【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第125話】抜かれた支柱、たどり着く中核

 此処は、この世の秩序の管轄を外れた領域。

敢えて言い換えるとすれば「CCの体内」。

その最奥部である場所……未だこのふざけた生物を叩き起こした者は、意識を保っていた。

 

「ッ……バドレックスさんよぉ。随分と……派手にやってくれやがったッスねぇ……。」

フウジの街で大規模な闘争が起こっていたことについての話だ。

当然、それは体内の彼らも知るところであった。

『ふむ、余が思った以上に抵抗していた故な。何体か侵入を許してしまったみたいだがな。』

色も形も曖昧なその空間で会話を交わすのは、バドレックスの形を借りたCCと、その起動主であるクランガだった。

 

『しかし……よくも意識が保てるものよな。貴様の身体は既に半分以上が侵食され、肉体も人の形では無いというのに。』

CCの言う通り……傍から見ると、バドレックスが黒い塊のようなものに向かって話しかけている形であった。

既に人の領域を外れかけているクランガであったが、残酷なことに意識だけがそこに在る……という状況なのだ。

「はっ、生憎俺は寝付きが悪くてね。ましてやこんな楽しいことを目の前にして寝てられるかってんだ……!」

『ふはは!やはりお主を頼りにして正解だったようだな!』

高笑いとともに、嘲りとも称賛とも取れぬ声でCCは語る。

常軌を逸した者同士の、実に気色の悪い会話であった。

 

 

『しかし一体、貴様の何が心をそこまで強く保つのだ?』

「さぁな……アンタに言っても分かんねぇッスよ。」

『……そうか。なら丁度いい。』

その一言と共に、CCはクランガの元に近づいていく。

そしてその手で、意識が在るだけの塊に触れる。

 

「ッ……おい待て……何をする気だアンタ……」

『貴様と余は今や同一の存在。何、単純だ。「貴様の精神力の根源を借り受ける」だけの話だ。』

直後、CCは小さな手で黒い塊をかき乱す。

まるで粘土細工でも捏ねるかのように、無造作で無慈悲な手付きであった。

 

「がっ……うがっ……おい待て痛い辛いやめっぐっ……ああ゛……」

『……何だこれは。女の影……?』

CCはその手の先に、何か大きな感触を見つける。

ドロドロとして冷たいクランガの心に眠る、唯一の温かいものを。

 

「おい待てそれは……やめろ待て今すぐ返せッ……!」

『そうか、これか。どれ……寄 越 せ。』

蠢く塊から、CCは腕を引き抜いた。

 

「行く…な……姉…………」

次の瞬間、その一言を最後に「塊」は何も言葉を発さなくなる。

中核を失い、心が形を保てなくなったのだろう。

 

『……なるほどな。丁度いい……迎撃兵として使ってやろう。』

 

 

 

 

 ーーーーーー時間を同じくして。

フウジの上空にてCCとの激闘の末、お嬢たち一行はその体内に突入することに成功した。

ダイマックスバンドがお嬢の存在を証明すべく、わずかに震えてサダイジャ達との接続を示す。

まだ外に彼らは認識されている……完全に飲み込まれたわけではないようだ。

 

「こっ……ここは……」

『CCの体内に入ることに成功したようだな。しかし……』

彼らの見渡すその光景は、凄まじいものであった。

 

 周囲一体が苔むした大地になっているかと思いきや、数歩歩けば泥沼や農村、更には海や山岳の光景が目まぐるしく切り替わる。

気温も凄まじい頻度で乱高下し、更には聴覚や嗅覚をランダムな刺激が襲う。

多くの要素が乱雑に入り乱れたその様子は、まさに「混沌」の一言に尽きると言っていいだろう。

『恐らく、CCが此処までに取り込んできたものでしょう。それが溜まりに溜まってこの形になっている……と。』

「まねね……」

「なんだか悪趣味ね……」

その様子は、まさに小規模な終末……世界の果てのゴミ捨て場、といった感じであった。

しかもその一つ一つが生々しく生きているように見えるのが、尚更彼女らの正気度を奪っていく。

 

