【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第012話】背負わされる期待、引き継がれる決意(vsレイン)

 夕焼け空の下、自然公園にて対峙するのはやさぐれた少年レインとトレンチ嬢。

両者はボールを構え、勝負の体勢に出る。

「……勝負は1on1の一発勝負だ。キミごときに余計な時間をかけたくないからね。」

「何ですって!?大体キミって何よアンタ!アタシにはトレンチっていう名前が………」

憤慨するお嬢を他所に、レインはさらに続ける。

 

 

 

「ま、こんな奴に『あれ』を使うまでもないか………よし、行ってこい。」

そうしてレインはボールを投げてポケモンを呼び出す。

「みゅるる………。」

現れたのは半目でトカゲ型の青いポケモン……ジメレオンだ。

どこか気だるそうにお嬢の方を見つめている。

水を用いた射撃を得意とするスピード偏重のポケモンである。

これまで相手にしてきた敵とはまた違ったタイプだろう。

 

 

 

「ほら、さっさとポケモンを出しなよ。こっちのを先に見せてやったんだからさ。」

「っっとに!一々カンに触るわねアンタ!」

棘のある言葉の連続に、いよいよお嬢の堪忍袋も限界を迎えつつあった。

お嬢は腕を振りかざし、足元のマネネにゴーサインを出す。

「まねねっ!」

場に出たマネネはお嬢と同じく、怒りに満ちた表情で戦場に立つ。

トレーナーの心理をより深く理解すべく、忠実にその言動を一つ一つ真似る。

 

 

 

「……マネネか。この模造品が。」

「……?」

レインは意味ありげに何かをつぶやくが、お嬢には残念ながら上手く聞き取れなかったようだ。

 

 

 

「まぁいいや。ジメレオン、『みずでっぽう』だ。」

「みゅるっ!」

レイン側は先攻を譲る気がない、というかのように真っ先に攻撃を仕掛けて来た。

マネネというポケモンの性質を考えれば自然と先攻後攻は決定するものだが、それにしても躊躇がない。

真正面に一直線の射撃……攻撃として最もストレートな手段だ。

こういうときは回避の基本、左右のどちらかに飛んで避けるするのが定石である。

お嬢もそこらへんのセオリーは身につき始めていた。

「マネネッ、右によけ……」

 

 

 

 だが残念。

「まねっ……!?」

お嬢の指示が届くよりも先に、『みずでっぽう』は大きな音と共にマネネの腹にクリティカルヒットしたのであった。

そう、相手の攻撃が速すぎるのである。

 

 

 

「ま、マネネッ!?」

「心配してる暇があるなら次の指示を出しなよ。」

「……ッ!?」

レインのその一言の後、マネネが振り返るとそこには背後に回り込んだジメレオンが佇んでいたのである。

ジメレオンはマネネが振り返るよりも早く、しっぽのスイングで首裏をひっぱたく。

「みゅる!」

「まねっ……!」

奇襲用の近接攻撃『ふいうち』である。

初撃限定ではあるが、不可避の大ダメージを与えることが出来るわざだ。

 

 

 

「そんな、いつの間に!?」

「いや、普通に正面から行ったけど……」

レインの言う通り。

このジメレオン、『みずでっぽう』の破裂音と自身の足音を重ね、足音を相殺しながら高速で接近していたのだった。

ノックバックをしていたマネネの視界には、迫りくるジメレオンも視界には入らない。

さり気なく行われたこの一連の行動だが、はっきり言って常識では考えられない技量と言って差し支えない。

圧倒的なスピードと攻撃精度がなくては成立しない攻撃だったと言えるだろう。

 

 

 

 勝負が始まってわずか10秒足らず、マネネは劣勢に追いやられてしまった。

残り体力は既に半分もない。

マネネは攻撃を食らった腹部を押さえつつ、息を整える。

「はぁ……これじゃあホントに勝負にならないな。」

あまりに一方的な試合展開にうんざりしたレインは、ため息とともに肩を上げるジェスチャーをする。

「ッ………!」

お嬢は屈辱的な表情で拳を握る。

しかし事実としてても足も出ていない現状、言い返すことは出来ないのだ。

 

 

 

「いいよ、キミたちに5秒だけやる。その間好きに動きな。」

「な……舐めんじゃないわよッ!」

レインの言動は、疑いようもなく人を小馬鹿にするものであった。

お嬢は怒りと悔しさを抑えきれずに声を荒げる。

「マネネ、『サイケこうせん』ッ!」

「まーーーねねっ!」

与えられた5秒を無駄にしないようにと、マネネは素早く両手に力を込める。

虹色の光を集めると、乾坤一擲、ジメレオンの頭部を狙ってビームを放つ。

 

