【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第128話】『救済』の定義、『在り方』の変化

「なっ……どうして私の脳内に……!?」

心象世界に不自然に置かれたテーブル。

そこに向かい合うように座したステビアとMA-Ⅰが会話を交わす。

困惑するMA-Ⅰを見つめながら、ステビアはニヤリと笑う。

「此処はキミの脳内じゃない。この見えざる大災害の心の奥底さ。……否、どっちでも同じか。」

『見えざる大災害』……つまりはCCのことだ。

「な、何を言っているのですか!?」

訳のわからない事を言い出すステビアに、彼女は更に混乱する。

「君は私の知るMA-Ⅰなんかじゃない。あのクランガという男の中から引き出された幻像にすぎない。違うかい?」

「………。」

 

 

 

 ステビアの口から、彼女の生い立ちについての素性が明かされる。

しかし彼女の述べたことは正しかった。

ここにいるのは人間体のMA-Ⅰなどではない。

クランガの中に居た、『MA-Ⅰに限りなく似た誰か』である。

 

 

 

 だがそんな素性、MA-Ⅰ自身がよく知っている。

「聞きたいのはそういうことではありません!電脳要塞に置き去りにされていた筈のアナタが一体なぜ此処にいるのかと聞いているのです!」

彼女の疑問はもっともであった。

ステビアはあの電脳要塞で拘束され、無抵抗なままCCに飲まれたのだ。

普通に考えて生きているはずがない。

「あぁ、それね。逆さ。精神と肉体がクランガの手で分離したおかげで、精神の方だけが生きていられたんだよ。」

「なっ……!?」

「アイツには色々と好き放題使われたみたいだし、肉体のほうはお釈迦になったみたいだけどネ。まぁ、怪我の功名ってやつさ。」

平然と凄まじいことを言いながら、ステビアは軽く笑う。

そのメンタルの強さは、MA-Ⅰですら軽く引くレベルであった。

 

 

 

 その上ステビアの話は、理論があちらこちらに飛ぶ。

ただでさえ理解の追いついていない彼女は、余計に困り果てていたのだ。

「ハハハ、未だ何が起こっているのかわかってないようだね。じゃあ順番に説明してあげよう。……MA-Ⅰ改め、『ブレザ』くん。」

「!?」

 

 

 

 

 

 ーーーーー「まず君はあの大災害……CCの支配下にある存在だ。その心の全ては奴と繋がっている。故に此処は君『だけ』の心ではない。」

「……。」

「そして私の精神もまたCCに取り込まれた。否、取り込まれそうになったんだ。だがコイツには弱点が在る。そう、『自身と同質のものは喰らえない』んだ。」

ステビアが言う『同質のもの』とは、この世の理を外れた存在の総括である。

精神体として分離されて尚生きているような彼女は、この世の摂理に則ったものとは認められなくなった。

つまり、CCの捕食対象外としてこの精神世界で生きていたのである。

 

 

 

「ということはアナタは……」

「そう。CC経由で君の心に問いかけてるってわけさ。」

彼女の言う通り。

このMA-Ⅰ改め『ブレザ』という存在は、CCの手で作られた。

故にCCの精神と接続されており、その接点を生かしてステビアが干渉しているのだ。

 

 

 

「ちなみにCCの精神世界に来たおかげで、奴の記憶・認識はすべて入手済みだ。」

「なっ……!?」

再び平然と凄まじい情報が、ステビアの口から飛び出す。

しかし驚くべきことではない。

 

 

 

 なぜなら、彼女の隣に居たのだから。

他人の精神を展開し、侵入し、映像のごとく再生できる存在が。

「ホントはここに来てもらいたかったのだが……生憎彼女は別の事で忙しくてね。」

そう言うとステビアは、交差させた脚を組み替える。

 

 

 

「……ついでに言えば、このCCの楔であるクランガくんの記憶も覗かせてもらったよ。」

「なるほど……それで私の名前をご存知なのですね。」

「あぁ。フウジジムのAI・MA-Ⅰはどうやら、クランガが……姉であるキミに似せて作ったようだね。」

ステビアの言う通り。

このブレザという女は、クランガの姉である。

オレンジ色の髪や細い目つきなど、共通点は多かった。

正確には「クランガの中の姉の記憶」の具現化なので、本人ではないのだが……。

 

 

 

 そして、どういうわけかクランガはその姉に似せてMA-Ⅰを作り出していたのだ。

特に声に至っては完全に同一であった。

だがその理由を、ステビアは既に知っていた。

 

 

 