 最悪な足場の中を、お嬢を乗せた翼獣と双角獣が歩んでいく。

蹄の音が不規則にこだまし、その空間の異質さを更に強調させていった。

 

 何もかもが不安定な異空間を歩いていた一行であったが、ある地点から急に統一感のある風景に切り替わる。

「ねぇジャック、道が徐々に開けてないかしら?」

『はい、おっしゃ……』

『そうだな。俺もそう思っていたところだ。』

「………。」

2頭の返事は、丁度被さってしまった。

お嬢の二人称がどちらも同じであったことが原因だろう。

しかし言葉を先に引っ込めたのは、ブリザポスの方だ。

 

 彼の歩みが、心なしか遅くなっていく。

まるでふたりから、距離を取るかのようであった。

「……?どうしたの?」

『……いえ、何でもありません。横並びで歩くのが効率が悪いと思っただけです。』

『おい、大丈夫か?まさかSDの影響で……?』

『貴方と一緒にしないで下さい。私に問題はありません。』

ブリザポスはふたりの言葉に、無愛想な返答をする。

「………。」

その近寄りがたい雰囲気には、お嬢もレイスポスも口を噤むしか無かった。

 

 だがそれでも……直後に視界に入ったものに言及しないわけには行かなかったのだろう。

『……!お嬢様、ブリザポス!アレ……!』

レイスポスが僅かに前進し、首を持ち上げて叫ぶ。

「なっ……!?」

彼の指し示す方角を見ると、そこにはとんでもないものがあった。

 

 広大な広間のような空間で、天井から巨大な銀色の球体が吊り下げられている。

混沌を極めるその景色のなかで、その球体だけが明確な「形」を持ち、存在感を放っていた。

球体は多くのパイプのような管で接続され、まるで生き物のごとく蠢いている。

その形状も挙動も、彼らには見覚えがあった。

 

「アレは……心臓……!」

そう、心臓。

命あるものの動力源。

絶え間なく動き、生物を「生物」たらしめるもの……心臓である。

『そうか!CCはバドレックスによって『命』を与えられた存在……ならば心臓があるのは必然!』

レイスポスの考察は的を射ていた。

 

 そう、これはCCの中核たる動力源。

この機構が停止すれば、CCは根本的に破壊される。

『……なるほど。どうやらこれの破壊が最終目標のようですね。』

脈動する球体を見据え、2頭の馬が身構える。

 

『……少し降りてろお嬢様。すぐに片を付ける。』

「ッ……」

彼の言葉を聞き、お嬢は翼獣の背中から降りる。

全力の攻撃をするのに、背中のお嬢の存在はかえって邪魔になりえる……賢い選択と言えよう。

 

『行くぞマネネ……速攻で決めるッ!』

「まねねっ!」

翼獣は心臓を見据え、最大火力の攻撃を装填する。

かなり巨大な機構ではあるが、SDの力を全開にした存在が2人もいれば破壊はありうるかも知れない。

そう考え、レイスポスが『アストラルビット』の構えに移行しようとした……その時だった。

 

 彼の足元が、わずかに揺らぐ。

そこから細長い、刃物のようなものがぬるりと生えてきたのだ。

『ッ!!危ないッ!!』

その変化に気づいたブリザポスが、思い切りレイスポスを後ろ足で蹴り飛ばす。

間一髪、その刃はレイスポスの脚を斬れずにすり抜けていった。

『ッ……!?』

あまりに一瞬の出来事に、その場に居た者はみな困惑する。

 

 しかしそんな隙すら与えられないほどに、状況は急転した。

円筒形の広間の壁や天井、更には床に至るまで……ありとあらゆる場所が液体のように揺らいでいるのだ。

そう思うのも束の間……その揺らぎは徐々に具体的な形を成し、やがて生物のような姿を形成していく。

 

「なっ……何よこれ……!?」

そこに無限に湧き上がるのは、剣を加えた四足歩行のポケモン達だ。

『GRRRRRRR……!』

『GRRRRR………!』

『コイツは「ザシアン」……3000年前のガラルの危機を救った英雄の片割れだッ……!』

そう、ザシアン……お嬢とレインが電脳要塞で戦ったザマゼンタと対になる「剣の王」だ。

しかもその数は100や200では効かない。

まさに災害レベルの数である。

 

