【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第016話】追いつかぬ処理、愚策にて勝利(vsダフ)

「出てこい……オニシズクモォ、グソクムシャァ……!」

「ずももッ!」

「しゅるはッ!」

ダフはボールを2つなげると、ガタイの良いむしポケモンを2匹呼び出した。

1匹はオニシズクモ。

東武の水泡を武器にして戦うポケモンだ。

もう1匹はグソクムシャ。

全身を甲冑で覆われた攻守ともに優れるポケモンだ。

 

 

 

 どちらも共通してみずタイプ。

スナヘビもヒバニーも相手にするには不利な敵である。

だがお嬢とて四の五の言っていられないのが事実だ。

なんとしてもマネネを取り返すためには、今ここで戦わなくてはいけない。

 

 

 

「行くわよスナヘビ!『はいよるいちげき』!ヒバニーは『ブレイズキック』!」

「みしゃーーッ!」

「みばばっ!」

両者は目にも留まらぬスピードでオニシズクモに迫る。

ヒバニーは正面からの踵落とし、そしてスナヘビは背後からのヘッドショットでオニシズクモを不意打ちで挟撃する。

 

 

 

 ……が、残念ながら彼らの攻撃はオニシズクモに届くことはない。

間一髪でグソクムシャのさらなる高速攻撃がそれらを妨害したからだ。

グソクムシャの突撃により、スナヘビとヒバニーはそれぞれ壁際まで吹き飛ばされる。

「みしゃっ……!」

「みばっ……!?」

「クククッ……甘ェよ。グソクムシャの不意打ち性能は全ポケモンでもトップクラスだぜェ。」

そう、ダフの言うとおりだ。

グソクムシャが先程出したわざは『であいがしら』。

初撃限定ではあるが目にも留まらぬ速さで高火力の奇襲を仕掛けられる攻撃……『はいよるいちげき』の完全上位互換と言えるわざだ。

お嬢の得意とする奇襲攻撃は、一瞬でさらなる上の技量により打ち砕かれてしまったのだ。

 

 

 

「そ……そんな!?」

「追撃だァ……オニシズクモ、グソクムシャ、『アクアブレイク』ッ!」

「ずもーーッ!」

「しゅるはーーーーッ!」

敵の両名は壁際にてよろめくヒバニーとスナヘビに『アクアブレイク』を仕掛ける。

水をも砕く豪腕のアッパー攻撃が両者を襲う。

「スナヘビ避けて!ひば……」

「遅いッ!」

スナヘビは間一髪のところを高速スニーキングで回避したが、ヒバニーの方には指示が間に合わなかった。

こうかはばつぐん……ダメージは絶大だ。

 

 

 

「みばばっ……!」

だがしかし、ヒバニーとてタダでやられるわけではない。

自ら攻撃を食らう間際にわずかに飛び上がることで、『アクアブレイク』の衝撃をいくらか和らげたのだ。

「ヒバニー!……反撃よ、『ブレイズキック』!」

お嬢は体制を立て直したヒバニーに指示を出す。

ヒバニーは上空に飛び上がると、そのまま踵落としの体制で攻撃直後のグソクムシャの頭部を攻撃する。

「しゅっ……!?」

攻撃は重力に任せたクリティカルヒット。

手痛いダメージを負わせることに成功する。

 

 

 

 しかし……

「みしゃっ……!」

「ス、スナヘビッ!?」

そう、グソクムシャとヒバニーの対応に手一杯になっていたら、今度はオニシズクモとスナヘビのほうが疎かになってしまっていたのだ。

スナヘビはいつの間にかオニシズクモの水泡に拘束され、身動きがとれない状況に陥っている。

「ふへへッ、いいぞォオニシズクモ!『きゅうけつ』だ!」

「ずもももッ!」

しゃぶるようにオニシズクモはスナヘビの首に噛み付く。

スナヘビは徐々に体力を奪われていく。

 

 

 

