【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
昼下がりの砂浜にて。
このノロポートは観光地ゆえにそれなりに砂浜を訪れる人が多い。
が、現在は初夏。
シーズンよりも少し前であるため人は想ったよりもまばらにしか居ない。
なので、ジャックとハオリがバトルをするためのスペースは十分に確保されていると言っていい。
強い日差しが白い砂を照らしつける。
野生のスナバァやクラブ達が遠目に見守る中、両トレーナーは相まみえる。
「っと……ルールはどうする?」
「1on1でどうでしょうか。」
相談のもと、バトルのルールはジャックが決定した。
実際、オフで軽くやるバトルであればこれくらいの規模が丁度いいのだ。
「おっけー……色々勉強させてもらうぞー!」
「……お手柔らかにお願いします。」
ジャックは軽く一礼をした後にモンスターボールを投げる。
中から飛び出したのはお馴染みのアーマーガアだ。
「グアアアアアッ!」
「ちょっとちょっとお兄さん、最初にボールを投げるのは同時でしょ?」
「あ……申し訳ありません。気が逸っていたようです。」
ジャックは自分の不手際を謝罪する。
しかし実際、これは不手際などではなく故意であった。
本当に本気でバトルをすれば、恐らくジャックの圧勝で終わってしまうだろう。
これは積み上げてきた経験が違いすぎるため仕方のないことだし、それは両者とも薄々分かってはいることだろう。
だからジャックは敢えて、選出の後攻を譲ってやったのだ。
だが残念、ハオリは聡い。
ジャックのその意図は完全に見抜かれていた。
舐められていると感じたわけではないが、少しばかり歯痒い思いをしたのは事実のようだ。
「もー……んじゃ、アタシはこの子で行くよ!」
ハオリがボールから繰り出したのはバチンキー。
サルノリの進化系で、手に持っているバチが2本になった。
そのため攻撃のバリエーションは以前よりも大幅に増えていることだろう。
「うきゃきゃっ!」
頭のバチを構え、バチンキーは元気よく声を上げる。
だが、ジャックはここで疑問を抱く。
ハオリはアーマーガアを見てからバチンキーを後出ししたのだ。
しかし、バチンキーはくさタイプでアーマーガアはひこうタイプ。
どう考えてもハオリ側が意図的に不利な選択をしたのである。
いくら初心者トレーナーとは言え、彼女が相性を把握していないということは考えくい。
それにジムチャレンジをしている以上、他にもポケモンはいるはずだ。
「……ハオリ様。本当にバチンキーでよろしいのですか?」
「うん、アタシはこの子が一番正しい選択肢だと思ってるよ。」
「うきゃ!」
ハオリはあくまでバチンキーで戦おうとする。
そこまで言って揺らがぬのであれば止めるのは野暮だとジャックは判断した。
「……ではバトル開始です。ハオリ様、先攻どうぞ。」
「おっ、じゃあ行くよ……バチンキー、『えだづき』ッ!」
「うきゃきゃッ!」
バチンキーは目の前のアーマーガアへ走って飛びかかると、一直線にバチの一撃を繰り出す。
助走から攻撃まで、基本動作ではあるがやはり無駄がない。
しかしいくら速いとはいえ、その軌道はあまりにも素直すぎる。
空中に移動できるアーマーガアならばこれを避ける程度は容易い。
「上です、アーマーガア!」
「グアアッ!」
アーマーガアは背後に飛び上がり、バチンキーの攻撃を回避する。
ハオリの初撃は失敗に終わったのである。
「うーん、やっぱもうちょいヒネらないと駄目かぁ……」
「今度はこちらの番です。アーマーガア、『ぼうふう』ッ!」
「グアアアアアッ!」
アーマーガアはバチンキーの攻撃を回避した羽ばたきの勢いをそのまま利用し、凄まじい風を巻き起こす。
『ぼうふう』は砂を巻き込み、身軽なバチンキーの身体を吹き飛ばす。
もちろんひこうタイプの『ぼうふう』はバチンキーに効果抜群、タダでは済まない。
……はずなのだがバチンキーは、一切臆する様子を見せない。
「うっきゃきゃーーーッ!」
それどころか吹き飛ばされているというのにまるでよろめいていない。
寧ろ、風に乗って空中を移動しているようにすら見受けられる。
「そんな……バチンキーが空を飛ぶ!?」
だがジャックはすぐに気づいた。
バチンキーは空を飛んでいるわけじゃない。
「……そうか、『アクロバット』!」
「お、流石!」
これは『アクロバット』という、空中を飛ぶが如く華麗に舞える攻撃技なのだ。
