【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
「ったくよォ……とんだ災難だぜェ」
昨日の晩、超大型財閥・コートグループの令嬢・トレンチにコテンパンにされたダフは、痛む腰を抑えつつ真っ暗闇に包まれた廊下を進む。
彼はあの後、自分だけ潜水用ポケモンを利用することでなんとか逃げ延びたのであった。
そして『元いた場所』へと身を隠すため、足を運んだ次第というわけだ。
ダフが地下の廊下をゆっくりと歩み続けると、やがて礼拝堂の跡地と思わしき古ぼけた地下室に出る。
そこで彼を迎え入れたのは、様々な容貌の男女数名であった。
「……悪ィ。無様に逃げ帰ることになっちまった。」
ダフが申し訳無さそうにそう述べると、左側の席に寝そべった男が述べる。
「いやいや、無問題ッスよ。『凍雪の秘鍵』の存在が確認できただけでも御の字っしょ。」
そして続けざまに、右側の席にて本を読む女が続ける。
「……『凍雪』があったってことは……もしかしてアイツがやらかした?」
「いやいやそんなワケないっスよ。どうせ狙いがあってのことでしょ!」
そしてそこに、祭壇の脇に立っていた人物が更に割り込む。
「『迅雷』『獄炎』に続いて『凍雪』か。これで3つの場所がわかった事になる。」
「……2つでしょ。『迅雷』と『獄炎』は適合者がいるけど、『凍雪』は今はそれが居ない。」
「えー、そんな焦らなくとも。いざとなったら『凍雪』の持ち主の腹でも掻っ捌けば良いんじゃないッスか?」
4人はその後、しばらく意味のありげな……そして気味の悪い会話を交わす。
「そういえば風の噂だがよォ、昨日俺の乗っていた船に銀髪の元チャンピオンが乗ってたらしいぜ。」
ダフが思い出したかのように口に出す。
3人はそれぞれ別々の反応を示した。
「……今更関係ない。アイツはただの抜け殻に過ぎないもの。」
「でもそいつと一緒にいる鍵の持ち主の方には興味あるっッスね俺は。」
恐らくジャックとトレンチ嬢のことだろう。
女は興味なさげ、男の方はトレンチ嬢の存在に食いついた。
「………」
そして祭壇の人物はしばらく何かを思いつめたような顔で沈黙する。
が、すぐに言葉を切り出して続けた。
「……いや、なんでもない。スエットの言う通り、アイツはもうこの件には関係ない。」
彼らは昨晩ダフが得た情報についてしばらくの吟味をする。
「……わかった。ダフ、お前は地方中の組員を総動員して『凍雪』を監視しておけ。何か変化があればすぐに報告だ。」
「マジかよォ……『迅雷』の方も請け負ってるのにか?」
「アイツはまぁ、あの女さえいれば大丈夫だろう。今は『凍雪』の監視と適合者の発見を最優先にしろ。」
ダフは不服を述べつつも、礼拝堂跡地を後にして残った部下の組員達に指示を出しに向かう。
残りの男と女も別の用を思い出したのか、この礼拝堂から次々と消えていく。
最後に残った祭壇の人物のみが壁にもたれかかり、天井を見上げて独り言をつぶやく。
「………ジャック……なぜお前が?」
ーーーーーさて、盗難船上での乱闘から二夜明けて。
ジャックとトレンチ嬢一行は今度こそノロポートの街を訪れていた。
この街に訪れた目的はそう、当然ジムチャレンジだ。
昨晩、偶然にも船の上で会合した男・ボアが待ち構えている。
連日連戦で強敵が押し寄せてくるが、それでもそこに打ち勝たなくては一人前のトレーナーとは言えない。
ではそんな強敵とのバトルを2時間後に控えたお嬢は何をしていたかと言うとだ……
「ねぇ見てみてジャック!これ凄いわよ!」
「まねね!」
そう、水族館を満喫していた。
ここノロポートにある水族館はイジョウナ地方最大の水族館であり、その隣にはジムが併設されている。
おまけに未成年は入場無料という太っ腹さだったため、お嬢はジム戦の前にとこの水族館に足を運んだのだ。
「特にこれ!ホエルオーのフンの標本!凄く大きいわ!」
「まねねー!」
お嬢たちは目を輝かせつつ、水族館の標本コーナーの様々な展示物を指差して興奮する。
「いや……あのお嬢様……ジム戦……」
「がっはっは!いやいや、その好奇心!実に結構!」
ジャックが心配そうに声をかけようとしたが、その声は真後ろに居た中年男性の大きな笑い声で見事にかき消された。
彼はこのノロポートのジムリーダー・ボア。
