【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第024話】背負うものの大小、背負わされたものの代償

 時間は少し遡る。

 

 

 

 息抜きと称してボアとともに一日水族館ツアーをしていたトレンチ嬢は、水族館の隣に併設されているジムに居た。

ボアからの提案で、ジャックとの待ち合わせまでの時間に少しだけ稽古をつけてもらえることになったのだ。

彼としても、嘗ての娘と似た雰囲気のお嬢を心のどこかで気に入っていたのかもしれない。

これまでジャック以外とちゃんとしたトレーニングをしたことがないお嬢としても、これは絶好のチャンスであった。

 

 

 

「みばばっ……!」

「しゅびっ!」

ヒバニーは壁ジャンプを駆使しつつ、そこからスムーズに空中の敵へキック攻撃を当てる練習をしていた。

水を張った状態でのハンデを背負い、更に相手は水中を縦横無尽に動くカマスジョー。

ハタから見れば、少々過負荷気味の練習である。

事実、先程から攻撃をかすらせることにすら苦戦していた。

更に言えばトレーナーは水の危険を考慮して室外にいるため、指示の音声も聞こえにくい。

 

 

 

 ヒバニーのキックがカマスジョーの真下を虚しくすり抜けていく。

「うっ、全然届かない……!」

「あー……惜しいな。空中の追加跳躍は原則2段までが限界だ。あと1発目のパワーの重要性はでけぇ。次はそこを意識しろ。」

ボアは正確な指摘の元、お嬢のポケモンの固有の動きに重点を置きトレーニングを行う、

しかしその短い間に、お嬢らは彼のノウハウを凄まじい勢いで吸収していたのだ。

その事実には稽古を付けていたボアが一番痛感していた。

そもそも昨日の時点で泳ぐことすらままならなかったヒバニーやサダイジャは、お嬢の指示の下で水中のポケモンと互角に渡り合えるレベル一歩手前にまでなっていたのだ。

マネネもコピーの精度が着実に上がっている。

つい先程もウッウと平気で空中戦を繰り広げて接戦にまで持ち込んでいたほどだ。

ハッキリ言って、旅をはじめて1週間足らずのトレーナーの標準能力を大幅に超えている。

 

 

 

「……しゅびっ!?」

やがてそうこうしているうちに、ヒバニーのドロップキックがカマスジョーの側面を直撃する。

そこまでのダメージは入っていないものの、水中というハンデを考慮すれば十分すぎるほどの成果だ。

「よし!一発貰いッ!」

「みばばっ!」

「うおっ……マジかよ!?」

ボアは驚愕し、思わず声を上げる。

カマスジョーとて決して手を抜いていたわけではない。

だからこそ、お嬢とヒバニーのこの成果は驚くべきものなのだ。

 

 

 

「……いやぁ、嬢ちゃんもヒバニーもすげぇな!」

「ふふん!こんなのトレーナーの頂点に立つアタシたちなら当たり前なんだから!」

「まねね!」

お嬢らは両手を腰に当てて渾身のドヤ顔を見せる。

事実、彼女らはそれを誇るに相応しい成長をしていた。

ジャックの目につかない所で、彼女は多くの経験を積んだのだ。

 

 

 

 しかし、そんなやり取りを見ていた者が一人。

耐えかねたかのようにジムのスタジアム内へと入ってきていた。

「……一体いつまでやってるんだ。僕はこのジムにチャレンジの予約をしに来たというのに。」

呆れ果てた、というジェスチャーをしながらボアとお嬢の元へ近づいてきたのはアンコルシティ以来の少年……そう、レインだ。

彼は先の発言の通り、このノロジムにチャレンジをしに来ていたのだ。

ボアと話す機会を遠目から伺っていたが、肝心の彼がずっとお嬢との稽古に夢中になっていたのだ。

 

 

 

「おっと悪ぃな……気づかなかったぜ。」

「はぁ……アナタは仮にも公正な立場のジムリーダーだろう?一介のトレーナーに肩入れするようなことをしていて良いのか?」

レインは待たされた鬱憤を晴らすべく、嫌味たっぷりに述べる。

しかし彼の言い分も最もであるがゆえボアも言い返せず、苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 

 

 だが臆さない者がここに一人。

そう、トレンチ嬢だ。

「あら、怖いのかしら?そうよね、アンタが部屋の隅っこでモタモタしている間にアタシは強くなっていたんだもの!」

お嬢は先日の恨み、と言わんばかりにレインを挑発する。

しかしレインはその挑発に乗るどころか、鼻で笑って彼女を軽蔑するだけであった。

「はっ!何が怖いだって?この間僕に手も足も出ずに惨めに負けてた癖に!」

「くっ……い、一度勝ったくらいで調子に乗ってるんじゃないわよこの【自主規制】!」

「まねね!」

「ふん、キミと一緒にいるジャックだっけ?あの人は現役時代に一つの黒星も無かったって話だ。一方で君は今日これまでに何回負けた?」

「っ……」

「はぁ……ジャックとやらも可哀想に。こんな奴のお守りをした挙げ句、負け恥を被ることになるなんて。」

彼らの口論は徐々にヒートアップしていく。

そのあまりの苛烈さに、第三者のボアは一切口出しが出来なかった。

 

