【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

29 / 134
【第029話】謂れなき齟齬、覚えのある過去(vsエンビ)

「違う……お前はジャックじゃない……。」

突如ジャックの目の前に現れた謎の男、エンビはそう述べる。

「なっ……私はジャックですよ!正真正銘のジャックです!」

「……違うな。俺の知っているジャックはそんな目はしていない……。」

訳の分からないことを言うエンビに、ジャックは困惑していた。

……それでいてジャックは知っていた。

その発言の意図を。

それでいてわからなかった。

その発言の理由が。

 

 

 

「……とにかくお前はジャックなんかじゃあない。どうやらダフの見間違いだったようだな。」

そう言いつつエンビは歩み去っていく。

しかしその方角にジャックは不信感を抱く。

「……待ちなさいエンビ。そちらは私の実家です。」

「……そうだ。俺はそこに用がある。」

 

 

 

 二人の間に緊張が走る。

「ダフの奴から『凍雪の秘鍵』の話を聞いたからな。その抜け殻を調べてるために回収に来た。」

エンビのこの発言を聞いた瞬間、ジャックの表情は凍りつく。

「………。」

「……この先で合っているだろう?あのサンドが眠っているのは。」

固まっていたジャックの表情はついに殺意に色を染める。

エンビは踏んではいけないジャックの地雷を踏んでしまったのだ。

 

 

 

 そして彼はボールを構えた。

「……エンビ。アナタをその先に行かせるわけにはいかない。」

「……その顔、懐かしいな。決勝戦以来か。確かにあの頃のお前に似ている。」

「……『似ている』じゃない。私は私だッ……!」

「……ジャックは自分の事を『私』とは呼ばないッ……!」

2人の交わした言葉は夕闇にこだまして消えていった。

そこに重ねるように、ボールが風を切る音が2つ交差した。

 

 

 

「行きなさいアーマーガア!」

「グアアアアアアッ!」

「……やれ、ファイヤー。」

「ウラァアアアアッ!」

 

 

 

 片やアーマーガア、ジャックの右腕であるおなじみのポケモンだ。

一方でエンビが呼び出したのはファイヤー。

ガラル地方の辺鄙な場所で初めて発見されたとされるあくタイプのポケモンだ。

……そう、その潜在能力は伝説のポケモンにも匹敵する。

対峙しているジャックやアーマーガアですらその禍々しさに飲み込まれそうになるほどであった。

しかし彼らとて、嘗ての旧友が侵犯されるとなれば止めない理由がない。

 

 

 

 ジャックは普段とは打って変わって全力で熱と感情が籠もる。

「仕掛けろアーマーガア!『ぼうふう』っ!」

「グアアアアアッ!」

「迎え撃てファイヤー、『ぼうふう』だ。」

「ウラアアアアッ!」

両者は翼の羽ばたきで凄まじい風を引き起こし、真正面から超重量の空気の塊をぶつけ合う。

「ッ……!」

「アーマーガアを使う時は『ぼうふう』から入る……そこは変わらないな。」

その力はほぼ互角。

風は互いの力を打ち消しあった。

 

 

 

『ぼうふう』が止むやいなや、アーマーガアは近接戦の構えに出る。

そう、相手のファイヤーが次に打つ手が『ふいうち』であると分かっていたためだ。

ファイヤーが翼で殴ろうとするところを、アーマーガアは硬化した外縁で受け止める。

高速の先制攻撃と鋼鉄の防壁は火花を上げて鍔迫り合いを始めた。

「ガアアアッ……!」

「ウラアアアッ!」

 

 

 

 だがこの攻防を制したのは残念、ファイヤーの方であった。

押し切られてしまったアーマーガアは空中でわずかにバランスを崩す。

その隙は秒数で測れぬ程には短いものであったが、このファイヤーはそれだけあれば追撃するには十分であった。

「……ッ!はんげ……」

「遅いッ……『もえあがるいかり』ッ!」

「ウラアアアアアアアッ!」

ファイヤーは怯んだアーマーガアに正面から漆黒のブレスを吐きかける。

 

 

 