 これはCCが作り出した免疫機構……体内に侵入した異物を排斥するために、スエットとMA-Ⅰの力を貸借して作り上げた生命だ。

その過剰とも言える衛兵たちは、唸り声と共にお嬢らを睨みつける。

 

『ッ……気をつけて下さい!コイツら、各個体がホンモノに匹敵するレベルの力です!』

『なっ……!?』

最悪なことに、その1匹1匹がザマゼンタに匹敵する戦力の持ち主である。

普通に戦えば、到底勝ち目のない戦いだろう。

 

 だが、ここにはこの世の理を外れた強力なポケモンが2匹いる。

『さて……勝算はあるのか?ブリザポス。』

『……知りませんよ。ですが、我々がやるしか無いでしょう。』

そう言いつつ、彼らは互いに背中合わせとなってお嬢を囲むように構える。

『よし……マネネ!ブリザポス!全力でコイツらを仕留めるぞッ!』

「まねねっ!!」

 

 瞬間、2頭は凄まじい速度で攻撃を繰り出す。

『アストラルビット』と『ブリザードランス』の弾幕が周囲に張り巡らされ、まるで散弾銃のように周囲のザシアンたちを殲滅していったのだ。

加えてそこにマネネが魔杖の力に寄って強化を加えた影響で、その攻撃は最早「攻撃」と認識することすら困難なレベルのものになっていた。

あたり一面の景色は、氷と光弾で埋め尽くされる。

この中を生き延びることは不可能に近いだろう。

 

 だが相手の頭数はそれ以上に膨大だ。

『GRRRRRRR!!』

『GRRRRRR!!!』

撃ち漏らされた何体かのザシアンは、『きょじゅうざん』の一撃を与えようと接近してくる。

『甘いッ……!』

すぐにその気配に気づいたレイスポスは、翼を大きく広げて氷の障壁を展開する。

数撃の剣は壁へとぶつかり、その場で攻撃が打ち止めとなる。

 

『そこだ喰らえッ!!』

そこに追撃を加えたのはブリザポス。

盾越しの『フリーズボルト』で多量の電撃を流し、接近してきたザシアンの残党を一蹴した。

「す……凄すぎる……!」

お嬢ですら2頭の圧倒的な殲滅力には、言葉を失うしか無かった。

これがSDの力……洗練されきった、混沌の究極点である。

 

『よし、これで山場は過ぎ……』

『いや待て……!まだ来るぞッ……!』

息をつく間もなく、再び周囲の壁が蠢き出す。

そこから現れたのは、またも多量のザシアンの群れであった。

次から次へと湧き上がり、彼らに襲いかかろうとしているのだ

『くそっ、キリがない……!』

無尽蔵の敵の群れに、終わりなき戦いの絶望が顔を覗く。

 

 しかし、だ。

その時お嬢の視界に、あるものが入ってきた。

「……!ねぇアレ!真ん中に居るやつ……!」

彼女は違和感を感じた場所……広間の中央、心臓の真下にある高台の場所を指差す。

 

 見上げると、そこには人型の何かが見える。

オレンジ色の長髪を持つ、物腰柔らかそうな女性だ。

『あれは……』

彼女は腕を掲げ、何やらザシアン達に指示を出しているようにも見える。

「そうですザシアン。後衛から上方向からの突撃をしてください。そうすれば時間差でシールドを……」

その声を、お嬢の耳が捉える。

 

「……!あの声、MA-Ⅰ!?」

『やはりそうか……!』

そう、目の前の女性の声は、フウジジムで戦った人工知能……MA-Ⅰのものと完全に同じだったのだ。

しかしあの無機質な機械音声ではなく、明らかに人間の肉声……否、寧ろ人間そのものだったのである。

まさにMA-Ⅰの人間体……といった様子であった。

 

「……やりなさい、ザシアン。」

『GRRRRRRRRRRRR!!!』

『GRRRRRRRRRR!!!』

周囲のザシアンが、MA-Ⅰの指示と共に一斉突撃を開始する。

 

