【ポケモン二次創作】ポケットモンスター Soul Divide 作:伊崎つりざお
物陰から様子を伺う影が一つ。
作業着の男は被っていたゴーグルを脱ぐと、一人つぶやく。
「さーて……何を見せてくれるのかね、あのお嬢ちゃんは。」
不敵な笑みが浮かぶ。
ーーーーーフウジジム戦がここに開幕する。
両者は3カウントと同時にボールを投げる。
「行きなさい、サダイジャッ!」
「みしゃーーり!」
『デハ、オ願イシマス……ギギギアル。』
「Klilili!」
最初の対面はお嬢側がサダイジャ、MA-Ⅰ側がギギギアルだ。
ギギギアル……回転する3つのギアを生かして戦う無機物系のポケモンである。
じめんタイプとはがねタイプなので、相性上はお嬢のほうが有利だろう。
先制攻撃を仕掛けたのはお嬢の方だ。
「先手必勝よ!サダイジャ、『はいよるいちげき』ッ!」
「みしゃっ!」
サダイジャは軽く頭を引っ込めると、そのまま姿を消す。
そして一瞬にしてギギギアルの背後に回り込んでヘッドショットを決めた。
「Kili……!?」
「よしっ……!」
もうこの奇襲攻撃も慣れたものだ。
手数も増えたため、相手側からもサダイジャの出現場所の予測がしづらくなっている。
『……至近距離ニ自ラ飛ビ込ンデキマシタネ。』
「……ッ!?しまっ……!」
お嬢はギギギアルの違和感に気づく。
先ほどまであった頭部のギアが付いていないのだ。
そう、ギギギアルは近接攻撃を得意とするポケモンである。
その足元に入り込むということは、すなわち被撃のリスクを背負うことに等しい。
『攻撃デス。「ギアソーサー」。』
「Kililili!」
ギギギアルは遠方に待機させていた頭部のギアを巻き戻す。
このままではサダイジャはギギギアルの頭部と本体に挟撃されてしまう。
「攻撃を防いでッ……!『がんせきふうじ』!」
「みみーーっ!」
攻撃を回避しきれないと判断したお嬢は、サダイジャの正面にシールドを展開する。
「Kilili……!」
「みしゃ……!」
ギアとシールドが鍔迫り合いをする。
ここでギアに貫かれてしまっては、大ダメージを受けてしまうことは間違いない。
しかしこのシールドは所詮はただの岩。
継続的な攻撃には大きな効力を発揮しにくいというのも難点だ。
攻防が長期化するに連れてシールドはひび割れが走り始める。
『ギギギアルノ優勢……押セマス。』
これ以上の鍔迫り合いは不可能と判断したお嬢は、すぐに撤退の指示を出す。
「サダイジャッ、後ろ側に『はいよるいちげき』ッ!」
「み……みしゃっ!」
サダイジャは再び、一瞬にしてその姿を消す。
シールドを展開する本体が居なくなったせいで、岩の防壁は瓦解する。
しかしその間にサダイジャはギギギアルの間合いを脱出することが出来たのだ。
そう、『はいよるいちげき』は相手の懐に飛び込むための技。
であればそれを逆方向に使用すれば、相手の間合いを脱出することも可能なのである。
ギギギアルのギアは本体に再装填された。
『奇襲、ソシテ防御ヲ挟ンデカラノ回避ヘノスムーズナ移行……ナルホド、実ニ無駄ノナイ動キト言エルデショウ。』
MA-Ⅰは駆動音を鳴らしながら称賛の辞を述べる。
『シカシイマノ動キデアナタノ行動パターンハオオヨソ把握デキマシタ。』
「……?」
MA-Ⅰの雰囲気が変わる。
ここからが彼女の本気である。
しかし相手側が攻勢に出る気配はない。
彼女らはしばらくにらみ合いの状態が続く。
これは攻撃を仕掛けても良い、と判断したお嬢はサダイジャにこっそりとハンドサインを送る。
人差し指を立てる合図……そう、「一【自主規制】ソの構え」だ。
ここから移行するのは直線形の奇襲かシールド展開からの拡散のいずれかである。
当然、攻勢に出ようとしているお嬢は『はいよるいちげき』を仕掛けようとしていた。
だが、ここで予想外の言葉が飛んでくる。
『デハ質問デス。トレンチ様、アナタは次二何ヲシヨウトシテイマスカ?』
「……え?」
そう、MA-Ⅰから飛んできたのは至ってシンプルで、それでいて腑に落ちないものであった。
冷静に考えればわかることだ。
MA-Ⅰは相手のやり口を直接答えさせようとしているのだが、そんなことを勝負中に答えるトレーナーはいない。
「今から奇襲を仕掛けます」とい宣言して奇襲を仕掛ける者はいないだろう。
当然お嬢はここで口をつぐむ。
……しかしお忘れだろうか。
