【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide   作:伊崎つりざお

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【第030話】湧き上がる興味、縮まらない距離

 ーーーーーとある街の地下深く。

広い空間を囲んだ鉄製のギャラリーを歩む足音が2つ、コツコツとまばらに響く。

そこに3人の人物が合流する。

「……おぉ。随分早い帰りだったじゃねェか。

「ッス!あれ、スエットちゃんは?」

「アイツなら集会がどうのこうのって言って来てないぜ。」

「えー」

迎えに来たダフとクランガが会話を交わすが、その一方でエンビは終始無言を貫いていた。

 

 

 

「んで例の『抜け殻』は持って帰ってきたのかァ?」

「………。」

ダフが問いかけるが、エンビは険しい顔をしたまま無言を貫いていた。

どうやら先のジャックとの戦闘の不十分さ、そして途中で呼び戻されたことが些か不服だったようだ。

「いやぁ、急に呼び戻したのは謝るッス。だからエンビさんも機嫌直して。ね?」

「………。」

「まぁあのジャックのサンドは所詮抜け殻。今は『凍雪』の器を探すことのほうが最優先、っしょ?」

クランガは必死に説得をするが、相変わらずエンビの表情は変わらない。

 

 

 

「それより見てくださいよコレ。もう完成間近っスよ。あとはエンビさんのオーケーさえ出れば助かるんスけどねぇ。」

クランガはギャラリーの下に広がるモノを指差して言う。

見るも巨大な黒い鉄製の2枚扉……のようなものだ。

幾何学的で不規則な模様が6つ描かれているが、部屋が暗いせいであまり良く見えない。

それを見たエンビはようやく口を開く。

「……良いだろう。最終段階の工程を進めてくれ。」

「えー、即答?頑張ったんだからもうちょっと見てくれてもいいのに!」

クランガは期待通りの返事が来たのにも関わらず、少しばかり不服そうな声を上げる。

 

 

 

「……そういやクランガァ。ウチの組員から仕入れた情報なんだけどよォ、例の『凍雪』の持ち主が次はフウジシティに来るらしいぜェ?」

「え、マジッスか。ってことはジムチャレンジにも来るってことッスよね!?」

その話を聞いた途端、クランガの顔は一転して一気に明るくなる。

「うおおお!こうしちゃいられねぇ!エンビさん、俺ちょっと休暇貰いますね!」

「……構わん。俺も『器』の可能性がある人物は片っ端から調査すべきだと思う。」

エンビがクランガの話を承諾した途端、彼はそのまま地下のギャラリーをダッシュで駆け上がっていってしまったのだった。

「ひゃあああっ!メカニックの血が騒ぐぜぇええええ!待ってろぉおおおおお!」

 

 

 

 

 

 ーーーーーー時は進み、村を出た翌日。

ここはフウジシティ。

工学、医学、化学と様々な科学が発展し続ける、最先端の学術研究都市だ。

名のある研究機関が入った建物が軒を連ね、立ち並ぶビル群は近未来的でスタイリッシュなものばかりだ。

そんな建物の真ん中にそびえ立つのが巨大な電波塔である。

アンコルシティで見たスイーツ店の本社ビルに並ぶほどの高さがある。

例によって例のごとくトレンチ嬢が勝負を挑むフウジジムはこの建物の中にあるのだ。

 

 

 

 さて、そんなお嬢はと言うと……現在ジャックと共にショッピングモールの屋上に居た。

そして彼女とそのポケモンたちしゃがみ込み、目の前のリンゴに向かって懸命に話しかけ続ける。

「おーーい、カジッチューー?」

「まねねーー?」

「…………。」

これは昨晩(自ら)捕まったカジッチュである。

先程リンゴを買い与えたところ、すっかり怯えてそのままリンゴの中に引きこもってしまったのだ。

せめて友好の証に……とお嬢は交渉を試みるが、カジッチュ側は一切の反応を示さず先程から苦戦しているのだ。

 

 

 

「サダイジャ、3回回って巻【自主規制】ソ!」

「みしゃり!」

「………。」

「ラビフット、逆立ちでき【自主規制】まリフティング50回!」

「みみっ……!」

「………。」

彼女はおやつやおもちゃ、更には曲芸などありとあらゆる手を試す。

 

 

 

 だが残念。

カジッチュは一向にうんともすんとも言わない。

「うーーん……どうにかして仲良くなりたいんだけど……」

「まねね……」

「試みること自体は大切ですが、カジッチュにもカジッチュなりのペースがありますからね。焦らせてはかえって可哀想ですよ。」

ジャックはお嬢を諭す。

実際ジャックの言うことは比較的的を射ており、臆病者のカジッチュに対して無理なアプローチを掛けることは逆効果にもなりうる。

「うー…………分かったわよ。」

「まねね。」

そう言うとお嬢は諦めてカジッチュをボールに戻した。

どうやら彼女らが打ち解けるにはしばらく時間がかかりそうだ。

 

