【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第027話】刻むは傷跡、被るは仮面

 レインとの1戦を終えて、お嬢とジャックはホテルの部屋へと帰ってきていた。

その間、2人は終始無言を貫き続けていた。

お嬢は見てしまったのである。

人の領域を外れてしまった者の姿を。

ポケモンの領分を犯してしまった者の姿を。

 

 

 

 しかしそれ以上にお嬢は気がかりなことがあったのだ。

部屋につくなり、お嬢は重い口を割ってジャックを問いただす。

お嬢のあまりに真剣な問いかけは、傍らのマネネもモノマネをやめてしまうほどのものであった。

 

 

 

「……ねぇ、ジャック。『適合者』って何……?」

「………。」

しかしジャックは口を開こうとしない。

というより何から喋って良いのかわからない、といった感じである。

更に沈黙は長引き、耐えかねたお嬢は重ねて問う。

 

 

 

「レインはジャックのことを『同じ適合者同士』って言ってたけど、ジャックもあんなバケモノみたいになるの……?」

「………。」

ジャックは目線を逸らして回答を渋る。

都合の悪いことを沈黙で押し通そうとするところは、彼の昔からの悪い癖だ。

しかしそれはお嬢には通じない。

彼女はジャックの頬を掴むと、無理やり自分の方に向ける。

「……大丈夫。アタシ、何があっても怒ったりしないわ。」

「……お嬢様……。」

やがてジャックは少しずつ、言葉を綴り始めた。

 

 

 

「……ではお嬢様、SDについては既にご存知と考えてよろしいですか?」

お嬢は軽く頷く。

その件については先程、テイラーの口から軽く説明があった。

「分かりました。SDの発現はご存知の通り、トレーナーの体内にポケモンの肉体の一部が移植されていることが条件の1つです。……『移植』という言い方だと誤解がありますね。正しくは『混入』と申し上げたほうがよろしいでしょうか。」

そう言ってジャックはジャケットを脱ぎ、ワイシャツを腹部からはだけさせる。

「……そう言えば見せるのは初めてでしたね。」

お嬢はジャックの露出された肌を見て、言葉を失う。

 

 

 

 彼のへその上辺りには何かが差し込まれたような傷跡が大きく残っており、そこから広がるように青色の水晶のような結晶がこびり付いていたのだ。

周囲の別の傷跡を見たお嬢は、それが何かの爪痕であることを察する。

つまりこれは何者かに引き裂かれた……あるいは貫かれた後の傷だ。

 

 

 

 しかし言葉を失うお嬢とは対照的に、マネネは遠くからジャックの傷跡を眺めていた。

まるで何か、懐かしいものを見るかのような目で。

 

 

 

 マネネの視線を気にしつつも、ジャックは続ける。

「確かに移植によってもSDは発現します。ですが殆どはこういった不慮の事故がきっかけで起こるもの……私の場合は後者ですね。」

ジャックがそう述べると、お嬢は続けて問う。

「……誰にやられたの?」

「私のポケモンです。彼は生まれつきの発作持ちで……雪山で雪崩に巻き込まれたときに気が動転しまして、私に襲いかかってきたんです。」

「そんな……ポケモンが人を襲うなんて……」

お嬢は驚く。

確かにポケモンの持つ力の強さは段々と理解し始めていたが、まさかトレーナーを襲うことがあるなど想像していなかったからだ。

 

 

 

「いえ、彼は悪くないんです。……まぁ、その時に私の身体には彼の爪の一部が深く埋まってしまいました。それからです。私と彼はバトルの際に、異様な姿に変わり、意識を共有することが出来るようになりました。」

ジャックは自身の経験を語る。

その特徴はさきほどお嬢が見たレインとピカチュウのそれ……まさにSDそのものであった。

「まぁ、色々あって今はSDは使えないんですけどね。」

 

 

 

