【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第022話】ジャックの休暇、利己と他己

 ボアとの激しい戦いから一夜明けた。

一応の確認、ということでお嬢はあの後医者にかかったが全くと言っていいほど健康的に問題がなかった。

寧ろ、祝勝会と称してジャックの財布で街のシーフードレストランで暴食に耽っていたほどだ。

哀れジャック。

 

 

 

 さて、それはさておき今日のお嬢はと言うと、息抜きという名目で水族館探索に行くことになった。

しかしジャックの方はというと、連日のお嬢の豪遊のせいで自身の財布が底を尽きかけていたため、これから屋敷の方に経費申請の連絡を入れなくてはならなくなった。

そのためこの日は丸一日、お嬢を飼育員のボアに預けることとなったのである。

「それじゃ、行ってくるわね!」

「まね!」

「……お嬢様、決して粗相の無いようにお願いしますよ。」

お嬢たちは元気よく手を振るが、ジャックの顔からは未だに不安の色が拭いきれていない。

「がっはっは、大丈夫だ!……ま、ジャックくん。お前にとっても良い息抜きだと思っておけよ。」

「はぁ……」

ボアの言う通り。

実際、ジャックはここ連日お嬢にかかりっきりな上まともな安眠も出来ていなかったのは事実だ。

一度お嬢の元を離れるのも良い気分転換になるのかもしれない。

 

 

 

「この水族館は広いからな……モタモタしてたら日が暮れちまう!よし、お嬢ちゃん、今から回るぞ!」

「えぇ、望むところよ!」

「まねね!」

そう言うとお嬢とボアは館内の暗闇に早足で消えて行ってしまった。

ジャックは小さく手を振っていたが、恐らくそれは彼女らには届いていなかっただろう。

 

 

 

 さて、これで彼には久方ぶりの1人の時間が訪れた。

「ふぅ……」

ジャックは小さく息をつき、手元のケータイでこの街の銀行の場所を検索し始める。

「……!?」

しかしその直後。

ジャックは昨日感じたものと同じような視線を感じる。

だが同じように振り返っても、やはりそこには誰も居ない。

彼は言いようのないわだかまりを抱えつつ、この場を後にすることとなった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー時刻は正午を回った。

必要な申請や連絡を終えたジャックは、ヘロヘロになりながら銀行を後にする。

トレンチ嬢の父親・ガウン氏との久々の通話では、お嬢の現状について様々なことを聞かれた。

お嬢が早くも2つのバッジを勝ち取った報告に彼は大変に上機嫌であったが、それもジャックの配慮があってこそだ。

まさか『昨日まで溺れかけていた』『大事な取引先のポケモンをう○こ呼ばわりした』などとありのままの事実を伝えるわけにもいかない故、ジャックは様々な脚色を交えてこれまでに起こったことを語っていたのだ。

 

 

 

 そんなこんなで精神力をすり減らしたジャックは、ポケットからケータイを取り出す、

なんとなく、久しぶりに激しめの音楽を聞きたくなったのだ。

イヤホンを取り出し、「Aruku-Landorus」の曲を少し大きめの音量で流す。

しばらく前に解散した、ジャックのお気に入りのガールズバンドだ。

中でも代表曲「オドリドリ」は屈指の名曲として今尚名高い。

 

 

 

「………うん、やっぱり素晴らしい曲だ。」

イヤホンを通り抜ける軽快で充実感のあるサウンドに、ジャックは思わず魅了される。

だが、それと同時にその音にどこか違和感を抱く。

特に、間奏のあたりで存在感が大きくなるキーボードの音にだ。

「あれ……これどこかで聞いたことが……?」

ジャックは何か引っかかる違和感を抱きつつ、曲の中へとのめり込む。

 

 

 

「………ーい」

「……………」

「……おーい、お兄さーーん。おーーいってばーーー!」

ジャックは大声とともに背中を叩かれたことで、真後ろから誰かに話しかけられていたことに気づく。

慌てて彼はイヤホンを外し、焦った様子で振り返る。

そこに居たのはスポーツキャップとタンクトップ、そして大きな袋を背負った少女……そう、以前アンコルシティにて遭遇したお嬢の同輩トレーナー・ハオリだ。

 

 

 

「ほら、信号。もう青だよ。」

ハオリは目の前の横断歩道を指差しながら、半笑いで指摘する。

ここでジャックは、自分が先程まで立ったまま寝ていたことに気づいたのである。

ここ最近の寝不足が思いもよらぬ形で祟っていたのだ。

「こ……これは大変お恥ずかしいところを。お久しぶりです、ハオリ様。」

「ハハハ!こんな時でも敬語は崩さないんだね、お兄さん。」

ハオリは面白おかしそうに笑うが、ジャックは申し訳無さそうな顔をするばかりであった。

そしてハオリは、ジャックの聞いていた音楽に興味を示し耳を澄ます。

外されたイヤホンから小さく聞こえてくるのはAruku-Landorusの曲……ハオリもよく知っている曲であった。

 

 

 

「……ふぅん、お兄さんこのバンド好きなんだ。」

「えぇ。結構なお気に入りで……ん?」

ジャックはここで、点と点が線でつながるような感覚を味わった。

そう言えばハオリはキーボード弾き……

 

 

 

 そう考えていたジャックを遮るようにハオリはジャックに声をかける。

「そうだお兄さん。そこの角のお店でランチのカップル割やってるんだけどさ……よかったら一緒に行かない?」

「え……!?」

ジャックは『カップル』という単語に動揺する。

残念ながら彼はそういう単語に耐性がある人間ではなかった。

その様子を見たハオリは腹を抱えて一人で大笑いする。

「プ……ハハハハハ!いやいや、フリだってフリ!もー、そんなマジになんなくてもいいじゃん!」

ハオリはバシバシとジャックの肩を叩くが、一方の彼は余裕の無さを露呈させてしまい更に気恥ずかしさが増す一方であった。

 