「グアアッ……!」

「アーマーガアッ!」

いくら強靭な鎧を持つアーマーガアとはいえ、このような特殊攻撃にその長所は意味をなさない。

おまけにこの『もえあがるいかり』は相手の硬直時間を延長するデバフ効果がついている。

この効果のせいで動きの鈍くなったアーマーガアは、連鎖的に大ダメージを受け続けてしまうのである。

 

 

 

「まだだッ……アーマーガアッ、『ボディプレス』だ!」

「グッ……グアアアアッ!」

アーマーガアは翼を折りたたむと、重力に任せて流星のように目の前のファイヤーを目掛けて突撃する。

渾身のタックル攻撃はファイヤーの腹部に直撃し、そのまま全身を巻き込んで地面へと着弾する。

ファイヤーの落下とともに砂煙が上がり、その大きさは『ボディプレス』のダメージの甚大さをよく表していた。

 

 

 

「やったか……!?」

だが砂煙が晴れた後、ジャックの目に飛び込んできたのは予想外の光景であった。

なんといつの間にかアーマーガアがファイヤーに押し倒されていたのだ。

ファイヤーの太い脚が、アーマーガアの翼の片方を地べたに縛り付けている。

着弾した際には確かにアーマーガアが主導権を握っていたはずだったが、ほんの一瞬でファイヤーにそれは奪い返されてしまったのだ、

 

 

 

「……やはり違う。弱い……弱すぎる。こんなものはジャックではない……!」

「黙れッ!お前に私の何がわかるッ!」

ジャックは焦り、声を荒げる。

エンビの言葉の一つ一つはジャックの心の奥底の神経の一つ一つにじわじわと悪寒を走らせていたのだ。

彼は一刻も早く、目の前のエンビに視界から消えてほしかった。

心から彼を疎ましく思っていた。

記憶が、または存在が古傷を確実に掻き毟る。

 

 

 

「反撃だアーマーガア!『はがねのつばさ』!」

「グアッ……!」

アーマーガアは翼を硬化させて脱出を試みる。

しかしカウンター攻撃は決まることはない。

アーマーガアの身体は一切動かない。

振りほどく力以上に、ファイヤー側の力が強すぎるのだ。

ファイヤーは特性『ぎゃくじょう』の発動により、普段より大きなパワーを発揮してアーマーガアを押さえつけていたのである。

ただでさえ怪力を持つファイヤーにそのようなバフまで乗ってしまっては、いくらアーマーガアとはいえ反撃は難しいだろう。

 

 

 

「……もういい。ファイヤー、『もえあがるいかり』だ。」

「ウラアアアアアッ!」

身動きの取れないアーマーガアの背中にファイヤーのブレス攻撃が直撃する。

流石にこの攻撃は誰であれ耐えることは出来ない。

地べたで力なくもがいていたアーマーガアはパタリと動かなくなり、そのまま力尽きてしまったのである。

 

 

 

「グア……!」

「アーマーガアッ……!」

ジャックはすぐにアーマーガアに駆け寄る。

しかし小さく声を上げたのみで殆ど反応がない。

それほどまでにエンビのファイヤーの力は圧倒的すぎたのである。

 

 

 

 勝負に決着がつき、エンビはファイヤーをボールに戻すとジャックへ歩み寄る。

そして問い詰めた。

「……教えろ。ジャックは一体どこに行った?」

「私だ……私がジャックだッ……!」

「違う!お前はジャックなどではないッ!断じてッ!」

エンビはジャックの胸ぐらをつかみ、怒りに震えた声で怒鳴りつける。

それに負けじとジャックも睨み返す。

「……チッ!」

エンビはやがてジャックを下ろすと、元通りドテラの家を目指して歩み寄り始めた。

 

 

 

「待て……そこから先には行かせないッ!」

去ろうとするエンビの肩を掴み、ジャックは彼を引き止める。

エンビはそれを薙ぎ払おうとするが、力のこもったジャックの手がそれを許さない。

「……退け。あのサンドはお前なんかのポケモンじゃない。」

「うるさいッ!貴様なんかに渡すポケモンでもないッ!」

やがて2人の対立は発展し、ついには互いが互いのことを殴りかかろうとする直前にまでなっていた。

 

