【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第002話】頼れる相棒、懐かしい悪寒

「ねーーーぇーーージャーーックーーーー!」

「………駄目です。」

イジョウナ地方へと向かう一般道路にてへたり込むのは、超大手財閥の社長令嬢・トレンチ。

まさか丸一日規模の徒歩で向かうのだとは思っても見なかったらしく、ついに足の限界が来てしまったようだ。

道端にしゃがみ込み、駄々をこね始める。

「ねぇおーーーんぶーーーー!」

「駄目です。普通のトレーナーはそのようなことは申しません。」

付き人の青年、ジャックはあくまでも冷淡に彼女を突き放す。

そう、彼はあくまでもお嬢の後ろを歩む影に過ぎない。

旅に出た際も『私のことは居ないものだと思ってください』と再三伝えているのだ。

 

 

 

 しかしまぁ、普段はヘリかリムジンでしか移動をしたことがないような箱入り娘がいきなり長距離の旅を始めてしまえばこうなるのも自明といえば自明なのだ。

「……だからあれほど動きやすい服装を着て下さいと申したじゃないですか。」

「えーー、なんかアレ落ち着かないし……」

ジャックもトレンチ嬢向けにお手頃価格の軽装一式を誂えていたのだが、本人は見慣れぬ服装を気に入らなかったのだ。

結果的にいつもの白ブラウスと黒ロングスカートのスタイルで来たわけだが、まぁ当然これを着ながらの長距離の移動は骨が折れるというものだ。

 

 

 

 ジャックは腕時計を睨みながら、路上に座り込むトレンチ嬢と交互に目線を動かす。

目的地は、新米トレーナー向けの研究所があるとされているカナシバタウン。

そこで所謂「最初のポケモン」をもらうため、徒歩で向かっているのである。

が、研究所との約束の時間はもう2時間は過ぎている。

その上お嬢はこの有様だ。

既に日も暮れ始めており、このままでは街どころか今日泊まる場所の確保すら危ういのである。

だがこれはあくまでもトレンチ嬢の旅。

彼女がどんなトラブルに見舞われようが、全ては本人の責任である。

そう思ってジャックは心を鬼にする。

そう、何があっても手を貸してはいけないのだ。

 

 

 

 と、考えていた矢先。

先程までへばっていたトレンチ嬢が唐突に明るい声を上げる。

「ねぇねぇジャック、見てこれ!」

「……いかがされました?」

ジャックは悪い予感とともにお嬢の元へと近づく。

「これ!ポケモンのフン!凄く大きいわ!!」

そう言いながらそこらへんに落ちていた枝で道路脇のフンを突き回す。

由緒ある家の令嬢が道端のフンを突いているなど、とてもじゃないが世間様に見せられるものではない。

 

 

 

 流石にこの光景を見かねたジャックは凄まじく渋い顔を浮かべ、眉間を指で押さえる。

いや、この手のことにお嬢が反応してしまうのは予め彼だって分かっていたことだ。

だが彼は考えた。

このままこのお嬢を放置したら大変なことになりかねない、と。

心の中の鬼までもが警鐘を鳴らす。

多少の介入は本人及び家の尊厳を守るためにやむなしかもしれない、と。

 

 

 

「……今回だけですよ、お嬢。」

そしてジャックはボールを投げ、自身のポケモンを呼び出す。

中から飛び出てきたのは、強固な漆黒の鎧に身を包んだ鳥型のポケモン、アーマーガアだ。

「グアアアッ!」

「わぁっ!ねぇ何これ何これ!ボールからポケモンが出てきたわ!」

「『モンスターボール』です。……これ去年あたりに教えましたよね?」

「……そうだったかしら?」

トレンチ嬢はぽかんとした顔をする。

彼女はその場限りの勉強は得意だったためよく頭が良いと勘違いをされていたが、長期的な記憶はてんで駄目なのである。

所謂「一夜漬けだけは得意なタイプ」と言うやつだ。

 

 

 