『っ!もう一度、「アストラルビット」で殲滅するぞッ!』

『応戦しますよ……「ブリザードランス」ッ!!』

ブリザポス達はすぐさま頭上に槍の束を生成し、襲ってきたザシアンを切り返す。

先ほどと変わらぬ勢いで弾雨を降らせる……が、明らかに倒れているザシアンの数が減っている。

 

 その影響で、懐に忍び寄る個体の数が増す。

「まねねねっ!」

瞬間、マネネが巨人の手を召喚して一部を薙ぎ払う。

間一髪で間に合った、先程よりも危機的な状況に陥ってることは間違いない。

 

 ザシアン達は盾役、後衛、先鋒……と、しっかりと役割を振り分けている。

連携の精度が、先程よりも明らかに増しているのだ。

『くっ……やりづらいッ……!』

『やはりあの女が原因みたいだな……!』

彼らの読み通り、中心にいるMA-Ⅰが現れた影響が大きいのだろう。

それほどに、指揮系統の存在は大きいのだ。

 

「……わかった。アタシが行く。」

『……は!?』

「アタシがMA-Ⅰを直接叩きに行くわ。それで活路が開けるはずよ。」

お嬢のまさかの提案に、皆が驚愕する。

 

『無茶だ!敵陣の真ん中に突っ込んで無事で居られるわけが無いだろ!?』

『そうですお嬢様!落ち着いて下さい!』

彼らが制止するのは最もであった。

今、この場で最も無力なお嬢が特攻することはあまりにも危険がありすぎた。

しかしそれでも、お嬢は首を横に振る。

 

「……違うわ。アンタ達から注意が逸れれば、連携が崩せる。逆に「連携が崩れない」ってことは、アタシに意識を割けていないってこと。」

『し、しかし……』

「大丈夫よ。アタシを信じて。」

お嬢の覚悟は決まっていた。

こんな所で棒立ちになって戦況を眺めることは、彼女の矜持が許さなかった。

彼女も皆と肩を並べ、戦いたかったのだ。

 

「……まね。」

その意志を汲み取ったマネネが、軽く頷く。

そして手元の魔杖を軽く掲げ、お嬢を念動力で持ち上げる。

浮かびあげられたお嬢は、そのままダンクシュートで投げ入れられるようにMA-Ⅰの元まで飛んでいったのだ。

「まねねっ!」

『あ、ちょっ……マネネ!』

「背中は預けたわよ、アンタ達ッ!」

その言葉を最後に、お嬢の姿はザシアンの群れの向こうへと消えていった。

 

『チッ……四の五の言ってる暇は無いようだな!おいブリザポス!全力でタゲ取るぞ!』

『あなたに言われるまでもありません。……お嬢様の覚悟に応えましょう。この身に代えても!』

彼らは再び背中合わせになり、再度攻撃の構えへと移行する。

その真中にてマネネも魔杖を装備し、補助の準備へと取り掛かった。

『さぁ勝負ですザシアン……負けたい者から掛かってきなさいッ!!』

 

 

 ーーーーーさて、広間の外周でふたりが戦っているその間。

心臓の真下にて対峙しているのは、MA-Ⅰとお嬢のふたりであった。

MA-Ⅰはお嬢の顔を見るなり、首を傾げて問いかけてくる。

「あら……一体私に何の用でしょう。」

「アンタを倒しに来たのよ!このふざけた群れを止めるためにねッ……!」

そう吠えたお嬢は、ボールを手元に構える。

 

「……あぁ、思い出しました。貴方は確か……ご主人様が『心の美しい存在』だと言っていました。」

「ご主人……クランガのことかしら。」

「えぇ。そしてこうも言っていました。その心は気高く美しいからこそ……粉々に壊れてしまうべきだと。」

表情筋をピクリとも動かさず、MA-Ⅰは言葉を紡いでいく。

その様子はなんとも不気味であったが、今更お嬢はそんなものに恐れない。

 

「そう……如何にもアイツが言いそうなことね。いいわ、どっちが壊される側か……試してみましょうか!?」

「……あなたを敵性体と断定。これより排除を開始します。」

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