【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第122話】罪の清算、悲観の決意

 CCの頭上からの奇襲によって、罪過の翼獣から叩き落されたお嬢。

そこに間一髪、駆けつけたのはキョダイイオルブを連れたテイラーと、キョダイアーマーガア。

そして……

 

 

 

「じゃ、ジャック……!」

「……ふぅ、なんとか間に合いました。」

そう、それは『ジャック』……否、ブリザポスであった。

数時間前に電脳要塞内で倒れ伏した彼である。

しかし姿が変われど、その正体を違えるお条ではなかった。

 

 

 

「わ……私………いま……い、生きて……」

お嬢は人生最大の恐怖を味わい、その直後に彼の顔を見たのだ。

あまりの緊張感の落差に、情緒の置き場所が無くなっていた。

その証拠に、ブリザポスに跨る両の膝が酷く震えているのだ。

 

 

 

「……。」

そんなお嬢の事を、ブリザポスはじっと見つめる。

パーツが乏しいその顔がどんな表情をしているのか……読み取る事は難しい。

 

 

 

 

 

 ーーーーー時間は1時間ほど遡る。

ブリザポスは目を覚ます。

『こ、此処は……!?』

ゆっくりと瞼を開いて、飛び込んできたものは……

自身が抜け殻として棄てられていた、手術室の天井だ。

 

 

 

「目が覚めたか。随分早いな。」

『て……テイラー!?』

訛った女声の持ち主は、最早考えるまでもなかった。

この手術台の傍らには、メスを握っているテイラーが立って居たのだ。

 

 

 

『貴方……今度は私に何をしたんですか……!?』

「何やねん……寝起き早々、人聞きが悪いな。ウチはアンタを助けてやっただけやで。」

『……!?』

その言葉を聞いて、徐々に彼は思い出した。

電脳要塞の廊下でアーマーガアを送り出し、そのまま意識を失ったことを。

そして徐々に戻ってきた身体の感覚で、自分が本当にテイラーに救命手術を受けていたことを知った。

 

 

 

『……分からない。貴方には私を助ける理由がないはずです。……次は何を企んでいる!?』

だが、彼の中でテイラーに対しての不信感は拭えていなかった。

今までの行いを鑑みれば、当然の反応ではある。

「……せやな。もうウチにアンタを助けるメリットはない。」

『……。』

 

 

 

 

 

 彼女はそう言って、手元の道具を片付け始める。

それはブリザポスと目線を合わせないようにするための口実でもあった。

なぜなら彼女は口にできなかったからだ。

それが「お嬢のため」の行いだったなどと。

 

 

 

 テイラーは考えていた。

もしこのまま、このブリザポスが消えてしまえば……きっとトレンチは死んだも同然になるだろう。

彼女にとって「ジャック」という存在は、最大の目標であり、最愛の隣人だ。

そんなジャックを失う彼女の傷心は、きっと想像に耐えうるものではない。

……かつて父親を失ったテイラーだからこそ、その気持ちが少しは分かったのかも知れない。

 

 

 

 加えてトレンチは、レインにとっても……大切なライバルだ。

そんな彼女が壊れてしまえば、きっとレインだって悲しむ筈である。

 

 

 

 テイラーがそう考えられたのは、ひとえにレインの未来を信じるようになったからかも知れない。

諦めることを拒み続けた、あのふたりとの一戦を経て。

 

 

 

 まぁ、捻くれ者の彼女がそんな考えを口にすることなど……金輪際無いだろう。

 

 

 

 

 

「……ま、アンタのとこの嬢ちゃんに散々にやられたからな。その腹いせや。」

『お、お嬢様……』

その言葉を聞いたブリザポスは、小声で反芻する。

どうにも思うことがあるようだ。

 

 

 

