【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
ノロジムのスタジアムにて、レインとトレンチ嬢の戦いが今幕を開ける。
片や己のプライドのため、片や背負う名前のため。
ただのプライベートバトルと侮るなかれ。
ぶつけるものの大きさは互いに相応のものだ。
「……負けないんだからッ!」
気絶したジャックの方をちらりと見て、お嬢は覚悟を決める。
相手は自分より格上であることは間違いない、が、それが負けていい理由にはならぬと彼女は己に鞭を打つ。
「それじゃあ行ってこい……ワタシラガ。」
「ふわーー。」
「行きなさいッ、ヒバニー!」
「みばばっ!」
互いのボールから出てきたのわワタシラガとヒバニー。
ワタシラガ……頭の綿毛が特徴的なくさタイプのポケモンだ。
頭の綿毛を使って相手の動きを妨害することを得意とする。
スピードが鍵であるヒバニーにとって、果たしてこの勝負はどう傾くのだろうか。
「相手はくさタイプ……こっちが有利!先制攻撃よ、『ブレイズキック』ッ!」
「みばばばッ!」
お嬢はこの体面を有利と踏み、ヒバニーに先制攻撃を仕掛ける。
頭上からの攻撃はリスキーと判断しての、横サイドからの水平蹴り……短時間ではあるがかなり合理的な結論だ。
しかし相手側もそのような行動をする相手はとっくに想定済みである。
「……行くぞワタシラガ。『コットンガード』だ。」
「ふわーー!」
ワタシラガの全身に綿毛のシールドが張られる。
ふわふわとした細かな毛が前方のみではなく、四方八方にに張り巡らされている状態だ。
つまり、このシールドが張られている間には一切の物理的な攻撃は通らない。
ヒバニーは何度も『ブレイズキック』を叩き込むが、衝撃は全て吸収され一切の手応えが帰ってこない。
「みばばっ!?」
「そんな……!?」
そう、いくら相性がいいとは言え、ダメージを0倍にされてしまってはそのアドバンテージすら意味をなさない。
「はぁ……相性の有利だけで後先考えずに突っ込んでくるとは……。反撃だワタシラガ、『こうそくスピン』。」
「ふわわーーーっ!」
シールドを纏った状態のワタシラガは全身をコマのように回転させる。
すると纏っていた綿毛が一面に広がり、ヒバニーの視界を一瞬にして覆う。
空中を舞う綿毛はやがて地に舞い降り、重くヒバニーの足に絡まってゆく。
「みばばッ!?」
ヒバニーは距離を取るべく跳躍を試みようとするが、足首が思うように動かない。
短時間のうちに反撃を喰らい、地べたに拘束されてしまったのだ。
「よし……仕掛ろワタシラガ。『グラススライダー』だ。」
「ふわわーーーーっ!」
ワタシラガは身を捩らせると、次の瞬間に綿毛の降り積もった床をスライディングしてきたのである。
「は……速いッ!?」
その速度は水中のカマスジョーにも匹敵する。
小さな身なりからは想像のつかないほどの猛スピードだ。
飛び上がれないヒバニーはこの攻撃をまともに食らってしまう他無かった。
「みばばっ!」
「ヒバニーーーッ!?」
そしてワタシラガは更にUターンをし、ヒバニーに追撃を加える。
前回のジメレオン然り、スピードに任せた動きに関しては一切のムダがない。
「ほう……この状況で『グラススライダー』か……。」
ボアは関心をいだき唸り声を上げる。
『グラススライダー』は本来であれば草原……またはそれに類似したフィールドの上でないと十分な効果を発揮しないわざである。
しかしレインはここで『コットンガード』を床に敷き詰めることで、擬似的な草原を再現したのだ。
防御からの攻撃……ここまで持てる技量の全てを活用した効率的なコンボと言えるだろう。
だが床に綿……すなわち発火剤が敷き詰められているということはそれはチャンスでもある。
お嬢はすぐにフィールドの状況を判断すると、ヒバニーに指示を飛ばす。
「ヒバニー、その場で『ブレイズキック』ッ!」
「みっ……ばばばっ!」
ヒバニーは膝に力を込め、一気にその場で熱を放出する。
すると空気を多分に含んだ綿毛は一瞬にして延焼する。
しかしこの程度の相性の不利もまた、レインの中では計算済みだったのである。
「ワタシラガ、『こうそくスピン』で飛び上がれ。」
「ふわわーーー!」
ワタシラガは再び自身の身体をコマのように回転させる。
すると彼の周囲には揚力が発生し、身軽な身体は真上に浮かび上がる。
しかもそれだけではない。
回転によって発生した風が、ヒバニーに直接吹き付けたのである。