「……そうだ。キミが居なくなってから、クランガは形を失いつつある。今すぐ元いた場所に戻りたまえ、」

「……。」

「キミ自身、わかっているんだろう?キミという存在が、クランガの心の中ではあまりにも強大であることを。今の彼はいわば、大黒柱を抜かれた民家のようなものだ。このままでは存在そのものが無に葬られてしまうぞ。」

神妙な面持ちで警告をするステビア。

しかしブレザは、首を横に振った。

「……それの何が問題なのですか?あの男には既に未練はありません。」

「……。」

睨む彼女へ、ブレザは更に続ける。

 

 

 

「それに、私には許せないのです。人々がこの御方を『大災害』と呼んで排除する事が。彼だけが救われない事が。」

「……ほう?」

「大人数を救うためにこのCCという存在が排斥され、葬られるのですか?それが正しいのですか?『仲間はずれは良くない』『差別は悪だ』と言う人間たちの手で、皮肉にもその処断は成されようとしているのですか!?」

「……。」

熱弁するブレザ。

その様子を、真剣な様子で見守るステビア。

二人の間に緊張が走る。

 

 

 

「アナタだって見たのでしょう!?このCCという存在の辿ってきた道を!彼は生まれてからずっと無垢だった!ただ知りたいだけだった!ただ触れ合いたかった!それをアナタだって知っている筈です!!」

「……そうだね。」

「自由に生きたことが否定されるなんて、まるで最初に生まれた事自体が間違いだったみたいじゃないですか!」

ブレザの心の叫び……それはクランガの叫びでもあった。

彼はCCにただ洗脳を受けたわけではない。

心のどこかで、CCに同情をしていたのだ。

 

 

 

「……そうか、君はCC救われるべきだと。それが成されないことが不満だと。」

「そうです……!だからこそ私は、あのトレンチやレイスポス達を倒さなくてはいけない……!」

そう言って再度立ち上がるブレザの肩を、ステビアが抑えた。

「だがそれは駄目だ。君が消えてもいい理由にはならないよ。」

「なぜッ……!?」

「……君の言うことが正しいからだよ、ブレザくん。」

「は……?」

「君の言う通り、『救われてはいけない存在』なんかいないのさ。」

そう言うとステビアは、ブレザの隣に座り直す。

 

 

 

「しかしだ。『救われる』って一体どういうことだと思う?」

彼女から投げかけられた疑問は、ひどく漠然としたものであった。

しかしその問いへ、ブレザは彼女なりの答えを返す。

「自分の存在や行いを……誰かに許され、認められ、受け入れられることでしょうか。」

「……なるほど、確かにそれならCCは『救われていない』し『救われない』存在だろう。彼が人間たちに受け入れられることは無いだろうからね。」

ステビアは淡々と、事実を述べる。

実際、この大災害と人間の共存は不可能である。

結果として……一方が在るためには、もう一方が滅びるしか無いのだ。

 

 

 

「だが私の考えは少し違う。『救われる』というのは、『在り方を正される』ことだと思うのだよ。」

「……在り方を、正される?」

「例えば君は先の戦いで、トレンチがジャックに『救われた』存在だと言っていたね。」

ここでステビアは、お嬢の名前を出してきた。

そう、お嬢とジャックが出会った6年前の話を。

ブレザの相槌を挟み、彼女は持論の展開を続ける。

 

 

 

「それはただ、ジャックが彼女の存在を受け入れたわけではない。『自分の苦しみを一人で抱える』トレンチの在り方が、『誰かと苦しみを分かち合う』在り方に変わったんだ。」

「……。」

「救済というものは、決して他人から施されるだけのものじゃない。自らも変わらなくては行けないんだ。」

「………ッ」

その言葉を聞いたブレザは、僅かに俯く。

目線の先に映っていたのは、己の膝であった。

 

 

 

 そんなブレザの頭を、ステビアが撫でる。

「……きっとそれはCCだけじゃない。ブレザ……否、クランガ。キミ自身もだ。」

「ッ………!」

「もし本当にCCに救われてほしいのなら……あるいはキミ自身が救われたいのなら。全てが消え去る前に、元の場所に還るんだ。」

「……私は……否、あの男はもう取り返しのつかない所まで来ました。今更救われることなど……!」

声の震え始めるブレザを、ステビアは優しく抱いた。

「なに、君も私も……人生まだまだ長いんだ。生きていればきっといつか『救われる』はずさ。」

「ッ……!」

「約束しよう。全てが終わって、キミが罪を償ったら……とびきり上等なケーキを用意して待っておいてやる。」

「け……ケーキ………」

「あぁ、好きだろ?ケーキ。」

 

 

 