 ゆっくりと身を起こしたブリザポスは、テイラーへ向けて僅かに会釈の動作をする。

『……ありがとうございます。貴方のおかげで命拾いをした。』

「気にすんな。ウチが勝手にメス持ってたら、アンタがいつの間にか治ってたってだけの話や。」

彼女は決して目を合わさず、視界の端で彼の姿を捉えていた。

 

 

 

 しかしそんな応対をしていた彼女ですら、ブリザポスの声色の異様性には気づいていた。

「……ってか何や。助かった割には、あんま嬉しくなさそうやんけ。」

『……。』

「……アンタ、何があったん?何か気になることでも?」

『……。』

彼が考えていたのは、気絶する直前……お嬢と交わした会話の事であった。

あの時、彼女に突き飛ばされ、その後に発された言葉……

 

 

 

「だって、ジャックが居ないじゃない!」

 

 

 

 それは即ち彼にとっては……「お前なんかジャックではない」という意味に等しかった。

 

 

 

 しかしそれは最初から分かっていたことだ。

彼はジャック本人ではない。

ジャックという男の心の綻びから生まれた、本来あり得ざる思念体に過ぎないのだ。

 

 

 

 だが、その事実を彼は……よりにもよってお嬢に突きつけられてしまった。

その事が、未だに彼の心に根強くへばりついているのだ。

 

 

 

 それに、彼は元より悩んでいた。

お嬢の隣人として、自分が相応しくないことについて……ロメロのあたりからずっと悩んでいた。

彼女は「チャンピオンのジャック」を、目標に掲げて旅をしている。

それだけでなく、「チャンピオンのジャック」の存在は、彼女の矜持の根源でも在るのだ。

……しかし彼は「ブリザポス」であり、「チャンピオンのジャック」ではない。

更には、その代役を務められるほどの器量すら無い。

 

 

 

 そう考えていた所に……お嬢の件の一言であった。

あまりに残酷なその言葉は、彼にとって致命傷であった。

 

 

 

「アンタ、もしかしてトレ……」

テイラーがブリザポスに語りかけようとした、その時……

 

 

 

 

 

 手術室が大きな音を立て、大きく揺れ始めた。

「なっ……地震か!?」

『違う……地震にしては揺れ方が乱雑すぎます……!』

ブリザポスの考察は正しかった。

そう、これは地震ではない。

最奥部の広間にて、クランガが『扉』を開いたことによる影響だ。

 

 

 

「アカン、潰される!……おい、ウチを乗せてくれや!」

『……仕方ありません。全力で飛ばしますので、捕まっていてください!』

ブリザポスは背中にテイラーが飛び乗ったことを確認すると、すぐに手術室を蹴破って走り出す。

既にグズグズに崩れ、現実世界の景色が現れ始めた電脳要塞を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそして僅か2分たらず。

ブリザポス達は地上のフウジシティに駆け上がった。

デパート入り口の庭にて、彼らは一度立ち止まる。

 

 

 

「な……何やねんコレ……!」

そこには地下の廃トンネルを突き破って顕現した虹色の巨人……CCが鎮座していた。

街のビル群が次々と揺らいで消え、空気の少なくなったこの様子は……まさに「終末」と表現するに相応しい凄惨ぶりであった。

「嘘やろ……ウチは……こんなもののために……!」

規格外の脅威を前に、テイラーは自分の今までの行いを省みる。

6年間……バベル教団のために費やしてきた労力と時間を。

目の前に現れたその結果が、彼女の過ちの大きさを何よりも顕著に表していた。

 

 

 

『…………ッ!』

瞬間、ブリザポスがその場に倒れ伏す。

「お……おい!どうしたんや……!?」

テイラーが振り向くと、ブリザポスは全身に汗をかきながら溺れるように悶えていた。

 

 

 

『ッ……アレと同じだ……SDの……時と同じ痛みだッ……!』

彼は腹をよじり、苦悶しつつその症状を伝えている。

痛む箇所は腹部……元になったジャックの傷と場所が一致するのだ。

しかし彼の症状はそれだけではない。

『右後脚と……頭と……左前の膝の方も……!』

「ちょ、そこって……!」

テイラーはその箇所に覚えがあった。

 