 

 

 さて、そんな彼女らだがジム戦はこの日の日没後からとのことだ。

都市部の大きなジムであるにも関わらず、何故か不自然なほどに早く予約が取れてしまったのである。

電話口で対応してくる男性の声にジャックはどこか既視感があったそうだが、気の所為だと割り切ることにした。

「ひとまずポケモンセンターに行きましょう。十分な休息が大事です。」

そんなこんなで彼らはこのショッピングモールを後にすることにした。

 

 

 

 しかしそう思ってエスカレーターを降りている最中のことであった。

なんと入り口間近の家電量販店の楽器コーナーから、聞き覚えのあるピアノの音が聞こえてきたのだ。

「ねぇジャック、もしかしてこれ……」

「まね……」

「……ですね。行ってみます?」

フラッと彼らが楽器店を訪れると、そこには商品のエレクトーンを弾いている見覚えのある少女が居たのである。

そう、ハオリだ。

彼女は多くの見物客に囲まれながら激しいソロを弾き切る。

そして演奏の終わりとともに多くの拍手が湧き上がった。

「おぉーーー!」

「すげぇな姉ちゃん!」

「あれ……お姉ちゃんどこかで……?」

ハオリを褒め称える声が上がる中、彼女はどこか気まずそうにはにかみながらそそくさと楽器店を後にしていったのだ。

 

 

 

 だがジャックらの存在に気づくと、ピタリと足を止める。

「おー、トレちん!お兄さんも!」

彼女は彼らの存在に気づくと気さくに挨拶を交わす。

「久しぶりねハオリ!……これは何をしていたのかしら?」

「まねね?」

「あぁ、所謂弾き逃げってやつ。さっきジムで勝ったんだけど……その、ちょっと色々あってゲリラライブやってたの。」

そう、彼女は先程フウジジムを攻略してしまったのだ。

その事実を聞いたジャックは相変わらずのハオリの実力の高さに感心する。

 

 

 

「それで、どうだったの!?強かったのかしら?」

「まねね?」

「うーん……強いのは確かけど、それ以上に『戦いづらかった』……って感じかな。」

ハオリは少しばかり歯切れの悪い返答をする。

その反応を見るに、間違いなく一筋縄でいかないジムであることは確かだ。

しかしお嬢はそんな程度の情報で尻込みするほどのタマではない。

 

 

 

「ふふふっ、どんなに強かろうとここまでジム戦で無敗のアタシなら問題なく突破できるわ!」

「まねね!」

俄然戦意が高まった様子のお嬢は、そのままスキップ混じりで店を出ていった。

心配そうな表情を浮かべる他の2人を差し置いて。

「……お兄さん、アタシちょっとトレちんの勝負を観戦しに行ってもいいかな?」

「それはお嬢様に聞くべきことだと思いますが……どうして?」

「なんとなくさ、嫌な予感がするんだ。」

ハオリはジムの仕様を掻い摘んでジャックに伝える。

「……なるほど、それは確かに少しばかり不安かもしれません。」

こうしてハオリは観客として、この後のジム戦にジャックと同様に同行することになったのである。

 

 

 

 

 

 ーーーーー時間は更に進み、日が沈みきった頃。

約束の時刻になったため、お嬢たち一向はジムの入り口に来ていた。

お嬢は軽く腕まくりをし、勝負に対しての意気込みを見せる。

「よーーし、ジムリーダー!股を洗って待ってなさい!」

「まねね!」

「お嬢様、洗うのは首です。」

そんないつもどおりのやり取りをしつつ、お嬢はジムのゲートに足を踏み入れる。

壁中に張り巡らされたセンサーからレーザーのようなものが照射され、お嬢の身体をくまなくスキャンしていく。

 

 

 

 その直後だった。

お嬢の目の前のゲートはいきなりバタンと締まり、ジムのあるフロア中に警告音が鳴り響きだした。

「え……?」

訳がわからない状況に困惑するお嬢であったが、そんな彼女に構わず唐突に無機質な機械音声が流れ出す。

『警告!チャレンジャー・トレンチサマ、コノジムヘノ参加資格ハ認メラレマセン!』

「は……?」

いきなり『参加資格がない』と言われてしまったお嬢は当然だが更に混乱してしまう。

 

 

 

「ちょ……ちょっと待って下さい!参加資格がないってどういうことですか!?」

「トレンチサマハ、今マデノバトルニ於ケル勝率ガ50パーセントヲ下マワッテオリマス。ヨッテ実力不足ト見ナシ、挑戦ハ認メラレマセン!」

「そ、そんな!?」

そう、このジムは入り口のスキャナーによって「一定の実力がないトレーナー」と判断されてしまうと、参加そのものを受け付けてもらえないのだ。

今までジム戦では無敗のお嬢であったが、それ以外のプラベ戦の成績が散々なものであったためこのような評価が下されたのである。

 