 ジャックは「あまり長く人に見せるものではない」と言わんばかりに上げていたシャツを下ろす。

「……とまぁ、私はSDを発現してしまったのですが、そこに目をつけたのが私の同期のトレーナーであるテイラーです。私がSDを手に入れてからというもの、彼女はその強さに異様なまでに執着するようになりました。……あれが6年前ですから、恐らくあの後すぐにレイン様に手を出したのでしょう。」

彼は憎らしそうに顔を歪めた。

この話が本当であれば、レインは6歳にも満たない人間ということになる。

テイラーは研究者としてもトレーナーとしても優れた人物であったが、その才能はジャックの知らないうちに良からぬ方向へと働いていたのだ。

 

 

 

「………」

再び、しばらくの沈黙。

そしてお嬢は、次に抱えていた疑問を投げかけた。

寧ろこれがいちばん大事なものだったのかもしれない。

「その……ジャックはテイラーって人にすごく怒ってたじゃない……?SDって何かマズい事があるの?」

「マズいなんてもんじゃないです。SDは凄まじい力を発揮する分、莫大な負荷がかかります。使いすぎると……」

お嬢は唾を飲む。

 

 

 

「軽度の症状で人格乖離や身体障害……最悪の場合、トレーナーかポケモンのどちらか……または両方が死にます。」

「そんな……!」

「幸い私は何ともありませんでしたが……」

ジャックはそこから先の言葉を喋ることはなかった。

お嬢も、敢えて問いただすようなことはしない。

その先のことを聞きたいとはとても思えなかったからだ。

 

 

 

「ですからあのままですとレイン様かピカチュウの身には危険が及びます。本人たちは『失敗しない』と言っていますが信用なりません。レイン様はテイラーの都合のいい実験台として扱われているだけなのです。」

ジャックは拳を握り、歯がゆさを抑えながらそう言った。

 

 

 

 そしてお嬢の前にて頭を下げる。

「ちょ……」

「だからお願いです、お嬢様……レイン様になんとしてでも勝って下さい。レイン様を……否、今後SDに騙されてしまう多くのトレーナーを救ってはいただけないでしょうか。」

ジャックは必死に懇願する。

自身の痛みを思い出しつつ、お嬢にその願いを託そうとする。

他力本願で縋るしか無い自分の無力さに情けなくなりながら、その頭を下げる。

 

 

 

「あ……当たり前じゃない!アタシはトレーナーの頂点に立つ女なんだから!あんな小生意気な奴なんかまとめてコテンパンにしてやるわよ!」

お嬢はいつものポーズでドヤ顔を浮かべながら声高に宣言する。

「だから、ね?顔を上げなさいな。」

「お嬢様……」

彼女は自分を見上げるジャックに、明るく笑いかける。

 

 

 

 ……不安と恐怖で怯える内心をジャックに隠しながら。

先程目の当たりにした怪物に対する畏怖を押さえつけながら。

力及ばぬ自分への責を感じながら。

ジャックの更なる思いを背負わされた彼女にとって、彼に向ける顔は偽りの笑顔しか無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー翌日。

お嬢とジャック一向はノロポートを後にし、次なる場所を目指して歩みを進めていた。

ここから向かえる最も近いジムは、『フウジシティ』にある。

しかしお嬢はそこではなく、その脇道にある小さな村『ヒルミヴィレッジ』に向かおうと言い出したのだ。

 

 

 

 その理由というのも……

「だってここ、ジャックの実家があるんでしょ!?是非行きたいわ!」

お嬢は昨日、偶然にもこの村がジャックの育った場所であると聞いてしまったのだ。

疲れ果ててホテルのソファで船を漕いでいた本人の口から。

 

 

 

「いや……その村、ホント何もないですよ?」

「良いのよ。アタシが行きたいから行くの。それにジャックのお父様やお母様にも挨拶をしておかないと!」

「婚姻前か何かですか……?」

ジャックは甚だ疑問であった。

どうせお嬢のことだから、良からぬ興味を持って自分の実家に足を運ぼうとしているのだろうと、そう考えていた。

 

 

 

 ………その発言に含まれていたお嬢の真意も知らずに。

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