 お嬢は目の前の戦況に混乱する。

そう、ダブルバトルは2匹以上のポケモンに指示を出し、迫りくる2体の敵を別々に処理しなくてはいけない。

処理をしなくてはいけない情報は普段のシングルの2倍、否、それ以上に増えていく。

特に初心者トレーナーのお嬢にこの情報の処理は最早拷問と言ってもいいレベルだ。

 

 

 

「フハハハハハハ、いやァ、嬢ちゃんにこれはキツかったかなァ?」

「くっ……!ひ、ヒバニー!『エレキボール』ッ!」

「みばばばッ!」

ヒバニーはグソクムシャの背中を踏み台にしてオニシズクモの方へ電光を帯びた弾を蹴り飛ばす。

一瞬怯んだオニシズクモは拘束していたスナヘビを離し、その隙にヒバニーはスナヘビを救出する。

 

 

 

 なんとか体制は立て直したが、既にお嬢側のポケモンの体力はジリ貧だ。

こうなってしまってはほとんどお嬢たちには勝ち目がない。

戦闘経験も相性も、何もかもがダフと大きな差がある。

「………くっ」

「さァて……そろそろ終いにしようやァ。オニシズクモッ、グソクムシャッ、『アクアブレイク』ッ!」

「しゅるるはーーーッ!」

「ずもももッ!」

再びグソクムシャとオニシズクモのダブル・アクアブレイクがスナヘビとヒバニーに襲いかかる。

まさに手詰まり、お嬢の敗北である。

 

 

 

 

 

 ……その時だった。

お嬢は土壇場で苦肉の策を思いつく。

ヒバニーの得意技は蹴り攻撃もといサッカー……しかしここに高い威力を出せるボールはない。

だが『ボールの代わりになるもの』ならある。

お嬢は思いついたその策の非動さに多少の躊躇いを感じたが、この状況に陥ってしまえばとやかく考えている暇はない。

一か八か、全てを賭けてお嬢は最終コンボの指示を飛ばす。

 

 

 

「よしスナヘビ、巻【自主規制】ソ!」

「みしゃッ!」

スナヘビは以前お嬢の手で仕込まれた芸を反射的に行い、世にも美しいほどのとぐろを形成する。

そしてそこに向かってお嬢はさらなる指示を飛ばす。

「行くわよヒバニー……『ブレイズキック』でスナヘビを蹴り飛ばしてッ!」

「みばばーーーーッ!」

「なっ……!?」

丸まったスナヘビはヒバニーの灯した炎を纏うと、そのまま船長室の壁の間をサッカーボールのようにバウンドし始めた。

スナヘビは部屋中を跳ね回り、その軌道をヒバニーが華麗なキックで調整する。

 

 なんという外道じみた作戦だ!?

 

 

 

「落ち着けェ……ひとまずはあのヒバニーさえ止めればこの攻撃は止まる!」

「ずももっ……!」

「しゅるはっ!」

グソクムシャとオニシズクモはヒバニーを捉えようと、『アクアブレイク』によって苛烈な攻撃を加えていく。

「……そこっ、右斜め前にジャンプして後ろにUターン!」

「みばばっ!」

しかしヒバニーはリフティングを交えつつ、それらをアクロバティックに回避していく。

お嬢の繊細な指示も相まって、ヒバニーは攻撃の軌道を華麗に飛び越えるのだ。

 

 

 

「くそッ……精度が格段に増してるじゃねェか……どういう事だ……!?」

ダフの見解の通り、お嬢のトレーナーとしての指示は先程よりもスムーズなものとなっていた。

なぜならヒバニーにしか指示を出していないからだ。

スナヘビの方をボールとして扱うことで、2匹分の戦力を維持しつつ指示先を1匹に絞る。

これがお嬢の最終的な作戦だ。

 

 

 

 もちろんこの作戦はスナヘビに大きな負担がかかる。

この作戦が終わったときには、既にスナヘビは再起不能となるだろう。

しかし敗北寸前の状況に陥ってしまっては後先を考える余裕など無い。

結果的には非情、しかし全てが合理的な戦略だったのだ。

 

