
「もちろん、危険は伴うだろう。だが、最終目標であるCCの殲滅には直接的な接触が不可欠だ。つまるところ体表の電脳要塞を乗り越えて、その内部に向かう必要がある。」
「質問よろしいでしょうか。その理屈自体は分からなくはないです。しかし、CCの体内に入ってしまえば存在を抹消される危険性があります。そこの対策は……?」
パーカーは挙手と共に、スモック博士へ疑問を投げかける。
「そこに関してはある程度の検討をしていますよ。まず、奴は電脳要塞を食えていない。そしてかつて、食われたはずのマネネは生還している。」
「まね……」
マネネは、扉の向こうへ引きずり込まれたあの時の記憶を呼び起こす。
確かに彼はCCの体内に入ってなお、五体を保って生きていた。
「この2つの共通点は、『この世の理で説明できない要素』を含んでいることだ。即ちどういうことか……そう、CCは『自らと同質のものは喰らえない』ということだ。」
「………!」
そう、スモック博士の仮説はかなり的を射ている。
電脳世界もこの世にとっては異質そのもの……そしてマネネも、人とポケモンの肉体を交換したという意味では、この世の理を超越していると言っていい。
これが正しいとすれば、5000年前の元祖バベル教団がSDの力でCCに対抗した……というのも納得ができる。
「つまり、彼らはCCにある程度接近しても問題がない可能性が高い……ということです。」
「なるほど、わかりました。しかし別の問題があります。……私達はCCの内部を認識できない。もし彼らがCCの体内に入った後、レイスポスとマネネの存在が認識の外に行ってしまえば……我々はこの作戦そのものの存在を忘却してしまう可能性すらある。」
「えぇ。そこで命綱が必要になる。それが……」
そう言いつつ、スモック博士は視線をお嬢の方へと向けた。
「……そう、トレンチちゃん。君だ。」
「ッ……」
お嬢は小さく頷く。
「CCの体内に侵入した後、レイスポスとマネネは『そこに存在することを証明する者』が必要になる。つまるところ、常に彼らを視認し続けつつ、我々に伝える事が必要なんだ。」
「そう、CCに取り込まれた対象への記憶の残留度は、関連度に比例する。事実、例のビルとやらに関連度が高いトレンチは薄っすらとその存在を覚えていたが、俺は覚えていない。……レイスポスたちを観測するならばこの子が最適ってわけだ。」
ミチユキが補足した。
つまるところ、トレンチはレイスポス達の監視役……存在の命綱というわけだ。
「そう……貴方がトレンチさんね。」
パーカーは感慨深そうに、彼女の姿を見つめていた。
「でもじゃあ、トレンチさんの存在証明は誰が……?」
「そこでコレを使うってワケよォ……」
パーカーの疑問に回答したのは、ケースを開いたダフであった。
そこに並んでいたのは約10個ほどのダイマックスバンド……それも、違法改造されているバンドだ。
「コイツを使ってトレンチのポケモンをダイマックスさせるんだァ。幸い、コイツには適正があるポケモンが3匹いた。少なくとも、ダイマックスが持続する間は『トレンチの存在証明』として使えるはずだぜェ。」
「……なるほど。あなた達の作戦はわかりました。しかし……」
心配そうな表情を浮かべるパーカーは、トレンチの方を見つめる。
「……この子の意志は大丈夫なのですか。彼女はまだ子供です。精神的にも……」
しかしその言葉を遮ったのは、お嬢本人の言葉であった。
「……大丈夫。アタシはこの子達についていくわ。」
「……本当に?二度と帰ってこれないかもしれなくても?」
「えぇ。寧ろこの子達が消えて、その上存在を忘れてしまうなんて方が嫌だもの。」
そう、それは彼女なりの決断だ。
自らのせいで、彼らを何度も危険に晒してしまったからこその覚悟……というやつである。
『お嬢様……』
「まね……」
「アタシはもう、離れない。大切なものから……絶対に!」
彼女の意志の強さを否定することは、誰にも出来なかった。
「……わかりました。ならば私は全力で助けるのみです。」
パーカーは頷いた。
覚悟を決めたお嬢を見送るように。
「……では作戦説明は以上だ。戦闘部隊は僕とミチユキ君。司令塔にはダフ君とパーカーさん。そして特攻部隊は……」
博士の視線が、お嬢とレイスポス……そしてマネネの方に移る。
「……君たちだ。行けるか?」
『分かった。任せろ。』
「まねっ!」
「ええ!CCだかなんだか知らないけど、必ず倒すわ!」
「……よし、良い返事だ。では全員、配置に付けッ!」