【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第026話】圧倒する力、壮大な野望(vsレイン)

「キミ如きに『アレ』を使うことになるとは……誠に不本意だが仕方がない。」

そう言いつつレインは腕まくりをし、次のボールを取り出す。

「行け、ピカチュウ。」

「じじっ!」

中から飛び出してきたのは黄色い身体に赤い頬が特徴的なポケモン……ピカチュウだ。

 

 

 

「ん……?」

このピカチュウを見た瞬間、ボアは大きな違和感を覚えた。

それもそのはず。

このレインのピカチュウのしっぽはあまりにも直線的で短すぎる。

 本来、ピカチュウのしっぽは何重かに縮れているはずなのだ。

なんとなく、ボアは嫌な予感を覚えた。

 

 

 

 ピカチュウはラビフットの方をにらみつつ、軽く放電をして威嚇行為をする。

「っ……!?」

「み……!?」

その瞬間、お嬢とラビフットは背筋に言いようのない恐怖感を覚えた。

目の前のピカチュウというポケモンはそこまで大きな存在ではないも関わらず、全身の震えが止まらなくなるほど恐ろしいものに感じたのだ。

まるで気を抜いたら存在そのものを喰らい尽くされるのではないか、と錯覚するほどに。

その勝負を近くで見ていたボアや、ピカチュウの存在を知っているテイラーですらも似たような感覚を味わっていたのだから、このピカチュウが放っていたのは相当な威圧感だったのだろう。

 

 

 

「………」

しかしこのピカチュウに一切の恐怖心を抱いていない者もいた。

それが、お嬢の真後ろで戦況を眺めていたマネネだ。

マネネは遠目に、不思議そうな目でピカチュウを見つめる。

それに気づいたピカチュウも、またマネネを遠目に見返した。

まるで何か、彼らの間には共感するものがあるかのようだ。

 

 

 

「………おいピカチュウ。何をしている。」

「じっ……ッ!?」

レインの掛け声でピカチュウは我に返る。

そして再度、すぐに臨戦態勢へと移行したのだ。

 

 

 

 そこへ、外野のテイラーがレインに向けて声をかける。

「よう聞けレイン。こっからは『アレ』を全開で行け。多少やりすぎても構わん。」

「はぁ、何度も言ってるじゃん。言われなくてもやるよ……不本意だけど。」

そういうとレインは、シャツの腕を捲る。

 

 そして次の瞬間………

 

 

 

 

 なんと自らの右腕を、自身の歯で噛みちぎったのだ。

 

鋭い犬齒を自身の肌に痛々しく突き立てる。

それはもう肉が抉れるほどの本気の自傷行為であり、誰が見ても正気の沙汰ではない。

「っ……!」

腕からは赤黒い血が吹き出すが、それでも尚レインは歯を突き立てることをやめない。

「い……いやーーっ!?」

「お……おいボウズ、何してやがる!?」

流石にこの衝撃的な出来事にはトレンチ嬢も悲鳴を上げ、ボアも慌てて止めに入る。

しかし一方でテイラーは非常に涼しい顔をしている。

「あぁ、構わんでええで。別に身体に別状はあらへん。」

「構わないってお前……怪我してんだぞ!?」

 

 

 

 しかし彼らの心配を他所に、レインはひとつ深呼吸をする。

すると噛みちぎった腕の傷跡から、青白い火花がバチバチと放電しだしたのだ。

更にそこに合わせるように、ピカチュウの身体が同様に青白い火花に包まれる。

直後にその火花は爆風とともに弾け跳び、中から現れたピカチュウの身体は大きく異なったものとなっていた。

 

 

 

「じじーーーーっ!」

首元には雲のようなマフラーが巻かれ、全体的に体毛も逆だっている。

更には右側の耳は丸っこくなり、左側の耳は先端がプラズマ化し実体を保っていない。

極めつけには、先程まであれだけ短かったしっぽが、大きく伸びたどころかなんと2本に増えている。

 