 

 

 やがてお嬢は何かを見透かしたようにハッとした表情に変わる。

「……ッ!そこよヒバニー、シュート決めちゃって!」

「みばばーーーーーっ!」

炎を纏ったスナヘビは、ヒバニーのスーパーシュートに寄ってグソクムシャとオニシズクモ両方の急所を貫通する。

更にそこに自身の『ぶんまわす』攻撃の力を加えることでさらなる大ダメージを叩き出した。

 

 灼熱の火珠と化したスナヘビは、己の全身の力を込めて相手を叩きつける。

「ずももももッ!?」

「しゅるはーーーッ!?」

まさかまさかの一発逆転の荒業である。

しかしこの2匹に相性を無視した大ダメージを与えるには十分なものであった。

 

 致命傷を受けたグソクムシャとオニシズクモはその場で倒れ伏し、戦闘不能となってしまった。

 

 

「くっ……思ったよりやるじゃねェ……あ!?」

ダフは自分の手元のショーケースがなくなっていることに気づく。

そう、彼が戦闘に気を取られている隙にお嬢は目的のマネネを取り返すことに成功していたのだ。

そしてお嬢はすぐにボールへ瀕死のスナヘビを戻し、ヒバニーを連れて船長室を後にしたのだった。

 

 

 

 お嬢は部屋を出る際に少しだけ振り向くと、ダフに向かって大きく舌を出し「あかんべー」の動作を見せる。

「あっ……ま、待ちやがれェッ!」

ダフはすぐさまマネネを連れて逃げ出そうとするお嬢の背中を追う。

その時だった。

 

 

 

 大きな爆発音のようなものが轟き、コンテナ船全体が傾いて揺らめき出す。

突然の振動にダフはバランスを崩し、トレンチ嬢を追うことは出来なかった。

「なっ……何が起こっているんだァ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ショーケースを両手で必死にに抱えつつお嬢は船の階段を駆け上がっていく。

 

 頭の上で鳴るサイレンの音が耳についた。

爆発音と振動は何度も続いているが、それでも一刻も早くこの船を逃げ出さなくてはならない。

ふらつく体制を整え、息を切らしながらお嬢はアーマーガアの待つ甲板を目指す。

やがて爆発音が収まると同時に、お嬢は甲板の上に上がることが出来た。

「え……?」

しかしお嬢はそこで見た光景に驚愕することになる。

 

 

 

 なんとあちらこちらにネオンを纏ったヘリコプターやポケモンたちが飛んでおり、甲板の上には警帽を被った多くの男性が立っている。

そしてその警官と思わしき人々の足元には、手錠にて縛られた暴力団の組員達が座り込んでいる。

この状況を飲み込めず、ぽかんとしているお嬢の元へジャックが駆けつける。

「お、お嬢様……!ご無事でしたか!」

「もーーーー!ホンッッット怖かったんだから!」

お嬢はジャックの顔を見ると、張り詰めていた緊張が解けたのか彼の胸を片手でポカポカと叩く。

ジャックは何も言わず、お嬢の頭を撫でた。

 

 

 

 その様子を見ていた警官……いや、それにしてはラフ過ぎる格好の中年の男性が彼らに声をかけて来た。

「がっはっは!そこの青年から話は聞いているよ。いやいや、お嬢様が見つかってよかったじゃあないか。」

中年の男性は腕を組みつつ、豪快に笑い声を上げる。

 

 ゴム製のオーバーオールに赤いTシャツ、2mほどある身長と禿頭が更にその存在の豪快さを際立たせる。

 

 

 唐突に現れた謎の男にお嬢はキョトンとした顔をする。

そこへジャックが間に割り込むようにして彼の紹介を始める。

「……紹介します。こちら、ノロポートのジムリーダー・ボア様です。」

「がっはっは!船を走らせていたら怪しいコンテナ船を見つけてなぁ!海上警察に通報したら盗難船だったからって言うから驚きだよなぁ!」

 

 

 そう、この男こそがノロポートジムリーダーのボア。

 