 

 

「みゅ……」

「待てジメレオン。」

反撃の体勢に移行しようとするジメレオンをレインは制止する。

あくまでも攻撃を『食らってやる』という意向なのだろう。

やがて『サイケこうせん』はジメレオンの眉間にヒットする。

誰がどう見ても痛快なヒット。

ジメレオンの大ダメージは免れないだろう。

 

 

 

 ……だが、そこにあったのはほとんどダメージらしいダメージを受けていないジメレオンの姿だった。

「そっ……そんな!?」

「まねね!?」

確かにマネネはジメレオンの眉間を『サイケこうせん』によって撃ち抜いた。

それは間違いない事実だ。

だが、現実に目の前のジメレオンはピンピンしている。

そのトリックは何か。

 

 

 

 お嬢はその状況を注視してようやく気づく。

ジメレオンの正面に、夕焼けに照らされて鈍く輝くガラス壁のような何かが映る。

『ひかりのかべ』だ。

この壁を盾にすることで、ジメレオンは受けるダメージをいくらか減少させたのだ。

「はぁ……アレだけ隙を与えた溜め攻撃で、この程度の壁も砕けないとは。」

レインは呆れ返った声で言葉を吐く。

 

 

 

「まだよッ……『ものまね』ッ!」

「まねっ!」

マネネは最後に見たジメレオンのわざ『ふいうち』をコピーし、そのままジメレオンの懐に潜り込んだ上で攻撃を仕掛けようとする。

しかしそれを見抜いたジメレオンは、なんと腕でいとも簡単に攻撃を受け止めてしまったのだ。

「……『ふいうち』を正面から撃つバカは初めて見たよ。決まるわけ無いじゃん。」

レインは呆れつつも半笑いでそうこぼす。

お嬢には、それにいちいち食ってかかる気力は残っていなかった。

 

 

 

「……もういい、さっさと終わらせろ。『みずでっぽう』だ。」

「みゅるるッ!」

ジメレオンは至近距離のマネネの眉間に指を当てると、そのまま『みずでっぽう』を接射する。

当然だがこの攻撃は不可避……そして体力が限界のマネネに耐えられるものではないこともまた確実であった。

あまりにも一方的……勝負と呼ぶことすら危ういこの勝負は、わずか2分たらずのうちに決着が着いたのであった。

 

 

 

「マネネッ……!」

お嬢はすぐに駆け寄り、マネネを抱きかかえる。

自ら喧嘩を売っておきながら、見るも無惨に負けてしまったのである。

「……はぁ。これで分かっただろ?今度からは三流らしく慎ましくしてろよ。」

レインは吐き捨てながらジメレオンをボールへ戻す。

そして続けざまに言った。

 

 

 

「……ジャックだっけ?キミの後ろに居た元チャンピオン。」

「……!?」

未知の情報とともに唐突に発せられたジャックの名前に、お嬢は強く反応を示す。

なぜ彼がジャックを知っているのか、元チャンピオンとはどういうことか。

お嬢はついていけてなかった。

「ま、キミがその程度ってことは……どうせジャックとやらもたかが知れてるだろ。ったく、テイラーの奴……あいつに勝つだのなんだの……」

そう言いながらレインは公園を後にした。

 

 

 

 一人取り残されたお嬢は、力が抜けたかのようにその場に座り込む。

そして、気づくと静かに泣いていた。

本人ですら気づかぬほどの強い悔しさを感じていたのだった。

ハオリに負けたときにはこんな感情は無かったはずだった。

 

 

 

 何が違ったかは決定的だ。

最後にジャックをバカにされたことだろう。

自分の未熟さで自分が貶されることは、ある程度の覚悟があった。

しかし、それでジャックまでもが貶められることは、お嬢は心のどこかで許していなかったのである。

彼女はジャックを侮辱したレインを……否、そうさせた自分自身を許せなかったのだった。

 

 

 

「ま……ね?」

傷ついたマネネは、心配そうにお嬢の顔を覗き込む。

「……大丈夫。ごめんね。」

お嬢はそう言いつつ涙を拭うが、それでもしばらく止まることはなかった。

だが、その涙は恐らく彼女をまた一つ強くしたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、そんなやり取りから30分ほどして。