ハオリがこの戦いにバチンキーを選んだのも、ちゃんと対空性能があることを計算に入れてのことだったのである。
飛び上がったバチンキーは華麗な滑空を決めると、そのまま風の勢いが弱くなった所で攻撃の構えに出る。
なんと空を飛ぶアーマーガアの更に上から、落下の勢いに任せ『はたきおとす』を脳天目掛けて決めてきたのである。
「グアアッ……!?」
「うきゃきゃーーッ!」
「焦らないでアーマーガア!『てっぺき』で受け止めるのです!」
アーマーガアはすぐにジャックの指示通り全身を硬化させ、『はたきおとす』のダメージを軽減する。
しかし空中から叩き落される、という物理的な影響だけは避けられなかった。
アーマーガアは砂浜の上に、砂煙と共に落下する。
「グアッ……!」
そしてその隙をバチンキーは見逃さなかった。
地べたを這うアーマーガアに上からのしかかる。
翼の付け根を両足で押さえつけ、何としても飛び上がらせないようにしているのだ。
「グッ……グアッ……!」
必死にもがくアーマーガアだが、バチンキーによって大事な関節をことごとく封じられているせいで上手く飛び上がることが出来ない。
ここを好機と睨んだハオリは、すぐに次の攻勢に出る。
「よぉし、縛り上げて!『やどりぎのタネ』ッ!」
「うきゃきゃーーーッ!」
バチンキーは口からタネのようなものを吹き出すと、そのタネはみるみるうちに成長してツルを形成する。
やがて成長したツルは、身動きの取れないアーマーガアを地面へと縫い付けた。
「し……しまった……!」
これによってアーマーガアは一方的に叩かれる体勢が出来上がってしまっていたのだ。
「さて……一気に畳み掛けるよ!『えだづき』500連打ッ!」
「うーーーきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃッ!」
バチンキーは2本のバチを振りかざすと、そのままアーマーガアの後頭部を目にも留まらぬ速さで殴り続けた。
まるでエンジンでも吹かしているかのような凄まじい連打音があたりに鳴り響く。
いくらアーマーガアにくさタイプの攻撃が効きにくいとは言え、無防備な状態でここまで激しい攻撃をされてしまえば致命傷は免れない。
「グッ……グアアッ!」
アーマーガアは必死に『やどりぎのタネ』を振りほどこうと全身をばたつかせるが、それらは全て虚しく徒労に終わる。
バチンキーにとってこのアーマーガアはただの打楽器に過ぎなかったのだ。
「ふふふ、これは勝負ありかな?」
「くっ……」
ジャックは焦る。
胸を貸すつもりで挑んだバトルであったが、まさかのコンボで押される事になってしまったからだ。
この勝負、予想外の結末とともに終わってしまうのだろうか。
……否、それでもジャックは元チャンピオンだ。
ここであっさりとやられてしまうほどヤワではない。
「……奥の手ですアーマーガア!『ボディプレス』ッ!」
「グッ……」
ジャックの指示を聞き届けたアーマーガアは肩の部分に力を込める。
ブチブチと痛々しい音を立てて『やどりぎのタネ』が振りほどかれていく。
「うそッ!?」
「きゃきゃ!?」
そして次の瞬間、全身を横方面に凄まじいスピードでローリングし始めたのである。
上に乗っていたバチンキーは思いっきり轢かれる形で巻き込まれる。
言うまでもなくこの至近距離で繰り出された『ボディプレス』は大ダメージである。
「きゃーーーっ!?」
「バチンキーーー!」
バチンキーを地面に轢き落としたアーマーガアはすぐに上空へ飛び去り、再び位置の有利を取る。
バチンキーは『ボディプレス』のダメージが大きかったせいで未だに立ち上がれずにいる。
アーマーガアとしてもここを逃してしまえば再びやどりぎの餌食だ。
「……決めさせてもらいますッ、アーマーガア、『はがねのつばさ』ッ!」
「グアアアアアアアアッ!」
雄叫びを上げたアーマーガアは両翼を広げ、前縁を局所的に硬化させる。
直後、まるで流星の如き勢いで急降下をし、真下のバチンキーを斬りつける。
「う……きゃぁ……」
バチンキーはこの攻撃で力尽きてしまう。
この勝負は危うくもジャックの勝利という結果で終わったのであった。
「……ふぅ。お疲れさまです、アーマーガア。」
「グ……グアッ……」
アーマーガアは息を切らしながら答える。
それほどまでにこの戦いは接戦だったのだ。
「うーーん、手応えはあると思ったんだけどなぁ。」