「……ひとまず今日は空を飛んでカナシバタウンに行きましょう。」

「え!?ポケモンに乗って飛べるの!?素敵じゃない、もう徒歩は辞めてアーマーガアに乗って旅をしましょう!」

お嬢は先程までのへたり方がウソであるかのように輝かしい目で言う。

「駄目です。空が飛びたければ自分でポケモンを捕まえて下さい。」

「えー……ケチ!オニ!うんk」

「罵倒をするのであればもう少し学と品性を身に着けていただきましょうか。」

少しジャックが放るだけですぐこれである。

一体いつどんな失言が飛び出すかわかったもんじゃない。

ジャックはお嬢の口を封じつつ、既に過ぎた約束の時間を守るためにアーマーガアに風を切らせることにした。

 

 

 

 ーーーーーそれから約10分と経たずして、アーマーガアに乗った一行はカナシバタウンに到着した。

山に囲まれた田舎町、といった感じである。

しかし寂れた商店街や住宅地がポツポツと並んでいるため、辺境の地というわけではない。

幸いまだ夏の季節であるため、日は落ちきっていない。

しかし既にむしポケモンの鳴き声が聞こえ始めており、街中の人通りが少なくなってきていることは確かだ。

その物悲しさを、点滅する電灯が物悲しく照らす。

遠くに映る研究所と思しきドーム状の建物は一応明かりがついてはいるが、明らかに一般人の立ち入りができる時間では無いことは確かだ。

 

 

 

「……これどうしましょう。」

「ねぇあの建物!きっとあそこが研究所よ!早速行きましょう!!」

「え、ちょ……」

このお嬢の意識下に門限の概念はない。

自らの足で他の家に赴いたことなどないため、「遅い時間に人の家の門をたたくのが失礼」という常識も存在しないのである。

「頼もーーーーーう!」

お嬢は研究所の開閉式の扉を、音が出るほど強く開く。

というより最早「蹴破る」とでも言ったほうがいいかもしれない。

 

 

 

「…………え?」

そこにはコーヒーを飲みながらポカンとした顔を浮かべる中年の男性がいた。

白髪混じりの七三分けの彼は、あまりに突然にやってきた少女に理解が追いついていなかった。

おまけに彼女は正面玄関ではなく裏口から給湯室経由でやってきたのだから。

「ごきげんよう!早速だけど私のポケモンはいるかしら?」

「え…………っと…………」

困惑する男性は手元の携帯にゆっくりと手を伸ばし、1・1・0と番号をプッシュする。

 

 

 

 すると間もなく、その間に見るも華麗なスライディングでジャックが乱入した。

「大ッッッッッッッッ変申し訳ありませんッ!うちのバカもとい大バカが勝手なことをしましたッ!!通報だけはどうかご容赦をッ!!!」

ジャックは完璧な45度の傾斜で頭を下げ、男性に謝意を述べた。

 

 

 

 やがて男性はハッと気づいたように言葉を述べる。

「………あ、もしかして君がトレンチちゃんかな?」

「えぇ、いかにも!私が今日からポケモントレーダーになるトレンチ・コートよ!!」

お嬢は両手を腰に当て、堂々としたドヤ顔で自己紹介をする。

「………『トレーダー』ではなく『トレーナー』です、お嬢様。」

「ハハ……とても元気がいいんだね。………ところで、随分と遅くなったみたいだけど、何かあったのかな。」

 

 

 

 今までにあったことを、お嬢が喋りだすより先にジャックが述べる。

転ばぬ先の杖……所謂、失言キャンセラーだ。

「………なるほどねぇ。じゃあ取り敢えず、僕の研究室に来てくれるかな?」

男性の案内のもと、2人は研究室へと通された。

男性は外見通り几帳面な性格のようで、紙面の資料や研究機材が整理整頓されている。

そのため、小さな個室が実際より広く感じられるのである。

 

 

 

「名乗るのが遅れたね。僕はスモック。みんなから『ポケモンはかせ』と呼ばれている。」

「あら、スモックおじ様はポケモンの事なら何でも知ってらっしゃるのかしら?」

「ハハ……『何でも』とは行かないけどね。」

スモック博士は苦笑いをしながら応える。

「この世界にはポケモンという生き物が至るところに住んでいる。んで、そんなポケモンを捕まえて仲間にし、共に戦いトレーナーの頂点を目指す。それが君たちポケモントレーナーの目標となるわけだ。」