 

 

 彼女は崩れ行くブリザポスの身体に処置を施す際、ある部位を多用した。

それはかつて、他のSD適合者の手術に使用したもの。

……『獄炎の秘鍵』であるカラカラの骨片と、『迅雷の秘鍵』であるピカチュウの皮膚片である。

それらを培養したものを、ブリザポスの肉体の穴埋めとして使ったのだ。

 

 

 

 しかしそれが、このCCが顕現した場所においては仇となっていた。

CCは一部クランガを参照にしてこの場に存在する生命であり、そのクランガは今や全ての秘鍵に対応する適合者だ。

故に3種全ての秘鍵にまつわる部位を持っているブリザポスにとって、その共鳴は凄まじいものとなる。

 

 

 

「……ッ少し待っとれッ!」

そう言い残すと、テイラーはエスカレーターを駆け上がっていった。

 

 

 

 その姿を、ブリザポスは視界の先で見送る。

苦痛に溺れる中で、「きっと彼女は、自らの身を案じて逃げたのだろう」と考えていた。

当然だ。

自らの脚にすらならないこんな図体のポケモン、この状況においては見捨てるのが最善だ。

彼女の正当な行為を、彼に糾弾する資格はない。

 

 

 

 

 

 ……しかしそこから10分後。

彼女は同じ場所からナイフと薬液、それに裁縫用のキッズセット一式を携えて戻ってくる。

『ッ……テイラー!?逃げたんじゃ……』

「アホ抜かせ!デパートから使えそうなもん持ってきたんや!」

そう言うと彼女は、腕に抱えたものを地面に広げて着々と準備を始めた。

彼女だって、本当は逃げたかった。

しかしそれは、彼女の誇りが許さなかったのだ。

取り返しのつかないことをした、彼女自身の……僅かな誇りが。

 

 

 

「麻酔が弱いから少し痛いかもやけど……動いたらアカンで!」

そう言いつつ、テイラーはボールからイオルブとモスノウを呼び出す。

「ひとまず『さいみんじゅつ』で神経の働きを軽く止めてからから……あとはそこの臀部と首筋を『れいとうビーム』で冷却や。」

2匹のポケモンはすぐにテイラーの言うとおりに行動し、ブリザポスの治療に取り掛かる。

「しゃりりり……!」

イオルブは翅を広げ、ブリザポスの正面から念動波を送る。

『ッ……』

すぐに彼の意識は朦朧としていき、溶けるような眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーそこから更に40分ほどして。

『ッ………!』

ブリザポスが目を覚ますと、全身の痛みは引いていた。

テイラーの神業の如き治療が、功を奏したのである。

「……どや?少しは楽になったか?」

『……ええ。おかげさまで。』

 

 

 

 そう言いつつ、ブリザポスは自身の身体を起こす。

すると……

「グアアアッ!!」

『うわっ……!?』

けたたましい鳴き声が耳に入り、彼は思わず振り向いてしまう。

そこには彼の相棒ポケモンである、アーマーガアが居たのであった。

彼女はブリザポスの無事を確認し、翼を広げて喜びの仕草を見せる。

 

 

 

『なっ、アーマーガア……貴方、お嬢様たちはどうしたのですか!?』

「ガッ!グアアアアッ!」

アーマーガアは、彼が眠っている間に起こった出来事をすべて話す。

 

 

 

 お嬢たちがミチユキという人物の手で街の外に避難したこと。

ブリザポスのことが心配になって残留していた彼女は、デパートの庭に倒れている彼らを発見して駆けつけたこと。

そして今、お嬢は再度この街に戻ってきてCCと交戦している……ということをだ。

 

 

 

『……わかりました。アーマーガア、一つお願いがあります。』

「グアッ?」

『大学の中庭にある「ダイマックスバンド」を取ってきてください。今すぐ加勢しましょう。』

「ガアッ!?」

アーマーガアは驚きの表情を見せ、首を横に振る。

 