 

 

 そしてこの口論はやがて問答に発展する。

「じゃあ聞くけどさ。キミは一体何のためにポケモンリーグの頂点を目指すんだ?」

「ッ……それは……」

お嬢は根本的で唐突な質問に困惑する。

彼女は漠然と『トレーナーの頂点に立つ』と目標を掲げて旅に出たわけだが、その目標の根幹となる理由は無かったのだ。

否……この言い方だと語弊があるかもしれない。

なので敢えてこう言い直そう。

「理由は無『かった』」と。

お嬢は頭の古びたベレー帽を深くかぶり直して答える。

 

 

 

「……そうよ。アンタみたいなのにジャックをバカにさせないためよ!アタシは元チャンピオン……いや、ジャックの名誉ためにも負けらんないのよ!」

既に彼女は怒り心頭であった。

自分のことをバカにされることもまぁ癪ではあったが、それ以上に関係のないジャックを侮辱することは彼女の一番触れてはいけない部位を逆撫でした。

あの時のお嬢は何も言い返せなったが、いまではその怒りをはっきりと自身の肌で感じていた。

 

 

 

 しかしその言葉を聞いたレインは更に笑い出すばかりであった。

「ハッ、ハハハハハハッ!」

「……何よ。何がそんなにおかしいわけ!?」

「まね!?」

「ハッ、何だそれ!自分のためとかならまだしも、そこにあるのはただの個人への思い入れ!チャンピオンの名誉への執着!これを笑わずに居られるかってんだ!」

腹を抱えながらレインは続ける。

その一方でお嬢の顔は更に怒りの色を増していくばかりだ。

 

 

 

「キミのようなちっぽけな目標で僕と張り合われても困るんだよ。そんなものを背負った気になって調子に乗ってるの、ホント腹立たしいんだよね。」

「……っっっっっっとにあったま来た!いいわ!そこで勝負なさい!」

「まねね!」

堪忍袋の緒が切れた上に袋そのものまで破けそうな勢いのお嬢は、近くの水槽スタジアムを指差して言う。

だがレインはまともに取り合おうとはしない。

「いや、キミこの間僕に負けたじゃん。どうせ同じ結果だ。やるならそうだな……」

そしてレインはこの部屋の出入り口を指差す。

そこに居たのは……

 

 

 

「そう、アンタだ。ジャック……いや、鍵の器の失敗作!」

そう、帰りの遅いお嬢を迎えに来たジャックであった。

ここで話は前回の終わりに繋がる。

 

 

 

「じゃ……ジャック!?」

我を忘れていたお嬢は、一度ジャックの顔を見ると急に冷静になる。

自分が予想以上に感情的になっていたことに気付かされたのだ。

「……お迎えに上がりました、お嬢様。それとそちらの方は……?」

ジャックは初対面のレインに対して質問を投げかける。

いきなり自分の方を指差していることに多少の疑問を抱いてはいたが、それ以上に彼はこの状況を飲み込めていなかった。

 

 

 

「レインだ。次のチャンピオンの席に座る……のは言うまでもないか。」

そしてレインはジャックのもとに歩み寄ると、シャツの袖をめくる。

彼の腕は、一部に金色の金属片が埋め込まれて表面が硬化していた。

まだ10歳かそこらであろう少年の肌はとても人間のものとは思えないボロボロの状態にあったのだ。

「僕は昔のアナタと同じ『適合者』だ。」

「………!!」

 

 

 

 ジャックは言いようのない悪寒、不快感、吐き気を覚える。

思い起こしたくもない記憶が、封じ込めていたものが自身の脳から這い出てくるのを感じる。

しかし彼は強靭な理性で、それを瞬間的に封じ込めた。

「………!」

彼は、ここ最近で最も大きな不快感を味わった。

息を整えつつも尚、全身の毛が逆立ってやまない。

 

 

 

「さて、アンタ元チャンピオンだろう?話は聞いているよ。そこの強情なお嬢様に現実を知らしめるためだ。僕と勝負を……」

だがジャックは彼の話を最後まで聞き届けることはなかった。

鬼気迫る顔でレインの両肩を掴む。

「……いつからですか!?キミに『それ』が現れたのは!?」

「まぁ当然の疑問だよね。いいさ、教えてあげるよ。僕のこれは生まれつきだ。」

「………!!!」

レインの両肩を掴むジャックの腕はわなわなと震え始め、表情も歪んでく。

 

 

 

「レイン様……もしかしてそれを埋め込んだのは……」

「まぁ、アンタも知ってるんじゃない?あのテイラーだよ。」

聞き覚えのある名前を耳にしたジャックは、震えを抑えるべく大きく息を吸う。

それでも尚、根底から這い出る悪寒は収まることはないが。

 

 

 