 

 

「っ……これは!?」

「進化……じゃねぇな……」

そう、進化とは全く別物の現象である。

これが進化であればピカチュウはライチュウというポケモンに変化するはずだ。

しかし中から現れたポケモンは大きく姿は違うものの、誰がどう見ても「ピカチュウ」と判断できる外見をしていた。

 

 

 

 そして変化が起きたのはピカチュウだけにあらず。

なんとレインの髪までもが大きく逆立ち、全身が帯電しているのである。

加えて先程までボロボロだった右腕は黄色の金属のようなものに覆われている。

その姿は最早、人間からは大きくかけ離れているものであった。

「……ふぅ。」

レインは右腕を抑えつつ息を整える。

 

 

 

「な……何よこれ……!?」

お嬢は後ずさりしながら、目の前で起こった一連の出来事に戦慄する。

いきなりレインが腕を噛みちぎったと思ったら、次の瞬間にはピカチュウ共々姿を大きく変えてしまったのである。

恐怖心を抱いてしまうのも仕方がないと言えよう。

 

 

 

 一方のボアは、このピカチュウの変化に関連する事を思い出す。

「聞いたことがある『キズナ現象』……ってやつか?」

キズナ現象……100年に一度、極稀に現れる現象であり、ポケモンとトレーナーが意識を同調し大きな力を発揮するというものだ。

近年ではカロス地方にて同様の現象が報告されているらしい。

 

 

 

 だがそれを聞いたテイラーは微笑する。

「ふふふ、ジムリーダーはん。近いけどハズレや。この子とピカチュウに起こった変化はきずなへんげではなく、正しくは『Soul Divide(ソウルディバイド)』と呼ばれる現象やな。」

「そ……そうるでぃばいど?」

お嬢は困惑する。

既に情報過多の現状に置いていかれかけていたのだ。

「ま、実物目にしたほうが早いやろ。やったれ、レイン。」

「ふぅ……じゃ、行くよ。」

レインは軽く首をひねるジェスチャーを出す。

 

 

 

 すると次の瞬間。

ラビフットの全身が、雷に撃たれたかのように硬直してしまったのだ。

「みみっ……!?」

「ラビフット……!?」

なんと、ラビフットはいつの間にか攻撃を受けていたのである。

その脇腹を一閃の雷が走り抜けたのだが、その事に気づいていたのは攻撃を食らったラビフット自身を含めて誰も居なかった。

先の戦いでダメージが蓄積していたラビフットは一瞬にして致命傷を受け、何が起こったのかもわからぬままその場で膝をついたのである。

 

 

 

「そ……そんな、ラビフット!?」

「なんつー速さだ……」

目の前で起こったで出来事に、誰もが息を呑む。

確かにでんきタイプのポケモンは全体的に行動が機敏だが、それを加味しても今の攻撃はあまりに速すぎる。

そしてあまりにも正確だ。

通常、あのスピードを維持しつつここまでの精度でポケモンの急所を射抜くことはトップランクのトレーナーでも不可能である。

それをレインは指示らしい指示もなく完遂させたのだ。

このピカチュウとレインは、明らかに普通のポケモンとトレーナーの限界スペックを大きく上回っている。

 

 

 

「っ……」

お嬢はラビフットをボールに戻しつつ、目の前のピカチュウに戦慄し続ける。

今、自分が目の前にしている相手は戦ってはいけない相手なのではないか、と恐怖心が猜疑心に変わり始める。

しかしそれでもお嬢はまた帽子を被り直して自分の心に鞭を打つ。

「ううん……落ち着いて。相手はピカチュウ……ならばじめんタイプのポケモンで戦えば大丈夫なはず……!」

お嬢は覚えたての相性を反復しつつ、ボールからサダイジャを呼び出す。

 

 

 