 

 

 そしてそれは、テイラーも同じであった。

「……ちょっと待てブリザポス。お前、一体何を考えてるんや?」

『………。』

ブリザポスは僅かに目をそらす。

どうにも不都合な部分を、テイラーに見抜かれてしまったようだ。

 

 

 

「あのな、さっきまで死物狂いでのたうち回っていたモンが戦えるワケないやろが。アレはあくまで応急処置……いくら持つかわからんぞ。」

『……。』

「それに……アンタ、特攻しようとしてるやろ。あのバケモンに。」

……そう、テイラーの言う通り。

ブリザポスは決めてしまっていたのだ。

自らの身を顧みず、CCに立ち向かって行こうとする覚悟が。

 

 

 

『……それの何が問題なのですか?あの男が自我を取り戻した今……私にとって、生きる意味は最早ないですよ。』

「お……お前……」

あまりにも真剣なその眼差し……引き返すことを忘れた、亡者の目であった。

否、寧ろ大切なものを諦めて、開き直っているフシすらある。

そこにテイラーが説得する余地は、無いも同然だったのである。

 

 

 

「……お前はホントにそう思うんか?トレンチの嬢ちゃんが、お前の事をそんなぞんざいに見ているとでも?」

『だって実際にそうじゃないですか……!私の価値が、一体どこに!?』

ブリザポスは怒鳴り、声を荒げる。

悲壮感に満ちた声に、テイラーは溜息を吐いた。

 

 

 

 そして小さく、誰にも聞こえないように呟く。

「……お前、人の心を読む能力はウチ以下やな。」

『……?』

「何でもないわ。」

呆れ顔のテイラーは、身辺に散らかった治療器具一式を片付け始める。

 

 

 

「おいアーマーガア、ひとまず作戦決行や。その代わり、お前のトレーナーはウチや。」

「ガアッ!?」

『ちょっ……アーマーガアは私のポケモンですよ!?』

唐突な指示に驚くアーマーガア達に、テイラーは続ける。

 

 

 

「いや、厳密にはアンタのポケモンちゃうやん。」

『ッ………!』

その一言は確かな事実ゆえ、ブリザポスは押し黙ってしまう。

 

 

 

 

 

「そもそも、ブリザポスの身体でダイマックスを起動出来るワケあらへんやろ。せやから、ウチがアーマーガアのトレーナー代理をする。」

『し……しかし…………』

「安心せぇ。アンタのポケモンは、トレーナーが変わった程度で戦えなくなるようなヤワな奴やない。……それはアンタ自身、よう知っとるやろ。」

 

 

 

 テイラーの言葉を聞きつつ、ジャックはアーマーガアを見つめる。

……そうだ、アーマーガアは最初から、自分が元のジャックではないことを知っていた。

しかしそれでも、彼女はここまで共に来てくれた仲間なのだ。

 

 

 

「まぁ、ウチはハッキリ言って三流のトレーナーかもしれん。でもな、ソイツの力はそれを補って余りある。……アーマーガアを信じたれ。」

「グア………」

『………。』

両者は互いの顔と、テイラーの方を交互に向く。

 

 

 

 そして遂に、ブリザポスは決心がついたようだ。

『……そうですね。ではアーマーガア、お願いできますか?』

「…………グアッ!!」

アーマーガアは頷き、軽く翼を広げる。そしてすぐに飛び立っていった。

大学の中庭に、ダイマックスバンドを拝借するために……

 

 

 

 空高く消えていったアーマーガアの姿を見送りつつ、ブリザポスは小声でつぶやいた。

 

 

 

『…………ありがとうございました。あなたには何度も助けられた。感謝してもしきれません。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーそして時間は現在に戻る。

その戦場に、白馬は疾風とともに現れる。

決死の覚悟とともに、最愛の人物を守るために。

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