 

 

「アタシは普通にパスできたんだけどね……でもトレちんが実力不足ってことはないと思うけどなぁ。」

「誠に同意です。一番近くで見ていた私自身が証言しますが、お嬢様に限ってそのようなことは断じて無いかと。」

このジムのジャッジにはハオリもジャックも疑問を抱く。

だがルールはルールなのでどうしようもないのも確かなのだ。

やむなく彼らは踵を返し、このジムを後にしようとする。

 

 

 

 すると、急に作業服を着た男がゲートの前に駆け寄ってきた。

「あーーーすんませんすんません!このゲート、ちょーーーっと不具合起こしちまったみたいっスね!」

せわしなく早口で捲し立てるようにそう言うと、男はカードキーのようなものを差し込む。

するとランプやブザー音は一瞬にして消滅し、ゲートの電源はすべて停止したのだった。

「お騒がせしたッス!それじゃ、ジム戦頑張って!」

そして男は逃げ去るようにその場から消えていったのだ。

「……あれ、どこかで会ったような?」

ジャックはまたも既視感を覚えた。

 

 

 

 

 

 ーーーーさて、そんなこんなでなんとかゲートをくぐり抜けたお嬢らはスタジアムに通される。

ジムリーダーと思わしき人物はおらず、スタジアムは完全な無人であった。

特に変わった仕掛けのようなものはないが、ひとつだけ不自然なオブジェクトが存在する。

そう、チャレンジャー側にのみ謎の椅子が用意されているのだ。

背もたれまでもがついた座り心地の良さそうな椅子であるが、その背後には仰々しい機会が沢山設置されている。

いかにも何かありげな、怪しい椅子である。

 

 

 

 お嬢がその怪しげな椅子を見つめていると、やがてスタジアム内にアナウンスが流れる。

『チャレンジャー、ソチラ椅子ニオ掛ケ下サイ。』

案の定……という感じではあるが、やはりチャレンジャーはこの椅子に座ることがルールのようだ。

お嬢は唾を飲んで決心を固めると、例の椅子に腰掛ける。

 

 

 

 するとおもむろに、両足首と左手首に拘束具のようなものが取り付けられる。

「え……ちょ!?」

お嬢は右手以外を一切動かせなくなってしまったのである。

唐突な拘束にお嬢が慌てていると、やがて相手側のフィールドにジムリーダーと思わしき人物が向かいの扉から現れる。

その姿を見たお嬢は驚愕する。

「そ……そんな!?」

 

 

 

 なんと目の前に現れたのは、機械人形だったのだ。

そう、人間ではなく人工のロボットである。

銀色のボディはどことなく女性的ではあるが、こういった装置に性別の概念などはない。

機械人形はモーターの動く音を響かせながらフィールドに歩み寄る。

『ハジメマシテ、トレンチ様。私ハコノジムヲ任サレテオリマス「電動自律式戦闘機構・MA-Ⅰ(まーすと)」ト申シマス。』

全く感情のこもっていない声で彼女……?はそう述べる。

 

 

 

 そう、このフウジジムの特徴その1は、対戦相手となるジムリーダーが人間でないことだ。

それ故に判断は極めて合理的であり、しかも圧倒的な正確性を持つ。

「……ッ」

その無機質さを気味悪く思ったお嬢は唾を飲む。

しかし相手は機械とは言え、トレーナーであることに変わりはない。

であればお嬢のやるべきことも変わらないのだ。

 

 

 

 ………そう、ここまでであれば。

このジムも前回のノロジム同様に特殊ルールが存在するのだ。

 

 

 

『サテ、私ハポケモントレーナートシテマダマダ新米デス。ソコデトレンチ様ノ知識・思考ヲ勉強サセテイタダキタク思ッテオリマス。私ガバトルの最中二幾ツカ質問ヲシマスノデ、ソレラニ嘘偽リナクオ答エ下サイ。モシ虚偽ノ回答、マタハ回答拒否ガ確認サレタ場合ハペナルティガ有リマスノデ……オ気ヲ付ケテ。』

MA-Ⅰからルールの説明が成される。

そう、特殊ルールとは言えその仕様自体は至って簡単。

ただの質問返答である。

ガラル地方のアラベスクジムに似たような仕様があるが、それとほぼ同じだと思っていただければ大丈夫だ。

 

 

 

『ソレデハ……ジムチャレンジヲ始メサセテイタダキマス。ルールハ4on4の勝チ抜キ戦デス。……トレンチ様、準備ハ宜シイデスカ?』

お嬢はいつものようにベレー帽を右手で深く被り直し、決意を示す。

「えぇ、ロボットだろうがなんだろうが掛かってきなさい!」

やがてスタジアムの電光掲示板が光りだしブザー音が鳴った。

試合開始の合図だ。

両者はボールを構えた。

 

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