「頂点?」

博士は立ち上がると、部屋の隅からホワイトボードとイジョウナ地方のマップを取り出してくる。

「……この地方では各町に『ポケモンジム』と呼ばれる施設がある。ここにいる凄腕のトレーナーを合計5人以上倒すことがひとつめの目的だ。」

そう言いつつ、ジムの存在する街にいくつかマグネットを置いていく。

 

 

 

「倒す?私、喧嘩はしたことないのだけど?」

「お嬢様、戦うのはポケモンです。」

「ハハ……どのみち彼らは凄腕のトレーナーだ。倒すのには一苦労するから頑張ってね。」

その後、最後にとびきり大きなマグネットを地図の北部へと貼る。

「……んで、最後。ここが年イチで開催されるポケモンリーグだ。ここで優秀な成績を収めれば晴れて一人前のトレーナーってことになるね。」

「なるほど……要は立ち向かってくるトレーナーを全員ぶちのめせばいいってことね!」

お嬢は要点だけをかいつまんで雑にまとめる。

「……そ、そういうことだね。」

博士は苦笑いをし、ジャックは後ろで眉間に指を当てている。

 

 

 

ーーーーーその後、博士からポケモントレーナーとしての基礎知識についての伝達があった。

まぁ、恐らくこれを読んでいる読者諸兄は既に知っていることだろう。

スモック博士の丁寧なポケモン講座が簡易的に開かれていたのだ。

ジャックは既に知っていた知識とは言え、ポケモンのプロが語る魅力的な語りに引き込まれてしまったのだ。

だが、30分ほどしてスモック博士とジャックは違和感に気づく。

「……そういえばトレンチちゃんは?」

「……あっ!」

そう、彼女の座っていた回転椅子には誰ひとり座っていなかったのである。

飽き性のお嬢は、博士とジャックが話にのめり込んでいる最中にどこかへと行ってしまったようだ。

 

 

 

 ジャックは急いで部屋を駆け出し、研究所の各地を探し回る。

「お嬢様ッ……どこですかーーーッ!!!」

あのトラブルメイカーを放っておいたら何をしでかすか分かったもんじゃない。

とんでもない事故を起こす前に見つけ出さねばならないのだ。

ジャックは階段を飛ぶように降りてゆき、数多くの部屋の扉を次々に開ける。

「関係者以外立入禁止」と書かれたものを飛ばしつつ、会議室や応接室を隅々まで見て回る。

 

 

 

 最後に、1階の最も奥にある非常用倉庫の扉を開けた。

そこにあった光景に、彼は思わず目を疑う。

そこに居たのは床に座り込むトレンチ嬢と、対峙する小さなポケモンであった。

 

 

 

 ピンク色の身体に青い帽子……このポケモンはそう、マネネだ。

見るものを何もかも真似てしまうという生態を持つ。

「そうよ!次はこう!」

お嬢はとびきりの顔芸をマネネに見せつける。

にらめっこであれば圧勝間違いなし、という程の形相だ。

「まーーねねーー!」

マネネもそれに負けじと、お嬢の顔を真似る。

その顔に堪えきれなくなったお嬢は、腹を抱えて転げ回る。

それに応じるようにマネネも床を転げ回る動作を始める。

 

 

 

「プッ……ふふふふふ!いいじゃない!アナタ最高よ!!」

「まねねねーー!」

その様子を呆然と見ていたジャックは、一つ咳払いをしてから声を発する。

「……あの、お嬢様。博士のお話は……」

「あらジャック!見てこの子!さっき仲良くなったの!」

「まのー。」

相変わらずお嬢はジャックの話を聞こうともしない。

そしてマネネを抱きかかえ、ジャックに自慢気に見せつける。

 

 

 

「………!」

ジャックは思わず後ろへ下がってしまう。

一瞬、本当に一瞬だが、背筋が凍る感覚がしたのだ。

まるで見てはいけないものを見てしまったかのような……それでいて身に覚えがあるような……。

そんな「懐かしい悪寒」とでも呼ぶべき感覚に襲われていた。

 

 

 