炎を纏った綿毛を含んだ風は熱風となり、ヒバニーに正面から襲いかかる。
「みばっ……!」
「ひ、ヒバニー……!」
弱点であると思われる場所を突こうと思えば思うほど、お嬢は相手のツボにはまっていく。
相手のワタシラガには一切ダメージを与えられないどころか、寧ろ出す攻撃を全て反射されている状態だ。
お嬢は焦る。
「くっ……!ほのおが駄目ならでんきで攻めるッ、『エレキボール』ッ!」
「みばばっ!」
飛び上がって空中に浮かぶワタシラガを目掛け、ヒバニーは光弾を生成してシュートを打ち出す。
しかし遠距離攻撃であっても、物理的な攻撃であることには変わりがない。
であればここでワタシラガが取る行動は当然……
「愚直過ぎる……『コットンガード』だ。」
ワタシラガは浮かびながら全身に綿毛のシールドを展開する。
当然、『エレキボール』は全て正面から弾かれてしまう。
弾かれた弾は壁を何度かバウンドし、虚しく勢いを衰えさせて消えていく。
「これも駄目……!?」
「はぁ……やっぱりテイラーの見込み違いだよ。キミなんかが僕に及ぶわけがない。」
レインはため息を吐く。
事実、お嬢側は一切ワタシラガに対して策がない状況だ。
これでは前回のバトルの二の舞である。
「悪いけど時間の無駄だ。『アレ』を使うまでもない……ワタシラガ『こうそくスピン』だ。」
「ふわわーーーっ!」
ワタシラガは再び着地と同時に自身の体を回転させ、周囲に綿毛を撒き散らす。
「ヒバニー、飛び上がって!」
「みばばっ!」
また綿毛に足を絡め取られてしまってはたまったものではない。
ヒバニーはすぐに床から飛び上がり綿毛を回避しようとするが、ワタシラガの回転によって発生している風のせいで思うように飛び上がることが出来ない。
「みばっ……!」
風圧に寄ってヒバニーは壁へと叩きつけられ、転げ落ちるように床へと落下する。
そうこうしている間にも床には綿毛が敷き詰められ、ワタシラガのための滑走路がまたしても完成してしまったのである。
加えて今度は拘束された部位が足にとどまらない。
うつ伏せの状態で全身が綿毛にとらわれてしまっているのだ。
こうなればこの攻撃をヒバニーが避けることは不可能……負の連鎖にハマってジエンドである。
「やれ、『グラススライダー』だ。」
「ふわわーーーー!」
ワタシラガは床中をスライディングで駆け巡り、ヒバニーを数回にわたり体当たりを食らわせる。
無防備なヒバニーに反撃の余地は許されていない。
最早お嬢の逆転は絶望的であった。
だがそれでも心は折れない。
お嬢も、そしてヒバニーも。
「……みっ、みばっ!」
この状況でも尚ヒバニーは脱出を試みようともがく。
ワタシラガに一方的に殴られつつも尚、反撃の隙を伺う。
……そしてそのガッツが奇跡を手繰り寄せる。
極度のストレスを与えられたヒバニーの身体は突如として七色に光りだし、その姿を大きく変えていく。
「みっ……ばばーーーーッ!」
「ヒバニー!?」
「っ……!進化だとッ?」
そう、このタイミングでヒバニーは進化の時を迎えたのである。
やがてヒバニーは自身を絡め取る綿毛をすべて吹き飛ばし、新たな姿を顕現させる。
「……みっ!」
「ラビフットに進化したか……!」
ラビフット……ヒバニー以上に脚の筋肉が発達し、強力なキック攻撃を繰り出せるようになったポケモンだ。
単純にパワーが上昇したが、それ故に技の使い勝手にも大きな変化はない。
シンプルで且つ有益な強化である。
「よしっ、よくやったわラビフット!」
お嬢はガッツポーズとともにラビフットの進化を称える。
そしてステータスの詳細を確認するために軽く図鑑をかざした。
「ふん……だがヒバニーがラビフットになった所で攻撃手段が増えるわけじゃない。」
「それはどうかしら……?」
お嬢はニヤリと笑うと、ラビフットに数回のハンドサインを示す。
ラビフットの会釈を確認し、最初の指示を出す。
「行くわよラビフット!『あなをほる』ッ!」
「みみっ!」
ラビフットは軽くジャンプをすると、フィールドの真下に穴を開けてドリルのように掘り進んでいく。
そして軽い地響きの後、ワタシラガの真下から床を突き破って現れたのである。
「みみっ!」
「ふわっ……!?」
急に出てきた新わざにワタシラガは驚く。
しかし一方でレインは極めて冷静であった。
「焦るなワタシラガ。『コットンガード』だ。」
ワタシラガはすぐに再び綿毛のシールドを展開する。