ハオリは残念そうな声を上げつつ、倒れているバチンキーを介抱する。
「いえ、本当に危なかったです。最後にバチンキーに立ち上がられていればこちらが負けていました。」
実際、ジャックは予想外のハオリの強さに驚かされていた。
トレンチ嬢がもしジャックとまともに戦いあったとしても、ここまでの接戦になることはまずありえないだろう。
彼女と同日に旅立ったにもかかわらず、その実力差は火を見るよりも明らかであった。
……実際、ハオリは間違いなく強くなっている。
間違いなく、今後お嬢にとっても大きな壁になりうる存在であろう。
だが、それにしてもだ。
明らかに先のジャックの戦闘は元チャンピオンのものとは思えない。
勿論指示のセンスもそこまで悪くはないし、アーマーガア自体はポケモンとして非常に高いレベルで洗練されている。
だが地方の頂点に立ちうるほどの実力かと聞かれれば、間違いなく疑問の残る戦いではあった。
どう考えても肩書に比べて実力が追いついていない。
ハオリは負けた身ではあるが、薄々そう感じていたのだ。
「……お兄さん、もしかしてバトルは久しぶりだった?」
「え、えぇ……まぁ、そんなところですかね。」
「ふーん……」
ハオリは怪訝そうな表情を浮かべる。
ジャックはもしかしたら何かを隠しているかもしれない、と彼女は疑っていたのだ。
「ま、いつかまたリベンジさせてよ。その時は勝ってやるんだから!」
「ハハハ、本当にやられそうで怖いですけどね。」
彼は苦笑いでハオリと握手を交わしたが、あながちこの言葉はウソとは言えなかった。
「それと……相談、また乗ってくれると嬉しいな。」
「?」
ハオリはそう言うと自身のケータイを取り出してジャックに見せる。
所謂、連絡先交換というやつだ。
「……私でよろしいのですか?」
「うん、お兄さんなら頼りになりそうだし。」
「……私はお嬢様の付き人です。遠回しにはアナタの敵ですが……?」
「うん、それでもいいよ。」
そう言って彼女はジャックのケータイを半ば無理やり取り上げると、すぐにSNSのIDを交換してしまった。
「ちょ……」
「ま、アタシ友達も全然居ないからさ。そこらへんもヨロシクってことで!」
「えぇ……?」
そしてすぐに彼女は大きく手を振りながら、どこかへと去っていってしまったのであった。
ジャックは考えていた。
やっぱりハオリはお嬢とは違う意味で苦手な人物だ……と。
ーーーーー「遅いな……」
ジャックは待ちぼうけを喰らっていた。
お嬢を迎えに行く待ち合わせ場所の水族館のゲートにいたが、既に待ち合わせの時間を1時間も過ぎようとしているのだ。
閉館時間だってもうとっくに過ぎている。
日も暮れ始め、冷たい風が街中を吹き抜け始めていた。
流石に心配になったジャックは、受付のスタッフに事情を聞く。
「あぁ……トレンチ様とボアさんなら結構前にジムの方に行きましたよ。なんでもボアさんがトレーニングを付けてくれるって言ってて……」
「なるほど。ありがとうございます。あの、今から入場しても構いませんか?」
「えぇ、お付きの人でしたら是非。」
そしてジャックはスタッフにゲートを通してもらうと、そのまま裏口のジムまで一直線に歩いていった。
多くの展示コーナーや水槽を抜けていき、STAFF ONLYの扉を開く。
するとそこには、驚くべき光景が広がっていた。
なんとスタジアムの外側でお嬢が誰かと口論をしていたのだ。
相手はお嬢よりも身長が低い少年で、銀髪と青髪の混ざったパーマが特徴的である。
そう、彼は以前アンコルシティの公園にてお嬢を圧倒した少年・レインである。
状況が飲み込めないジャックはその場に居たボアに事情を聞こうとする。
しかし彼はジャックに小さく
「(……ちょっと今は関わらないほうが良いぜ)」
とだけ耳打ちしたのであった。
「……キミのようなちっぽけな目標で僕と張り合われても困るんだよ。そんなものを背負った気になって調子に乗ってるの、ホント腹立たしいんだよね。」
どうやらお嬢は、レインにまたも言い負かされているようだ。
耳までオクタンのように真っ赤になったお嬢は憤慨し、大声を上げる。
「……っっっっっっとにあったま来た!いいわ!そこで勝負なさい!」
「いや、キミこの間僕に負けたじゃん。どうせ同じ結果だ。やるならそうだな……」
そう言ってレインは出入り口にぽかんと突っ立っているジャックを指差した。
「……?」
「そう、アンタだ。ジャック……いや、鍵の器の失敗作!」