「みしゃーーり!」

お嬢の考え通り、じめんタイプのサダイジャであれば相手のでんきわざは一切通らない。

先程のように一瞬でやられることもないだろう。

 

 

 

 お嬢はすぐにサダイジャに奇襲攻撃の指示を飛ばす。

「行くわよサダイジャッ、『はいよるいちげき』ッ!」

「みしゃりっ!」

サダイジャはとぐろを短く縮めて首をしまう『巻【自主規制】ソの構え』に入る。

そしてすぐに姿を消し、0.3秒の僅かな時間でピカチュウの懐に飛び込んだ。

 

 

 

 初撃に最も効果を発揮するこの攻撃を回避することは、普通のポケモンであればほぼ不可能だ。

……そう、『普通の』ポケモンであれば。

しかしサダイジャがピカチュウの足元に飛び込んだと思ったその直後には、ピカチュウは既にその場には居なかったのだ。

「みしゃっ……!?」

目の前から一瞬にしてきえたピカチュウに、サダイジャは焦る。

まさか自分の全速力よりも早いポケモンがいるなんて、前代未聞だったからだ。

 

 

 

「……!サダイジャッ、上ッ!」

お嬢はサダイジャにピカチュウの位置を知らせる。

何とピカチュウはこのコンマ未満の秒数で跳躍し、サダイジャの奇襲攻撃を回避していたのだ。

 

 

 

 だがサダイジャがその事に気づいた時にはもう全てが遅かった。

「じじーーーーッ!」

ピカチュウは上空から2本ある尻尾を大きく構え、水の刃を叩きつけるようにしてサダイジャにぶつける。

このわざは『なみのり』……みずタイプの大技であり、じめんタイプのサダイジャには効果抜群となる。

そしてこの攻撃はまたしてもサダイジャの急所を正確に撃ち抜いたのである。

 

 

 

 サダイジャは一撃にしてノックアウト、その場に倒れ伏してしまったのである。

序盤は優勢と思われたこの勝負は、レインとピカチュウの暴力的なまでの強さによって逆転……お嬢の敗北で決着となってしまったのである。

 

 

 

「そん……な……」

お嬢はその場に膝から崩れ落ちる。

最早、悔しさとかそういった感情を感じる余裕すら無かった。

ただただ目の前で起こったことへの理解が追いついていなかったのだ。

「ふぅ……流石に一瞬だったな。ご苦労、ピカチュウ。」

「じじっ!」

ピカチュウはほんのりと青白い光に身を包むと、瞬く間に元通りの姿へと戻る。

そしてレインのモンスターボールへと戻っていったのである。

 

 

 

「ふふっ……どや、嬢ちゃん。ウチのレインは強いやろ?」

テイラーは勝負の終わったフィールドに歩み寄ると、ニヤニヤと笑いながらお嬢の方を見つめる。

レインの方は相変わらず鬱陶しそうに

「なんでキミが誇らしげにしているんだよ……」

とため息交じりに述べた。

 

 

 

「……なぁテイラーとやら。この『ソウルディバイド』って一体何なんだ?」

ずっと疑問をいだきながら観戦していたボアは、ついにこの質問をテイラーへ投げかける。

彼女はちらりとボアの方を見ると答えた。

「せやな……まぁちょいとしたセールスや。アンタらには教えてやってもええやろ。」

そしてテイラーは鬱陶しがるレインを退けてフィールドの真ん中に立つと説明をし始めた。

 

 

 

「『ソウルディバイド(本作品では以下『SD』と略称)』はトレーナーがポケモンが視覚や聴覚などを共有できる現象や。単純に感度と脳要領が合わせて2倍になるわけやから、普通のポケモンよりも圧倒的に高い力を発揮できる。まぁここは『キズナ現象』と同じやな。」