 ステビアのその言葉を皮切りに、ブレザの全身から花が咲きはじめた。

それは感情表現なのか、はたまた別のなにかか。

誰にも分からなかった。

「……ははっ、なんでだよ。なんでこんな『俺』が……優しくされるんだろうなぁ……わかんねぇや……」

身体を覆ったカレンデュラの花は、やがて褐色に染まり枯れ果てる。

「……約束だ。待ってるぜ。」

そのまま失望の花は散り散りになり、どこか遠くを目指して飛んでいった。

 

 

 

「……大切にしてやれよ、クランガ。キミの中の僅かな良心を。」

彼方へ消えゆく枯れ花を見送り、ステビアは手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー場所は戻って、CCの心臓の真下。

カレンデュラの花に覆われ、怪物と化したMA-Ⅰ……既にそれはお嬢やエンペルトで敵う相手ではなくなっていた。

 

 

 

 しかし……その怪物は、奇行に走り始める。

『あっ……あああ゛あああ゛ッ!?』

自らの頭を抱え、悶えているのだ。

「なっ……!?」

先程までの脅威的な動きから一変。

まるで行動が滅茶苦茶だ。

 

 

 

「ふ……ふぇるるっ!」

あまりの隙の大きさに、エンペルトも花を掻い潜って立ち上がる。

今がチャンス、と言わんばかりに彼が反撃の構えへと移行した……その時であった。

 

 

 

 全てのカレンデュラが、一斉に枯れ果てたのだ。

萎れた花々は、散り散りになって空へと舞い上がる。

中のMA-Ⅰごと存在は消え、気づいた頃にはそこには何も無くなっていたのである。

 

 

 

「な……何だったのかしら……」

「ふぇる……」

あっけに取られるうちに、戦いは終わった。

 

 

 

 そして主導者であるMA-Ⅰを失ったことにより、ザシアンたちの動きも一斉に止まる。

床や壁からとめどなく生えていた彼らは、急速に勢いを無くしていった。

『ッ……こ、これで全部か……!?』

「まねねっ!」

『ぜぇっ……ど、どうやらそのようですね……!』

既に何千匹ものザシアンを斬り伏せてきた馬たちは、息を切らす。

流石にエネルギーを激しく消耗しすぎたのだ。

 

 

 

『はぁっ……さ、流石に動けねぇ……!!』

『ぜぇっ……ぜぇっ……何を……言っているのですか……じ、時間が……』

そう言いつつも、ブリザポスの容態はもっと深刻であった。

彼は立ち上がることすらままなっていないのだから。

「まっ、まねね!!」

『そうだブリザポス!少し休まないと、出せる力も出せないぞ!』

『っ……私は……私はッ……』

結局、ブリザポスはマネネとレイスポスに半ば押さえつけられるような形で座らされたのだ。

 

 

 

 その様子を、お嬢は高台から見ていた。

「……あの様子だとすぐには動けそうにないわね。エンペルトももう限界みたいだし……」

一段落ついたこの状況に安堵するとともに、少し時間を置くことを決めたのだ。

「お疲れ様、エンペルト。」

「ふぇるる。」

お嬢は彼をボールに戻し、MA-Ⅰが居た場所へと目をやる。

 

 

 

 結局、あの戦いは何だったのだろう。

先程まで戦っていたのは、本当にMA-Ⅰだったのだろうか。

そんな疑問を感じつつ彼女のいた場所を見つめると、そこには……枯れずに残っている花びらがあった。

しかしオレンジ色のカレンデュラのものではない。

形は似ているが、桃色の花びらであった。

 

 

 

「これはアスター……だったかしら?花言葉は確か……」

そう思いつつ、お嬢は花びらを拾い上げる。

 

 

 

 すると、彼女の脳内に流れ込んできた。

「なっ……ああああっ!!?」

大量の情報……CCの記憶にまつわる、大量の情報が。

そんな中で、彼女に語りかける声が一つあった。

 

 

 

「……トレンチ?聞こえる?」

その静かな声には、お嬢も聞き覚えがあった。

「す……スエット!?どうしてここに!?」

「……説明する時間がない。今から『アナタにも見せておくべき』だと思ったCCの情報を送る。」

お嬢の脳内にものすごい速度で流れ込む情報の彼方で、スエットは言葉を紡ぐ。

「……私は……否、私達はアナタの選択を信じる。頑張って。」

「ま……待って!スエット……!」

そう呼び止めるお嬢の声は、次から次へと迫る音や映像、感覚に流されていった。

 

 

 

 やがて僅か5秒にも満たぬ時間の末……スエットの編集した情報は全てお嬢の脳内に入り込んだ。

 

 

 

「そ……そんな………」

彼女は見てしまったのだ。

様々なものを。

汚いものを。

醜いものを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………クランガの記憶を。

 

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