 

 

 その時であった。

「はーーいはいはいストップっスよ。そういうのは要らないッスから。」

2人の間に男が1名割り込んできた。

取っ組み合いをする2人を引き離し、あくまでも冷静に諭そうとする。

黒いTシャツに橙色のツナギを着た、オレンジヘアのツーブロック男はエンビに歩み寄る。

 

 

 

「どうしちゃったんスかエンビさん。エラく熱くなっちゃって。」

「……何しに来た、クランガ。俺は今から『凍雪』の抜け殻を取りに行くところなんだ。」

クランガ、と呼ばれたその男はヘラヘラと笑いながらエンビと語り合う。

「もー、そんなのどうでも良いっスよ。それよりも、頼まれてた『扉』の試作品が完成したんスよ。」

「………今すぐに行かなくては駄目か。」

「駄目っすね。エンビさんの指導がないと次の工程に進めないッス。」

「……チッ。」

エンビは軽く舌打ちをする。

そしてそのまま何も言わず、ボールから再びファイヤーを呼び出すとそのままどこかへと飛び去ってしまったのである。

 

 

 

「いやぁ、お騒がせしてごめんなさいッス!あの人があんなに感情的になるのも珍しいンスよー?」

クランガは相変わらずヘラヘラと笑いつつ、ジャックにペコペコと誠意のない会釈をする。

「……あなた達は一体?」

「いやぁ、このあと嫌でも知ることになるっスよ。あ、そうそう!お宅のお嬢さん、大事にしてあげてネ!それじゃさいならッスー!」

息つく間もなく捲し立てるようにそう残すと、クランガは早足でその場を去っていってしまったのであった。

 

 

 

 誰もいなくなったことを確認したジャックは、疲労感からその場にへたり込んでしまう。

「……エンビ……なぜ彼が……?なぜ『私』を……?」

ジャックの中で疑問が尽きることはなかった。

しかしそれよりも、彼はエンビが目の前から消えたことに対する安堵感が一番大きかったのかもしれない。

しばらくの間、彼の身体からは冷や汗が止まらなかったという。

 

 

 

 

 

 ーーーーーその後、ジャックは何事もなかったかのようにドテラの家へと帰宅した。

「た、只今戻りました……」

ジャックは恐る恐るドアノブに手をかける。

「あ、おかえりジャック!」

「まねね!」

一番に出迎えてくれたのはお嬢であった。

ジャックが扉を開けると、待ちわびたかのように駆け寄ってきたのである。

 

 

 

 そしてその背後には冷めきった夕食3膳と、腕を組んで座り込んでいるドテラがいたのであった。

「……随分遅かったナ、ジャック。」

「は……申し訳ございません!」

ジャックは寸分の言い訳もなくドテラに平謝りする。

ドテラは頭を下げる彼の様子を、つま先から頭頂までチラッと流すように見る。

その様子から、外で何があったかを大体察したのであった。

「……フン、まぁいいワ。それよりお前はトレンチ嬢に礼を言エ。お前が帰ってくるまで食事を待っていたんだゾ。」

「………。」

 

 

 

 そう、彼女は健気にもジャックの帰りをずっと待っていたのである。

外で頑張っている彼を置いて自分だけ食事をするのは申し訳ない、という彼女なりの配慮である。

「お、お嬢様……!」

「お礼なら結構よ!それより早く席に付きましょ。もうお腹ペコペコなんだから!」

「全く……付き合わされたワシの身にもなれってんダ……」

何だかんだ口では厳しいことを言いつつも、ドテラにも育ての親なりの思いやりがあったのかもしれない。

ジャックは疲弊しきった心に染み入る2人の優しさをじんわりと噛み締めていた。

 

 

 

「さ、食べるわよ!いただきますッ!」

「まねねッ!」

お嬢はそう言うと、目の前の食事を凄まじい速さで平らげる。

来客を考慮してドテラが多めに作ったミルクシチューは、お嬢の手によって瞬く間に鍋から蒸発していったのである。

「………おいジャック、トレンチ嬢はいつもこんな調子なのカ?」

「えぇ、こんな調子です。」

ジャックはいつもどおりの顔で……いや、いつもより幸せそうな顔で答える。

この日はいくらお嬢に食べられても、彼の財布が枯れることがなかったからだ。

良かったね、ジャック。

 