ここのジムのルール「質問への回答が虚偽のものだった場合、『または回答拒否が為された場合』はペナルティがある」ということを。
直後、お嬢の座っている椅子に高電圧の電流が流れる。
その負荷はポケモンの出す攻撃の比ではない。
「あっ……ぐああああああっ!?」
「お、お嬢様ッ!?」
「トレちん!!」
お嬢の思考にノイズが走り、一瞬ではあるが本気で意識が昇天しかける。
「が……はっ……」
「みしゃ……!?」
その様子を見たサダイジャは振り返り動揺する。
自分のトレーナーが危機に晒されているのだから当然の反応だ。
しかし相手側に背中を見せる行為は、バトル中においては最も致命的な行為のひとつである。
サダイジャの背後側にはなんとギギギアルのヘッドギアが迫ってきていたのだ。
「Kilili!」
「み……みしゃり!?」
サダイジャの心の隙を付いた『アイアンローラー』の一撃がヒットする。
お嬢の指示がないので、防御動作が遅れてしまうのは当然のことだ。
「………っいでっ」
やがて電流の効力が切れたお嬢が徐々に意識を取り戻していく。
「アタシのことは気にしないでッ……『ぶんまわす』ッ!」
「み……みしゃりっ!」
サダイジャは飛んできたヘッドギアを尻尾の先端で丸めとると、それを遠心力に任せて遠くに投げ飛ばす。
「Kilili!?」
これにてギギギアルはしばらく攻撃の手段の一部を失うことになった。
攻撃のチャンス……仕掛けるならここしかない。
「行きなさいサダイジャ……はい」
『質問デス。アナタハ今ドチラカラ奇襲シヨウトシテイマスカ……?』
「っ……!」
お嬢は先程と同じように沈黙を決め込もうとした。
しかしそれでも、直前に受けた電流の痛みを体が覚えている。
ここで正直に答えないまた又あの感覚に襲われてしまう……本能的に危機を察したお嬢はとっさに質問に回答してしまう。
「み……右よッ……!」
「み、みしゃ……!」
サダイジャはお嬢の言葉通り、『はいよるいちげき』にてギギギアルの間合い右サイドに侵入する。
だがこの奇襲は先にお嬢が宣言してしまったので、奇襲としての意味は一切為していない。
ギギギアルは本体のギアを大きく右側に傾けて待ち構える。
『正直デヨロシイ……「ダメおし」デス。』
「Kilililili!」
飛び込んできた場所へ、狙ったかのようにギギギアルが倒れてくる。
サダイジャはギギギアルの本体に叩きつけられるようにして押し潰されてしまう。
「み……みしゃり……!」
「さ、サダイジャッ!」
正直に答えれば戦法がバレてしまい、沈黙を決めてしまえば電流を喰らってしまう。
そう、これがこのジムの真骨頂……トレーナーの意思行動の大きな制限である。
思い通りの指示ができないという足枷はトレーナー、引いてはポケモンの一連の行動択を著しく狭めてしまうのだ。
やがてサダイジャが拘束を受けているうちに時間が経過してしまい、ギギギアルのヘッドギアがカムバックしてしまった。
そして身動きの取れないサダイジャにヘッドギアが迫る
「しまっ……避け……」
「手遅レデス。『ギアソーサー』。」
「Kilililili!」
手も足も出ない状態のサダイジャは、そのまま『ギアソーサー』の攻撃を喰らってしまう。
ただでさえ凄まじい威力が出るこの技は、拘束状態であれば継続的にダメージが入り続ける。
「み……みしゃり………」
無防備なサダイジャは大きなダメージを受け続け、そのまま戦闘不能になってしまった。
「そ……そんな……」
お嬢は為す術もなく、サダイジャという大きな戦力を失ってしまった。
はがねタイプを扱う相手に対してこのディスアドバンテージは大きいものがある。
『相性ノ有利二依ル驕リト、睨ミ合イノ焦リ……ナルホド、コレラガ戦況ヲ大キク左右スルヨウデス。』
MA-Ⅰは先程の事実を分析し、呟くように反復した。
はたから見ればお嬢の失敗を煽っているように聞き取られるかもしれない。
しかし彼女はあくまでも戦闘技能として先の出来事を学習しているだけに過ぎないのだ。
過ぎたことをとやかく言っても始まらない。
お嬢はすぐにサダイジャをボールに戻し、次のボールに手を伸ばす。
その時……
「っ……!」
お嬢は右手に痺れを感じる。
先程の電流の後遺症が現れ始めているのだ。
このバトル、長引けば長引くほどお嬢が電撃を浴びてしまう危険性も高まっていく。
長期戦は危険……短期決戦あるのみである。
「……っ、こんな所で負けてらんないのよ!行くわよラビフット!」