 彼らと警察が駆けつけたことによって、この盗難船は無事差し押さえられたというわけだ。

……だがお嬢は知らない。

この暴力団の組員はほとんどがジャックとボア2人だけの手によって沈められたということを。

この後お嬢が相手をするこの男が凄まじい強敵であるということを。

 

 

 

 ボアは少しだけジャックに歩み寄り、耳打ちするように伝える。

 

「……ま、ジャックくん。年頃の娘さんのことは大事にしてやれ。放っといたらどっか行っちまうからな。」

どこか悲しそうな顔であった。

 

 

 ジャックはこれまでにあった様々なトラブルを思い返すと、ポリゴン2のように首を縦に激しく振る。

「えぇ、それは勿論。日々痛感しております。」

「……そうか。それなら良いんだが。」

そう言うとボアはそのまま警察に呼ばれて事情聴取を受けるべく、ジャックたちの元を去っていった。

「……私達も戻りましょうか。」

「そうね。なんかもう疲れたわ。」

警察に厄介なことを聞かれる前に、と彼らは甲板後部で待機していたアーマーガアに乗り込むと、そのまま来た道を引き返すようにソロポートへと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーそれからしばらくして。

既に日も昇り始めている早朝、アーマーガアは2人を連れてソロポートの廃工場跡まで戻ってきた。

彼らが到着するやいなや、ヒバニーの群れがリーダーとマネネの安否を心配して駆け寄ってきたのだ。

「みばっ!」

「みばばっ!」

傷だらけになったリーダーとマネネはその場に降りると、ヒバニーの群れたちの熱い歓迎を受ける。

「みばっ……」

「ま、まねねっ……」

その様子に安堵し、遠くからジャックとお嬢はホッと安心のため息をつく。

「……ひとまず彼も群れに帰れてよかったですね。」

「えぇ。起こったことは散々だったけど……この子といるのは楽しかったわ。」

やがてヒバニーたちの歓迎ムードのほとぼりが収まった所で、ジャックとお嬢はマネネを連れてこの廃工場を離れようとする。

 

 

 

 するとその直後であった。

リーダーのヒバニーが駆け足で2人のことを追いかけてきたのだ。

「みばっ!みばばっ!」

「……え?」

ふと後ろを振り返ると、群れのヒバニー達がみな一斉に手を振っている。

「みばーーーっ!」

「みばばっ!」

まるでリーダーを見送っているかのような仕草だ。

リーダーはそこに振り向き親指でグーサインを送る。

 

 

 

「ヒバニー……アンタまさか……」

「みばばっ!」

恐らく彼はこう思ったのだろう。

マネネやスナヘビ、そしてこのトレンチ嬢と一緒にいればもっと面白いサッカーが出来るかもしれないと。

新たな境地を見てみたいと。

「……わかったわ。アタシたちと一緒に来るからには、狙うはてっぺんただ一つよ!」

「まねねっ!」

「みばばっ!」

ヒバニーは快い返事とともに、お嬢の構えたボールの中へと身を投じる。

やがて3回のブザーの後、捕獲完了の通知音が鳴る。

 

 

 

「ふふっ、これからよろしくね!」

そう言うとお嬢は再びヒバニーをボールから呼び出す。

そして鞄の中にあったきんのたまを取り出し、それを靴の爪先に乗せてリフティングを始める。

よろめいて取りこぼしたものをマネネがなんとか拾い上げる。

更にそれをヒバニーが受け取り、まるで3人でキャッチボールをしているような情景だ。

 

 

 

「ふふっ、ジャックも混ざりなさい!楽しいわよ!」

「……えぇ、見てると昔を思い出します。」

「サッカーっていうのも芸がないから……そうね、きんたま蹴りとかどうかしら。」

「聞くだけで痛そうなんでやめて下さい。」

 

 

 

 さて、そんなこんなで新たな仲間を加えた彼らが向かうのは第2のジムがあるノロポート。

果たして彼らを待ち受ける困難とは?

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