 

 

 やがてシチューを全て食べきったお嬢は、テーブルの上にあるリンゴの山に手を伸ばす。

至福のデザートタイムだ。

山の恵みそのまま、甘酸っぱさ満点の新鮮なリンゴである、

「はむっ……うん、結構行けるわね!」

「まーねね!」

「え……まだ食うのカ?」

お嬢のあまりの食欲には、流石のドテラも引き始めるレベルであった。

やがてお嬢はテーブルの上のリンゴをほぼすべて1人で平らげ、最後の1つに手を付けた。

そして思いっきり頬張る。

 

 

 

「………ん?」

だがここで彼女は違和感を覚えた。

口の中で何かがもぞもぞと動いているのだ。

段々と気色が悪くなってきた彼女は思い切って口に含んでいたものを軽く吐き出す。

 

 

 

 するとそこから出てきたのは緑色の細長いポケモンであった。

「りゅ……りゅる………」

そのポケモンはお嬢の口から逃れると、非常に怯えた様子を見せる。

「あぁ、これはカジッチュですね。」

カジッチュとは、リンゴの果実の中に生息するポケモンである。

天敵から身を守るために普段はその身体を隠す非常に臆病な性格のポケモンなのだ。

恐らく今晩の食卓に運悪く紛れ込んでしまったのだろう。

 

 

 

「りゅっ!りゅるっ!」

急に外に追い出されたカジッチュは慌てふためき、部屋中を駆け巡る。

身の危険を感じ、パニック状態に陥ってしまったのだ。

「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

「あわわ……部屋が……」

暴れるカジッチュにより、部屋の家具がだんだんと荒らされていく。

その度にドテラの表情が、だんだんと体毛の上からでもわかるほど歪んでいくのであった。

 

 

 

「りゅっ……りゅるるっ!」

やがてカジッチュは暴れまわった末に、お嬢の鞄の中へと潜り込んだ。

とっさに見つけた閉鎖的な空間だったからだ。

 

 

 

 そしてしばらくして、鞄の中から聞き覚えのあるブザー音が鳴った。

「……え?」

「これって、捕獲完了の合図ですよね……?」

不思議に思ったお嬢は鞄の中身をひっくり返す。

すると鞄の中にカジッチュの姿はない。

代わりに何故か重量が増した見覚えのないモンスターボールが1つあった。

 

 

 

 つまるところ、カジッチュはリンゴと間違えて自らボールの中に飛び込んでしまったのである。

「え、えぇ……」

あまりにも唐突過ぎる出来事にお嬢は困惑する。

自分が意図せぬうちに新たなポケモン、カジッチュが仲間として加わってしまったのである。

嬉しいような違うような……そんななんとも言えないもどかしさに苛まれていたのであった。

「……とりあえずこの部屋を片付けましょうか。ドテラ爺さんが昇天しかけてますし。」

「あ……」

彼らは夕食後の食器を片付けると、カジッチュが荒らした部屋の掃除に見舞われたのであった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー翌朝。

彼らは次なる街、フウジシティを目指して村を出た。

途中まではドテラとウールー達が見送りに来てくれた。

「……ま、それなりにやれヨ。」

「ええ、任せて頂戴!私ならもう大丈夫!」

ドテラは気丈に振る舞うお嬢の姿を見送りつつ、僅かな不安心を引きずったままであった。

そして最後にジャックの方を見て言う。

「それと……しっかりやれよ、『お前』。」

「……?は、はい。」

ドテラはやけに二人称の部分を強調してジャックに伝えた。

 

 

 

 さて、一泊の間に様々な出来事が起こったヒルミヴィレッジだったがそこも今日でお別れである。

お嬢は大きく手を振りつつ、村から遠ざかっていった。

「さーーて、待ってなさい次のジム!何があっても勝ち進んでやるんだから!」

そう豪語するお嬢の声は今まで以上に明るく力強いものであった。

 

 

 

 果たして、次の街で彼らを待ち受ける出来事とは……?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。