なんと水族館の飼育員を兼任していると言うのだから驚きだ。
「ちなみにホエルオーのフンは香料になるから、ものすごい高値で取引されるんだぞ!」
「え、そうなの!?」
ボアは久々の反応が良いお客にテンションが上がり、早口で解説を始める。
お嬢もお嬢で、飼育員の話に食いついて熱心に話を聞く。
スモック博士の解説を投げ出したお嬢にここまでの興味をもたせることが出来るあたり、流石は本職といった所だろう。
こうなってしまうと最早完全に2人の世界、といった感じだ。
外野に置かれたジャックは気を揉まれていた。
それはお嬢がこんな状態で勝てるのかという心配……とはまた別に。
ジャックの表情は誰の目から見てもわかるほど険しく歪む。
「よ、ジャックくん。」
「……!?」
そんな張り詰めたジャックの肩を叩いたのは、解説を一通り終えたボアであった。
不意を突かれたジャックはゆっくりと振り返る。
「ボア様!?」
「なんだ、随分と悩んでるようじゃないか。」
「……まぁ、このジムの仕掛けを知らないわけじゃないですからね。」
ジャックは答える。
彼は一応この地方にあるジムについての情報はある程度事前に調査してある。
……それ故に知っているのだ。
このジムの恐ろしさを。
「どうする?今ならまだチャレンジの取り下げはできるぜ?」
「……まさか。お嬢様にとっても恐らく必要な経験ですし。」
ジャックは引きつった顔から一点し、そう答えた。
「ほう……お前さん、見かけほど過保護じゃねぇみたいだな。」
「……まぁ私はただの使用人ですし。」
ボアは感心した顔になり、ジャックの背中を数度叩くとどこかへと足早に去っていった。
その後ジャックが腕時計に目をやると、既にジム戦は開始30分前に迫っていたことを知る。
楽しい時間は名残惜しいが、今はそれ以外にもやることがある。
ジャックとお嬢は水族館を後にし、隣に併設されているジムへと急ぐ。
ーーーーー「STAFF ONLY」と書かれた扉を抜けると、そこにはタイル張りの狭い部屋があった。
この部屋こそがこのジムのスタジアム、実際に戦うバトルフィールドとなる。
一応所々にアクリル板が設置されており、部屋の外側からも観戦をすることが出来るが、やはり密室であることには変わりないだろう。
お嬢は審判の案内のもと、この狭苦しい部屋にボアと共に通される。
「お嬢ちゃん……否、チャレンジャー・トレンチ。ルールの確認だ。3on3のシングルバトル。先に手持ちポケモンが全員ダウンした方の負けだ。良いな?」
「えぇ、わかったわ。」
お嬢が頷くと、ボアは更に続ける。
「んでこっから先はこのジムの特別ルールだ。」
すると次の瞬間、部屋の分厚い扉の鍵が外側からガチャリと閉められる。
そして壁に設置されていた数個のホースから、一斉に大量の水が吹き出し始めたのだ。
「え……!?ちょ、ちょっと……」
「まね!?」
お嬢らは焦る。
床にゆっくりとたまり始める水が彼女の靴を濡らし、その焦燥を更に加速させる。
「……この部屋は徐々に水で満たされていく。どちらかのトレーナーがギブアップのサインを出したら、残りポケモンの数に関わらずサインを出した側の負けだ。」
「なっ……!?」
そう、これこそがこのジムの真骨頂だ。
つまり、この勝負は部屋が水で満たされるまでの時間内に決着を付けなくてはいけない。
お嬢の体力・肺活量が成人男性であるボアに勝てるわけが無いので、言うまでもなくこの条件はお嬢側に大きく不利に傾くものとなる。
「ちょっと、こんなのありなの!?」
「……水というのは怖いもんだ。どこにでもあり、それでいて簡単に人の命を奪える凶器でもある。だがしかし、その怖さを感じて尚平常心を保てる心がなくては、一人前のトレーナーとは言えねぇ。」
ボアは持論を展開し、焦るお嬢を他所に不敵な笑みを浮かべる。
「……それじゃあ始めるぜ。トレンチ、お前は一流か、はたまたそうじゃないのか、見せてくれや。」
「……当然、アタシは一流のトレーナーになる女よ!どんな状況でも勝ってやるんだから!」
だが、お嬢の精神はこんな状況でもなお折れない。
敵前逃亡は彼女のプライドが許さないのだ。
お嬢は頭のベレー帽をより深くかぶる。
やがて水が床の赤いラインに触れると、審判がフラッグを振り上げる。
「それでは、バトル開始ーーーーーッ!」