【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第021話】汲み取れない意図、遮られる視界(vsボア)

「みしゃーーーり!」

突如光りだしたスナヘビは大きく姿を変えた。

体長は長く伸び、鼻孔も広がり、首元には肥大化してマフラーのようになった砂嚢がついた。

そう、この現象は所謂「進化」……スナヘビはサダイジャという別のポケモンに進化したのである。

 

 

 

「こ……このタイミングで進化だとッ!?」

「しゅびっ……!?」

追い詰めたと思った所でまさかの展開を迎え、ボアとカマスジョーは驚きを隠せずにいた。

「みしゃーーり!」

「っ……ごぼっ……」

お嬢は言葉こそ発さないものの、初めて目にする現象に大きな興奮を覚えていた。

勿論、サダイジャに進化したからと言って水泳能力が身につくわけではないし、カマスジョーに対して大幅な不利であることに変わりはない。

だが首周りに浮き輪の役割を果たせる大きな砂嚢が付いたことで、スナヘビのときよりも幾分か状況が改善されたこともまた確かだ。

もしかしたら、もしかしたらこの変化が勝負の展開に影響を及ぼすかもしれない。

 

 

 

 お嬢はすぐに『一【自主規制】ソ』のハンドサインを送り、それを確認したサダイジャはとぐろを開放し直線形態となる。

「みっ……」

そう、これは『はいよるいちげき』を繰り出すための構えだ。

だが相手は既に1度『はいよるいちげき』を喰らっている。

同じ手に引っかかる可能性は劇的に低い。

事実ボアもそれを見抜いており、奇襲の前の先制攻撃をすぐに仕掛けてくる。

「させるかよ……『スケイルショット』だ!」

「しゅびびーーーっ!」

カマスジョーは自身の出せるわざの中でも最も速度の出る『スケイルショット』を繰り出す。

 

 

 

 しかしそこが読み違いであった。

サダイジャはここに来て新たな手札を手に入れていたのだ。

正面から飛んできた鱗の弾丸に気づいたサダイジャは、自身の正面に岩を集結させてシールドを展開する。

鱗は全て岩のシールドに弾かれて霧散する。

「ウソだろ……『はいよるいちげき』じゃねぇのか!?」

 

 

 

 フィールドの外に居たジャックは今のわざの正体を見抜く。

「……『がんせきふうじ』ですか。まさか防御に活かすとは。」

そう、これはサダイジャが新たに取得したわざ『がんせきふうじ』だ。

本来ならば相手の頭上や足元に岩を落として機動力を奪うわざだが、サダイジャはこれを自身の周囲に使用することでシールドとして転用したのだ。

攻勢の構えから繰り出される防御……サダイジャに奇襲以外の選択肢が増えた瞬間であった。

 

 

 

 そしてそれと同時に、お嬢はとっさの策を思いつく。

というよりも、溺死の危機を感じ取ったお嬢の生命的な本能がそうさせたのかもしれない。

お嬢は腕を自身の内側に寄せ、サダイジャに指示をよこす。

「みっ……!?」

しかしサダイジャはその意図を読み取れず、疑問符を浮かべて困惑する。

それもそうだ。

そんな曲芸は教えられていないからだ。

初見のハンドサインで意図を理解することはどんなポケモンであれ難しい。

 

 

 

 その困惑の隙へ、カマスジョーは畳み掛けてくる。

「余所見とは余裕だなッ……『アクアブレイク』だッ!」

「しゅびびーーーっ!」

カマスジョーの尻尾の一撃が、水面下部からサダイジャの腹部を突き上げる。

「みしゃ……!?」

サダイジャはとっさに『がんせきふうじ』によるシールドを展開しようとするがその試みは失敗する。

 

 

 

「……『がんせきふうじ』は自身より前方の場所にしか展開できません。つまり水中の正面以外から攻撃を仕掛けられれば防御はできない!」

ジャックの言う通り、『がんせきふうじ』はあくまでも非接触の攻撃である以上、自身の視界の外で展開することはほぼ不可能に近い。

それを見抜かれてしまえばサダイジャはカマスジョーにとって無防備な獲物に逆戻りなのだ。

「勝負に出るぞカマスジョー!『アクアブレイク』でトドメを刺せッ!」

「しゅびびーーーーっ!!」

今度は後方から、カマスジョーは『アクアブレイク』を繰り出してくる。

この方角から来られた場合、当然だが『がんせきふうじ』による防御は不可能だ。

 

 

 

「ん……んーーーーーッ!」

お嬢は必死にサダイジャに対して手招きをするが、それでもその意図はサダイジャに伝わることはない。

「みっ……みしゃり!?」

指示の意味を理解しようと思考し続けるサダイジャだったが、それらは全て不可能に終わる。

ただでさえ水中で酸素が不足している状況での思考は、陸棲のサダイジャには至難の業だったのだ。

 