 

 

「へぇ、クールそうだけど意外と可愛いとこあんじゃん、お?」

「……冗談はおやめ下さい。私であればご同行いたしますので……。」

「おぉ、話が早くて助かるよ。」

ジャックは辟易していた。

思えばいつでもこうして誰かにからかわれてばかりである。

 

 

 

 

 

 ーーーーーさて、レストランへと入店したハオリとジャックであるが、それなりに盛況する店の窓際の席にて料理の到着を待っていた。

「ふふ、こうしてみると実際にカップルに見えるのかな。」

「……これ以上からかうのはおやめ下さいませ。」

「ホント真面目だよねぇお兄さん。……タメ口でもいいのに。」

そんな他愛のない会話を交わしつつ、ジャックはふと壁に貼られた数々のサインに目をやる。

有名人が来店時に残していくアレだ。

大物芸能人や他地方のチャンピオンなどそうそうたるメンツが名を連ねる。

中には写真付きのサインもあり、一段と存在感を放つものもある。

そしてジャックは、そのサイン軍の右下にAruku-Landorusのサインを見つけた。

円形の署名の真ん中に、バンドメンバーがピースサインをしている店内撮影の集合写真が貼ってある。

 

 

 

 その写真を見て、目の前の席に座るハオリを再度見る。

ジャックは確信した。

「……もしかして、ArukuのキーボードのRioさんですか?」

「ハハハ、いやぁバレちゃったか。」

ハオリは苦笑いをする。

そう、彼女は数年前に解散した例のバンドのキーボード担当だったのである。

ジャックが前々から感じていた既視感の正体はそれだったのだ。

彼はまさかの事実に驚きを隠せない。

 

 

 

「でもそういうお兄さんもアレでしょ。元イジョウナリーグのチャンピオン。」

「……!?どうしてそれを……?」

「昨日さ、ジム戦の申込みの帰りにトレちんのジム戦を覗きに行ったんだよね。あの子の被ってた帽子を見てピンときた。」

そう、お嬢の被っていたベレー帽は元々ジャックの被っていたものだ。

きっとハオリはそこから、どこかで聞いたことのあるジャックの正体を結びつけたのだろう。

ついでに言えば、ジャックが昨日感じた視線の正体もその時に観戦をしていたハオリのものである。

 

 

 

「でもどうしちゃったのさ。髪の色も顔つきもぜんぜん違うけど……」

「………。」

ジャックは黙り込んだ。

できればこの話題は流してくれないか、といった感じでハオリに目線を送る。

「……おっけおっけ。深くは聞かないよ。」

ハオリはお冷を飲み、一呼吸置いて続ける。

「……たださ、ちょっと聞きたいんだ。先輩トレーナーにしたい質問って感じなんだけど。」

ジャックは少しだけ顔を曇らせるが、すぐに快く返事をする。

「私で良ければ。どうぞ。」

 

 

 

「お兄さんはさ、誰のために戦っていた?」

「と、言いますと?」

「……昨日のトレちんを見てて考えたんだよね。あの子は本当に強くなっていた。アタシと戦ったときとは比べ物にならないくらいに。」

ジャックは頷いた。

一番近くで見ていた彼から見ても、ここ数日のお嬢の成長は著しいものがある。

それはトレーナーとしての実力のみならず、メンタルの面も含めてだ。

「いやぁ、アレは誰かを想う目だったね。何が何でも負けられない、あの人の前では絶対に負けられないーーって感じのね。」

そう言いながらハオリはジャックの方にチラチラと視線を向ける。

が、当の本人はその視線の意味にはほとんど気づいていないようであった。

 

 

 

「……他人を想って戦いに望むトレーナーは本当に強い。それはトレちんだけじゃない。アタシは色々とそういう人間を見てきた。」

「ハオリ様……」

「アタシはね、イジョウナリーグで優勝したいんだ。他でもない、アタシ自身が注目されるために。あのバンドに捨てられたアタシが、また日の目を見るために。」

そう言ってハオリは少しばかり険しい表情になり、壁際のバンドメンバーの写真を見つめていた。

「……こんな理由で戦ってて良いのかなって。なんかよく分からなくなっちゃってさ。」

 

 

 

 彼女の言葉が途絶えると、ジャックはしばらく思考し言葉を選別する。

「……私も、リーグの優勝を目指したのは自分自身のために他なりませんでした。しかし結果として私は、優勝という結果を何度か残しました。……ハオリ様が間違っているということは無いと思いますがね。」

彼は自身の過去を、極めて形式的・客観的に述べた上でハオリを励ました。

「ハハハ、そうかな……。うん、お兄さんがそう言うならそうかもね。」

 

 

 

 やがて料理が運ばれ、2人は手を合わせた上でそれらを食す。

大きな相談ごとの後の昼食は、彼らにとって大変美味なるものだった。

「そうだ、お兄さん。この後アタシとバトルしない?チャンピオンの実力とやらを見てみたいんだよね。」

ハオリの提案に、ジャックは再び長考する。

現時点で実力に差がありすぎる、とかそういう問題ではなく、別で彼には心配する事があったのだ。

 

 

 

 しかしこんな話を聞いた後で彼女の申し出を断ることにも抵抗があった。

ジャックは悩んだ末、バトルを承諾することにしたのだ。

「……わかりました。ではお食事が終わったらビーチにでも行きましょう。」

「ふふ、遠慮なく胸を借りるとするよ。」

 

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