テイラーはそう言いつつ、レインの右腕のシャツをまくる。

相変わらず体表の金属や傷跡が痛々しい。

「でもSDはキズナ現象と違って意図的に起こせるモノや。こうしてトレーナーの身体にポケモンの身体の一部を移植すると、どんなトレーナーでも発現させることが出来るんや。」

「っ……!?」

一同は驚愕する。

そう、あのピカチュウのしっぽが異様に短かった原因はそれだ。

レインは右腕に、切除されたピカチュウのしっぽを移植されていたのである。

 

 

 

「まぁそれ以外にもいろんな条件はあるけどな。でも基本的にはどんなトレーナーでも大丈夫、SDができる『適合者』になりうるんや。そしてこのSDの凄いところはな、なんとそのシンクロ率が400%を超える。すなわち普段の4倍のパワーが出るっちゅーわけや。」

「よ……よんひゃく!?」

「ふふ、凄いやろ。どんなトレーナーもポケモンも400%の力を発揮できる夢のようなシステムや。」

高らかに笑いつつ、テイラーは続ける。

「でもな、このSDを一般に普及させるにはちっとばかり資金が足りない。せやからこの子をイジョウナリーグで優勝させて、スポンサーをぎょうさん見つけなアカンのや。」

テイラーの眼がギラギラと光りだす。

掲げた目標を語りながら、見据える未来に大きな期待を寄せているのだ。

「んで、その子はウチが手配して適合者に仕立てたんや。まぁ、引き取った頃はまだ首も座ってない赤子やったけどな。」

「マジか……」

あまりにも手段を選ばない彼女の手口に、お嬢もボアも言葉を失っていた。

彼らのやり方は最早常人の理解の範疇にはなかったのだ。

 

 

 

 レインはテンションの上がったテイラーに割り込むように続ける。

「……僕が優勝してSDの研究が発展、そして広く普及すれば多くのトレーナーが新たな可能性を見出す。僕の戦いは誰かのための戦いじゃない。今後の歴史に名を連ねるトレーナーたちのための戦いだ。」

レインはそう言うと、そのまま部屋の出口まで歩いていってしまった。

そして最後に、トレンチ嬢に向かって一言だけ残していった。

「だから言っただろう?キミの目標は僕に比べたらちっぽけだって。」

 

 

 

 バタンと扉が雑に閉まる。

「んもう……あの子は社交性が無いのが玉に瑕やな。ま、そういう事や。嬢ちゃんの実力不足とかやなくて、あの子に嬢ちゃんは絶対に勝てへんのや。」

テイラーはまた不気味な笑顔を浮かべつつ、お嬢を励ますのか煽るのかよくわからない口調で言った。

そして彼女もまたレインの後を追うように、部屋を出ていってしまったのだ。

「ほな、さいなら。あ、ジムリーダーさん、明日チャンレンジよろしくな!」

調子のいい声とともに、扉は閉まってしまったのだった。

 

 

 

 それから間もなくして。

「っ………!?」

先程テイラーの蹴りで気絶させられていたジャックは目を覚ます。

気づくとそこにはボアとお嬢だけが残されており、またも彼は取り残されることとなった。

「ジャック……。」

お嬢はジャックの方を向く。

ジャックの目覚めは間違いなく彼女にとって喜ばしいことだが、それ以上に先程までの出来事のショックが大きかった。

その声はいつもと全く違い、少しも元気がない。

「お嬢様……」

お嬢の表情から、彼女が何を見聞したのか、ジャックは粗方察することが出来た。

「ッ!?」

ジャックはゆっくりと起き上がるが、未だに蹴られた箇所が痛むのかすぐに手で患部を押さえた。

 

 

 

「……おう、とりあえずお前ら疲れてるだろ?今日は早めに帰って寝たほうが良い。」

ボアは彼らにそう声をかけ、横たわっていたジャックが起きるのに手を貸した。

「……ボア様、何から何まですみません。」

 

 

 

 結局、その後お嬢とジャックは無言のままその日の宿に直行するのであった。

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