 

 

 サダイジャは苦肉の策として、自身の身体を瞬間的にカマスジョーへ巻きつける。

こうして全身でわざを受けることで、することで『アクアブレイク』の衝撃を緩和したのだ。

サダイジャのホールディングにより、カマスジョーは縛り上げられた形になる。

本来であればこの体勢はサダイジャ側が一方的に有利なはずのものだ。

しかし此処は水中で、相手はカマスジョーである。

「振りほどけカマスジョー!」

「しゅびびび!」

カマスジョーはスクリュー状の尾ひれをフル回転し、狭い水槽の中を縦横無尽に泳ぎ回る。

身を捩らせたり壁に体当たりを仕掛けたり、なんとしてもサダイジャの拘束を振りほどこうと暴れるのだ。

そこへサダイジャは負けじと必死にしがみつく。

「しゅび……!」

「みしゃ……!」

両者決して引かぬ必死の攻防である。

 

 

 

 その最中にも、お嬢はサダイジャへ必死に指示を出している。

手を変え品を変え、様々な動作を試す。

しかしサダイジャにとっては最早お嬢を視界に捉えることすら難しい。

加えてカマスジョーとの取っ組み合いが長期化するにつれ、酸欠がひどくなってくる。

こうなってしまうともうサダイジャに意図する指示を送ることは難しいだろう。

 

 

 

 ……と思われたその時だった。

お嬢と同じく溺れかけていたサダイジャは、類似した状況に立ってようやくその意図に気づいた。

更に言えばもがくお嬢の足が目に入ったことで、奇跡的に正解が導き出されたと言うべきだろうか。

 

 

 

 サダイジャはカマスジョーを拘束しつつ、可能な限り『がんせきふうじ』を撃ち続ける。

しかし当然だが、カマスジョーを巻きつけている体勢では岩の攻撃は相手には当たらない。

それどころか……

「ばっ……何をしてやがるッ!?」

「そんな……正気ですか!?」

そう、なんとサダイジャの撃った岩は全てお嬢の方へと当たっているのだ。

「ッ……!」

お嬢はなんとか藻掻きながら受け身を取るが、当然タダでは済まない。

滅多打ちにしてもあまりにもコントロール制度が悪い。

自身のトレーナーを傷つけにかかるなど前代未聞の事態である。

 

 

 

 ……しかしお嬢は笑っていた。

そう、まさに『計画通り』といった感じの不敵な笑みだ。

この状況は全て、お嬢の望む通りのものだったのだ。

 

 

 

 お嬢の方へと飛んできた岩はやがて水底に堆積していく。

岩が積み上がっていくことに寄って、お嬢の足元だけ底から水面までの距離が縮む……つまりは足場となる。

つまり何が言いたいか、もうお分かりだろう。

先程まで溺れかけていたお嬢は足場を手に入れ、空気を手に入れ、すなわちそれは言葉を手に入れたのだ。

「ぷはっ………はぁっ……はぁっ……!」

息を切らしつつ、更には『がんせきふうじ』を受けて傷だらけになりつつも、お嬢は強かに水中の岩山の頂に立つ。

「はぁっ……完璧よ、サダイジャ!」

まさかの作戦に、その場に居た誰もが驚愕したことは言うまでもない。

 

 

 

 だが時は一分一秒を争う。

サダイジャがカマスジョーを抑えていられるのも時間の問題だろう。

そろそろ勝負に出ないとジリ貧で負けてしまう。

お嬢はサダイジャ達が岩山の足元付近に来たあたりですぐさま指示を飛ばす。

「サダイジャ!そこで『ぶんまわず』攻撃よッ!」

「みっ……しゃーーーり!」

サダイジャはすぐにその身を大きく一回転し、カマスジョーを開放すると素早く水面へ上昇する。

 

 

 

 そしてそこへお嬢は手を伸ばし、すかさず次の指示を出す。

「ここに来て、サダイジャ!」

「みしゃりっ!」

サダイジャはカマスジョーが怯んだ一瞬のうちに水面に浮上して息を吸うと、すぐにお嬢の差し出した腕に巻き付く。

これはいわば足場の確保だ。

お嬢はサダイジャの巻き付いた腕を前方に差し出し、カマスジョーへ狙いを向ける。

 

 

 

 しかしボアにはそれが何か分かっていた。

「へっ……その作戦ならさっきもやっただろ?」

そう、これはお嬢の腕を起点にして『はいよるいちげき』のジェット噴射を行うという攻撃手段だ。

一度これを見たボアには全てお見通しだったのである。

しかしそれには構わずお嬢とサダイジャは攻撃を装填する。

「行くわよサダイジャ、『はいよるいちげき』ッ!」

「みしゃーーーーり!」

 

 

 