「どうしたのジャック?大丈夫よ、この子は噛み付いたりしないわ!」

「……ッ!失礼。」

ジャックは乱れた息を整え、咳払いの後に続けた。

「と、とにかく研究室に戻りましょう。」

 

 

 

 しばらくして、ジャックの後ろからスモック博士が現れる。

「おやおや……こんなところに居たんだね。」

「あ、スモックおじ様!」

「ハッ……申し訳ありません!今すぐ戻ります!」

ジャックは頭を下げ、お嬢からマネネを取り上げようとする。

しかし博士は笑いながら、やんわりとそれを止めた。

「ハハハ、大丈夫です。多分マネネも食べ物を漁りに来ていたところだったんでしょう。ちょうどトレンチちゃんが止めてくれて助かりました。」

こうして3人と1匹は非常用倉庫を後にする。

 

 

 

「そうだスモックおじ様!私、最初のポケモンはこの子がいいわ!」

「まねねーー!」

そう言ってトレンチ嬢はマネネを差し出す。

「………。」

スモック博士はそれを見ると、少しだけ……いや、かなり渋い顔をした。

 

 

 

「お嬢様、その子は恐らくこの研究所のポケモンです。もらえるポケモンは別に居ますからそちらに……」

「えー、私この子じゃなきゃ嫌よ!」

「まねー!」

ジャックがお嬢を説得しようと試みるが、お嬢とマネネは揃って口をふくらませるだけであった。

 

 

 

 やがてしばらくの沈黙が流れたが、熟考の末に博士が口を開いた。

「……じゃあトレンチちゃん。一つだけ質問だ。」

それだけ言うと、にこやかだったスモック博士は急に真面目な険しい顔になる。

「……キミは、何があってもこの子と一緒にいられるかい?」

「………?」

トレンチ嬢は対照的に、何を言っているのかわからない……といった顔でぽかんと口を開ける。

その言葉はあまりに抽象的で、スケールが大きすぎた。

 

 

 

 だが彼女がそのようなことを悩むはずがない。

……悩むほどの頭がないだけかもしれないが。

「えぇ。もちろん!こんな素敵なこと旅ができるのなら何も心配いらないわ!」

「まねねー!」

「……そうか。ならこの子を連れて行くといい。君たちならきっといい旅を出来るさ。」

 

 

 

 やがて、お嬢の熱意に折れたスモック博士は、ため息とともに最初のにこやかな表情に戻る。

そしてマネネをトレンチ嬢に預けることを決めたのだった。

「……!ありがとう、スモックおじ様!」

「まねねー!」

 

 

 

 

 

ーーーーーその後、「ポケモン図鑑」や「モンスターボール」などのトレーナーとしての基本備品一式を受け取った彼女らは、研究所を後にする。

周辺はすっかり暗くなっており、淡い月明かりと電灯が路面を照らすのみであった。

「それじゃあ気をつけて。」

「えぇ!おじ様もお元気で!」

「まねねーー!」

 

 

 

 研究室を出てから数歩歩いたあたりで、スモック博士はジャックを呼び止める。

「……ところで、ジャックさんでしたっけ?」

「はい?私でしょうか。」

振り返った彼は、唐突な声掛けに首を傾げる。

「アナタ……どこかでお会いしましたっけ?見たことがあるような、ないような……」

その質問を聞いたジャックは、少しだけ不機嫌そうな顔になる。

しばらくの沈黙の後、彼は答えた。

「……いや、知らないですね。」

「……そうですか。いやいや、呼び止めてごめんなさいね。」

 

 

 

 そう一言だけ最後に交わし、お嬢とジャックは研究所から遠ざかっていった。

「……ところでお嬢様、そのマネネと短時間でそこまで仲良くなるとは。」

「えぇ、この子とってもいい子なのよ!」

「まねねーー!」

彼女らは明るく笑って答える。

ジャックもまた、トレンチ嬢の中にトレーナーとしての意外な素質の存在を見出し、少しだけ喜びを感じていた。

もしかしたら、彼女は彼が想像するよりも凄いトレーナーになれるのかもしれない。

「特にこの頭!!この形、まさにうんk」

「そうですね、素敵な帽子だと思います。」

 

 

 

 ……なれる……のか?

 

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