『あなをほる』も所詮は物理攻撃……『コットンガード』の障壁を前にすれば一切の効力を有さないのだ。
……だがお嬢もその程度は計算済みだ。
事実、ラビフットはワタシラガを殴らずにそのままスルーしていった。
そして着地の勢いでそのまま次の穴を開けて地下へと掘り進んでいってしまったのだ。
以上のやり取りが何度も繰り返される。
ワタシラガはシールドを構えてラビフットの攻撃を待つが、一方的に攻撃を仕掛けてくる気配はない。
そうしている間にもフィールドの床は穴だらけになっていく。
「………」
レインは少しだけ渋い顔をする。
自身の勝利は揺らがないと考えていたはずなのに、妙な寒気を感じていたのだ。
こうしてラビフットとワタシラガのにらみ合いは続くと思われたその時だった。
お嬢はラビフットに次の指示を飛ばす。
「止まって!」
「みみっ!」
その指示の直後、ラビフットは穴の中でピタリと止まって動かなくなった。
当然だがワタシラガや陸にいるトレーナーからはラビフットの姿は見えない状態だ。
直後、穴の底から鈍い音がする。
まるで何かが弾けるような……そんな音だ。
しかし何も起こらない。
と思ったその直後であった。
ラビフットはワタシラガの真後ろにあった穴から飛び出し、ワタシラガに襲いかかる。
「今よラビフット!『ブレイズキック』!」
「みみっ!」
穴の下から繰り出されるのアッパーの蹴りがワタシラガを襲う。
「ふわ!?」
奇襲に依る攻撃にワタシラガは動揺する。
そう、この『コットンガード』は床に着地した状態で展開すると、下側からの攻撃を受け止めることは出来ないのだ。
つまり次に取れる選択肢は防御ではなく回避のみである。
「『こうそくスピン』で飛び上がれ。」
「ふ、ふわーー!」
ワタシラガは身にまとっていた綿毛を全て捨て去り、『ブレイズキック』の回避を最優先にして飛び上がる。
そう、ジャンプ動作をする際には『コットンガード』を解除する必要があるのだ。
……そこがワタシラガの最大の失敗であった。
確かに回避行動をとったことで『ブレイズキック』を避けることは出来たかもしれない。
しかしラビフットが仕掛けた攻撃はそれだけではなかったのだ。
直後、遠くの穴から一筋の光が抜ける。
その光は壁にぶつかったと思うや否や、飛び上がったワタシラガに直撃したのだ。
「ふわっ……!?」
「なっ……!?」
全く予期せぬ方角から、謎の攻撃が飛んできたのである。
当然、ラビフットはそのような攻撃を出す動作は見せていない。
……そう、「見せていない」のだ。
先程、穴の中から弾けるような音がしたのを覚えているだろうか。
これはラビフットが事前に仕掛けておいた攻撃『エレキボール』である。
穴の中で『エレキボール』を先に打っておくことで、『コットンガード』を解除したワタシラガに時間差で攻撃が行くように仕向けていたのだ。
お嬢は『エレキボール』が壁をバウンドするという法則を知り、この作戦を思いついたのである。
「ふわわっ……!」
光弾の餌食となったワタシラガは軽く痺れてしまう。
空中に浮かび上がっていることも相まって思うような行動が取れなくなっていたのである。
そう、今度はワタシラガが拘束される番だ。
「今のうちに決めるわよッ、ラビフット!『ブレイズキック』!」
「みみーーーっ!」
ラビフットは真下から大きくジャンプをすると、ワタシラガに痛恨のアッパーキックを食らわせる。
1発……そしてそこに重ねるように2段ジャンプでもう一撃を加える。
ボアに先程教えてもらった2段ジャンプ攻撃だ。
2発目の威力は決して大きくはないが、それでも反撃の余地を潰すには十分な攻撃であった。
このわざはワタシラガには効果抜群……ワタシラガはまたたく間に倒れてしまった。
劣勢と思われた勝負は、まさかの形で逆転したのである。
「くっ……マグレとは言え中々じゃないか。」
「ふん!どうよ、アタシのラビフットは!」
お嬢は初めてレインから白星を1つ勝ち取り、満面のドヤ顔を披露する。
遠目で見ていたテイラーもこれには感心した様子を見せた。
「ほう……やっぱり侮れんなぁこの嬢ちゃん。」
レインは少しばかり不機嫌そうにしながらワタシラガをボールに戻す。
そして次のボールを取り出しながら続けた。
「……やれやれ、本当にキミ如きに『アレ』を使うことになるとは……!」
誠に不本意、といった感じである。
レインはシャツの腕をまくると、そのボールを力強く投げた。
「出てこい、ーーーーーーッ!」