「……レイン様、悪いことは言いません。アナタは今すぐにでもトレーナーを辞めてください!このままだと取り返しのつかない事になります!」

彼はレインを熱心に説得する。

が、それはあまりに唐突で残酷な言葉である。

当然、レインはこれを一蹴した。

「ふふ……心配ありがとう。だけどね、僕はアンタみたいな『失敗作』とは違うんだ。」

「私のことを何と言おうと構いません。ですが……」

 

 

 

 ジャックが必死の説得を試みていたその時であった。

「おう、久しぶりやねジャック。元気しとったか?」

「……!?」

彼の背後にいつの間にか、黒いワンピースを来たブロンド髪の女性が立っていたのだ。

彼女はテイラー……そう、アンコルジムの帰り際にすれ違ったあの女、先程レインの話に少しだけ登場したあの女だ。

「あら、ウチの子と仲良くやれてるみたいやな。気が合ってるみたいで嬉しいわぁ。」

テイラーはコガネ弁でジャックに再会の挨拶をすると、彼の肩にポンと手を置く。

 

 

 

 だが、ジャックの反応は決して友好的なものではなかった。

彼はレインの肩から手を話して振り返ると、怒り心頭でテイラーの服の胸ぐらをつかむ。

「ひゃっ……!?」

「テイラー……貴様、とんでもないことをしたなッ!!」

ジャックは普段の敬語が崩れるほどに感情を顕にする。

その鬼気迫る様子には、遠くから眺めていたトレンチ嬢も言葉を失うほどであった。

 

 

 

「ええやん。チャンピオンのアンタとお揃いにしたんやで。結構カッコよく仕上がっとるやろ?」

「……ッ!アレがどれほど危険なものか、貴様とてわからないわけじゃあるまい!?」

「まぁ、アンタは色々と未熟やったからな。だけどな……」

そう言うとテイラーはジャックの腕を払い除け、その勢いで左脚を上げてジャックの首元へキック攻撃を食らわせる。

「がは……ッ……!?」

「うちの子はアンタみたいな失敗はせぇへん。」

数メートル吹き飛ばされたジャックは壁に頭をぶつけ、そのまま気を失ってしまった。

 

 

 

「ジャ……ジャックッ!?」

「まねねッ!?」

「あ、アンタら……!」

お嬢とボアはジャックのもとへ駆け寄り、気絶したジャックの首筋を叩く。

しかし彼は息はあれど返事がない。

「心配しなくてもええで嬢ちゃん。ジャックは丈夫やし、しばらくしたら目を覚ますやろ。」

「………ッ!」

お嬢は目の前でジャックを蹴り飛ばしたテイラーを睨む。

しかしテイラーの眼光の威圧感は凄まじく、お嬢の口から出ようとする言葉を全て喉元に詰まらせたのだ。

 

 

 

「ちょっとテイラー。この人、今から僕と戦う予定だったんだけど。」

「あぁ、今のコイツに勝っても大した意味はないで。アンタの実力なら勝って当然や。それより……」

そう言うとテイラーはお嬢の方へと再び目をやった。

「今後ライバルになりうるこの嬢ちゃんと戦うが100倍有意義や。気ィ付けな。この子、油断しとったら首筋まで噛み切って来そうな勢いやで。」

「ハッ、ついに眼が腐ったのかテイラー?こんな奴にそこまでの価値があるとでも?」

「……あるな。ウチは少なくともそう思うで。」

 

 

 

 彼らがそんな会話を交わして数秒後。

レインはお嬢の元へと歩み寄る。

「……テイラーが言うから仕方なくだ。キミとバトルをしてやる。」

相変わらず上から目線の態度、そしてジャックを蹴り飛ばされたことに対しての憤り……それらはやがてお嬢の戦意へと変換されていく。

「言われなくてもよ!アンタたちみたいな【自主規制】、コテンパンにぶっ潰してやるんだから!」

「まねね!」

そう言うと、お嬢とレインはスタジアムの方へと歩いていく。

 

 

 

 戦地へ赴く彼らへ、テイラーは最後に一言だけ残していった。

「レイン。折角や、『アレ』を見せたれ。」

「おいおいテイラー。『アレ』をコイツ如きに使うだって?今日のアンタはホントにどうかしてる。」

「……使わないと多分負けるで、アンタ。」

テイラーは少し強めの口調で念押しする。

するとレインはそれを渋々承諾したのか、背中を向けたままハンドサインを示した。

 

 

 

「……っし、じゃあ始めるぞ。ホントは私情の絡んだバトルにスタジアムを貸したくねぇんだけどな。」

流れで審判はボアが行う形となった。

だが彼だって、このただならぬ気配の勝負がどのような行末を迎えるのか気になっていたのも事実だ。

スタジアムに溜まっていた水が全て押し流され、通常通りのフィールドが姿を表す。

 

 

 

「勝負は2on2。戦闘不能の判定は全部俺がやる。いいな?」

「問題ない。」

「……分かったわ。」

トレンチ嬢は帽子を深く被る。

そして部屋の隅で気絶しているジャックの方を少しだけ見る。

「……負けないんだからッ!」

 

 

 

 そしてボアが両手を振り下ろす。

開戦の合図だ。

「それでは試合開始ッ!」

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