お嬢はポケモンセンターへと帰ってきた。

そして、入り口にて丁度ジャックと鉢合わせる。

「お、お嬢様!?」

「あ……。」

お嬢は先程泣き腫らした顔を隠すように、少しだけ目を背ける。

「こんな遅くまでどこ行ってたんですか!?今から捜しに行こうと……」

「……ごめんなさい。」

お嬢はいつになくしおらしくそう言うと、黙ってマネネを抱きかかえて受付の方へと歩いていった。

ジャックはそれらの情報から、先程まで起こっていたおおよそのことを察する。

いつの間にか過保護が発症していた自分に気づき、彼もそれ以上は言及をしないことにした。

 

 

 

 受付にてマネネを受け渡してきたお嬢は、ジャックの元へと戻ってくる。

2人はなんとなく待合室のベンチに座るが、2人共なんとも気まずい空気であった。

お互いに何かしらのわだかまりが残るやり取りをして帰ってきた後だったからだ。

特にお嬢の方は、ジャックに多少なりとも後ろめたさがあったのだろう。

 

 

 

「……そういえばお嬢様。今日はジムチャレンジクリア、おめでとうございます。あの後、ステビア様も大変称賛されてらっしゃいましたよ。」

「……あ、うん。ありがと。」

ジャックは驚く。

いつもであれば渾身のドヤ顔で自身の手柄を誇るはずなのに、今日に限ってはありえないほどに元気がないのだ。

流石のジャックも心配し、色々なアプローチで声をかけるが全く反応がない。

 

 

 

「あ……あぁそうです!漫画だ!お嬢様、こんなときはアナタの好きな漫画を……」

そう言ってジャックは自身の鞄から紙袋を取り出す。

もしもの時のために、と何冊か持ってきていたのである。

だが、その紙袋の中身を見てジャックは衝撃を受ける。

そう、中には全く関係のない品が入っていたのだった。

ジャックが見られたくないものが2つほど混じっていたのである。

「し、失礼しました!えぇっとこれじゃなくて……」

いつの間にか彼の私物が混入していたのだろう。

ジャックは取り乱す。

 

 

 

 しかしそんな彼を他所に、お嬢は黙って紙袋を奪い取った。

なんとなく、その中身を見なくてはいけないと直感的に彼女は感じていたからだ。

そして探るように中身を確認し始める。

中に入っていたものは、思ったほど大したことのない……否、彼らにとっては重要なものだったかもしれないが。

とにかく、その紙袋には古びた黒いベレー帽と色あせた写真が入っていた。

 

 

 

 写真にいるのは黒いベレー帽を被った紫髪の少年……どこか見覚えのある少年だった。

彼はトロフィーを大事そうに抱え、何匹かのポケモンと共に喜び合っている。

そしてなにより、とても満ち足りた笑顔を浮かべていた。

身長も髪色も、笑い方の雰囲気も大きく変わってしまっているがお嬢にはそれが誰かすぐに分かった。

 

 

 

 そう、今まさに隣にいるジャックだ。

その写真は彼にトレーナー時代があったこと、そして彼が昔チャンピオンだったということを裏付けるものであった。

「……やっぱり。ホントだったんだ。」

「……知ってたんですか?」

「うん。今日ちょっとね。」

そしてしばらくの沈黙の後、ジャックが切り出す。

「……お恥ずかしい。既にボロボロの帽子のはずなのに……何故か捨てられないんですよね。」

ジャックはそう言いつつ、更に気まずそうにうつむく。

様々な苦いことを噛み締めつつ。

 

 

 

「……」

お嬢はなんとなく、古ぼけた匂いのするベレー帽を頭の上に載せた。

小柄なお嬢には少しサイズが大きいようだ。

「ちょ、お嬢様……ダメですよそんな汚い奴……」

「ううん。いいわ。アタシはこれが気に入ったの。」

そして何度か位置を調整し、ロビーの写し鑑を見つつその着こなしを確認する。

高貴な服装になんともミスマッチであるが、お嬢はそれで満ち足りていた。

 

 

 

「ありがとジャック、これ使わせてもらうわね!」

お嬢は今日、久しぶりに笑顔を浮かべた。

「え……えぇ……」

ジャックは思いもよらぬ出来事に困惑する。

しかし本人が気に入っているのならそれでいいか、と感じたのもまた事実だ。

 

 

 

 トレンチお嬢は人知れず決意を抱いていた。

これ以上、ジャックの顔に泥を塗るわけにはいかない。

この帽子はジャックの代わりだ。

これを被ったからには、もう二度とトレーナーとして恥ずかしいことは出来ない。

自分のため、ポケモンのため、……そしてジャックのためにも。

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