 だが結果から言えばボア予想はやや外れだ。

狙ったのはカマスジョーではない。

そう……

 

 

 

 なんと真下の足場だ。

サダイジャは水面真下の積み上がった岩に対してジェット噴射で突撃したのだ。

「なっ……!?」

「バカ野郎っ……そんなことしたら……!」

そう、岩は粉々に砕け散り、更には今の攻撃で発生した水流でフィールドのあちらこちらに散乱する。

「しゅ……しゅび!?」

発生した砂粒のせいで視界は凄まじく悪くなり、カマスジョーは困惑する。

 

 

 

 当然、足場を失ったお嬢は再び水没するが、そんなことは彼女は最早構っていない。

すぐに腕を大きく伸ばすハンドサインを送り、攻撃の指示を行う。

そう、「一【自主規制】ソ」の構えだ。

そしてこの構えから繰り出される攻撃はただ一つ。

 

 

 

 視界が最悪な中から繰り出される最大火力の奇襲攻撃……『はいよるいちげき』である。

サダイジャは大粒の岩を蹴り飛ばすと、カマスジョーの真上に瞬間的に現れてヘッドショットを炸裂させる。

「しゅびっ……!」

予想外の攻撃の上、状況が最悪な中でカマスジョーは大ダメージを受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 そして遂にカマスジョーはパタリと動かなくなった。

そして数秒後に審判のジャッジが下される。

カマスジョーは戦闘不能だ。

これにてトレンチ嬢の勝利が確定した。

 

 

 

 勝負の決着が尽くと同時にスタジアムの扉が開かれ、大量の泥水が室外へと流れ出る。

それに流されるようにお嬢とサダイジャとマネネは放り出され、それを駆けつけたジャックが受け止めた。

「お……お嬢様!?しっかりしてください!?」

「み……みしゃ……」

「まね……!」

ジャックらはお嬢へ心配そうに声をかける。

 

 

 

 だが彼女は無事で、命に別条はないようだ。

お嬢は軽く水を吐き出すと、すぐに立ち上がってグーサインを出す。

「や……やったわよジャック!アタシたち、勝ったわ!」

「えぇ……見ていましたとも。」

ジャックはお嬢の無事を喜び、また逆転勝利を祝福した。

 

 

 

 そしてそこへ、向かいの扉から出てきたボアが豪快な笑い声とともに歩み寄ってくる。

「がっはっは!いやぁ凄いもん見せてもらったぜ。まさかあの状況でも勝利をもぎ取るとは……凄まじいガッツだったぜ!」

「もう!ホントに怖かったんだから!」

お嬢は頬を膨らませつつも、ボアと握手を交わす。

その言葉を聞いたボアはハッとしたような顔をする。

「……あら?どうしたのかしら。」

「『怖い』……か。いいな、100点満点の解答だ。」

「100点?」

 

 

 

 ボアは手を解き、自身のポケットに入っていたケータイを見せる。

そこに居たのはトレンチお嬢と同い年くらいの活発そうな女の子だ。

ボアによく似ており、お嬢はすぐにそれが彼の娘であるということに気づいた。

「この子は何物も恐れねぇくらい勇敢な娘だった。ある日、海にでっかいポケモンを捕まえに行くって言って出ていって……それっきりだ。」

「そんな……」

「……っと、悪ぃ。しんみりさせちまったな。まぁ、とにかく……水ってのは怖いもんだ。その『恐怖』を身を持って理解し、その上でお前は俺に勝利した。」

ボアがそう言ってケータイをしまうと、審判の持ってきたバッジをお嬢に贈呈する。

 

 

 

「ほれ、ラメイルバッジだ。誇れトレンチ、俺に勝てるトレーナーはそうそう居ねぇぞ。」

「……えぇ、楽しい勝負をありがとう!」

お嬢は贈呈された青色のバッジを、五芒星ブローチの右上に嵌める。

これにて、お嬢は2つ目のバッジをゲットしたのである。

 

 

 

「やりましたね、お嬢様!ホント一時はどうなることかと……」

「もう、ジャックは心配し過ぎなのよ。アタシはトレーナーの頂点に立つ女よ!次からはもっとどっしり構えて観戦してなさいな。」

彼らは互いに勝利を喜びあった。

まだ旅立ちから1週間弱しか経過していないのに、この短時間でお嬢は凄まじい成長を見せている。

ジャックはその事に喜びつつ、どこかで恐ろしく思っていた。

 

 

 

 その時だった。

「………!?」

ジャックは自身の背後に視線を感じて振り向いた。

しかしそこには誰も居ない。

「……?どうしたの?」

「何かあったか?」

誰かに見られていたような気がしたが、ボアとお嬢は一切気づいていない。

ジャックは気のせいと割り切ることにした。

 

 

 

 とにかく、残すジムバッジはあと3つ。

お嬢の挑戦はここからが佳境だ。

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